INFINITY WITCHES ~無限大の魔女~   作:AGM-123

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Misson08 バンカーショット作戦決行 ~反撃開始(前編)~

 

 

 

 

 

 

「すべての準備は整ったわ」ユージアの地図が表示されたスクリーンの前で、グッドフェローが重々しく切り出す。そして、地図が拡大され、ロマーニャとヴェネツィア公国の辺りが詳しく表示される。

 

「いよいよユージアに占領された土地へ向けて侵攻し、欧州東部解放作戦を展開します!」

ウィッチもパイロットも、全員がなにも喋らず聞いている。

 

「作戦名は──“バンカーショット”。エリアV9D、アドリア海を抜けてヴェネツィア領を目指す作戦よ」室内に響くのは、グッドフェローの言葉とメモ用紙にペンを走らせる音だけだ。

 

「上陸部隊はエラフィティ諸島のルーダ島を迂回し、エコー隊とウィスキー隊の二手に分かれて上陸します。上陸地点は内陸へ向かう道が狭いから、守備するユージア側に有利な地形で、敵の激しい抵抗が予想されるわ。各航空機はビーチの敵を掃討し、上陸部隊の被害を最小限に留めなさい。……この作戦が成功すればユージア戦争終結の突破口となるわ。奴らの喉もとに切り込むわよ!」

 

ブリーフィングが終わった途端、全員がドヤドヤと部屋の外に飛び出していく。「腕が鳴るぜ」「血が騒ぐ」と、血気盛んなパイロット達。

 

これは、この戦争の終結を左右する大作戦だ。

 

全てを万端にして向かわなければならないだろう。

 

 

武器弾薬を点検するためにハンガーへ向かうと、そこは怒号と罵声、命令を伝える怒鳴り声で満ちていた。

 

「誘導爆弾とIRパッシブだけでいい!BVRはいらん!」

「違う違う!30mmは30mmでも俺のは30×113mmB!30×165mmじゃねえ!」

「リベリオンとオラーシャじゃ規格が違うんだ!ミサイルは分けて置いとけ!」

「25mm弾はねえのか!?機関砲無しじゃ戦えんぞ!」

「時間がねえぞ!編隊長機や新型機から整備してけ!旧型は後回しだ!」

「班長、予備のエンジン(F110)が到着しました!」

「ようし、すぐ第3班にかからせろ!手が空いた奴からそっちにまわす!」

「なんでこのMiGは西側のパーツを使ってんだよ!?どういった運用してたんだ!?」

「40mm砲だと!?なんてデカブツ積んでんだ、スツーカかこいつは!?」

「これはインチねじだ馬鹿!スホーイはミリねじなんだよ!」

「クソッ!だからヤードポンド法は嫌いなんだ!」

「口動かす前に手動かせ!あと何機いると思ってんだ!」

 

 

規格がバラバラの機体に、パイロットたちがそれぞれ好みの兵装を積むよう要求しているため、大混乱が起こっていた。

当然だろう。様々な国や部隊から兵士が押し寄せたため、ヨーロッパ諸国やリベリオンの最新鋭機からオラーシャの世代遅れの機体まで、ハンガー周りは軍用機の博覧会のような有様だ。整備員もアローブレイズの人員からもともと基地にいたロマーニャ人メカニック達、戦闘機パイロットと共に脱出に成功した各国の整備員などが入り乱れ、まともに意思疎通が取れているのが奇跡と思えるほどだった。

 

幸いにもウィッチ隊は合計8名と人数が少なく、大きな混乱は発生していなかった。

しかしそれでも携行式多目的ミサイルや高誘導AAMのような重装備は希少らしく、ボーンアロー隊までは回ってこなかった。

 

人類史上最大の上陸作戦は、早くも暗礁に乗り上げ始めているような気がした。

 

 

 

 

 

翌日、午前6時ちょうど。

ハンガーやエプロンでは、アローブレイズ所属機の他に、この攻撃に参加する様々な国の戦闘機や攻撃機がエンジンを作動させ始めていた。

 

 

ロマーニャから派遣されたEF-2000の部隊に、ブリタニア義勇兵のF-35B飛行隊。

オストマルクからこの基地まで、決死の脱出行を繰り広げた何機かの古ぼけたMiG。

お馴染み国連軍のF/A-18FにF-16E、リベリオンからはるばる飛んできたF-15E。

さらにはすでにユージアの占領下にある国の残存兵達。

 

