よって本作はこちらを含め、あと3話で本編完結となります。もうほぼ出来上がっているので、ここから先は毎日投稿です。
よければもう少しだけ、このお話にお付き合いくださると幸いです。
雄也視点
「────え、はぐみちゃんの学年末考査、手応えあり!?」
『うん。自己採点だけど、ギリギリ赤点はなさそう。』
『ゆーくんとみーくんのおかげだよ!』
よかったぁ…!こっちのテストよりもずーっと不安だったよ…
『あ、そうそう。黒服さんから連絡とか来なかった?こころがそっちに行っちゃったんだけど…』
「あー…美咲さんがかけてくる前に居場所聞かれた。今買い出し中だから「ここにいたのね!」…」
タイミング良すぎない…?あ、でもこころちゃんって凄い強運なんだっけ?今年の初夢が一富士二鷹三ナスビだったとか、何か恐竜の化石を見つけたとか…
『もしかして…来た?』
「うん…」
あ、電話中って気づいて近くでじーっとしている。か、かわいい…
「美咲さんはぐみちゃん、こころちゃんと話す?」
「!」
電話相手を知って明るさが1段階上がった。落ち込んだり、怒った顔を見たことがないけれど、それでも表情豊かなんだよね…だから一緒にいたくなるというか…
『そうだね…予定とか言いそびれちゃったし、はぐみは?』
『話すーっ!』
「わかった。
…はい、こころちゃん。はぐみちゃん美咲さんも話したいって。」
「スピーカーにしてちょうだい。雄也も一緒にお話しましょう。」
「いいけど…ボリュームあげすぎないでね。」
更に明るさが1段階上がった。こっちも少しつられていたみたいで更に1段階…あ、ふふって笑った。
そのまま美咲さんと今後の予定を確認したり、はぐみちゃんとこころちゃんがわいわいしたりして…
『じゃ、明日の練習で。』
『じゃーねー!』
でも、そこまで長話にはならずに終わったのだった。季節もあってか「どんな桜が見れるのかしら?」って桜島観光が始まりかけた事以外は平和だったよ…
「…あ、あのさ…」
「どうしたの?」
ライブで自信がついたのか、こころちゃんの前でも自然体でいられる時間も増えたとは思う。でもまだ、近くに寄られたり、自分から誘うのはドキドキするし、まっすぐ褒められると顔も熱くなるし、あのハグを思い出したら煮えちゃいそうになる…
「実は今日、れい姉晩御飯いらないみたいで…こころちゃんがよければ…その、一緒にどうかな…?なんて…」
「ええ!また一緒にお料理しましょう!」
ホッとして…でもむずむずして…やっぱり少し落ち着かない…
路上ライブの調子が良くなった辺りでまた始まって、2月の頭にも来たから…これで3回目かな。最初は買い出しのお手伝いをしてくれて、流石に…みたいになって晩御飯を一緒に作って…だった。
とはいえ、立派なものなんてとても出せないんだけどね…初回なんて納豆ご飯と数品だったし…それでも美味しそうに食べてくれるし、興味津々だしで、こっちもちょっと楽しかった。
ただその後、こころちゃんが洗濯機でお米を研ごうとして慌てて止めたり、帰った後は後で黒服さんが不釣り合いすぎるお返しをしようとしてきてちょっとした押し問答があったりで…やっぱり初回はすごかったよ色々…
「晩御飯は何を作るの?」
「まだ寒いしお鍋考えてた…簡単かもだけど…」
メインはお徳用の肉団子かな…無理なく、でも出来る限りは節約して叔父さん叔母さんからの仕送りを毎月残すようにはしてるし…
とはいえ…
「…うーん…」
「?」
これでいいの?って気持ちが消えない…毎月残しているお金も普通のお肉一パック位なら全く問題ないし…というか、後で黒服さんが何割か補填しようと…いやいや、仮に貰うとしてもそういうのを前提にして甘えるの無しって自分で…
『ただいまより、お肉のスーパータイムセールを開始します。全品最大半額で「お肉コーナいくよこころちゃんっ!」』
「わかったわ!」
結果、割引されても尚高いスペアリブ、ステーキ用の牛肉を経てようやく、3割引の豚バラ肉をこころちゃんがゲットしてきたのだった。すごい人だかりで何も出来なかったよ僕……
(お化けだったらこういう時楽なんだろうなぁ…)
こころちゃんに頼り切りなのが情けなくて、そんなことを考えてしまう。とはいえ人をすり抜けると中見えちゃうから…こう、浮いて上から…
「────ん?あ、あれ…?」
「あら?今度はどうしたの?」
「…?な、治った?…あ、なんでもない…それじゃあ、ネギと白菜…あとにんじんも買いに行こっか。」
「わかったわ。お野菜コーナーね。」
「うん。あ、それと…お肉ありがとね。」
…なんだったんだろう今の感覚…体の中がざわついて…動きが一瞬鈍って…
結局その後、そんな違和感は起きず、引き続き色んな売り物に興味を持つこころちゃんが不安を上塗りしていったのだった。
「────ただいま。」
「お邪魔するわ!」
スーパーが近所の分、家までもあっという間。まずコートをハンガーにかけて、コップもってきて…手洗いうがいして…
「───じゃあ、料理始めよっか。」
「ええ!お手伝いは任せて!」
