INFINITY WITCHES ~無限大の魔女~   作:AGM-123

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Misson06 要塞アヴァロン ~ICBM破壊~

 

 

 

 

エリアM3A 大モンゴル帝国・オラーシャ国境 2020年3月3日1330時

 

 

《降って来たわね》白いものがちらほら舞い始めた空を見上げつつ、オメガがつぶやく。

 

《作戦行動を開始します!スカイ・アイ、再度作戦説明を》グッドフェローの言葉に、スカイ・アイは作戦概要の解説で答える。

 

私はそれを聞く代わりに、グッドフェローのブリーフィングを頭の中で反芻させていた。

 

 

 

数日前──

私は、自室で先の東京襲撃の事後報告書類を呼んでいた。半年近くがたって、ようやく報告書が上がってきたのだ。その間私達は成田飛行場に駐屯し、大きな損耗を出した国防軍の穴埋めとして哨戒などを行っていた。

報告書に話を戻すと、あの“白鯨”、正式名称「アイガイオン級重巡航管制機」は、某国で建造された長距離攻撃プラットフォーム兼空中空母であり、大型・高性能化で配備機数を節約しようとして過剰進化した空飛ぶ軍艦だそうだ。

“配備機数を節約”、つまりあんな化け物がもう何機かいるということらしい。もしそのすべてがユージアの手に落ちているとしたら、いや、製造技術や設備を入手しているとしてもとんでもないことだ。

 

そして“蝶使い”。彼女が駆るストライカーは、「CFA-44ノスフェラト」NATOコードネーム、ファンダンス。こちらも某国が開発した次世代型ステルス艦上戦闘機だ。

F-22やF-35よりも新しい5.5世代機であるらしく、レールガンや小型多連装ミサイルを搭載可能なまさしくオーパーツめいた代物ということだ。しかも、“蝶使い”が用いたものはその改造型であるという。

一体どんな改造が施されたか、それはまだ明らかになってはいないが、どうせろくなものではないだろう。書類をめくると、クオックスのレーザー兵器についての調査結果が載っていた。フライトヘルメット、もしくはウィッチのHMD類を識別し狙撃する画像認識機能があり、攻撃は接近すると自動的に行われる容赦なしの殺人兵器ということらしい。最新鋭のステルス機に、オートエイムレーザーUAV。全くとんでもない化け物の組み合わせだ。「サイコ野郎にバットモービルか」という、しばらく前に見た映画の台詞が脳裏をよぎる。

 

読み終えた書類を放り出し、別の書類を手に取る。こちらは、新規入隊したウィッチの履歴書だ。この前の、アローブレイズ編成の時に姿を見せていた見知らぬウィッチの1人。いままでどこかで基礎訓練を行い、次の作戦からボーンアロー隊で実戦をこなすらしい。銀髪のオラーシャ系で、かなり若い…いや、幼い容姿だ。14か15歳くらいだろうか?使用機種はMiG-29。AK-74をメインアームとして用いるとのことだが、彼女の5.45mm弾とオメガたちが使う5.56mm弾を共用できないのがつらいところか。彼女は私の後を継ぎ、ボーンアロー4として編入される予定らしい。

 

そこまで書類を読み進めると、突如館内放送で、「アローブレイズ所属員は、至急ブリーフィングルームへ集合せよ」と流れる。慌ただしくブリーフィングルームに向かうと、既にそこは満席に近い状態だった。

 

 

 

 

「先に言っておくわ。緊急事態よ」

そう前置きし、スクリーンの前に立つグッドフェローが切り出す。「エリアM3A、大モンゴル帝国とオラーシャ国境沿いの巨大ダムにミサイル実験施設が発見されたわ」彼女の声と同時に、画面にダムの3D画像が映し出される。

「この“アヴァロンダム”はヴェルナー社の管理施設でもあるわ」との解説に、「またヴェルナーかよ…」と誰かがぼやいた。

 

「ユージア軍がこのエリアに集結。放水され干上がったダム湖には、ミサイル発射設備及び対空兵器がその姿を現しているわ。これは重力式コンクリートダムを改造した鉄壁の巨大要塞よ。装備されたミサイルは、サイロの形状から大陸間弾道ミサイル(ICBM)と考えられるわ」

 

その言葉に、全員が一瞬凍り付く。究極の最終兵器ともいえるICBMが、通常弾頭を装備しているはずはない。

 

 

