INFINITY WITCHES ~無限大の魔女~ 作:AGM-123
《報告を…!各部隊、報告を!》永遠とも思える数秒が過ぎ、ようやくグッドフェローの言葉が耳に入ってくる。
近くをブロンコとゼブが飛んでいたが、何も答えない。
「c’est pas vrai… Mais qu’est-ce qui se passe…」
2人とも呆然として、ブロンコが母国語で何か呟いているのが聞こえるだけだった。
《ボーンアロー隊全機……いるね》オメガが代わりに確認を取る。
《こちらエッジ。リッジバックス隊、全機確認》リッジバックスも無事なようだ。
《……了解した》ウィッチ達は全員無事だった。しかし、他の部隊はそうも行かなかった。
《ちくしょう!機体が!》降ってきた物体に巻き込まれたのか、右主翼を失ったF/A-18Fが錐揉みでアドリア海に落ちていく。
無線は、阿鼻叫喚の悲鳴で溢れていた。
《だめだ!翼を掠っただけなのに…!機体を捨てる!》
《制御不能!制御不能!イジェク──》
《サラマンダー3、スコール2、ロスト!くそ、一瞬で消えちまった!》
《駄目だ!エンジンが──》
《リジル1は何処だ!?隊長もやられたのか!?》
《リジル7、脱出しろ!レバーを引くんだ!》
《さらに2機ロスト!サラマンダー2とスコール3だ!ちくしょう!》
《キャノピーが飛ばない!誰か助けて!嫌だ!死にたくない!死にた──》
空域に集結した様々な国籍の機体が、次々と翼を折られ、エンジンを破壊され、あるいは衝撃波を叩き付けられ落ちていく。
《メディック!負傷者の手当を急げ!》《残存戦力を確認しろ!》地上部隊も混乱の極みに陥っている。
《……何が、どうなってるの?》ようやくブロンコがまともに口を開いた。
《これは……ユリシーズ……?》エッジが、呟いた。そうだ、間違いない。
毎年7月になると特番で放送されるドキュメンタリー。飽き飽きするほど放送されるそれで見た、雨あられと降り注ぐ隕石。
それと、そっくりだった。
《隕石…だって!?あんな大きいの、まだ残ってたの!?》そうだ。比較的大きなユリシーズの欠片は既に重力に引かれ、20年の間にほぼ全て隕石となって地上に落ち、軌道上からは無くなったはずだ。
《いえ、事前情報は無かったわ……。だとすれば、あの隕石は自然落下なんかじゃない!》
《じゃあ何よ!あのヴェルナーの宇宙兵器ってやつか何かなの!?》
混乱の中にある私達の眼下で、1隻のSSCが落着した隕石を避けられず、水柱に突っ込んで転覆した。40ノット以上の速度で転覆したあの艇に、生存者はいないだろう。
《警戒!敵機インバウンド!ユージアの奴、まだやる気みたいだよ!》Su-27が少なくとも3個小隊、こちらに向かってくる。
《ユリシーズの再現か…。くそっ、本隊との連絡もとれやしない…!》珍しく、グッドフェローが口汚くこの状況を吐き捨てる。
《ちょっとちょっと…マジでヤバイよ、これ…。レーダー見て!後続の上陸部隊と航空機隊が壊滅してる!!》
実際にレーダーには、上陸に成功した僅かな部隊とリッジバックス、それにボーンアローのほかには数えるほどの航空機しか映っていなかった。国連軍航空隊も、多国籍有志連合の機体もろくに見当たらない。しかしそれでも敵は襲ってくる。私をロックオンしてきたSu-27にMSSLを、その僚機にMk.48を掃射する。
《こちらスカイ・アイ、上陸部隊、報告を!》
《こちらコリンズ、上陸できなかった部隊は全滅だ》《こっちも残存戦力は3割ってとこ》
戦力の7割を失ったという報告。
一般的には、30%の損失で全滅の判定が下るという。
現状は、最悪を通り越していた。