新旧東西入り混じった機体に、パイロットが乗り込んでいく。

 

彼らは、私たちの後に離陸するようだ。

 

 

 

格納庫で、準備の整ったF-15S/MTDのエンジンを始動させる。

 

JFS(ジェット燃料始動装置)を作動させ、INS(慣性航法装置)を自立操作。

右エンジンをスタートさせ、回転数、EGT(排気温度計)オイルプレッシャー(油圧警告灯)を点検。問題なし。

エンジン回転数が18%に到達、スロットルをIDLEにまで進める。

全て問題なし。

機体が引きずられないように、エンジン回転数は70%を維持。

左エンジンも伝達開始。全て問題無し。

 

後ろではブロンコが同じようにエンジン始動を行っている。だが、「…アンチアイス、オフ」「フラップ…15、15、グリーンライト」「……第4エンジンに愛着はない…」などと、明らかに関係ないセリフが紛れ込んでいる。…彼女の大好きなドキュメンタリーのセリフだったはずだ。

 

「ブロンコ、それ不吉だから今は言わないで」と軽く注意すると、「…もう助からないゾ」と一言だけつぶやき、今度は真面目に始動作業を始めた。

 

私達ボーンアロー隊が、滑走路へ進入する。このロマーニャの基地から、上陸予定地点まではおおよそ2時間半。離陸、移動、上空待機で、ちょうど良い時間だろう。

 

 

 

《……話せるのか?》無線に誰かが割り込んでくる。この声は──“スクラップ・クィーン”ことエイブリルの声だ。

《…おい、聞こえるか。そいつは最高の状態に仕上げてある。HMDもピカピカに磨いといたぞ。空がよく見える。…行ってこい、大馬鹿野郎》

 

《貸してくれ、スクラップ・クィーン。リーパー、一緒に行きたかったぜ!》これはクロウ2の声だ。

《不調機や負傷者では足手まといになる。だが…私も同じ気持ちだ》今度はウィザード4だ。

 

ベイルアウトの傷が癒えてなかったり、代替機がどうしても入手できなかった彼らは、今回出撃しない。

しかし、彼らもこの大規模作戦に参加し、ユージアに一杯食わせたかったのだろう。

 

私はそんな彼らがいる管制塔に、敬礼を返す。

 

向こうも、返礼を返したのが僅かに見えた。

 

《こちらボーンアロー1、離陸準備完了。離陸許可を求めます》

 

《ボーンアロー1、離陸を許可します。御武運を》

 

 

 

管制塔との交信を終え、スロットルをMAXに叩き込む。2機のF100-PW-200ターボファンエンジンが確かな唸りを響かせ、片側12万馬力の推力が私の身体を加速させる。

 

 

《あれが例の彼女か》

《そうだ、今飛び立ったのが彼女だ》

無線に混じるのは、離陸の順番待ちをしているパイロットらの声か。

 

…いったいこの中の何人が、生きて滑走路に帰ってこれるのか。

不吉な予感が、胸の中で一瞬渦巻いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

エリアV9D エラフィティ諸島ルーダ島上空 2020年 9月19日 09時00分

 

《グッドフェローから全航空部隊へ。左右に展開する上陸部隊を守りきりなさい。この作戦の成否は貴女達の腕にかかっているわ》

あいにくの雨模様の中、20隻以上の揚陸艇が眼下に広がる。

 

 

 

《こちらエストビア空軍第17飛行隊サラマンダー。ボーンアロー隊、会えて嬉しいよ》

8機の迷彩柄のMiG-23がダイヤモンド編隊を組み、横に並ぶ。コクピットの中からパイロットが手を振ってくる。エストビア本国は完全に陥落したらしいが、何とか国外に逃げ延びる事が出来た飛行隊らしい。

 

《我々はアルストツカ人民空軍、第54飛行隊リジルだ。対地援護は任せて貰おう》

今度は10機のSu-22が後方に付き、主翼を振って合図してくる。

 

《こっちはコレチア空軍第26飛行隊スコール・スコードロンだ。よろしくな!まさかアルストツカと共闘する日が来るとは思わなかったよ》

アルストツカの仮想敵国、コレチアの飛行隊がリジル隊の横に並ぶ。陥落の影響でズタズタになった空軍を有り合わせの機体で無理やり再編したせいか、6機編隊の中に同じ機体は1機も無い。JA37ビゲンにシーハリアー、F-16A 、F-111FにF-CK-1、果ては正体不明の双発デルタ翼機と生産国から年代まで多種多彩だ。

