INFINITY WITCHES ~無限大の魔女~   作:AGM-123

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Misson03 閉ざさされた大地 ~要人救出作戦~

 

 

 

 

 

エリアR2M イユーリ南西部 2019年6月2日1500時

 

 

 

《ボーンアロー各機へ、これより人質奪還作戦を開始します!》

グッドフェローの凜々しい声と共に、私達は作戦空域へ突入した。

 

 

《……ところで、何でこんなの使わなきゃならなかったんですかぁ!》

私は、今使ってるストライカーに不満をぶちまける。私がこの作戦で使うはずだったストライカーは、引き続きF-4Eのはずだった。しかし、イユーリへ向かう途中、地中海に差し掛かったころに問題が発生した。

 

東京から西インド諸島へ飛び、2回戦闘を行ったうえ、さらにそこからオラーシャまで飛ぼうとした結果、J79魔動エンジンがオーバーヒートを起こしてしまったのだ。緊急着陸したロマーニャの軍事基地で点検を行った結果、エンジン交換をしない限り作戦行動は不可能と整備班により判断された。エンジン交換によるタイムロスを惜しんだグッドフェローは急遽、国連軍の権限を使用し基地にあるロマーニャ軍機の使用を打診。軍当局の快諾を得て借り出したのが、今私が使っている「トーネードIDS」だった。

はっきり言ってあまりいい機とは思えなかった。可変翼機構のせいで機体は重たく、小柄な機体の兵装搭載量は少ない。F-4よりもFCSやレーダーは新しく加速性も悪くはないが、どうにも使いづらい機体だった。

《まあ良いじゃん、小さくて被弾しづらいし、それに今回はCASだからちょうどぴったりな機体だよ》とオメガが慰めてくれる。《被弾しづらいならアンタが乗れば良かったんじゃない?》とヴァイパーがオメガを茶化す。

 

 

《こちらリベリオン海兵隊FACのベルツ中尉だ!現在目的地に向け飛行中。こっちは対空兵器には無防備だ。進行方向の敵防空網制圧を要請する。頼んだぞ空賊部隊!》

 

眼下を飛ぶのは2機のCH-47F。最新鋭の輸送ヘリではあるが、所詮は鈍重な大型ヘリ。私たちが対空火器を破壊しないと、彼らは生き残れない。今回は対地攻撃任務とのことで、Mk.48のほかにもう1つ、ブリタニア製の連発式グレネードランチャー、アーウェン37を持ってきていた。この37mm弾なら、装甲がないに等しい対空砲やSAMなら一撃で破壊できるはずだ。

 

《聞いたわね?コマンド部隊のヘリが進行中よ。人質が拘束されていると思われる目的地まで彼らをサポートします。まずは進行方向の敵施設を破壊。しっかり働きなさいよ》

 

まずは手近な武装ボートに7.62mm弾を叩き込む。ボートの撃沈を確認する前に目の前の前哨基地にMSSLを発射。振り返り、両方の破壊を確認。

 

《ヴァイパーからボーンアロー各機、対地攻撃よ。勢い余って地面にキスしないようにね…特にオメガ、アンタは気をつけなさいよ》

《…了解!》この前の撃墜数最下位以来ずっといじられっぱなしのオメガがヤケ気味に返事する。

 

《ヴァイパー、ルーキーのサポートをお願い》グッドフェローからの無線にヴァイパーは《はいよ》とだけ答え、私の横についた。

 

