INFINITY WITCHES ~無限大の魔女~ 作:AGM-123
それと、UA2000達成をこの場をお借りしてお礼します。
「ブリーフィングを始めるわよ」いつも通りの口調でグッドフェローが切り出す。
「南米よりリベリオン本土に向けて飛行する敵戦闘機部隊が確認されたわ。かなりの大規模連隊であることは確かよ。私達はサンディエゴ基地より出撃、これを迎え撃ちます」
サンディエゴか。あそこなら海軍や海兵隊の基地があるし、きちんとしたサポートを受けられそうだ。
「交戦ポイントはエリアB7R。ネバダ州中央部の円形の隆起地形が広がる山岳地域でリベリオン空軍の特殊飛行試験区域に指定されている場所よ」
後ろで誰かが、「クソッ…“
“円卓”とはその空域の愛称か?奇妙な名前だ。扶桑空軍なら訓練空域はアルファベットで名付けるし、リベリオン軍も動物の名前などを使うことが多いはずだ。いったい何が由来なんだろう。
「この地域では、地下の鉱物資源の影響で通信環境が悪いわ。救助部隊の連携も難しいから、
ベイルアウトしても救出には数日掛かるはずよ。…気をつけなさいよ、オメガ」名指しで注意を受けたオメガが、恥ずかしげに頭を掻く。
「それと今回は地上管制ができないため、私もAWACSに搭乗して出撃します。…敵航空部隊との激しい戦闘が予想されるわ。サンディエゴについても、出撃には若干時間があるから、機体の調整は十分に行いなさい」真面目な顔に戻ったグッドフェローが締めくくる。
トラベルポットに詰め込む私物をまとめにいこうと立ち上がると、やや後ろのほうで難しい顔をした若いパイロットが座っていた。
その耐Gスーツに縫い付けられたエンブレムは、矢を咥えたカラスをハートマーク型に描いたもの。──クロウ隊、とか言ったか。つい気になって、声をかけてしまう。
「ええと、貴方は…」
「ん?あ、俺っすか?俺はリベリオンから派兵された、クロウ隊の3番機っす。PJって呼んでください。ちなみにPJは本名のパトリック・ジェームスの略で。あ、趣味はポロ。あの馬に乗ってやるヤツっす」
どうやら話好きな性格の様で、気さくに答えてくれる。しかし、この声は間違いない。さっき、円卓について話したときに聞こえた声だ。
「…さっき、何かB7Rについて話してませんでした…?」と私が聞くと、ああ!と一言呟き、自身の経験について語ってくれた。
「あの空域は、さっきコマンダーが言った通り鉱物資源の影響で通信環境が悪いんす。で、そこで空戦してるとレーダーとかも調子が悪くて、BVRAAMも射程を活かせないうえに命中率も低いんす。おまけに無線も混線して敵部隊の声も聞こえるし。前あそこで訓練してたことあるから知ってるんすよ。教官機に何回もドッグファイトで撃ち落とされて」とのこと。
「じゃあ、円卓っていう名前の由来については知ってますか?」との問いにも、
「あれは、アーサー王伝説が元ネタっすね。BVR戦闘ができないから基本的にIRパッシブか機関砲でのドッグファイト、よくても至近距離でのアクティブホーミングくらいでしか戦えないんす。だから、階級も所属部隊も関係なし、ACMの技術だけがものを言う世界って感じなんです。そこから、アーサー王の円卓の“上座も下座もなし”っていうのを連想して、ってのが由来らしいっす」と素早く答えてくれる。
戦闘地域の事前情報を知れた私は彼に礼を言い、自室に帰る。替えの衣類や暇つぶしに読む本を手早くまとめ、格納庫のトラベルポットに詰め込む。
少し離れたところでゼブとオメガが荷物を詰めていたが、その中に水着や折りたたんだビーチボール、シュノーケルつきゴーグルが入っているのは見なかったことにする。