 

 

 

《見てよ隊長。あのF-16、ノーズコーンが黒い…。最初期型だよ、あれ。BVR積めないはずけど大丈夫なのかな?》

 

《………それよりもあのデルタ翼機、あれは試作のミラージュ4000。1機しか生産されなかったのにどこから持ってきたの?》

 

《そんな変な機体ばっかで本当に大丈夫なのかねぇ、この作戦は?》

 

オメガとブロンコが作戦参加機の異様さを口にする。

私もまさか、AIM-9しか積めないような旧型機や試作戦闘機を投入するなんて思ってもみなかった。

 

《…心配するな。機体も中身もロートルだが腕だけは本物だ。必ず作戦を成功させてやる!》

 

二人の愚痴が聞こえたのかスコール1から無線が入る。

 

聞こえた声は渋く、歴戦の兵を想像させるようだった。

 

 

 

 

《こちらW(ウィスキー)隊コリンズ!我々は前方のルーダ島を西に迂回して海岸線へ接近する!海峡通過時は左右両岸からの集中砲火に晒される危険がある!航空支援、よろしく頼むぞ!》

おなじみのコリンズ軍曹の要請に、私はAAガンをミサイルで破壊することで答える。対空用の20mmガトリング砲でも、装甲のないエアクッション艇には大きな脅威だ。

 

《ボーンアロー隊、こちらE(エコー)隊のベルツ》今度は、島の反対側を回るエコー隊からの無線だ。こちらの部隊長はどうやら女性らしい。……しかし、ベルツとは。あのベルツ中尉の親戚だろうか?いいや、そんな偶然があるはずないだろう。

 

《我々は敵艦船により海峡封鎖されたルーダ島東を突破する。だが、敵艦の前ではSSC(エアクッション型揚陸艇)など花びらのボートで浮かぶお姫さま同然だ。敵艦の排除を頼んだ!》

 

自らを“お姫様”と例えた彼女に、《准尉はお姫さまって柄じゃないがな》とコリンズ軍曹が茶々を入れる。

《コリンズ軍曹、上陸地点で会おう。先ほどの言葉は覚えておく》やけに優しげなベルツの言葉に、《了解であります、准尉殿!》とコリンズが返す。そんな2人のやりとりを尻目に、対地ミサイルを積んだMiG-29の2機編隊を墜とす。

《あれ?今の准尉さんベルツって言ってなかった?女の人の声だったけど……》ホーカムを相手取っていたオメガが、首をかしげる。

 

 

《こちらスカイ・アイ。友軍による艦砲射撃を確認。これより“バンカーショット作戦”を開始する!》気合いの入った声で、スカイ・アイが戦闘開始を宣言する。

 

 

《…実は今日は私の誕生日なんだ。プレゼントには上陸記念日をお願いしたい》スカイ・アイが珍しく私的な台詞を口にする。それほど彼女もこの作戦に気を向けていると言うことか。

《それはリーパーに頼んで。私じゃ無理だから》とオメガが私に振ってくる。

 

《…了解!この辺り一帯にリボン掛けて丸ごとプレゼントして差し上げますよ!》と返すと、《それは頼もしいな、頼んだぞ“死神”!》と声援が帰ってくる。

 

その間にも、私は機銃を装備した監視塔と、対空ミサイルのレーダー車を破壊した。

 

 

《リッジバックス隊ブレイク!ウェポンズフリー!》低空で防空兵器を相手する私達に対して、航空ではリッジバックスが迎撃機のSu-27と交戦を開始していた。

 

《東ルートのE隊だ!敵艦隊と目視戦闘距離に突入、航空支援を要請する!》まずはベルツ准尉の隊からの支援要請だ。

 

海峡にひしめくコルベットや巡洋艦を目視できる位置に居た私は、LAGMで巡洋艦の1隻を、MSSLとMk.48でもう1隻を撃沈する。リベリオン製のタイコンデロガ級によく似た巡洋艦があっという間に横倒しになり、あるいは竜骨の辺りからへし折れて水面に消えていくのを尻目に、高速で友軍に接近するコルベットとミサイル艇をMSSLで沈める。

 