実は私は、対地攻撃の経験がない。そのことを正直にグッドフェローに話したら、「心配しないで」と返されたのだ。ヴァイパーのサポートなら大丈夫、ということだろう。

《リーパー、ヴァイパー先生の個人授業を始めるわよ。まずは“エースへの道その1”》

思っていたサポートと違うと言う前に、

《リーパー、アンタ“対地特殊兵装”は積んでるわね?銃やMSSLよりなかなか使えるわよ。「使えるもんは何でも使え」ってこと。ほら、わかったらやって見なさい》と勝手に話が進んでいた。《ちょっとそれだけ!?もうちょっとなんというか…》とヘリの護衛をしていたオメガが呆れるも、《順序ってもんがあるのよ。撃墜数最下位はちょっと黙ってて》とヴァイパーにあしらわれ、《夜道に気をつけなさいよ!》の捨て台詞を残して彼女はヘリの護衛へと戻っていった。

とりあえず言われるがまま、HUDを対地モードに切り替え、LACMを重要目標のAAガンに発射。ロックオンされたLACMは正確にAAガンへ向かい……しかし手前の地面で爆発した。「…あれ?」とっさの判断で、Mk.48より破壊力が高いアーウェン37グレネードランチャーに持ち替え、4発撃つ。4基並んだAAガンのうち、3基を破壊。撃ち漏らしは、ヴァイパーが片付けた。

《やるとおもった。じゃあ、ここで“エースへの道その2”よ。HMDの情報を良く見なさい。破線コンテナで表示された敵は地形とかに遮られてるから、そのまま攻撃しても当たらないのよ。回り込んで別方向から攻撃しなさい。「急がば回れ」よ。覚えておきなさい》

 

 

《オメガからグットフェローへ》トラックや監視塔に40mmグレネード弾や5.56mm弾を浴びせつつ、オメガがグッドフェローに話しかける。《この前の宇宙センターの作戦は国連から押し付けられたんじゃなくて、強引に仕事を引っ張ってきたって本当?》とのオメガの問いに、《報酬が良さそうだったからね》と即答。《相変わらず金、金だねぇ》とオメガが呆れたように言うも、《よく墜ちる娘がいるからよ。機体購入は金がかかるから》と返され、《それを言われるとぐぅの音も出ないわね》と、納得したようにうなずいていた。

 

《その辺にしときなさい。次の目標が見えてるわよ》とヴァイパーがたしなめ、《おおっと、やばいやばい》と言いつつも、彼女は対空機銃を撃ち上げてくるAPC2両を屠り、ついでとばかりに大型燃料タンクに40mmグレネード弾を撃ち込み、周囲の歩兵を大爆発で一掃した。

 

 

《拠点まで残り15km。この調子で引き続き頼むぞ!》タンクの爆炎を目視したらしいベルツ中尉が叫ぶ。

 

森の中に隠された最後の目標を見つけた私は、照準コンテナが実線で表されていることを確認し、LACMを撃ち込む。今度こそ命中したLACMは機関砲弾を誘爆させ、AAガンを跡形もなく吹き飛ばした。

 

《拠点まであと10kmだ。空賊、礼を言わせてもらうぞ!》チヌークが高度を下げ、NOEで拠点へ向かおうとした時だった。

《ん?後方からレーダー反応!》最もレーダー性能がいいストライカーを使うオメガが、こちらに向かう機影を捉えた。《IFFを確認…えっ?このタイミングで味方?》敵機ではないことを確認した私の目に、信じられないものが飛び込んできた。

 

 

全遊動式カナード、前進翼、斜め双垂直尾翼で構成される先進的な戦闘機。胴体内で上下に重ねる独特な配置のエンジン。特徴的な背中のエアインテイク。

 

扶桑が開発した最新鋭戦闘機、「ASF-X震電Ⅱ」だ。

 

 

目の前にいるのは、群青色に塗装され、機体背部に1本の白い線が描かれたASF-Xが1機と、同型のストライカーを履いたウィッチが3名。特徴的なのは、彼女ら3人が揃いの制服──群青色の地に、中央の白い一本線というデザインの物──を身に着けていることだった。

 

《邪魔だ》とだけ喋ったパイロットが、オメガをかすめるように追い抜く。「うわっ!!ちょっと…!」抗議するオメガをあざ笑うかのように、さらに3人のウィッチがオメガの脇を通る。