“弾頭は通常に非ず”。おそらく──核、それもメガトン級だ。一体何処を狙っているのか。

「万が一の自体に備え、オラーシャ領空にミサイル迎撃機AL-1Bが配備されているわ」それを聞いて、少しほっとしたような空気が流れる。機首にメガワット級レーザー兵器を搭載した4発機、あれがいるなら少しは安心できる。

 

 

「私達の任務は大陸間弾道ミサイルを発射前に破壊する航空阻止作戦よ。アローブレイズ各隊はオラーシャ側から侵入し、ダムに繋がる峡谷を抜ける予定です。峡谷内で高度を上げると、レーダーに捕捉され長距離防空ミサイルの餌食になるわ」

 

画面に映し出された許容される最高高度は、わずか1900ft(600m)。この前、ストーンヘンジの砲撃下から逃げた時よりも低い。後ろから、「スター・ウォーズじゃねえんだぞ…」と誰かがつぶやく声が聞こえる。

 

「低空のまま峡谷を突破して、ダム到着後は地上部隊が施設へ侵入、サイロへ続く通路を空けるはずよ。そうしたら、地下へ突入してミサイル施設を破壊しなさい」

 

ひときわ大きいざわめきが場を支配する。もし私達が聞き間違えをしていないのなら、地下のトンネルの内部を飛行してICBM発射台を破壊しろという意味に聞こえた。「おいおい、コマンダー・グッドフェロー。そりゃいくらなんでも冗談きついぜ!戦闘機でトンネルくぐりなんて、出来るもんか!?」戦闘機隊…どの隊のパイロットかはわからないが、我慢しきれなくなった誰かが大声を上げる。しかし、グッドフェローはそれを完全に無視し、ブリーフィングを締めくくる。

 

「高度な操縦技術が必要となる作戦よ。でも、幾多の戦場を駆け抜けてきた貴方達であれば

この作戦を成功させることができるはずだわ。戦果を期待します。以上よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

《こちらリッジバックス・リーダー。先に行かせてもらう》スラッシュ亡き後を引き継ぎ、新たなるリッジバックス隊隊長となったエッジが、私達に先行して高度を下げていく。

 

《こちらオメガ、新生ボーンアロー隊も負けちゃいないわよ!ねえ、リーパー隊長殿》

 

そう、ヴァイパーが去った後の隊長は、私だった。新たなボーンアロー4、TACネーム“ゼブ”を加えた私達も、リッジバックスの後を追う。

 

 

 

まずは前方を2機編隊で飛ぶMi-24にMSSLを放つ。爆発音を置き去りにし、今度は森の中に潜む車載型SAMを撃破。

 

《時間は無い。峡谷内の敵には構うな》とスカイ・アイは言うものの、自分たちを狙うSAMやAAガンを放置はできない。撃破確認もせずにMSSLを撃ち、ついでに30mm機関砲で格闘戦を挑んできたハインド2機をMk.48で掃射する。

 

渓谷の開けたところに出た瞬間、いきなりのレーダーロック警報。CAP中だったらしいMiG-21がヘッドオンで突っ込んでくる。1機は機銃で墜としたものの、もう1機は私の横をすり抜け、去っていく。しかし、そのMiGは突如機体から火を噴き墜ちていった。

 

《やったあ!ボーンアロー4、敵機撃墜!》やったのはゼブらしい。

《ほら、はしゃいでないで!下に戦車いるわよゼブ!吹っ飛ばして!》《ハイヨロコンデー!》初戦果に喜ぶゼブをオメガが急かし、対地攻撃を行わせる。

 

この開けた川の両岸の土地は敵の前哨基地として使用されているらしく、数両のBTR-80とT-90が配備されているのが見える。その合間を流れる川には、2隻の武装ボート。Kord重機関銃とKPV 重機関銃の曳光弾を躱しつつ、LAGMで戦車を、グレネードとMSSLでその他の地上車両を相手取る。

 

《フルスロットルで突き抜ける!》そう叫んだオメガは駆け付けたMiG-29をHCAAで追い払い、川の上を低空で飛行していく。

 

《各機急ぐぞ!》エッジも早々にここの戦線を離脱し、アヴァロンへ向かっていく。

 

私もMiGに機銃で牽制をかけてから再び狭い渓谷へ突っ込む。

 