《敵艦隊の半数撃沈!エコー隊は順調に前進中》《支援感謝する!行くぞ!怯むな!》4隻の戦闘艦を沈めたのに、まだ敵の海上戦力は健在だ。中型のコルベットだけでもまだ5隻ほどいる。ミサイル艇や武装哨戒艇も何隻か見える。…船舶でさえもAAアヴィエーション・プラントで量産できるのかと考えつつ、3隻のコルベットにLAGMを1発ずつ撃ち込み、撃沈する。

 

《エコー隊、敵艦隊はクリアされた。通過せよ》ようやくコルベット以上の艦の大半を撃沈し、一息付ける。《ボーンアロー隊の支援に感謝する。敵艦隊は海の藻屑になったようだな》

残骸が漂流し、漏れ出た燃料で海面が燃えている中を10隻以上のエアクッション艇が突き進む。

 

《まもなくウィスキー隊が海峡部へ侵入する。支援可能な機は両岸の敵陣地を叩け》ベルツらの上を通過した私は、ついでとばかりに単機で飛行するMiG-29にMSSLを撃ち、標的を沿岸に展開する戦車や沿岸砲に切り替える。アーウェン37でまとめて数両を吹き飛ばし、生き残った沿岸砲にはMSSLを追加で叩き込む。

 

 

《上空の空賊部隊!こちらは何とかする!西のウィスキー隊の支援を!》ベルツらのSSCの艇上からも、散発的ながら火線が伸びている。恐らく携帯型ミサイルや無反動砲を撃っているのだろう。その火線の一つ、重機関銃クラスの火器からの射撃が、低空を飛ぶホーカムの装甲を撃ち抜き、撃ち落とす。

 

しかし、重機関銃にしては威力が大きい。まるで30mmクラスの対空機関砲だ。艇上を注視すると、誰かがガトリング砲のようなものを抱えて(・・・)射撃していた。

ちらりと見えたそれは、3銃身12.7mm口径のガトリング式重機関銃、GAU-19だった。

勿論、生身の人間にはそんなものは携帯不可能だ。そんなものを手持ちで撃てるのは──ウィッチだけだ。

 

 

《大丈夫だ!上空の死神、兄からそちらのことを聞いている》

……“兄”。そうか、ベルツ准尉は中尉の妹か。偶然、同姓の人物がいたのではなかったのだ。

 

《死神に取り憑かれたら、もう怖いものはなにも無いとな!》そう喋りつつも、ベルツは敵を撃っているようだ。射撃音からして、恐らく重機関銃…。そこまで考えて、私ははっとした。

《ベルツ准尉!貴女は──ウィッチですか!?》その問いに、彼女は笑い声とともに答えた。《そうとも。私はウィッチだ。だから、多少のことは問題ない。それよりも、コリンズ達をなんとかしてくれ》私は彼女を信じ、その揚陸艇から離れた。

 

 

《沿岸より砲撃!》《うわぁっ! ウィスキー315被弾!》両岸からの射撃に晒されていたウィスキー隊に、ついに敵弾が命中した。第2射を放とうとする沿岸砲と、執拗に射撃を繰り返すT-90をLAGMで屠る。さらに上空のMiG-29を撃墜し、別の沿岸砲も破壊する。

《砲撃が止んだ!損害軽微!感謝する!》

どうやら被弾したのは1隻だけのようであるが、まだ安心できない。沿岸には一定の距離を置いて、固定式の沿岸砲1門と戦車と装甲車を数両ずつ、それに対空機関砲をまとめて配備した小規模陣地がいくつもある。

 

《こちらスカイ・アイ。敵勢力の一定数排除を確認。さらに任務を続行せよ》その言葉を聞き流しつつ、小基地の1つにLAGMを撃ち込む。これで揚陸艇を狙える位置にある地上部隊はほぼ無い。

アフターバーナーを焚いて高度を一気に上げ、MiG-29とドッグファイトに持ち込む。

ミサイルを節約し、3機をMk.48の掃射で墜とす。

 

 

《攻撃機も来たよ!迎撃だ!》低空を這うように接近するのは、翼下に大量のロケット弾ポッドとクラスター爆弾を抱えたA-10Aだ。対空戦闘においてはカモ同然であるが、地上部隊からすれば恐怖そのものにしか思えないだろう。

 

《先に頂く!リッジバックス1から各機、迎え撃て!》

A-10隊を護衛するようにMiG-29も集まってくる。私は1番の脅威となるA-10にMSSLを撃つ。

 