《…エッジよりスラッシュ、“空賊さん”が先に到着してます》1人のウィッチが、一番機と思しきパイロットに話しかける。

 

《ん?そうか。…空賊部隊へ、前座ご苦労。もう帰ってもらって構わんぞ》

 

 

 

これが、国連空軍トップクラスのエリート部隊“リッジバックス隊”とのファーストコンタクトだった。

 

 

 

《背中に白の一本線、エリート様のご登場ね》ヴァイパーがあざける様に言う。

《分かりやすくいけ好かないわねぇ!最新鋭機なんか乗っちゃって!》と、オメガが敵意をむき出しにする。

 

《こちら国連軍所属AWACS-W(エーワックス・ウィッチ)スカイ・アイ。これより参加全航空機部隊を指揮する》

凛とした声に上空を見上げると、はるか上空でE-767ストライカーを装備したウィッチが飛んでいた。

 

《こちらグットフェロー。ここからは共同作戦よ。アローズ各機への指揮もスカイ・アイに移行します》

彼女らが作戦前にグッドフェローが言っていた“エリート部隊”だったのか。

 

 

《リッジバックス隊各機、邪魔なのがいるがいつも通り作戦を遂行しろ》

完全にこちらを見下したリッジバックス隊隊長──スラッシュの言葉を聞いたオメガが口の中で何事か吐き捨てる。

 

《彼らより早くターゲットを破壊しなさい。取り分が減るわよ》とのグッドフェローの言葉に、《了解!お財布握り締めて待ってなさいよ!》と元気を取り戻したオメガが応じる。

 

《リーパー、“エースへの道その3”は「貪欲になれ」よ。エリートでも何でも戦場では戦果を上げた奴が一番偉い。そう決まってんのよ。「俺の獲物に手を出すな」ってくらいの勢いでいかないと食いっぱぐれるわよ!》オメガに呼応するように、ヴァイパーが往年の戦記物漫画の台詞を借りて急かす。その言葉通り、私は手近なAPCを蜂の巣にし、MSSLで監視塔や前哨基地を吹き飛ばす。

 

《こちら海兵隊FAC!進行方向にSAMが配置されている!排除を要請する!》ベルツ中尉からのゾッとするような無線を聞くと、1機のヘリが今まさにSAMに追い回され、チャフとフレアを撒いて回避したところだった。

 

《スカイ・アイより各機、これよりヘリのLZ(ランディング・ゾーン)を確保する。 敵SAMサイトを破壊せよ》グッドフェローに比べると淡々とした指令。

 

《こちらリッジバックス隊。スカイ・アイ、ウィルコ》こちらも淡々と答えたスラッシュが、GBU-31を投弾し、SAMの管制レーダーを破壊。1発で数基のSAMを無力化したスラッシュに、《負けてらんないわね》とオメガが闘志を燃やす。

 

私も温存していたLACMを連続発射し、2基の発射機と燃料タンク1基を破壊する。

更にもう1基の管制レーダーに照準を合わせると、《悪いわね空賊さん》とあざ笑うようなセリフと共にリッジバックス3──フェンサーという名のウィッチがグレネードを撃ち込み撃破した。

《ちょっとちょっと、こっちの獲物に手出さないでよ!》流石に我慢しきれなくなったのかオメガが抗議するも、《なんだ、まだいたのか》と完全にこちらを見下しているスラッシュに言い捨てられてしまった。

《…死神なんて大層な名前の割には遅いな》余計なお世話だと心の中で吐き捨て、地上を掃射しAAガンと監視塔を1基づつ破壊。

可変翼を一番後ろまで畳んで一気に加速し、湖岸の平地に密集している敵拠点の真ん前に躍り出る。残ったLACMを全て発射し、監視塔、武装ボート、発射機、燃料タンクを同時に破壊。

 