どうやら意気投合した彼女らは、作戦終了後に遊びに行くことを考えているらしい。…というか、この雪がちらつくオラーシャにまで水着を持ち込んでいたのか。
…まあ、最近ほとんど休暇もとれていないし、いいだろう。私も、向こうで水着を買って遊ぶくらいならいいかもしれないと考え始めた。
数時間後、私達はオラーシャを飛び立ち、一路リベリオンへ向かっていた。現在リベリオンへ向かっているのはボーンアロー隊とリッジバックス隊、それにクロウ隊と、彼らと同じくリベリオンからやってきたウィザード隊。
4機編隊で飛ぶ私達ボーンアロー隊だが、私の後ろでは編隊が乱れがちだった。
オメガとゼブがタブレット端末で何かを熱心に読み、それをブロンコがのぞき込んでいるのだ。無線は使っていないが、至近距離なので会話は聞こえてくる。
「やっぱりまずはミッションビーチだよね」「私あそこ行きたい!レゴランド・カリフォルニア。ブロンコはどこ行く?」「……バルボア・パーク。あとファッションバレー」
聞こえてくるのはサンディエゴの観光スポットの名前。減速してオメガの持つタブレットをのぞき込むと、そこに映っているのはとある有名な旅行ガイドブックだ。
3人とも作戦終了後の休暇をどう楽しむか、今から考えていた。
「リーパーはどこか行く予定ある?」後ろについた私に気付いたのか、オメガが振り返りつつ問いかけてくる。
数秒考えて、私は言った。「ミッドウェイ博物館とかですね」空母丸ごと一隻をそのまま博物館としたあそこは、一度行ってみたいと思っていたところだ。
「…隊長も来ない?ビーチ」珍しくブロンコが自分から話しかけてくる。
私達4人は、束の間戦争の事も忘れて休暇の計画を話し合った。
数時間後に待ち受けていた、恐ろしい出来事を知る由もなく。
エリアB7R リベリオン合衆国ネバダ州“円卓” 2020年 5月21日 11時00分
《懐かしいわね》上空のグッドフェローが、どことなく懐かしげにつぶやく。
《来たことあるんすか?》オメガからの問いに、《ここは新型機の試験飛行を行う空域でね、数多のパイロットやウィッチたちが階級の上下に関係なく腕を磨き合った特別な場所よ》
ここを彼女が飛んだことがあるというなら、彼女は元テストパイロットだったのか?
《そういえば、あんたの昔話を聞くのは初めてね》…それは珍しい。そういえば私も、ボーンアロー隊所属兵の経歴は全く知らない。
なぜオメガやブロンコ、ゼブがこの部隊に来たのか、前歴もわからない。まあ、「語るは無用、聞くは無作法」という言葉もある。
《おしゃべりは終わりよ。そろそろ交戦ポイントに入るわ》
同時に、レーダーにいくつもの影が映る機種はMiG-29とSu-33、見える限りでは
《来たわよ!》グッドフェローの言葉と共に、全ての敵機がターゲッティングされる。
《大勢でおいでね》と呟くオメガに、《玄関でお出迎えよ。丁重にお帰り願って》とグッドフェローが返す。
《スカイ・アイから全機、交戦を許可する!散開!》スカイ・アイもグッドフェローに続けて叫び、《ボーンアロー2、エンゲージ!》《リッジバックス1、エンゲージ!》と交戦宣言が無線に響く。
《ボーンアロー1、エンゲージ!》と私も叫び、6AAMを発射。最も接近していた1個編隊を狙う。急旋回しつつ、ミサイルの行く末を見守る。
空に3つの火球が生まれる。3機撃墜。さらに2機のMiGに向けてMk.48を掃射し、高高度にいたSu-33とMiGにMSSLを撃つ。これで5機。
《獲物はいくらでもある。リッジバックス隊より1機でも多く墜すわよ!》《ゼブ、了解でーす!》
オメガとゼブがコンビを組み、編隊2つ、8機を相手取る。背中合わせに飛び、あっという間に4機を叩き落した2人だが、そこにエッジが突貫し、3機を撃墜する。