撤退戦をしようにもSSCはこの状況では使用不可。3割弱の戦力での突撃は無謀。
…いくら私が悩んでも、答えは見つからなかった。
《…だが、主力陸戦ストライカー含め、戦力は何とかなる!!》ベルツ准尉は、力強く断言した。彼女は、まだやる気だ。
《こちらオメガ、どうするんです?撤退ですか?》現状の判断がつかず浮き足立つオメガ。私はそれを無視して、大陸から出てきたMiGを墜とす。
《そっちのコマンダー、決めてくれ!》コリンズがスカイ・アイを急かす。
《ちくしょう、まだまだ出てくる!一体何機居るのよ!?》ようやくオメガが制空戦に参加する。HCAAで2機のSu-27を蹴散らし、M4でMiGの主翼をもぎ取る。
《コマンダー・グッドフェロー、決断を!》ついにスカイ・アイがこの場の指揮権を投げた。
グッドフェローは数秒の沈黙後一つため息をつき、はっきりと言った。
《全機に告ぐ。作戦は続行する。このままでは終わらせない。“バンカーショット作戦”続行よ!》
途端、戦場の雰囲気ががらりと変わった気がした。
《各機に告ぐ!作戦続行、作戦続行だ!我々の力で勝利を掴み取るぞ!》スカイ・アイが覚悟を決めたように叫ぶ。
《オメガ了解!》《…ブロンコ、ラジャー》《ウィルコ!もうこうなりゃヤケです!何でもして見せますよ!》ボーンアロー全員が鋭く答える。
《エッジ了解!リッジバックス隊、聞いたな?》《了解隊長!死神に良いとこ取られてばっかじゃたまりませんもんね!》リッジバックスも体勢を立て直す。
《分かった!こちらリジル4!おい、誰か!俺とエレメントを組める奴はいるか!?》
《スコール6よりリジル4、了解だ!まさかアルストツカと手を組む日が来るとはな!》
《サラマンダー隊全機へ!エストビア空軍の、いやファイターパイロットの意地を見せろ!》残存したパイロットたちも、国籍に関係なく編隊を再編し、戦闘態勢を整える。
しかし、敵も本気のようだ。新たにレーダーに敵機が映る。Su-57フェロン、円卓で私達を苦しめた最新鋭機が大陸奥地から押し寄せてくる。
地上にも、今まで擬装されていたトーチカが現れ、それを守るようにSAMやAAガン、戦車にAPCが現れる。
《ひるむな!リボン付きが上にいる!我々はあいつに取り憑かれた死神部隊だ!》
《そうだ!怖いものは何もない!上空部隊と共にこのまま突っ切るぞ!》
無線の向こうからは男達の雄叫びが聞こえる。
最優先目標は、大口径榴弾砲を装備したトーチカだ。
LAGM2発を同時に撃ち込んで1基を撃破し、脇に陣取る戦車を機関銃で蜂の巣にする。
《死神、そちらの攻撃に合わせて前進する!》
准尉らの侵攻ペースは私達に係っている。なるべく早く、なるべく多く壊すべきだろう。
《敵戦闘機隊も駆けつけてきている!空と陸の総力戦だ。頼んだぞ!》
実際に上空にはMiGやフランカーが乱舞し、地上では陸戦ウィッチと敵戦車が殴り合っている。
《全機!“死神”に続け!》戦闘機部隊も、私を頼っている。
《後ろは私が守る!前だけ見てろ!行け!》《行け!行け!行け!》
全ての兵の願いに、トーチカの1基を吹き飛ばすことで返事する。戦車、装甲車、AAガン、手当たり次第にLAGMとMSSLを撃ち、歩兵やジープに37mm弾を撃ち込む。
《トーチカが沈黙した!これが“死神”か》准尉が、吹き飛んだトーチカを前に満足げな声を上げる。
《敵の後退を確認!前進しろ!前進!》そうがなりつつも、彼女はGAU-19を乱射し、一際大きな銃声を辺りに響かせている。
私はエアブレーキを全開にし、隣接するトーチカにもLAGMを放つ。対空砲弾や歩兵のライフル弾が体を掠め、ストライカーユニットにも傷を付けるが、そんなことはお構いなしだ。