「…ッ!堅い!」しかし、さすがは史上最強のタンクバスター。

MSSL1発を当てたくらいでは撃墜できなかった。

陸戦型ネウロイ519体を撃破した伝説の対地攻撃ウィッチ、ハンナ・ウルリーケ・ルーデル大佐が設計に関わっただけのことがある。その頑丈さが、今では煩わしい。

 

だが、せいぜい時速500km程度の攻撃機なんて、いくら堅くても問題ない。1機につき2発か3発、撃ち込めばいいだけだ。リッジバックスにMiGは任せ、ボーンアロー隊はA-10迎撃に専念する。

 

対空特化の装備のオメガが先行し、ここぞとばかりにHCAAを撒き散らす。さらにブロンコが上方からXM556で掃射し、ダメージを負ったA-10にとどめを刺していく。

結局、A-10は1機たりとも地上部隊に到達することはなく、全機が撃墜された。

 

 

 

《上陸部隊、海岸まで2分》あと少しだ。あと少しで彼らは陸地にたどり着ける。

 

一気に急降下し、海沿いの道路を走る戦車や装甲車に37mm弾を撃つ。ロックオンアラートが響き、反射的に旋回すると2機のMiG-29がミサイルを撃ってくる。チャフとフレアをぶちまけ、お返しとばかりにMSSLを2発ずつ撃ち、撃墜。

 

《まもなく上陸部隊が海岸に到達》《行くぞ! 総員上陸準備急げ》それに答えるように、私はさらに上空のMiG-29を撃墜し、木々の間に隠れた戦車や装甲車を破壊する。

押し寄せる味方に呼応するかのように、敵機がじわじわと大陸の内陸側へ移動しているようだ。中にはこちらに背を向けて遁走する機体もいる。

 

…何かが妙だ。今まで戦ってきた相手はこんな戦意が低い相手ではなかった。

しかも、潰走しているのではなく、なにか秩序だった撤退行動をとっているような気がする。

 

《敵機が撤退を開始した!戦意は低いぞ、ここで叩け!》興奮気味にスカイ・アイが指示を出す。そうだ、考えるのは後で良い。余分な思考を捨て、敵の撃滅に専念しよう。

 

《エコー隊、陸に取り付いた。反撃は軽微だ!展開急げ!…確かに、死神は我らの守り神だな!》

《こちらウィスキー隊!出遅れたが上陸完了だ!死神に感謝だ!》

 

《死神、死神……。不気味なマークがマスコットになってるわね》エッジがこちらを見ながら呟く。別に私のせいじゃない、といいたいところだがここは空気を読んで黙っておく。

 

《よし、両部隊の上陸と展開を確認した。“バンカーショット作戦”第一段階は成功だ!続いて敵残存勢力の掃討に移れ》

 

 

 

スカイ・アイがそこまで言ったときだった。

 

 

 

 

 

 

辺り一帯に、異様な音が響いた。

 

 

何かが掠めるような、爆ぜつつ落ちてくるような…。本能的な恐怖を抱かせる音が。

 

 

 

 

《……何だ!?》スカイ・アイが珍しく、怯えたような声で呟く。

 

《ちょっと…何よ、この音!》オメガが、恐怖を掻き消すように怒鳴る。

 

《上……上よ!》エッジが叫ぶも、その異音はあまりにも大きく、既にその声は誰の耳にも入らなかった。

 

《えっ!?なんだって!?》

 

《上から……そんな!?》

 

 

思わず上を見上げた私は、見た。

 

 

 

 

いくつもの火の玉が降ってくる。空を裂きつつ、赤熱した火の玉が。

 

 

いや、ただの火の玉じゃない。圧倒的質量を持つ、超高温の何か。

 

 

その巨大な何かが、揚陸艇ひしめく海岸に落着し、巨大な水柱が上がる。

 

 

《何々何々!?なにが起こってるの!?誰か情報を頂戴!!》

 

《第2次上陸部隊、壊滅!》震える声で、スカイ・アイが知らせる。それが落着した海面にいたはずの揚陸艇達は、まるで元からいなかったかのようにその姿を消していた。

 

《なにが起こった!?損害状況を確認しろ!》コリンズがわめき、

《応答しなさい!アローブレイズ各隊、報告を!》グッドフェローが通信に割り込むも、誰も、何も答えられなかった。

 

 

 

 

 

 

 




今話はネタを大量に入れました。
完結まであと2話、明日中には投稿いたします。

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