《空戦はこちらの得意分野、最初から引き離す!リッジバックス各機、一気に攻めるぞ!》
《リッジバックス2、コピー!》聞きなれない声のリッジバックス隊員だ。おそらく、スラッシュの穴を埋めるため、こちらのゼブと同じように新人を雇ったのだろう。
彼女がMiG-29を追い回すのを尻目に、2機のフランカーをMSSLで撃墜する。
《リーパー、あなたには負けない》すでに7機を落とした私に、エッジが闘志を燃やす。
しかし、ミサイルアラートが鳴りやまない。最高のステルス性を持つラプターでも、この至近距離で、しかもレーダーとアフターバーナーを使用していては、その意味はほとんどない。
PJが言った通り、ここでは遠距離のロックオンができないため、必然的に機銃やWVRAAMの射程で殴りあうことになる。
《撤退は許可できない。敵を可能な限り撃退せよ》スカイ・アイの冷静な言葉に、《…でしょうね。報酬上乗せよ》とブロンコがつぶやく。
《2番機が追われている!》MiG-29の1機を追い続けると、敵機からの無線が聞こえてくる。PJが言っていた無線の混線か。
《後ろがガラ空きだ、国連の犬め!》と聞こえた瞬間、2発のAAMが私をかすめて飛んでいく。一気に減速し、今撃ってきた敵をオーバシュートさせロックオン。
《回避!回避!》と叫びつつ敵機はフレアを撒き、1発目のMSSLを回避した。しかしもう1発は避けられず、エンジンノズルと尾翼を吹き飛ばされ、墜ちていった。
さらに2番機と呼ばれたMiGにMk.48を撃つ。7.62mm弾に左翼をもぎ取られたMiG-29が、仲間の後を追う。
《くっそ、空が、空が狭い!!》Su-33を追いかけるオメガが、一言叫ぶ。
《1番機に気を付けろ!死神だ!》《リボン付きの死神!?ふざけたマークだ!》2機のMiGと1機のフランカーが旋回戦を挑んでくる。
体を捻り、6AAMを撃つ。やや距離があったため、ほとんどは避けられてしまった。それでも1機のMiGを撃墜、その破片と爆煙に惑わされた残り2機に、MSSLで対処する。フレアを撒く暇もなく、2機は火球と化した。
《リボン付きの死神、その首貰った!》上から逆落としにMiGが突っ込んでくる。
《死神!!お前を落として俺は金を得る!その金こそが、金こそが俺を…!その金で俺は…俺を…!》やけにうるさく騒ぐ敵機を6AAMで素早く屠る。
《航空部隊の半数を撃破、その調子だ!》とスカイ・アイが叫ぶ。しかしまだ半分か。すでに私は9機、オメガ、ゼブ、エッジが見た限り合計で7機。
ブロンコやリッジバックス隊の面々、クロウ隊やウィザード隊も何機かは撃墜しているはずだ。すでに最低でも20機以上は落としている計算になるが、それでもまだ半分。
いったい何機の敵機がこの狭い空域にいるのか。
《3番機“リボン付き”を振り払え!》《分かってるさ!死神を引き付ける!後方から狙え!》私の共同撃墜を目論んだらしいが、無線でバレバレだ。
前方の敵機をMk.48で掃射。旋回中だったせいか、少しずれて右翼に弾痕を刻む。
《主翼が!!》機体制御を失った悲痛な味方の叫びを聞き、急反転で逃亡を図ったSu-33にMSSLを撃ち、こちらも墜とす。
《敵勢力の殆どを撃墜。各隊、体勢を整えよ》ようやく一区切りだ。交戦開始から2分足らずで11機を撃墜した。
Su-33やMiG-29のような高性能機を相手にしたが、さすがは史上最強の戦闘脚、F-22だ。F-15S/MTDだったらこうはいかなかっただろう。
使えるのはおそらく今回だけだろうが、手放すのが惜しくなるくらいの乗り心地だ。
《ん?レーダーに新たな編隊を確認!敵増援部隊が接近中、迎撃せよ!》
同時にレーダーに転送される戦闘機隊の情報。かなりの至近距離までAWACSにも気づかれない敵…私と同じステルスか!!
