INFINITY WITCHES ~無限大の魔女~ 作:AGM-123
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エリアB9K コモナ諸島宇宙センター 2019年5月15日1300時
心地よい太陽の光が、私達を照らす。眼下に広がるのは観光パンフレットにでも乗ってそうな青い海。
《やっぱり南国はいいねぇ》背面飛行で空を見上げつつ、のんびりとオメガが呟く。
《こちらグットフェロー。のんびりしすぎて墜ちないでよ。機体ごと海水浴はしたくないでしょ?》
《オメガ了解!》と口では調子よく答えるオメガだが、彼女がここへの移動前に、楽しそうに水着やら浮き輪やらをトラベルポッドに詰め込んでいたことを私は知っている。この任務の後の休暇中に、基地近くの海辺で海水浴でもするつもりなのだろう。
今回の出撃が前回と違うのは、ボーンアロー隊がフル編成、4人での出撃と言うことだ。
F-16Eストライカーを操るボーンアロー3「ブロンコ」と、MiG-21bisストライカーを操るボーンアロー1「ヴァイパー」の二人が編隊にいる。
隊長の姿を見るのは、これが初めてだった。20歳ほどの長身のリベリオン人。もうあがりが近い年頃だからだろうか、妙な貫禄がある。
《こちらグッドフェロー。国籍不明の輸送機及び護衛機が宇宙センターに近づいています。敵機と判明次第、撃墜を許可します。宇宙センターには被害を与えないようにね》
それに答えるように、ヴァイパーが初めて口を開いた。
《こちらボーンアロー1、ヴァイパー。前方にレーダー反応》
だれたような口調でヴァイパーがグッドフェローに話しかける。
《グットフェローからヴァイパー。オープンチャンネルに切替えて勧告して》
彼女とグッドフェローは旧知の仲なのだろうか?やけに砕けた会話だ。
《あいよ。ヴァイパー了解。…あー、あー。国籍不明機に警告する。こちら国連独立コマンドのアローズ所属機。我々の誘導にしたがって進路をと………》
ヴァイパーの勧告は、無線の向こうから聞こえたビープ音で途絶えた。
《不明機からのFCレーダー照射を確認。敵機と断定します》
グッドフェローの言葉を合図に《だと思ってた!》とオメガがぼやき、M4のセレクターをフルオートに切り替える。
《全機発砲を許可します!》との通信を皮切りに、ヴァイパーが鋭く言い放つ。
《よし、あんたら、始めるわよ!》とヴァイパーは一声叫び、自らの持つM14の安全装置を外した。
私もMk.48の安全装置を外す。レーダーに映る敵は3機。1機は大型輸送機のIL-76、後は護衛戦闘機だろう。
先に輸送機を墜とすか、等と考えているといきなりヴァイパーが呼びかけてきた。
《おい、ボーンアロー4!》彼女の方を見ると、こっちに来いと言わんばかりに手招きしている。《アンタだアンタ。そこの辛気臭い死神マークのルーキー、アンタのことよ》
《…何ですか?》と私が彼女の真横に着けると、親指でキャンディットの方を差し、
《やってみな、腕を見てやる》と付いて来るよう促した。
《輸送機は足が遅いから、勢い余って突っ込まないようにね》と、オメガが前回の戦闘の時のようにアドバイスをしてくれる。その助言の通り、加速を控えめにしてキャンディットの後方に付き、MSSL2発を発射。エンジンに被弾した輸送機は、いっきにバランスを失い、錐もみで海面へと消えていった。
《輸送機を撃墜。よし、残りを片づけるわよ》とヴァイパーがM14を撃つ。護衛機のうち1機、MiG-21がその火線に吸い寄せられるように被弾し、空中爆発を起こした。私は、2019年の空で、1950年代初飛行の航空機同士が戦闘を行っていることに不思議な感傷を抱きつつ、もう1機のMiGを探した。