《敵SAMサイトの無力化を確認》スカイ・アイの報告に、《協力感謝する!これよりランディングを開始する!》と返答したベルツ中尉は、地表ギリギリにホバリングしたヘリから飛び降り、部下を率いて“グレイメン”らが監禁されていると思しき建屋へ向かっていく。

 

《航空部隊は周囲を警戒しつつ、残りの敵を撃破せよ》とは言われたものの、辺りの地上目標はすべて破壊し尽くされ、残骸しか残っていない。しかし、敵もまだ戦力を隠していた。何処からともなく、3機の不明機が姿を現す。速度からしてヘリコプターだ。旋回してMSSLをロックオン。2機のハインドを撃墜。残った1機は30mm砲を撃ちつつ高度を下げて逃げようとしたが、私はすれ違いざまにキャノピーを撃ち抜き、叩き落した。

 

《コリンズ、B隊は裏へ回れ!》《ラジャー! 》《A隊いくぞ!》

地上部隊の無線を聞くに、もう突入寸前らしい。あと5分以内に片が付くだろう。

ふとレーダーを見ると、国連軍の主力飛行隊“ジャベリン”“セイバー”がこちらに向かってきていた。F/A-18Eを用いる彼らが上空から援護してくれる。どんなイレギュラーが起きても大丈夫だと、私はこの時考えていた。

《プライベーティアって…》エッジのTACネームを持つ扶桑人らしいウィッチがつぶやく。《空賊が気になるのか、エッジ?》とのスラッシュからの問いに、《いえ、この程度かと思って》との返答。フラストレーションが溜まってきているのか、普段無口で無表情なブロンコも珍しく眉間にしわを寄せている。

《言ってくれるわね。確かに圧倒的に差がついちゃってるけど……》実際、私たちは重要目標のSAM管制レーダーを1基たりとも破壊できていない。既に無力化された発射機か、その他の優先度の低い目標を破壊しただけだった。

《こんなザコ敵じゃあ本気を見せられないんでね!》とオメガが強がり、《確かに手応えの無い敵ばかりだったわね》と、こういう時だけは気が合うのか、ヴァイパーも同意する。

 

しかし、私は全く別の事が気になっていた。あのウィッチ──エッジに、見覚えがあったのだ。大型のHMDに隠されて顔の上半分は見えないが、犬系らしい使い魔と髪型に見覚えがある。確かに知っている顔だ。ウィッチの知り合いなどほとんどいないが、昔関わったことのあるウィッチを思い出せるだけ思い出して見る。はっと、彼女の顔と名前が脳裏に浮かんだ。

「ケイ!」思わず、口に出してしまう。《!?ボーンアロー4、貴女、どうして私の名前を!?》やはり、間違いなかったようだ。いきなり名前を言い当てられ、驚いた彼女は一瞬バランスを崩した。

《…私よ、ほら、航空学生の時に同期だった》HMDを上げた私の顔を見て、数秒間思案した彼女は、《ああ!あの時の!》と叫んだ。どうやらあちらも思い出してくれたらしい。

《リーパー、リッジバックス2と知り合いなの!?》心底びっくりしたという感じでオメガが聞いてくる。《はい。私が扶桑で国防空軍の訓練生だったころの同期です》と手短に訳を話す。

 

実は私は、元々は扶桑国防空軍の航空学生だった。しかし、訓練途中で私はその道から外れることとなった。原因はユリシーズだ。復興予算に国防費を喰われ、新たにパイロットやウィッチを多数任官することができなくなった軍部は、一定未満──通常なら合格クラスだが──の成績の者に対し航空学生を除隊するよう求めたのだ。この際に、数多くのパイロット候補生が操縦技能不足や体力不足で除隊させられ、別の道を歩むことになったという。私の場合は操縦技能等に問題はなかった。だが、“協調性に大きく欠ける”という欠点を指摘されていた。それが原因で私は除隊させられてしまった。本来ならそこで私のウィッチとしての活動は終焉を迎えるはずだった。が、翌日に私の元を訪れてきたエクスウィッチ──グッドフェローが私を雇用したいといってきたのだ。軍への愛想を尽かしていた私は一も二もなくその話に飛びつき、即日扶桑国防空軍自体から除隊。数日後からはアローズ社で訓練を受けていた。