敵はF-22かF-35か、それともYF-23か…。いずれもにしても最新鋭機。機体性能では大きく負けるものもいる。ウィッチの小柄さと旋回性の高さを生かして、戦うのがベストだ。
《押されてるな。アーテル隊、ブレイク!》やはり漏れ聞こえる無線。それと同時に敵機の情報がHMDに表示される。4機2編隊の計8機。機種は…。
《嘘でしょ!?Su-57!?》「なっ…!?」信じられなかった。NATOコードネームが決まったばかりの最新鋭中の最新鋭機。
開発元のオラーシャ軍でさえまだ10機も配備できていないはずの機体。それがまさか、ユージアの手に渡っていたとは──
《えーっと、Su-57ってそんなに強いの?》とぼけた声で聞いてくるのはゼブだ。
《オラーシャ帝国、スホイ社の最高傑作。通称PAK-FA。NATOコードネーム『フェロン』。機動力ではF-22にも匹敵する機体性能がある。私も実機は初めて見た》とやや興奮気味にブロンコが解説する。
比較的近い編隊に向けて6AAMを発射、しかし──。「っ!?躱されたっ!?」ステルスと磁場のダブルパンチ、さらに敵の腕もいい。だが、チャフさえ撒かずに回避されるとは。
《リッジバックス1から各機、迎え撃て!》より前方に出ていたリッジバックスが吶喊する。
《いくわよリーパー!》オメガと共に1機を照準、発射。2方向から同時発射されたAAMはさすがに避けられず、1発の至近弾を食らった敵はエンジンから黒煙を噴き始める。
《ここは俺達の庭だ!全機喰らいつくすぞ!》
敵機からの無線に疑問を抱く。……“俺たちの庭”?じゃあ彼らは、リベリオン人か?ならなぜオラーシャの機体でユージアに所属している?
《敵は精鋭部隊との情報あり!警戒せよ!》そんなことを考えている場合ではなかった。手近な1機をロックオンし、MSSLを2発撃つ。
これは回避された。しかし、それを予測し進路上に7.62mm弾をばらまく。平べったい機体にはほとんど当たらなかったが、それでも何発かは尾翼や主翼に穴をあける。
動きが鈍った隙を狙ってMSSLをさらに2発撃つも、それもまた避けられる。…今まで戦った中では最も腕のいい戦闘機乗りだ。こちらもエースなら、あちらもエースか。
《アーテル・リーダーより各機、まずは敵中核部隊の隊長を落とす。編隊を崩せ》
となると…。狙いは私か!
