INFINITY WITCHES ~無限大の魔女~ 作:AGM-123
投稿を再開いたします。
一気に完結までもっていきます。
円卓での激戦が終わってからおおよそ2時間後、私達がいたのはノースアイランド海軍航空基地のブリーフィングルーム……ではなく、サンディエゴで最も人気が高い観光地の一つ、ミッションビーチだった。予定通りに休暇がもらえ、移動中に立てた計画が実行できたのだ。
「海だー!」と大はしゃぎしているのはオメガだ。去年の5月から海に行きたいと騒いでいたので、喜びもひとしおだろう。そしてオメガの後を、浮き輪片手について行くゼブ。
扶桑の5月なら、海水浴にはまだ早い。
しかしここサンディエゴの今の気温は23度。ちょうどいい気温だ。
オメガとゼブは既に海に飛び込み、ブロンコはビーチチェアで横になっている。
離れたところでは、海パン姿のPJがウィザード1と缶ビールを開けている。
私はコーラ片手にビーチパラソルの下に座り込み、彼女らを眺める。
こんな平和な時間は久しぶりだった。
硝煙やケロシン、エーテルの燃える匂いも、悲鳴混じりの無線もエンジンの爆音もない、穏やかなひと時だった。
去年の5月半ばだったはずだ。派遣先の南国で休暇を取り、海水浴に行こうと思ったのは。
結局去年はユージア独立戦争騒ぎで一回も休暇を取れず、フソウでは飛び立てば海が見える位置にある基地に居ながらも一回も泳げなかった。
1年越しに叶った希望。しかも、一大観光地のミッションビーチだ。
……しかし思い返せば、人生で一二を争うほどに濃い1年だった気がする。サンディエゴの日差しを浴びながら回想にふける。
オストマンではまだルーキーだったリーパーに引っ張られる形でストーンヘンジの喉元に切りかかり、フソウでは化け物じみた空中要塞に喧嘩を売り、オラーシャではスターウォーズの真似事をした挙げ句ICBMと追っかけっこだ。
そして去年の6月にはストーンヘンジの砲撃に巻き込まれ、ベイルアウト回数を更新する羽目になった。確かあれで、11回目の緊急脱出だったはずだ。
お気に入りのEF-2000を買ったおかげで貯金はすっからかん。ローンを背負った空賊なんて絵にもならない。ストーンヘンジ攻略、トーキョー開放戦、ICBM迎撃、そして今日の円卓戦とかなりの戦果は挙げたが、まだまだ貯金は心もとない。本当はショッピングで爆買いでもするかと思ったが、それはしないほうがいいだろう。
……まあ、財布の中身を検討するのはまたいつかでいい。
今日は、ただただ休暇を楽しむことに専念しよう。
基地の近くに、そのカフェがあったのは僥倖だった。
私の大好物、オストマン北西部のルブナーン地域の料理を出す店はそう多くない。だから、私の目当ては何よりも先にここになった。オープンテラスのテーブルの上に、注文した料理が並ぶ。ケバブに、ピタパン。ヒヨコマメのコロッケにデザートのバクラヴァ。
料理を口に運びながら、途中で買い求めた新聞を広げてみる。
『エストビア連邦、全地域が陥落。ブリタニアに亡命政府設立を宣言』
『コレチア最後の都市、西グレスティン陥落。ユージア連邦、コレチアを完全占領か』
『ユージア連邦、アルストツカとの国境で国連軍と膠着状態に』
…第一面には、物騒な文字ばかり躍る。
経済面を広げてみる。
『オリビエリ・ライフ・インシュアランス社の株価高騰。要因は個人向け戦災保険』
『核シェルター関連企業の株価暴騰。“戦争特需”と関係者談』
こちらも戦争の話題で持ち切りだ。ざっと、株価が上がっている企業を見てみる。
次に、気まぐれで買った航空系雑誌を開いてみる。こちらもちらほら戦争の匂いの濃い記事があるが、大半は平穏な内容のものだ。
『シャーロット・エルウィン・イェーガー少将、F-15Dで音速飛行を再現』
『2019年リノ・エアレース優勝機“ファイアーバードMAⅢ”サンディエゴで展示飛行』
『TFJ-01最終生産機、エアイクシオンへ納入』
エアショーや旅客機など、航空関係のニュースが満載されたページをめくり、次のページに掲載された記事を見て私は思わず噴き出してしまった。
それは、ユージア戦争特集の記事の、ある一枚の写真だった。
『東京上空を哨戒中の国連軍ウィッチ(撮影者:アルベール・ジュネット)』
その写真のウィッチは、白を基調として青と黒のストライプカラーが特徴的なストライカーを用いている。