その瞬間だった。耳元で連続したオーラルトーン。さらにHMDの表示が全て赤く染まる。視界の真ん中には“MISSILE ALERT”の文字。
《注意!敵対空ミサイル発射!》いつの間にか後ろに回り込んでいたMiGが、R-60を発射していた。慌ててフレアを撒き、推力を絞って急旋回。オーラルトーンが連続した音に変わったと思った時、いきなり警報が途絶えた。どうやらフレアに惑わされたらしい旧式のAAMは、私の後で虚しく爆発していた。
回避に成功したと思った瞬間、私はストライカーを前につきだし急減速。オーバーシュートしたMiGに7.62mm弾を浴びせかける。慌てて回避しようとした敵機は、運の悪いことに弾幕に機首から突っ込んでしまった。キャノピーが弾けて機首周りが真っ赤に染まり、主を失ったMiGは、ふらふらと少しの間飛んだ後、仲間の後を追うように海に呑まれていった。
《リーパー、なかなかやるじゃない》と、オメガが感嘆したように言う。
空域がクリアになると、オメガが私のパーソナルマークに目を遣りつつ話しかけてくる。
《ところでその死神マークさ、なんか取り憑かれそうで気味が悪いわね。今度私がお洒落に描き直してあげようか?》
《…ええっと、すいません。とりあえず遠慮しておきます》というも、
《遠慮しないでって。私“画伯”って呼ばれてるくらいだからさ》
それは正しい意味でそう呼ばれているのかと心の中でツッコミを入れつつ固辞しようとすると今度はヴァイパーが横に並びつつ絡んできた。
《こちらヴァイパー。
《こちらオメガ、ラジャー。墜ちないように気をつけまーす。…後あんまり近づかないでよね。酒臭いわよ。また一杯引っかけて上がってきたんでしょ》とオメガに返された。
《ちょっ…アンタ…!》何か言い返そうとしたヴァイパーだったが、グッドフェローからの《また飲酒操縦?どういうことかしら?説明してくれるわよね、ヴァイパー》とのやけに優しい声の無線に意気消沈し、オメガに恨みがましい目線を向けつつ編隊の先頭へ戻っていった。
《リーパー。ヴァイパーのストライカー、機種は分かるわよね?》とヴァイパーが離れた隙にオメガがまた話しかけてくる。《えっ…。MiG-21フィッシュベッド…ですよね》と答えると、《まあ見た目はそうだけど。実際博物館入りクラスの年代モノなんだけどね、あれは相当金をつぎ込んだカスタム機よ。レーダーFCSは最新鋭だからBVRAAMを運用可能。エンジンノズル、コンプレッサは強化してあって、動翼アクチュエータも新型のが積んである。フレームも強化してあるから、フィッシュベッドなのはガワだけよ。あれはもう実質的には第4世代機ね》と教えてくれた。通りでさっきの空戦ではやけに俊敏な機動が出来たわけだ。
《あとあれ、尻尾が“∞”になってる蛇のパーソナルマークが付いてたでしょ?あれは撃墜数を数えきれないぐらい墜としてますよって意味ね》などとパーソナルマークの由来まで教えてくれた。
《全ての敵機の撃墜を確認。帰投を許可します》とのグッドフェローの言葉を、ヴァイパーが否定する。《いや、まだね。重役出勤の奴らがいる》
レーダーに映ったのは、2機のIL-76と3機のMiG-21、それに6機のミラージュ2000だ。輸送機とMiGはまだいいが、問題はミラージュだ。私のファントムより1世代上で、デルタ翼とM53エンジンがもたらす機動力も良好。あいつとのドッグファイトは無謀だ。
とりあえず数を減らすため、キャンディットに2発ずつHPAAを発射し、撃墜。守るべき対象を失った敵戦闘機は、猛り狂うように突っ込んでくる。
《フィーバータイムだ!稼がせて貰うわよ!》とヴァイパーが叫びつつ、2機のMiGとヘッドオン。先に発砲したのは機銃の射程が長い敵機だったが、ヴァイパーは23mmの火線を難なくかわし、真正面からキャノピーを吹き飛ばす。