 

しかし、エッジ──永瀬ケイは違った。彼女は高い操縦技能と協調性、リーダーシップを発揮し、トップクラスの成績を収めて実戦部隊へ配備されたのだ。

 

 

《…まさかこんなところで会うなんて》こちらも向こうも意外な出会いにびっくりしているところに、地上部隊から交信が入る。

《目的施設の内部に入った。敵の反応は軽微。このまま進行する》

作戦終了まであと1歩のところまで来たらしい。でも、違和感を覚える。敵にとっての最重要防衛対象は“グレイメン”だ。それを守るはずの敵がほとんど抵抗をしていない?明らかにおかしい。

 

《こちらA隊、目標の部屋に接近。突入する!》ドアを蹴破る音が無線機越しに響き、数秒間荒々しい足音が続く。目標発見の報があるか、全員が耳を澄ませていた。

《こ、これは…》ベルツ中尉の驚いたような声。それきり無線が沈黙する。

 

《ベルツ中尉、どうした?報告を。…ベルツ中尉、報告を》帰ってきたのは、罵声交じりの絶望的な報告だった。

《くそッ!人質なんてどこにもいない!ここはもぬけの殻だ!》私の予感は的中してしまった。この警備の薄さは、そもそもここに防衛対象がいないという意味だったのだ。

 

「なーんだ、無駄足かあ」ホバリング状態で、頭の後ろで手を組んだオメガがぼやく。

 

 

 

 

 

 

 

その次の瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

空が、砕けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

衝撃波とともに現れた何か(・・)が、私たちの眼前で膨れ上がる。

 

全身に火が付きそうとも感じるほどの熱波に、耳が一時的に聞こえなくなるほどの爆音。

その何か(・・)が爆発したと私が認識できたのは、その数秒後だった。

 

 

《なんだ!?》状況を全く飲み込めないスカイ・アイが叫ぶ。

 

その次の瞬間、無線に届いたのは、友軍機の阿鼻叫喚だった。

 

《うわあっ!助けてくれ!制御が……》

《操縦不能!ベイルアウトする!》

《ちくしょう!機体が…》

《メーデー!メーデー!》

 

 

《どうしたの!?》今まで沈黙していたグッドフェローが無線に割り込む。

《なんだなんだ!?》ヴァイパーも、何が起こったのか分からないようだ。

 

《ジャベリン隊、セイバー隊、応答を!応答せよ!くそっ!》スカイ・アイが感情的に吐き捨てる。見ると、レーダーに20機近く映っていた味方戦闘機隊は、半数近くが一度に姿を消していた。

 

《何がどうなってるの!?誰か説明して!》オメガが喚き散らす。

 

《周囲を警戒しろ!フォーメーションは崩すな!》この中で最も経験豊富なスラッシュが混乱に陥ったリッジバックス隊を立て直そうとする。

更にもう1発が炸裂し、爆心地近くにいた1機のF/A-18Eが跡形もなく消し飛ばされる。

 

《こちらスカイ・アイ!全機に告ぐ!極超音速で飛来する物体を感知!ミサイルじゃない、遠方からの砲撃だ!高度を下げろ!》炸裂弾の嵐から身を守る方法は今の無線で分かった。しかし、ここは山岳地帯。下手に高度を下げれば地面に激突だ。

 

《地面にもぐれってでもいうの!?》オメガがスカイ・アイに問いただす。

 

《コマンド隊はその場で待機!上空の航空部隊は良い的になるぞ!》1人のウィッチ如きにかまってられないらしいスカイ・アイは彼女を無視する。私も、ギリギリまで高度を下げ回避を図る。「テレイン、テレイン、プルアップ!プルアップ!」と対地接近警報が鳴り響くほどの低高度に機体を下げるも、まだ高度が高いらしい。このままでは落とされてしまう!