《了解、あの一本線カラーの魔女だな》いや違う、エッジが狙われている。機体とカラーリングを揃えた彼女らを中核部隊と捉えたのか。いや、それはどうでも良い。
《捕まえた》1機のSu-57が、可変ノズルを生かしてエッジを追いかける。3次元偏向ノズルがもたらす高機動力は、ウィッチと戦闘機の差を徐々に埋めていった。
しかし、今は援護にはいけない。目の前のダメージを負った1機を追い、MSSLを撃つ。
近接信管を作動させたMSSLはSu-57のエンジンノズルと垂直尾翼を丸ごともぎ取り、1機5700万ドルの最新鋭戦闘機を無価値なスクラップへと変えた。
《離れろ…!》ループ、ターン、ダイブ、上昇、下降を繰り返してなんとか敵機を引きはがそうとするエッジだが、相変わらずSu-57は食いついてくる。《ここは“円卓”。死人に口なし、だ》不吉なことを敵機が呟く。
《リッジバックス4から3、リーダーを支援しろ》《ウィルコ!》フェンサーがSIG556で弾幕を張り、Su-57の進路を妨害しようとするも、ひらりと言う擬音がぴったりきそうな機動でその弾丸は全て回避される。
《まさか、私だけを狙ってる?…このっ!》エッジもSIGを撃つが、回避軌道を取りつつの射撃で、命中しない。私はエッジを追尾する1機を狙い、6AAMを2回発射する。計12発のAAMは流石に回避不能だ。乗機を破片と爆風でズタボロにされた彼は、ベイルアウトする間も無く7.62mm弾でコクピットを吹き飛ばされ、最期を遂げた。
エッジに向かってミサイルを撃ち、機動力が一瞬削がれた1機を狙い、4発のMSSLとMk.48を浴びせかける。真後ろから、しかも油断した瞬間の攻撃をもろに受けたSu-57は機体後ろ半分を破壊され、円卓の大地に叩き付けられた。
《ボーンアロー4、敵機撃墜!やった!》ゼブがやったのか。部隊内では最も旧型のMiG-29で、よくやったと言うほかない。
《敵航空部隊の半数を撃破》やっと4機か。《いよーし、いい調子ね!》とオメガが嬉しそうに言うも、《喋ってないで墜として》とブロンコに諭される。
《敵はエッジに狙いを絞ってきているわ。ボーンアロー隊、カバーしなさい!》3機を墜としている間に、エッジはかなり追い込まれていた。《ウィルコ!》オメガが叫び、HVAAを連射する。運良くその1発が、エッジを追う1機に当たる。その数秒前、オメガがミサイルを撃った一瞬のちに私は6AAMを2連射していた。12発のAAMは中距離誘導を行うことが出来ずほとんどが外れたが、オメガにより機動力を削がれた1機に命中。5機目のSu-57が主翼をもがれ、錐もみで墜ちていく。《くそ!主翼をやられた!彼奴は何だ!?》数秒後、Su-57のキャノピーが弾け飛びパラシュートが開く。
《死神マークにトリコロールカラー!あれが例の空賊のエースか!》…そうだ。もっと私に注目しろ。そうすれば、味方の攻撃のチャンスは増える!私の機体とエンブレムに目を取られた1機。その一瞬の隙が命取りだ。ブロンコが真上からMSSL2発を放ち、さらにXM556で弾幕を張る。最高のタイミングで放たれたMSSLは、見事にエンジン排気を捉えSu-57を撃破する。
《いけるぞ!あの1番機を逃がすな!》生き残った2機には、撃墜された6機のことが分かっていないらしい。連携が取れていないのか、それとも気にも掛けていないだけか。
《各機、エッジを援護しなさい!》
エッジを追う事に熱中しすぎたのか、後方確認を全くしない1機を狙い、Mk.48で掃射する。《残り1機》
《これでラストだ!》流石に分が悪いことを悟ったのか、エッジの追尾を諦めた最後の1機が低空へ逃げようとする。その真後ろから、6AAMを撃つ。
《ぐあっ!レバーが効かん!ちくしょう!》数発の至近弾を受けたSu-57は、小爆発を繰り返しながら高度を下げていき、最後は燃料に引火したのか、ひときわ大きな爆発を起こし墜ちていった。