《敵沿岸守備隊30%が沈黙!いいぞ、そのまま攻撃を続けろ!》
炎上するトーチカ跡の上空でループし、空の敵を狙う。
エレメントを組んだSu-27とヘッドオンだ。
《死神だ…!アドリア海から、死神がやってきやがった!》
混線した無線から敵の声が聞こえる。MSSLを1発ずつ放ち、2機とも撃墜。火だるまになった敵機は対地ミサイルを抱いたまま、森の中へと落ちていく。
《地上部隊がトーチカラインの側面に進出した!行ける、行けるぞ!》スカイ・アイも興奮したように叫んでいる。
《敵は第一阻止線を放棄!前進するぞ!怯むな!振り向かずに突っ込め!》《行くぞ!Go!Go!Go!》コリンズたちが前進しているらしい。彼らの支援の代わりとして、森の中の道路を走っていた戦闘車両の列に7.62mmの雨を降らせる。
まともな装甲の無い防空戦車はもとより、爆発反応装甲を有したMBTでさえもその暴力に耐えきれず、はじけ飛ぶ。
《斜面にとりついた!トーチカの死角だ》准尉の言葉の後に、戦車砲と思しき轟音が響き渡る。《……貫通しないっ!?くそっ、ミホ、銃眼だ!銃眼を狙え!!》
僅か一人の陸戦ウィッチが数倍の戦力を相手取って砲戦を繰り広げている。
見上げて手を振る彼女に、私は機体をバンクさせて答えた。
魔力を籠めた120mm
一瞬のち、想定していない内部からの爆圧を受けたトーチカは噴火したかのように爆発し、倒壊した。
《こちら“
《“
9名いた主力陸戦ウィッチの中で、今現在戦闘可能なのは私を含めてわずか2名。最優先で揚陸させられたおかげで死人は出ていないが、それでも戦力の78%はあの攻撃で負傷、もしくはストライカーを損傷して戦線を離脱し、苦しい戦いを強いられている。
ちらりと残弾を確認して顔をしかめる。少なすぎる。
APFSDSが3発にHEAT-MPが5発。
10式陸戦ストライカーに搭載可能な120mm砲弾は僅か22発しかないのに、もう6割がた使ってしまった。
揚陸前の対地射撃と今までの戦闘で消費してしまった弾薬の補給のあてはない。
予備弾薬はSSCと共に海の底だ。
しかし、弾薬が無くなろうと進まなければ、私達に明日はない。
周囲を見渡し、車体側面を対戦車ミサイルで食い破られたT-90を見つける。
素早く近寄り、傾いた砲塔からKord重機関銃をもぎ取る。
大当たりだ。50発のベルトリンクは未使用の上、予備の弾薬箱もハッチ近くに残されている。携帯用にピストルグリップにストック、バイポッドまで付いている。
ソフトスキンや対人射撃にはこれを使うしかないだろう。
いや、対人戦は他の海兵隊員がやってくれている。
その中でもベルツ准尉ともう一人の兵士が強力な火線を張っている。12.7mmガトリングが火を噴き、BTR-90の薄い装甲を撃ち抜く。
さらに、別の火線がBTRを盾にした敵兵を撃ち倒した。
「よくやった、タチャンカ!」誰かが彼を褒め称える。
“タチャンカ”と呼ばれた筋骨隆々の大男は、混戦の中でも異彩を放っていた。
円筒にスリットを開けた、中世の騎士の様な無骨なヘッドギアをかぶり、そして奇妙な形状の古めかしい機関銃を担いでいた。
それはフライパンかレコード盤のようなマガジンを上部に付けた軽機関銃、おおよそ90年前に設計された“DP28”だった。
「死体の山から掘り起こしてきた」と彼が語る骨董品の軽機関銃は、NATO弾よりも強力な7.62x54mmR弾を轟音と共に吐き出し、重機関銃陣地の敵兵を土嚢ごと撃ち抜いて倒す。
准尉たちが露払いをしてくれているので、対戦車戦に専念できそうだ。