そう、他ならぬ我らが隊長、“リボン付きの死神”リーパーだった。
読み終えた雑誌を新聞もろともバッグに仕舞った私は、ウェイターを呼んで追加の注文をする。
機体を壊すこともなく、地道に貯め続けた給料はかなりの額になっている。
グルメに、流行のブランド物。…頭のネジが外れたかのような散財も、悪くないかもしれない。
ビーチでのバカンスの後は個々に分かれての自由行動だ。オメガはそのまま泳ぎ続け、ゼブはテーマパークへ、ブロンコはショッピングモールへ、私は博物館へと。
グッドフェローからは外出許可証と合わせて、外泊許可証も受け取っている。既にオメガらは近くのホテルの予約を取っているらしく、今日は基地に帰らないと私に伝言を頼んだ。
私は別に外泊する気は無く、オメガらと分かれた後は基地へ帰って伝言を伝え、その日は久しぶりにのんびりと休んだ。翌日からは博物館巡りだ。
初日にはミッドウェイ博物館でE-2CやF-14を見学した。扶桑語のガイドレコーダーを借り、その日一日はずっと空母の中で過ごしていた。昼食も、艦内のレストランで摂ることが出来た。
その翌日にはサンディエゴ航空宇宙博物館を訪れ、第二次ネウロイ大戦時のトップエース、第501統合戦闘航空団のエーリカ・ハルトマン中尉のBf-109ストライカーユニットやウルトラマリン・スピットファイアを見学し、ついでに土産物をいくらか買ったところで、グッドフェローから連絡があった。
どうやらデブリーフィングがあるらしい。別行動を取っているオメガ達にその旨をメールし、私は基地へ向かった。
ブリーフィングルームに集まった私達、つまりボーンアロー隊とリッジバックス隊、それにPJとウィザード1を一瞥し、グッドフェローは「休暇は楽しめたようね」と切り出した。
見ればオメガはやや日焼けし、ゼブはテーマパークのキャラの縫いぐるみを抱き、ロゴ入りのキャップをかぶっている。ブロンコはショッピングの最中だったらしく、衣類の入ったいくつかの紙袋を机の上に置いている。
リッジバックス隊には水着姿のまま着替えずにデブリーフィングに来た者もいた。エッジも出かけていたのかラフな私服姿だ。
PJらに至っては、昼間から飲んでいたのか顔が赤らんでいる。
一つ咳払いをしてグッドフェローは切り出した。「捕虜の尋問により、蝶使いの正体についていくらか判明したわ」途端に全員に緊張が走る。
「あのストライカーには、やっぱり生きた人間なんて乗ってなかったわ。リベリオンが散乱した破片をかき集めたけど、その中に人間の遺体やその一部らしき物はなかったそうよ」
…やはり、か。私達がしのぎを削ってきた相手はただの機械だったのだ。
「そのストライカーだけど、捕虜を尋問して漸く詳細が判明したわ。機体名は“QFA-44カーミラ”。これはCFA-44の無人化改造機で、どういう仕掛けになってるかは未だ不明だけど同じ無人機のクオックスより空中戦能力が高いわ。操縦用のデータ通信は低軌道の通信衛星網が利用されていることが確認されているんだけど…」
それを聞いたPJが声を上げる。「じゃあその人工衛星を墜とせば蝶使いは現れないんすか?」
その言葉にグッドフェローは頷き、「確かに、PJのいう通りよ。その衛星を叩けば終わる話なんだけど……国連が取り決めた“宇宙条約”があるから手が出せないの。国連は条例改定に急ぐとは思うけど、一部の加盟国内、特に南米諸国の反対が強いらしくて、すぐにとはいかないでしょうね」と続けた。
「…お偉いさん達は自分達で作ったルールに縛られ、自らの首を絞めているということか」ウィザード1が呟き、室内は重苦しい沈黙に包まれた。
しかし、良いニュースもあった。撃墜された6機のうち、クロウ隊の1番機と2番機、ウィザード隊の4番機がベイルアウトに成功していて、救助されたらしい。
デブリーフィングが終わるやいなや、PJらは救助されたウィングマンの元に飛んでいった。私達が自室へ向かおうとすると、何故か私だけが呼び止められた。
グッドフェローがいうには、F-15S/MTDについてのことで話があるらしく、ハンガーに向かって欲しいとのことだ。前回、アヴァロンで壊してから2ヶ月半あまり。漸く修理が終わったということだ。