やっと一息つける。ふと時計を見ると、空戦を始めてからまだ4分しかたっていない。もう数時間も戦ったような錯覚を覚えるほど、激しい空戦だった。瞬きをすることも忘れていたのか、目がひりひりと痛む。
この短い間に単独撃墜16機、協同撃墜1機。4分で16.5機はあの伝説のエースウィッチ、“アフリカの星”ことハンナ・ユスティーナ・マルセイユを上回る撃墜記録だ。
《リッジバックス1、機体の損傷を報告せよ》スカイ・アイの無線に、しかしエッジは答えない。《リッジバックス1、エッジ!報告を!》数秒の沈黙が続いた。
《直撃はありません。まだ飛行可能です》思ったよりもしっかりとした声。無事なようだ。
《無理しないでよ》とオメガが呼びかけるも、
《ボーンアロー1へ、援護感謝します。但し、次からは余計な真似は結構!》拒絶するようなエッジの声。《そうくると思った》オメガがぼそりと呟く。
「フソウのツンデレ、って奴じゃないですかね」と、ゼブが無線を使わず軽口を叩き、それを聞いたブロンコが笑いを噛み殺している。
次の瞬間だった。
《クロウ2、被弾した!ベイルアウトする!》もう敵は居ないはず。なのに、戦闘機隊の1機が撃墜された。「えっ…?」
《ウィザード3、ダウン!》次の無線は、ウィザード隊のYF-23が撃墜されたとの知らせ。
《なに!?ウィザード隊が墜とされただと!?》
スカイ・アイが驚いたように叫ぶ。
その時だった。
《♪~♪》
耳なじんでしまった、あの
《え?この歌……まさか!?》オメガが、ぞっとしたように呟く。
《アハッ♪》
短い笑いと共に、私達をかすめた小柄な影。
顔の上半分を完全に覆うHMDに、右手に持ったP90。
そして、短冊形のカナードとW型の主翼後縁が特徴的なストライカーユニット。
彼女の後ろに、忠実に従う8機のUAV。
CFA-44とMQ-90を操る敵ウィッチ。
だが、彼女は死んだ。いや、死んだはずだった。
「“蝶使い”…!!」
私は自分でも知らないうちに、その敵の名を呼んでいた。
《嘘…でしょ!?あの女は墜としたはずでしょ!?》
オメガが顔面を蒼白にして叫ぶも、あれは紛れもなく、蝶使いだ。
十数機の国連軍機と、スラッシュを撃墜した最強且つ最悪の敵。
東京では、墜とせはしたが多大な犠牲を出した。
しかし、今回は違う。空戦にステータスを振り切ったとも言えるF-22に、Mk.48だけを持った前よりも軽量な装備。やれる。今回こそ、誰も死なせずに墜とす。
6AAM、MSSLを同時に放つ。すれ違いざまにUAV2機にそれをたたき込み、撃墜する。
《……あいつは私が墜とす!》決意を固めたように叫んだエッジが、SIGで蝶使いを狙う。
しかし、何故死んだはずの奴が生きている?奴は私が墜とした、それは間違いない。7.62mm弾数十発で蜂の巣にされた人間が生きているはずはない。だが、動きは前の奴とそっくり同じだ。
《相変わらずなんて動きするのよ!前回とは違う奴のはずでしょ!?》歯噛みしつつ、オメガが唸るように言う。
フランカー並みの、いやそれ以上に大きな機体サイズ。なのに機動力は偏向ノズル付きのこちらと同等か、むしろ良好ときている。
一体どうなっているのか。あれだけのGを掛ければ、機体はともかくウィッチの方が持たないはずだ。
《ああ、神様!最高のウィッチをぶつけるしかできることはないのか!?》スカイ・アイが叫ぶ。
既に、戦闘機隊の生残機は視界内にない。私達8人で、何とかするしかない。
《…何か変ね》グッドフェローが呟く。数秒の沈黙、そしてグッドフェローが再び口を開いた。
《こちらグッドフェロー、蝶使い機からの桁違いに大きいデータ通信を確認。多分だけど…あれにウィッチなんか乗っていないわ!》
「……はい?」グッドフェローの言葉が理解できない。じゃあ、目の前で今飛んでいるのは一体何なんだ?正体が急にわからなくなった敵が、いきなり不気味なオーラを放ってきたように感じる。