見上げると上空を“リボン付きの死神”が飛んで行った。思わず手を振ると、それが見えたのか彼女が体を揺らして答えてくれた。
何よりも頼もしい彼女を見やりつつ、林の中にダックインしたT-90を睨みつける。虎の子のAPFSDSを装填し、
准尉の部隊は、陸戦ウィッチの支援もあってか何とかトーチカを相手できているようだ。なら私はコリンズたちを助けるとしよう。しつこく浜辺に砲弾を撃ち込む自走榴弾砲にMSSLを撃ち、ついでに近くにあったSAMも破壊する。
ひときわ大きな爆発音が響き渡る。見ると、一体何を投下したのか、トーチカだった廃墟から巨大な爆炎が上がっていた。さらにその周辺では、戦車や対空砲がひっくり返って燻ぶっている。
《スコール4、着弾確認!やってやったぜ!》
コレチアのF-111が敵トーチカを一撃で吹き飛ばしたのだ。
あの機体に搭載可能なこの威力の兵器……
《さすがは5000ポンド!威力が違うな!》スコール4のパイロットか、嬉しそうに誰かが叫ぶ。
《コレチアの同志が目に物見せてくれたぞ!俺たちも続け!》
今度はアルストツカのSu-22部隊が、1基のトーチカを目標にKh-29を次々と投下する。
5発、6発と弾頭重量320kgの大型ミサイルの暴力を受け続けたトーチカはついに耐え切れず一部が崩壊し、そこに地上部隊から砲撃を受け、完全に撃破された。
《地上部隊が敵防衛ラインを突破!!》《リッジバックス各機、一気に攻めるぞ!》エッジ達も負けてはいない。70mmロケットや40mmグレネードを雨あられと叩き込み、かなりのペースで敵を屠っている。
《死神!上空に爆撃機だ!頼むぞ!》
恐ろしい言葉に触発されてレーダーを見ると、何機ものB-1Bランサーがこちらに接近していた。80発以上の500ポンド爆弾を積めるあの機体を放置したら、今度こそ間違いなく地上部隊は全滅だ。
《ゼブ!対地支援を!私はランサーをやる!》そう無線に一方的に叫び、MSSLを続けざまに撃つ。
しかし、さすがは爆撃機。タフさが違う。2発や3発では墜ちやしない。4発目でようやく主翼が折れ、急激に高度を落としていく。
しかし、敵も必死だ。Su-57がランサーの周りで飛び回り、自機を犠牲にしてでも守ろうとしてくる。
しょうがない。先に戦闘機を落とすしかない。MSSLを最短射程ぎりぎりで撃ち、エンジンノズルを吹き飛ばす。戦闘能力を奪われた敵機は無視し、残った2機の爆撃機にMSSLを連射する。
1機は落とせたが、もう1機はフレアを撒いてMSSLから逃げ延びる。しかし、そんなことをしても寿命が数秒伸びただけだ。
真後ろにつき、エンジンの放射熱を感じられるほどの至近距離からMk.48を撃ちまくる。破片が飛び散り、エンジンが黒煙を吐いてもかまわずに撃ち続け、ついに最後の1機を撃墜する。
《仕留めた!》エッジが何事か叫ぶ。《敵戦車が撃破された!青地に一本線、リッジバックス隊だ!》《ヒュー!やるねえ!》
《敵陣地突破ぁ!“死神”に乾杯だ!》《空賊が道を開いてくれたぞ!全軍進め!》地上部隊も、一歩も引かずに攻撃を続けている。
既に“死神”で私の呼び名は完全に定着してしまったらしく、「ボーンアロー1」や「リーパー」と呼ばれることのほうが少なくなっているのではないだろうか。
そんな期待に答えて、今まさに砲撃を行おうとしている榴弾砲にMSSLを撃ち込む。
ミサイルが大量の榴弾を誘爆させ、さらに隣に駐車していた砲側弾薬車をも巻き込んだ大爆発が起こる。それを見た地上部隊からは大きな歓声が上がった。
《倒れているものを見つけたら岩陰に隠せ!誰も置いては行かない!》准尉の言葉は、決意に満ち溢れていた。
