雄也視点
(今までで一番多く来てくれてる…)
ほぼほぼ360度で自分たちを囲むお客さんを前に思わず怯んだ。
失敗が、怖い景色が…一瞬だけ脳裏を過った。
それでも────
「みなさーんっ!本日は来てくださってありがとうございます!」
僕がきっと笑顔でスタートできたのは、皆がいたから。
演奏するのがカバーでも、皆のわくわくが弾けるような演奏は、元気いっぱいのパフォーマンスは全く変わらない。
それに続きたい…そんな願いがスイッチになって、後ろ向きから跳ね返った気持ちがまっすぐ…本当にまっすぐ鍵盤へと向かっていく。
演奏中、はぐみちゃんがアドリブでハイタッチを求めてきて、手がちょっとしびれそうになった。
薫先輩の見せ場で「ご覧ください!」みたいにジェスチャーをしたら、こっちのソロのあとで先輩がウィンクしてくれた。
カウントする寸前に横目が合い「やるよ。」と言いたげに微笑む花音先輩が最高に頼もしかった。
ターンテーブルを操作するミッシェルも、その中にいる美咲さんも、やれやれ顔をしているようにはとても見えなかった。
こころちゃんと歌声を重ねられた時、ジーンとした気持が溢れそうになって仕方なかった。
貴方といる時間は 何故すぐ消えていくのだろう
息詰まって 目が眩んで 見失いかけても
それでも止まりたくない 背中追わせてください
次昇るまではちょっと待ち切れないから
2人で一緒に星空を観たいから
最後に演奏した僕の曲に…ラインナップ的には浮いてそうな速めのテンポに…焦燥感を求めたコードに、やっぱり独りよがりを消しきれなかったサビに…拍手を貰えたことがこそばゆくて嬉しかった…
お客さんの中には僕を知っている人も、僕だけが一方的に知っている人達もいて…
見えないお客さんも喜んでるかな…が喜んでるといいな…にいつしか気持ちが変わっていて…
終わった後、こころちゃんが声だけのありがとうをたくさん聞いた。そう言っていたのが嬉しくて…
それでも熱は冷めず、皆で上手く行ったこと、よかったこと、心に響いた所を話して、話して…ぼんやりしてきていたのにも気づけなくなっていて…
本当に…本当に…あっという間の時間だった。
その翌日────
「────霊の気配がすると思ったら…」
「お、おはようれい姉…」
朝起きた僕の下に居たのは、すやすや眠る僕だった。体が掛け布団を貫通してたから最初訳がわからなかったよ…
「なんか起きたいのに体が動かなくて…バタバタやろうとしてたらこうなっちゃった…」
「…大事なステージが終わって気が抜けたのね。ま、ずっと頑張ってたんだし。
たまにいるわよ。そういう人も。」
「そんなことあるんだ…いやでも、なんか戻れないんだけど…」
「うーん…何かに憑かれて締め出しくらった。とかならわかるし。
ちょっと懐かしくなってるとか?その状態で半年くらいやってたから。」
「あー…」
懐かしく思っていた…そんな言葉がすとんと自分の中に収まる。きっかけは母さんからの突き落としで、温度も感じず、触れるのは基本自分の体と床だけで、大体の人が気づかない…
それでもやっぱり…思い出もたくさん作れたから。
「けど、こういう時ってどうすれば…?」
「前みたいに散歩して来たら?
その間、あんたの体は私がみてるからさ。」
確かにそう言われると外出たいかも…とはいえ…
「…れい姉。体に戻るのって気持ちが大事なんだよね?」
「まぁうん。そうだけど。」
「だったらやっぱり一旦戻る。外出るならせめて着替えたいもん。」
「…そう。」
くすりと笑ってれい姉が部屋から出ていく。寝間着は中学のジャージとはいえ、これで見える人達と鉢合わせは嫌だった。もし、市ヶ谷さんや紗夜先輩に見つかったら「だらしない!」とか言われちゃうかもだし…
とりあえず、自分の額に右手を乗せて…
(この格好は勘弁して!ちゃんと外に出るからっ!)
みたいなことを念じること数回、ぐぐーっ…と、あの時よりゆっくり目に引き込まれる感じがして───
「も、戻れた…!けど、この感覚って…」
全身がざわついて…微妙に動きが良くなくて…買い物以来の違和感に「あわよくば朝ごはんを…」みたいな気持ちがみるみる薄れていく…ズルしちゃダメかぁ…
そんな感覚に急かされながら着替えを済ませ、ベッドにお腹からどさりと突っ伏し、ざわつきが一瞬、より強まって…
(しまった…!履くもの……あ。)
靴を探そうと体を起こしたら、また下に僕がいたのだった。やっぱり欲しかったからもう1回戻って体育館シューズ持ってきたけど…違和感も悪化して大変だったよ…
そして、3度目の正直をした後、びっくり気味のれい姉に行ってきますを言って僕が向かったのは────
(やっぱり…ここだよね…)
幽霊時代、こころちゃんに見つかった公園だった。懐かしくなってあの時みたいにベンチへ腰掛けてみる。
「…こんな感じで一回俯いて…街灯に行こうかなって顔を上げたら…「あら、雄也じゃない!ここで何をしてるの?」
そうそうそんな感じで声かけられ…ってうそぉ…」
一瞬幻覚を疑ったけど、間違いなくこころちゃんだった。朝の時点で本日2回目の「こんなことあるんだ…」だよ…
「おはよう雄也!こんなところで会えるなんて奇遇ね!」
「お、おはよう…って、こころちゃんスマホ!スマホ耳に当てるか声のボリューム落として…!」
まだ朝なのもあってか周りには誰もいないけど、いつまでもとはいかないから…!