《じゃあ…じゃああれはなんなのよ!?本物の幽霊って訳じゃあるまいし!?》そのオメガの言葉を聞いたわけではないだろうが、《へへへ~》と蝶使いの笑い声が響く。
……本当に、気持ちの悪い奴だ。
《いや、あのストライカーはたぶん…無人機の様な物よ。蝶使いの本人は別のところにいて、あれを操っている可能性が高いわ》
私は、言葉が出なかった。まさか、
それに、奴を墜としたときの事を思い出す。私の撃った弾は確かに全身を撃ち抜いた。しかし──墜ちていく奴、そのズタズタになった体からは、
《さすがは大軍事企業様。下々の一般市民には思いもつかないことするわね》オメガが吐き捨てた時だった。
《っ!?》気が削がれた一瞬、その隙をついてクオックスがブロンコを狙う。レーザーが彼女の身体を掠め、何かが彼女から離れ、落ちていく。
《ブロンコ!?》《…大丈夫。怪我はない》いつも通り棒読みの口調で無事を知らせるブロンコ。
《でも銃が…》彼女の手元を見ると、XM556の銃身が、もぎ取られたように無くなっていた。《…レーザーが当たった》と、機関部だけになったガトリングの残骸を投げ捨てたブロンコが呟く。
《ブロンコ、いったん下がって。私がやる》
幾ら相手が強かろうと、流石に2回目となればネタも割れる。ミサイルではレーザーに防がれる。なら──
私は中途半端に残ったベルトリンクマガジンを捨て、新しい物へと変える。
《おいで、かわいがってあげる》《隊長ー!助けてくださーい!実際ジリープアーですー!》
ゼブを執拗に狙っている蝶使いの真後ろに付き、ストライカーを狙ってMk.48のトリガーを引く。
《む!》蝶使いが後ろに付いた私に気付き、体をひねって逃げようとするが、もう遅い。銃口初速833 m/s、弾頭重量147グレーンのフルメタルジャケット弾が、毎秒12発の勢いでストライカーを撃ち抜く。
ほんの5秒にも満たない射撃、しかしそれは蝶使いのストライカーから飛行能力を奪い去った。
次の瞬間、自らを制御していた主を失ったUAV達が自爆する。
《蝶使い機を撃墜!速い!さすがは死神だ!》スカイ・アイが感嘆したように叫ぶ。
ストライカーを破壊された蝶使いが、高度を急速に下げていく。
ストライカー以外には当てていないためか、まだ無線が聞こえる。
《あ~あ、1機減った~。も~。もう一回、コンティニュー!》その言葉を最後に、蝶使いはストライカーごと爆散した。
やはり、ストライカーを履いていた奴は、人間ではなくロボットのような物だったのか。 ……私達にとっては命がけの空戦でも、奴にとってはゲームと同じか。
《…全機へ、まだ終わってないわよ》グッドフェローの言葉にレーダーを確認すると、まだ機影が残っている。10機のSu-27が、こちらを目指して飛んでくる。
《ユージアの奴、まだ戦力を隠してたのか!?》何処で戦っていたのか、PJが叫ぶ。
《各機、残弾を確認!》無線に叫ぶも、《こちらオメガ。ミサイル無し、ライフル弾15発、あとは拳銃だけ》
《ゼブです。ミサイルとライフル弾無し、ピストルも残り1マガジンです》《…ミサイル2、銃は壊した》と、ボーンアロー隊の面々はほとんど丸腰だ。
かくいう私も、ミサイルはMSSL1発のみ、Mk.48の弾薬は残り30発ほど、拳銃はそもそも持ってきていない。
《こちらリッジバックス1、全機合わせてミサイル2、ライフル弾残り約2マガジン》
《こちらクロウ3。1、2、4がダウン、ミサイルは無くてバルカンが50発くらいしか残ってないっす》
《こちらウィザード1、我が隊も2、3、4がやられた。私も弾薬は残っていない。燃料は残り15分》
……全員合わせてもミサイルは5発、そもそもほぼ完全に非武装の者さえいる。
敵の主武装、R-27の射程に入るまで後数十秒。…ベイルアウトして、なんとか逃げるしかないか?