《敵爆撃機、残り6機!全て撃ち落とせ!》上空ではオメガとブロンコが爆撃機をスクラップに変えていた。
私は100メートルほどの低空に降り、手当たり次第に地上兵器を破壊し尽くす。
SAM、AAガン、レーダー車、榴弾砲、機銃塔、対空戦車。
目に付くものすべてにありとあらゆる火力を叩き込む。
Mk.48を、アーウェン37を、MSSLを、LAGMを。
私の眼下には煙と残骸が残るだけとなった。
気づくと、レーダーにはほとんど敵が映っていない。
《敵の交戦可能戦力は30%を切った》
《死神をここで墜とせ!やつを大陸内に入れるな……ぐわぁ!?》
ヘッドオンしたSu-57のキャノピーを7.62mm弾で撃ち砕き、そのままハンマーヘッドターンで急降下し、眼下の対空戦車を破壊する。
《ごめん隊長、撃ち漏らした!2機!》オメガが叫ぶ。3人のウィッチの猛攻を凌ぎ切ったランサーが、可変翼を完全に畳んで吶喊してくる。
既に、爆弾槽扉は開いていた。「させるか…ッ!!」MSSLを4発撃ち、何とか1機を撃墜する。生き残った最後の1機は、分が悪いことを悟ったのか急旋回で逃亡を図るが、私はその進路上をMk.48で掃射する。
ランサーの頑丈な機体からフラップやエルロンが捥げ飛び、弾痕から作動流体が漏れ出す。
そしてついに、ナイフのような主翼が根元から折れ、バランスを失ったランサーはくるくると独楽のように回転しながら、アドリア海の海面へ落ちていった。
《ナイスキル!敵爆撃機を破壊!》これで、敵航空隊はほとんど壊滅だ。生き残ったのは数機の戦闘機だけ。それもほとんどが対空装備らしく、地上部隊へは攻撃を行っていない。
《敵が引いていく!いいぞ!このまま進める!》《もう少しだ!敵陣地の堡塁を破壊せよ!》すでに地上には、一部を除いて地上兵器は残っていなかった。
何機かのSAMが残ってはいたが、既にレーダー車や管制車を破壊され、あるいはオペレーターが白旗を上げ、無力化されていた。
最後の敵が終結したのは、あるトーチカの周辺だった。
生き残った機甲兵力のほぼすべてに、新型の高性能SAM。ほかのトーチカよりも重装備だ。
いや、トーチカというには規模が大きい。長距離通信用の無線アンテナが伸びていることから見ても、おそらくは指令所を兼ねた沿岸要塞だろう。
しかし、ミサイルアラートが邪魔をする。《墜ちろ疫病神め!》生き残ったSu-57が一斉に私を狙ってきている。舌打ちをした私は一気に上昇し、まず1機に食いつく。Mk.48で尾翼をずたずたに引き裂き、もう1機、近くにいた敵にMSSLを叩き込む。
さらにもう1機と旋回戦になる。推力偏向ノズル搭載機同士、設計限界強度ギリギリの旋回を続ける。
その戦いを制したのは、私だった。
Gに耐え切れず、よろめきながら旋回を緩めた敵機の広い背中に、Mk.48で風穴を開ける。
《敵航空部隊、全機破壊を確認!》残ったMiGはブロンコとゼブに、Su-57はオメガとエッジに撃墜されていた。
その間にも地上部隊の手によって、車両部隊は壊滅していた。
《ターゲット、残り1!最後の1基だ!》レーダーに映っているのは、さっきの沿岸要塞のみ。それも対空銃座から火線を張るだけだった。
《エッジ了解!》《オメガ、了解よ!》《…Rog》《ウィルコ!》
《総員、全ての武力を持って攻撃せよ!》エンジン推力を落とし、エアブレーキを最大に開いて失速寸前まで減速する。
《撃てぇ!!》
まだ対地兵装を残した全ての友軍機やウィッチから、航空機に搭載可能なありとあらゆる火力が降り注ぐ。
対地ミサイル、誘導爆弾、無誘導爆弾、クラスター爆弾、無誘導ロケット弾、機関砲。