《くそ、正規部隊じゃない!こいつら傭兵だ…ぐわあ!》
短い断末魔を残し、1機目のパイロットが操縦席ごと身体を砕かれ、墜落。咄嗟にダイブして躱したもう1機も、MSSLに追い回され空中で爆散した。
《フォックス3》聞きなれない声とともに、2機のミラージュがミサイルに貫かれ、落ちていく。QAAMでミラージュを屠ったのは、ブロンコだ。彼女の駆るF-16Eは第4.5世代機。電子機器の差を生かせば、ミラージュを落とすのは簡単だっただろう。
さらに1機のMiGが主翼と胴体を撃ち抜かれ、落ちていく。今度はオメガがM4で撃墜したらしい。《リーパー、ぼやぼやしてると稼ぎがなくなるわよ!》
その声にハッとした私は、とりあえず手近な2機のミラージュに2発ずつMSSLを撃つ。1機はフレアで回避するも、もう1機はエンジンノズルに直撃を食らい、真っ逆さまに落ちていく。さらに回避軌道の真っ最中のもう1機には、Mk.48での掃射を仕掛ける。若干狙ったところからはずれたが、それでも右翼に大ダメージを与えることができた。ほんの数秒、パイロットは右翼の半分を失った機体をコントロールしようと足掻いていた。だが、やがて諦めたらしく、イジェクションシートを作動させて脱出した。パラシュートが広がるのが見えたが、私はすでに生き残った敵に意識を向けていた。
《蛇のマークの奴に追われている!助けてくれ!》ミラージュのパイロットが必死に機体を旋回させ、ヴァイパーの火線から逃れようとする。
《そいつは傭兵のエース“ヴァイパー”だ!俺が援護する、待ってろ!》もう1機がやや離れた位置からシュペル530とマジックを同時にヴァイパーに向け発射。舌打ちをしたヴァイパーはチャフとフレアを撒き、体をひねって無理やり向きを変えつつそのミラージュをSAAMで撃破。しかしその隙にアフターバーナーに点火した最後のミラージュは、ヴァイパーの射程から離れてしまった。しかし、ミラージュのパイロットは1つミスを犯していた。その場にいたのは、ヴァイパーだけでないということを忘れていたのだ。いつでも援護できるような位置にいた私とオメガがほぼ同時に敵機をロックオンする。
予想外の方向からのロックオンアラートに驚いた敵機は、残ったシュペル530をロックオンもせず発射。運悪く敵機の近くにいたオメガは、《ちょっと、そんなの有り!?》とぼやきつつ急旋回でかわそうとする。
その一瞬の隙を突き、私はHPAAを発射。最短射程ギリギリで撃たれたミサイルに対し回避機動を取る余裕もなかったらしいミラージュは、ミサイルを受けた胴体中央部から何回か小爆発を起こし、最後にひときわ大きな空中爆発を起こして墜落した。
《あーあ、リーパーに持ってかれちゃったか》シールドで何とかミサイルを防いだらしいオメガが、悔しそうにつぶやく。
《敵機の全滅を確認。ボーンアロー隊、お疲れ様》今度こそ敵を全滅させ、私たちは帰路に就くことが許された。
《リーパー、何機墜とした?》とオメガが聞いてくる。
《ええと…輸送機3機、MiG1機、ミラージュ3機の計7機です》
《こっちはMiG3機とミラージュ1機。まあ、今回はルーキーに手柄譲ってやったからね》とヴァイパー。
《…ミラージュ2機》ぼそりと答えるブロンコ。
《で、アンタは何機よ、オメガ》にやにやと笑いながら問いただすヴァイパー
《……MiG1機です》と、がっくりした様子で答えるオメガ。
《よし、1番撃墜数少ないアンタの奢りでルーキーの歓迎会だな》無慈悲な言葉に、あんまりだとばかりに頭を抱えるオメガ。そんな彼女を無視して、ヴァイパーはグッドフェローと話していた。
《こちらグットフェロー。ヴァイパー、今回の新入りはどう?》