ブリーフィングルームのある建物から出て、ハンガーへ向かう。彼女から教えられたハンガーの前には、見慣れない航空機が駐機していた。
鉛筆のように細く尖った機体に、剃刀のように薄く鋭い台形主翼。尾翼は今時の航空機には採用されにくいT字型だ。機体全体は何の塗装も施されていない銀一色。いかなる現用機とも似ていないその小型機は、「究極の有人戦闘機」とも称された第2世代ジェット戦闘機、F-104Cスターファイターだった。
1970年代半ばに退役したこの旧型の、しかも戦闘機がなぜここにあるのか?それはわからなかった。
スターファイターの駐機しているハンガーの中には、私のストライカーを固定した拘束装置と、それを取り囲んだ幾人かの男女がいた。内2人はアローズがPMCだった時代からいる整備班長とその部下の主任だ。他に居るのは作業着姿の口髭を生やした老年の扶桑人と若いリベリオン人女性の2人だ。
整備班長が振り向き、「おお、来たか」と私を手招きする。「ストライカーが直ったと聞いたんですが」と切り出すと、「ああ、やっと直ったぜ。全く、あそこまで無理に無理を言わせてぶん回してくれたんじゃ、俺達だけじゃ手に負えなくてな。手を尽くして機材と人を集めてやっとだ」と言われた。
「なるほど、あんたか。この機体をここまでぶっ壊した大馬鹿野郎は」荒っぽい口調で親しげに話しかけてきたのはそこにいた唯一の女性だ。「あたしはエイブリル。こいつの整備を手伝わせて貰った。ああ、そこの3人にも感謝しな。サカキのじいさんとシバが大まかなとこはやってくれたし、そこのイマイっていう元扶桑軍のエンジニアがいなきゃ手が足りなかった」
お調子者の整備班主任、シゲさんが笑いながらピースサインをしてくる。
「嬢ちゃん、イーグルはデリケートなんだ。もっと丁寧に扱ってくれ。……まあ、荒っぽく使っちゃあるが雑には使って無いみたいだけどな」最後に話しかけてきたのは扶桑人の男性。エイブリルの話だと扶桑国防空軍に所属していた整備兵ということだが、恐らくはアローズの班長が伝手で呼んだのだろう。
「まあ、あんたの機体にはちょっとした“魔法”をかけてやった。多少は無理をしても問題ないだろう。だが、次は壊さないでくれよ」そうエイブリルが締めくくった。
早速ストライカーを履いて、エンジンを回してみる。…驚いたことに、回転がかなり滑らかになっていた。入手したときよりも滑らかに回っている気がする。そのまま整備班長の誘導に従って滑走路に出て、さらに推力を上げる。フラップを下ろし、スラストノズルとカナードを動かして一気に上昇する。ラダーやエレベーター、エルロン、カナードの動きも良い。操縦系統の遊びも完璧な感触だ。
今まで使ったどのストライカーよりも上々の乗り心地だ。よくあんなに損傷した機体からここまで良い状態に出来たなと心の底から思う。
上下左右の旋回や加減速、一通りのマニューバを取ってみる。他の動翼も滑らかで、間違いなく今までで最高の状態に仕上がっていた。
エイブリルは「魔法をかけた」と言っていたが、まさしくその言葉通りだ。
試験飛行を終え、格納庫に帰った私を出迎えたエイブリルは、「どうだい、乗りごごちは?」と笑いながら聞いてきた。「…最高です。一体どうすればあそこまで飛ばしやすくなるんですか」と返すと、彼女は「故障したパーツは全部新しいのに変えた。エンジンはコンプレッサとノズルを強化して、エアブレーキは高性能化、各部のモーターやアクチュエータは新型のを搭載してある。ついでにハードポイントも改良しておいてやった」と答えた。
まるでヴァイパーが使っていたフィッシュベットのように、改造のオンパレードだ。
「感謝します」と私が述べると、「ならいいさ。次は壊さないように乗ってくれ。……あばよ、大馬鹿野郎」とだけ言い、彼女はハンガーを出て行った。
“次”か。恐らく次の作戦は拠点奪還や敵機迎撃ではなく、反攻作戦、つまり強襲や上陸・侵攻作戦だろう。
そういえば、この基地に離着陸している航空機の数も増えてきている。
それも、弾薬や機体パーツを満載しているらしい
ユージアとの正面衝突が、間近に迫ってきているのを私は感じた。
◎キャラ解説コーナー
・エイブリル:某スクラップクィーン。
・イマイ:某百里の新選組の整備担当。
◎お詫び
長らく投稿を停止していて申し訳ありませんでした。
最終話まで書き終わったので、数日中に完結させます。