LAGM、LASM、GPB、MSSL。グレネード弾に、手榴弾、魔力を籠めたライフル弾。
地上部隊からは、陸戦ウィッチの主砲弾に対戦車ロケット。
これ以上にないほどの濃密な火線を受けた要塞は、一瞬のち、銃眼から炎を吹き出し、内部から爆発して倒壊していった。
《敵拠点の堡塁全てを破壊!上陸部隊、報告を!》敵は殲滅した。後は結果を御覧じろだ。
《こちらW隊、制圧を完了!》
《E隊、こちらも制圧完了だ》
数秒の沈黙後、スカイ・アイは声高らかに宣言した。
《敵拠点の奪取、および制空権の確保を完了した!“バンカーショット作戦”成功だ!!》
とたんに、地上部隊から歓声が響いてくる。無線が音割れするほどだ。
いや、無線がなくても聞き取れるほどだ。
《やったの?やったのね!?イヤッホー!!》オメガが狂喜乱舞し、ビクトリーロールとばかりにクルクルとバレルロールをする。
エッジも一つ息をつき、《リッジバックス隊、任務完了!RTB!》と無線に吹き込む。
《全員、よくやったわね!》グッドフェローも嬉しそうに叫ぶ。
そして、一息ついたグッドフェローはこう語った。
《これより先は、広大な大地に広がる敵陣よ。そして、さらに上空から見下ろす奴もいる。私達はその脅威から全てを解放するわ。ここからよく見ておきなさい》と。
銃弾からミサイルまで、全ての弾薬を射耗しすっかり軽くなった体を基地に向けると、エッジがすぐ真横に並んできた。
《もっと遠く、もっと高く……か。……ねぇ、リーパー。貴女ならいけるの?》
基地に帰還した私たちを待っていたのは、整備員やグランドクルーたちの熱烈な歓声だった。
全パイロットが興奮冷めやらぬままブリーフィングルームに入ると、既にグッドフェローが待っていた。
「全員よく帰還したわね。上陸作戦は辛くも成功よ」
その言葉に、また歓声が上がる。
「やってやったぜ!」
「ざまあみやがれ、ユージアめ!」
「今後、ユーラシア大陸内部での作戦展開において有利にはなるでしょうね。でも、別途作戦が展開されている西オラーシャ戦線では今だ苦戦が強いられているわ」
苦戦という事実を突きつけられ、徐々にパイロットたちの興奮が冷めていく。
「それと…例の蝶使い機もモスクワで目撃されたわ。まだ奴の本体の在処は掴めていないそうよ」
“蝶使い”の名前に、全員が顔を見合わせ、沈黙が訪れる。
「ああ、後今回使用された宇宙兵器に関しては情報が入り次第説明を行うわ。今はゆっくり体を休めてちょうだい」
逆転勝利を収めても、まだこれは反撃の序章に過ぎない。私達の決死の1勝は、敵にとっては、たったの1敗というところだろう。手放しには喜べない、それが現状だった。
数日後、全パイロットが再びブリーフィングルームに集められた。
「宇宙兵器に関しての情報よ」
グッドフェローの言葉に、ざわめきが走る。
「正体は《OLDS》と呼ばれる軌道兵器よ。ユージアはこれを《空の欠片計画》と名付けているわ。本来はユリシーズの残骸を静止衛星軌道以遠に排除するために軌道に配置されたものなんだけど、ヴェルナー社軍事開発部門は秘密裏に戦略兵器への転用を計画していたわ」
彼女の言葉と共に画面に表示されたのは、4本の筒状の推進器と、その中央に配置された円盤形の管制設備、さらにそこから伸びた砲身という、SF映画に出てくる宇宙船のような人工衛星だ。
「人工衛星からレーザーを放射し小惑星の表面を気化、その推力で軌道を変える。そうして安全な軌道に移動させる…はずだったんだけど、ユージアの奴ら、地上の任意の地点に落下させることが出来るように再調整した様よ」
衝撃的な新兵器の登場に、全員が一言も発せず、画面を注視している。