 

《あの峡谷だ!あそこを抜けるしかない!》 私を追い越したヴァイパーが指す先には、戦闘機3機分ほどの幅しかない狭い峡谷が口を開けていた。

 

 

《アローズ全機へ!ヴァイパーを追って峡谷へ逃げ込みなさい!早く!》是非も無く、私はヴァイパーのすぐ後を追う。

《リッジバックス隊、付いて来い。私が先行する》それに続いてスラッシュが、さらにエッジが飛び込んでくる。少し遅れてオメガやブロンコ、リッジバックス隊の隊員らも谷へ飛び込んでくる。その間にも、第3撃、第4撃と砲撃は続き、高高度で右往左往していた戦闘機隊のうち少なくとも3機が機体を粉砕されたのがレーダーで分かった。

 

《高高度では敵の対空砲撃の餌食となる。これより最高高度を2600ftとする》とのスカイ・アイの言葉にぞっとする。わずか2600ftだと、眼下の川に手が届きそうな気さえしてくる。

 

《高高度にいる連中!今すぐ峡谷にもぐれ!》ヴァイパーが警告するも、彼らはいまだに躊躇していた。当然だ。戦闘機よりも遥かに小柄なウィッチでさえ谷間に飛び込むのには躊躇するのに、左右にわずか10mほどしか間隙がない彼らにとっては、自殺行為以外の何物とも感じられないだろう。

 

《ルーキー、落ち着きなさいよ!こういう時は高度計だけ気を付けて!下手に地面を見たら駄目よ!》オメガが低空飛行のアドバイスをくれるも、その声は震えていた。

 

 

《敵の第2射を感知。着弾予想地点と危険界のデータを各機に送る。カウント・ゼロまでに危険界から脱出せよ!》突如、視界が真っ赤に染まる。ここが危険界か!慌てて可変翼を畳み、フル加速してその場を離れる。

《5…4…3…2…インパクト!》同時に、渓谷の中で火球が現れる。爆風で岩壁にたたきつけられそうになるのを、急加速と旋回を駆使して回避する。

《ちょっと!峡谷の中にも撃ってくるじゃない!?》話が違うとばかりにオメガがスカイ・アイにがなり立てる。

 

《よく聞け、ボーンアロー2!先程の攻撃はレールガンと思われる。発射された砲弾は炸裂後、可燃ガスを拡散し広範囲の2次爆発を発生させるタイプだ。たとえ隠れても二次爆発の加害範囲からは免れない。最初の炸裂を目視したら直ちに爆心から離れ二次爆発の範囲を回避しろ!》

 

その言葉通り、渓谷の上で炸裂した砲弾の火球が渓谷の壁面を炙る。

 

《リッジバックス隊、そのままルートを維持!》余裕がないのか、スラッシュの声にも焦りがある。

 

《何機残ってる!?》オメガが後ろを振り向き戦闘機隊を心配するも、「前だけ見て」と言い残したブロンコに追い抜かされる。

 

《もう1発来るぞ!》もう何射目かもわからない砲撃が飛んでくる。

《いつになったら止むのよ!?》オメガが泣きそうな声で叫ぶ。

 

《5…4…3…2…インパクト!》今度は余裕をもって躱せた。

しかし、私の後ろを飛ぶ彼女(・・)には、そんな幸運はなかった。

 

 

《メーデー!メーデー!ボーンアロー2、アンエイブルコントロール!》

はっと後ろを振り向くと、オメガがストライカーから黒煙を吐き出し、よろめくように高度を落としていた。

《ボーンアロー2、イジェークト!》

次の瞬間、オメガの体からストライカーが分離し、白いパラシュートが開いた。

 