《まあまあってところね。どこで力が伸びるかは本人次第。“一線”を越えることができれば誰だってモノになるわよ。》
《まあ、前の娘はそれを超える前になぜか逃げちゃったけどね》
《アンタがあんな無茶させるからに決まってるでしょうが》
私は思わず2人の会話に割り込む。《あの…私の前任のウィッチって一体何させられたんですか…?》との問いに、《いや、ほんのちょっと無茶するよう
基地に帰った私たちを待っていたのは、休暇と外出許可証…ではなく待機命令だった。とりあえず2時間後にブリーフィングルームに集合するように伝えたグッドフェローは、半泣きのヴァイパーを引きずるようにして指令室へ戻っていった。シャワーを浴びて着替え、軽く食事をとった私がブリーフィングルームに向かうと、すでにオメガ、ブロンコ、ヴァイパーが待っていた。飲酒操縦をきつく叱られたらしいヴァイパーが涙目で机に突っ伏し、「覚えてなさいよオメガ…」と呪詛のようにぼやくのを無視して待っていると、やや焦った様子のグッドフェローが入室してきた。
「先に言わせてもらうわ。緊急事態よ。この後すぐ、オラーシャに向かいます」と聞いただけで、オメガが愕然とした顔をした。休暇は…?と呟く彼女を無視し、グッドフェローはかいつまんで状況を説明した。「オラーシャを訪れていた“グレイメン”と呼ばれる特権階級クラブのメンバー9名が拉致されたわ。彼らは世界の経済や行政を牛耳るエリート達よ。さらに同時刻、オラーシャ南西部イユーリでテログループがヴェルナー社の軍事施設を占拠。それに連鎖するように他の同社関連施設での武装蜂起が確認されたわ。という訳で休暇は取り消し。全員、30分以内に荷物をまとめて」
30分後、私物をトラベルポッドに詰め込んだ私たちは、一路北を目指して飛んでいた。離陸直後から、オメガが鬼のような形相でぶつぶつと何か言っている。そんなにテロリストが憎いのかと聞くと、「当然じゃない!あいつらせっかくの休暇を潰したのよ!南洋の海でバカンスを楽しみにしてたのに!」と、私利私欲満載の理由でテロリストに恨みを募らせていた。そんな彼女の愚痴を聞きつつ、私は、このタイミングで武装蜂起を起こしたテロリストたちの目的に、何か嫌な予感を感じていた。とりあえず頭の中で情報をまとめてみる。
この前の東京襲撃に使われたUAVはやはりクオックスだった。そしてそれは渦中のヴェルナー社で製作された物の改良型だという。そしてそれによるヴェルナー社軍事部門最高責任者「キャスパー・コーエン」の引責解雇。東京襲撃、グレイメン拉致、そしてヴェルナー社の軍事施設の占拠。全てが何かでつながっているような気がする。
しかし、それを差し置いて私が気に掛かることがある。UAVの中継手段と、もう1つ。
「オメガ」私は無線を介さず、直接オメガに呼びかけた。「何?リーパー?今話しかけないでほしいんだけど?」撃墜数最下位と休暇取り消しのダブルパンチで苛ついているらしいオメガの刺々しい声を無視して、疑問を語りかける。「あの時上空にいた飛行物体って、一体何だったんでしょう?」数秒後、先ほどとは打って変わって冷静な声で、オメガは答えた。
「分からない。でも、何かやばい奴だってことはなんとなく感じる」私が気に掛けていたのは、あの時上空にいた謎の飛行物体だ。恐らく6万フィート以上の高空にいたと思われるそれは、その後レーダーに映る事無く消えたという。「まあ、まず間違いなくクオックス…いや、ヴェルナー社関係の物でしょうね」「…やっぱりオメガもそう思いますか?」また数秒の沈黙の後、「今そのことを考えても仕方ないわよ。まずはグレイメンとやらの救出、そして武装蜂起の鎮圧。それからよ」「……了解」私は、一抹の不安を拭えないままだった。
相変わらずへたくそな内容で申し訳ありません。
次話投稿は少し遅れます。