「地球墜落時の効果は完全には解析されていないけど、命中精度はまだ高くないでしょうね。ただし、理論上は地球上全てが攻撃対象になるわ。まさに《ユリシーズの再現》ね」
OLDSのイメージ画像が切り替わり、CGで作られた地球が移される。そこに誘導された隕石が落ちていき、さらに飛び散った破片で二次被害が発生。それが、海や大陸所かまわず発生している。
地球上の大半がクレーターを示す赤い円で覆われたところで、再び画面がOLDSのイメージ画像に切り替わる。
「OLDSには安全装置により軌道上の人工物を照準できない設定が施されているんだけど…まあ、これの解除も時間の問題でしょうね」
グッドフェローがそこまで言い終わると、あちこちから嘆息が聞こえてくる。
地球上どこへ行っても逃げ場無し、一回攻撃が始まれば迎撃不能、おまけにGPSや偵察衛星のような重要な人工衛星もいずれ奴らの手の中に堕ち、運動エネルギー兵器と化す。それどころか、故郷さえクレーターに変えられかねない。
…バンカーショット作戦の成功なんか、軽く吹き飛んでしまうほどの衝撃的な兵器だった。
「…さて、話は変わるけど、これより《永久の解放作戦》の範囲を拡大、ユーラシア大陸内部でも作戦を展開します!」
それと同時に、今度はユーラシア大陸の地図とユージアの支配地域が表示される。
そこには、いくつかの侵攻ルートを示す矢印が書かれていた。
オラーシャ南部からペルシアを目指すルート、エジプトから地中海を渡り、オストマンから脇腹を抉るルート、シャムロ王国周辺へ強襲揚陸を試みるルートなど、全方位からユージアを方位する形になっている。
「アローブレイズも部隊ごとに再々編成、それぞれ大陸各地の作戦に参加してもらうわ。
うちのトップエースを抜くのは誰か、皆の活躍に期待するわ。以上よ!」
────遡ること数日、バンカーショット作戦終了直後。
狭い室内に“私”の鼻歌が、響いていた。目の前の液晶画面に、すべてのMQ-99が撃墜されたと表示されているのにも関わらず、だ。
『ご機嫌ですね。何かいいことでも?』“彼”が話しかけてくる。普段なら無視する所だが、今日は機嫌がいい。少し話に乗ってやろう。
「まあね。ゲームの相手を見つけたわ。あのリボン付きなら、まだまだ楽しめそう」
今回モスクワで戦ったオラーシャのパイロットたち。Su-30を駆る彼らは、犠牲を払いつつもクオックスを墜とせたが、“私”のカーミラを撃墜することはできなかった。
……やっぱり、私の相手をしてくれるのは、あの死神しかいない。
『…《パピヨン・プロジェクト》。これもまた、歴史の1ページとなる予感がしてます。しかしデータ通信のラグ問題は解決できないのですかね?あなたも“ここ”では窮屈でしょう』
余計なお世話だ、と思いつつ“彼”──“ここ”の制御を司る人工知能、クヴァシルとの通信を切る。
「私は好きよ。だって、“ここ”は特等席だから」そう独り言ちつつ、ヘッドセットを外す。私の手から離れていったカラフルなそれは、
また鼻歌を歌いつつ、“私”は窓の外を見る。
漆黒の宇宙空間に浮かぶ、美しいとしか言いようのない青い色を湛えた惑星。
蝶のエンブレムを刻んだ人工衛星は、今日も“私”を載せて衛星軌道を周回する。
2000km下の大気圏内で繰り広げられる、人々の争い。それを眺める位置から、“私”は飛び続ける。
これまでも、そしてこれからも。
◎キャラ解説コーナー
・陸戦ウィッチ”グースフィッシュ”、”タートス”:某大洗女子学園の隊長車、副隊長車車長。なお、他の7名も別チームの車長である。
・タチャンカ:某スペツナズ。展開型シールドは使わない。