誰かとやる分、毎日のささやかな楽しみもいい意味で違う感じがする。…前回同様、包丁や火はこっちでやるけどね…今回もこころちゃんには材料持ってきてもらおう…
「よい…しょ…っと…」
鍋に出汁を用意して火にかけ、材料を切って入れていく。お肉、白菜、ネギ、豆腐、最後はにんじんを…
「じーっ…」
「…」
手の空いたこころちゃんはずーっとこんな感じだ。本人曰く、作業している表情が印象的らしい。いつにもまして作業が少ない分、時間は結構長くなってこっちはこそばゆいけど…
…とはいえ、にんじんに一手間加えるところを見られたくないんだよね…なんて言おう…
「…あの…こころちゃん。ちょっとやりたいことがあって…おまじないみたいなの。」
「どんなおまじないかしらっ!」
おぉ…すごい食いつきっぷり…
「えっと…具材にかけるすっごくささやかなものだけど…食べるまでの秘密。
だから…いいって言うまで目つむっててほしいなって…」
わかったわ!と元気な返事のあと、きゅっと両目が閉じた。
「ありがとね。すぐ終わらせる。」
包丁でもやれなくもない…けど怪我は避けたいからクッキーの型…はダメだね。流しに置くとバレる。…じゃあ既に出してたキッチンバサミで…
…よし、上手くいった。あとは端材もちゃんと鍋に入れて蓋を…
「………ふぅ、もういいよ…って耳まで塞いでる…」
音からバレないようにしてくれたのは嬉しいんだけど…これ、触らないとダメ…?
「…あら?もうおまじないはおしまい?」
「う、うん…なんかありがとね。音対策まで…」
結局、塞いでる手の甲にこっちの手の甲を当てて起こしたのだった。…か、叶うなら頭撫でたかった…
それから数分後…
「うん…火も通ってるし完成だね。こころちゃん、目開けて大丈夫。もっていくからテーブルに鍋敷きお願い。」
出来上がりをテーブルに乗せ、蓋を開けると───
「にんじんがお花になってるわ!これが雄也のおまじないね!」
「うん…ささやかだけどね…」
「そんなことないわ。食べるのがますます楽しみになったもの。」
「……あ、ありがと…」
滑るのを覚悟してたけど、それは杞憂だったみたいだ。
あとは器によそって…ポン酢かけて…
「…それじゃ、手を合わせて…いただきます。」
「いただきます。」
気持ちだけ多めに作った鍋が、思ったより早いペースで減っていく。冬によく作っていたメニューだけど…手伝ってくれた人が目に見えて美味しそうに、そして行儀良く食べているのをみると、やっぱりこう…充実感みたいなものがあるし、割り増しで美味しくなった気がする。
「───ごちそうさまでした。」
「ごちそうさまでした!とーってもおいしかったわ!」
「…お粗末さまでした。ありがとね。」
締めのうどんも食べ終わり、そこから洗いものを終え、なんとなくまたテーブルに戻って…
(やっぱりなんか…最近のこころちゃんはおとなしい気がする…)
春休みに何をするかを話している中、ふとそんなことを思った。
いやついさっき桜島行くことになりかけたし、間違いなくあの子は元気なんだろうけど…全然違うって言ってたハグをまた試したいとか言ってこないんだよね…
その2回目のハグの後、れい姉と何か話していたのが理由だと思うけど…何話したんだろう…
それに───
(完成したあの曲の事、こころちゃんはどう思ってるのかな…)
練習でここはこう…そこはこう…みたいな話しはするけど、歌詞を深く質問しないのは約束だから?やっぱり内心、もどかしかったりするのかな…
……答え合わせをわくわくしてたの、まだ覚えてるのかな…
「あたしの顔をじーっとみて、どうしたのかしら?」
「あ…ごめん。特に深い意味は…そ、そうだ、アーケードの人がみかんをお裾分けしてくれたんだけど────」
そして、時間はあっという間に過ぎていき、本番当日───
「────
「あ、はい!時間来たって!」
「わかったわ!」
「はーい!」
「すーっ…はーっ…うん…!」
「さぁ、儚いステージにしよう…!」
「それじゃ、やりますか。」
時間より少し早い。…でも、やる場所がお店の前じゃなくて、アーケード内の交差点…?みたいな所だからね。控室でもある豆腐屋さんの事務所から離れた分、余裕もたせてくれたのかも。
「ゆーくん!掛け声お願いっ!」
「え、僕?」
「ああ、このステージに一番立っているのは雄也だからね。ふさわしいのは君さ。」
…厳密には僕も初めてなんですけどあのステージ…それにお店前も…いや、初演奏は花園さんだけど一番ライブをやってるのは確かに僕か…そっか…
「───じゃあ…手を重ねるやつを…僕が二言いったら…えっと、「おー!」で、お願いします。
あ、一番下はミッシェルで…」
ミッシェルの大きな手の甲に、薫先輩、花音先輩、はぐみちゃん、こころちゃん…僕…と手を重ね、今は近くにないけど自分のキーボードに…遺してくれた大切な人に思いを伝え、そして───
こころとれい姉が何を話していたのかは、アフターストーリーで書けたらいいなと思っています。
それでは、また次回。