私が覚悟を決めた、その瞬間だった。
《ん…?新たな機影を確認。…IFFを受信!リベリオン軍だ!機数2、急速に接近中!》
《いまさら2機来ても、どうにもならないわよ…》オメガが、諦めたように呟く。
そのとき、《フォックス3》《フォックス3!!》2人の男女からのミサイル発射コール。
計4発のミサイルが、Su-27に向かって飛ぶ。チャフとフレアを撒いて回避をはかる敵機群。
しかし、その回避した先に再びミサイルが撃たれ、あっという間に4機が火を噴いて墜ちていく。
《…間に合ったようね》聞き慣れない声、彼女らが援軍か。
私達の横をかすめ飛ぶ2つの影。ウィッチと戦闘機の混成だ。機種はF-22A。
そして、そのインテイク脇のエンブレムに、私の目は奪われた。
月と星をバックに、空に向かって吠え猛る狼。
軍事に多少興味のある者なら、誰だって知っている部隊章だ。
約3年前、復讐に取り憑かれたオラーシャ人が巻き起こした戦乱から、リベリオンを救った英雄。
リベリオン空軍第108タスクフォース、“ウォーウルフ隊”。
私達の救世主は、史上最強のエース達だった。
「ウォーウルフ…!」
《ええっ!?ウォーウルフってまさか…》全員の驚きを、オメガが代弁していた。
《あー、あー。国連軍機へ。聞こえる?敵機は私達が引き受けるから、その隙に撤退を》
そう私達に言ったウォーウルフ1は、生き残ったSu-27へ猛然と突っ込む。まず1機をAAMで撃墜し、さらに反転して2機を同時にライフルで撃墜する。
そのあとに続くウォーウルフ2は、ヘッドオンを仕掛けてきたSu-27をバルカンで撃墜し、交戦空域外へ離脱しようとする2機に、AMRAAMを発射してとどめを刺した。
わずか30秒ほどで10機すべての敵機を撃墜した二人は、私達の横へ並んだ。
《大丈夫かしら?死神さん》ウォーウルフ1…ビショップ大佐が親しげに声をかけてくる。
《…はい、大丈夫です》あまりの早業に心を奪われていた私は、そう返すのが精一杯だった。
《…ところで、あのシリアルキラー女は?》真面目な声で尋ねられるが、それが何のことを指しているかよくわからない。
《…ほら、あのバタフライ・マスターとか言う奴よ!》と焦れたように言われ、ようやく合点がいった。
《一応墜とすには墜としましたが…》彼女に蝶使いの正体を大まかに伝えると、一つため息をつき、《なるほど。本体を潰さなきゃ、か……》と返される。
《ま、いいわ。貴女方国連軍が無事なら、それでいいわ。じゃあね、死神さん。ウォーウルフ1、RTB》と言い残し、彼女らウォーウルフ隊は機体を翻し、去っていった。おそらく、ネリスへ向かうのだろう。
《ボーンアロー1、RTB》私もすべての敵機の撃墜を確認し、サンディエゴへと方位を取る。
《本体か…。いったいどこにいるんでしょうね…》エッジが、ぼそりと呟いた。
◎キャラ解説コーナー
・PJ:某空飛ぶ一級死亡フラグ建築士。
・ウィザード隊:某国防空軍第8航空団第32戦闘飛行隊。クーデター組織を結成したりはしない。
・ウォーウルフ1
本名:ウィロメナ・ビショップ
使用機種:F-22A
出身:リベリオン
使い魔: アメリカアカオオカミ
固有魔法:三次元空間把握
使用銃器:HK416,M11
原作通りの沈着冷静なウィッチ。現階級は大佐。
◎今話のハイライト(試読した友人談)
・ACZeroのパイロットら登場。
・まさかのウォーウルフ隊参上。
・オレオ