「そんなに慌ててどうしたのかしら?
それに、スマホを耳に当てるのはお化けの……まぁ!」
その金髪と同じ色の瞳が、見開かれてきらきら輝きだす。
「お化けの雄也だわ!とーっても久しぶりねっ!」
「う、うん…久しぶり…」
こころちゃんの始めましては幽霊の僕だからね。体に戻ったのが10月末だから…4ヶ月は経つんだ。あっという間だ…
「どうしてまたお化けが出てきちゃったのかしら?」
「…昨日のライブが終わって気が抜けすぎちゃったみたい。
それで今は戻りたくなるまで気分転換…みたいな感じ。」
「それなら、またあたしとお話しましょう。ちょうど雄也に聞きたいことがあるの。」
「…聞きたいことって?」
「あなたのもう一つのお日さまのこと、教えてちょうだい。」
「────」
忘れてなかった。…忘れてもらえなかった。
バレンタインに結んだ約束を、悩みの種を…でも、ここまで進んでこれた原動力を…一番大きくて、一番最後まで自分の中に残ったものを…
「…そんなに…気になる?」
詰まった言葉が引っ張り出したのは質問だった。
「ええ。あの歌のことを知れば、雄也の事をもっとわかるでしょ?」
「…」
うん…確かにそれは正解だと思うけれど…
「…僕の事、知ってどうするのさ…」
「笑顔をたーっくさん見れるわ!
まだ一緒にライブした時しか見れてないけれど、思いっきり笑った雄也はとっても可愛らしいもの!」
「ちょっ…!またそういうこと…!」
何回言うのさホントに…!
「また赤くなっちゃってるわね。」
「ぼ…僕の顔はいいから…!」
首を横に振って熱と緊張を振り払い、ベンチから立ち上がる。
それから大きく息を吸って………吐いて…それをもう一回…
…自分の歌を見直すより前に一度、気持ちを紙に書き出した。
その中で…もし…本当にもし、あの時感じた特別が違うとしたら…良くないことが起きそうなら…そこで話を止めて、こっちからはもう触れない。そんな言葉が生まれた。
自分でも重いよ…ってなったけど、それが最初で最後の恋の終わりになったって構わなかった。
…だって…やっぱり僕が一番好きなのは、あなたの笑顔で…その邪魔だけはしたくなかったから。
「───わかった。話すね。
ただ一つお願い。話の途中に違和感を感じたり…止めたくなったら絶対止めて。」
出来るだけ誤魔化さずに…そして、ゆっくり行こう。一歩先も…失敗も、成功も…何も想像できないから────
「あの歌の太陽は……僕の…初恋をした人の事。」
相手の目が丸々と見開かれる。驚き半分、わくわく半分…そんな感じ…かな…
念の為…と様子見をしてたら程なく、(続きは?)と言いたげな顔をされた。
「続けて…いいのね。わかった。
えっと…その人を他にどう呼ぶかだと…大恩人、みたいになるのかな?
出会えなかったら…間違いなく僕はここにいなかったから…」
そういえば…体に戻れた時とかにお礼こそ伝えたけれど、恩人だって本人に言ったことはなかった…ちゃんとそう伝えられてたら何かが違ったのかな…
…また少し、自分への嫌悪が積み重なった。
「…雄也?」
「…大丈夫。お腹痛くはなってないから。」
でも沈むのは今じゃない。進もう。
「…僕ね、その人といっしょに居ると…よく落ち着かなくなっちゃうんだ…
でもそれが嫌じゃなくて…一緒にいる時間が欲しくなっちゃったりもして…
ただ僕、その人とバンドをしている人とも関わりがあって…その人達にも恋とかとは違う好きがあるから…2人きりが長くなりすぎちゃうのも複雑なんだけど…」
難儀だよね…と苦笑いする僕に、優しいあなたらしいわ。と言ってくれた。
「あ、ありがと…
それで…僕から見たその人は何でもできちゃうし、どんなことでも喜んじゃいそうで…何をしたらいいのか却ってわからなくなっちゃったりもして…うんうんやってたのはそういうのもあったんだよね…」
大きな目がぱちくりしている。驚きが強まってみえるけど…微妙に感情が読めない…
先を聞きたいか確認したら、肯定が返ってきた。まだ続きがあるのでしょ?と…
「う、うん……さっき言ったように、どうしたらいいのかわからなくなっても、結局は独りよがりかもしれなくても…やっぱり恩返しがしたかった。
それで、自分が少しでも自信を持って…許されるなら隣にいれたらなって…そう思ってここまでやって来てたんだ。」
よかった…笑顔が戻ってきた……
「……あえっと…と、とにかく僕、その人から沢山のものを貰ったんだけど…逆に僕が自力多めで返せたのは……お好み焼きとバレンタインのチョコとか……かな?クッキー作りは場所借りたし…あ、あと…家に来てくれた時は一緒にご飯作ったりも…
…あー……昨日のライブとそれまでは色んな人が動いて、助けられてだから…僕がやれた事。みたいに言うのはちょっと…憚られると言いますか…」
「もしかして!」