《ヴァイパー、オメガが!》《気にすんな!このぐらいならアイツは死なない!》ヴァイパーがベイルアウトしたオメガを気にする私を叱りつけ、もっと飛ばすように目で急かしてくる。

 

《5…4…3…2…インパクト!》さらにもう一射。今度は殿の戦闘機隊が巻き込まれた。

 

見える限りでも4機、ある者は火球に焼き尽くされ、、またある者は爆風で壁に叩きつけられ、ベイルアウトすることさえ出来ずに落ちていく。

 

《離脱ラインまであと15km。高度をそのまま維持しろ》まだそんなに、という気分が心の中を支配する。

《警告!至近弾飛来!》今度の危険界はやや前方。加速ではあそこを突破できない。私は可変翼とエアブレーキをいっぱいに開き、急減速。この時ばかりは、この可変翼が有難く思える。

 

《5…4…3…2…インパクト!》今度は3発がほぼ同時に眼前で炸裂する。このまま進んではあの火球の跡に飛び込むことになる。しかし、いつまでも失速寸前で飛んでいるわけにはいかない。危険を承知で、炸裂した火球が残した高温の空気と塵の中に飛び込む。視界はほぼゼロ。そして、僅か数秒後に私はこの選択を激しく後悔した。

 

HMDに映る警報。私はそれを一瞥し舌打ちする。右側のRB199魔動エンジンが爆風で吹き上げられた異物を吸い込み、出力低下を引き起こしていた。

 

《まもなく離脱ラインへ到達する!全機高度をそのまま維持しろ!》見ると、離脱ラインまではあと4キロほど。私は再び主翼を畳み、無事な方のエンジンを吹かして全速で突っ込む。

 

 

 

不意に、砲弾が炸裂する轟音が止んだ。

《…危険空域からの離脱を確認。敵の対空攻撃も沈黙している。全機、高度制限を解除する》

ようやく砲撃地獄から抜け出せたらしい。

《…もういや、こんなの》無口なのが特徴のブロンコも、不平を漏らしている。

 

《アローズ全機、報告を。リーパー、まだ生きてる?》疲労困憊した私の代わりに、ヴァイパーが答える。《ボーンアロー1,3,4を確認。ボーンアロー2は渓谷でベイルアウトした》

数秒の沈黙の後、ため息をついてグッドフェローが答える《ベルツ中尉に回収を要請するわ》

 

「……あれは一体なんだったんですか?」震える声で誰ともなしに呟く。

 

《現状では不明ね。レールガンといえば、アレ(・・)を思い出すけど……》

アレ(・・)か、……そうかもね》二人が言うものに、私も心当たりがある。

 

 

 

8門1セットの、人類史上最大の巨砲。全世界6ヶ所に点在する“厄災の記念碑”。

 

 

 

《…まともに編隊も組めん空賊連中のせいで、予想よりも遅くなった。スラッシュよりリッジバックス隊、帰還するぞ》最後の最後まで、スラッシュは私たちに憎まれ口を叩き通しだった。

《ラジャー。さよなら空賊さん》後半の台詞を私を見ながら言いつつ、エッジもそれに続く。

 

《ほんと、淡々としてるわねぇ……》ヴァイパーがぼそりと呟く。

 

 

《ヴァイパー、部隊の準備が整い始めたわね》グッドフェローが意味深なことを言う。

 

《リーパー、“エースへの道その4”を用意しといてあげるわ。ほんのちょっとだけきつめのやつだけど、大丈夫そうね》

 

聞き捨てならない台詞に、たまらず言い返す。《あの、それって私の前任がやらされてその後逃げ出したってやつじゃない…ですよね?》

その言葉にヴァイパーは、《さあね》と、笑いを噛み殺すように言った。

 

………絶対なにかヤバい奴だ、と私は直感したが、抗う術はなさそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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