《全機先を急げ!可能な限り敵機との戦闘は回避せよ!》あと1分半以内にダムまでたどり着かなければならない。敵機が応戦しづらい低空を縫って飛ぶも、やはり何機かはついてくる。しかし、彼らは撃墜困難な私達よりも、もっとやりやすい相手に目をつけたようだ。

 

《ジャベリン3ダウン!》《レイピア4も落ちた!》国連軍機2機がたちまちのうちに撃墜されたという知らせ。

《サルベージ1、ミサイルだ!回避しろ!》《くそ!くそったれ!食らった!まだやれる!まだやれる!》

さらに敵機を避けようと不用意に高度を上げてしまった1機が、長距離防空ミサイルに被弾する。

 

 

《リッジバックス各機、無事か!?》頭上をかすめて飛んで行ったミサイルと後方からの爆発音に、エッジが確認を入れる。幸いにもリッジバックスもボーンアローもまだ1発も喰らっていない。

 

《この先に敵のレーダーサイトがある。それを破壊すれば高度制限の解除が可能だ。全部隊、 ターゲットの破壊を急げ!》巨大なゴルフボールのようなレーダーサイトをロックオン。被弾することなど想定されていないレーダーはLAGMの直撃を受けた瞬間、もろくも爆発した。さらに反対側にあるもう1基には、エッジがミサイルを撃ち込んで破壊する。

 

《レーダーサイトの破壊を確認。高度制限解除!各機散開!周囲の敵を排除しろ!》

 

《先に抜けたのはどっちだ!?》銃声交じりの地上部隊の無線が聞こえてくる。《無限大のマーク、リボン付きの死神だ!》

 

 

どうやら私は、ただの死神から、“リボン付きの死神”にランクアップさせられたようだ。あんな低空で飛んでいたとはいえ、よく私のパーソナルマークが見えたなと思いつつ、レーダーを確認する。

 

…多すぎる。ダム本体を縁取るように配備された10基以上の対空砲。さらにダムの底には20両以上の車両がうごめき、最低8機の敵機がいる。

 

 

《今、地上部隊が要塞突入のため施設のセキュリティへ侵入している。その間にまずはこの戦域の敵を排除しろ。時間には限りがある》スカイ・アイからの指示を聞きつつ、私はまずダム上部の対空砲群を始末する。分厚いセメントに開けられた穴から火線が伸びるが、さすがに対空砲の精度では人間大の標的である私には当てられない。落ち着いて1基づづMSSLで撃破する。

 

 

《こちらコマンド隊コリンズ!航空支援、よろしく頼む》聞きなれたコリンズ軍曹の声。突入しているのはやはり彼らの隊か。

 

《やるよ隊長!一本線には負けられない!》オメガが叫びつつ、MiG-21を1機墜とす。私はダム湖の底を走ってくるBTR-80と自走式対空砲に機銃掃射を行う。

 

《リッジバックス隊、遅れをとるな!》エッジ達も負けてはいない。すでに複数の敵機を落とし、対空砲塔の1基を沈黙させている。

 

 

《要塞前面の敵はほぼ排除した。次は要塞本隊を叩け》ひとまず地上部隊の直接の脅威となる手近な車両を撃破すると、今度は要塞のあちこちにある対空砲塔に攻撃を仕掛ける。

 

 

《何よここ!?立派な大要塞じゃない!》オメガががなりつつ、自らをロックオンしてきたMiG-31を撃墜する。見ると、ダム湖の底のコンクリート地盤に、数基の固定式SAMが備え付けられている。やはり間違いない。このダムは最初から要塞として建造されていたのだ。

 

でなければ、あんな対空砲塔までもを持っているはずがない。ダム湖のSAMも、対空砲塔も、建造にはそれなり以上の時間が掛かる。やはりヴェルナー社は、元から世界に向けて戦争を仕掛ける気だったのか。

 

 

上空で2機のJAS-39が撃ち落とされる。《よっしゃー!ここは私達死神部隊が頂いたぁ!》そう叫んだのはゼブだ。喋りつつも彼女はAKでさらにF-15S/MTDを相手している。敵に新鋭機が多いのは、やはりここが重要拠点だからだろうか。AAアヴィエーション・プラントが敵にもあるとは言え、これだけの機を運用できる兵站があると言うこと自体が空恐ろしい。

 

 

無駄な思考を振り切り、私は低空の敵に専念することにした。目の前のKa-50をロックオン。2機をMSSLで、残りをMk.48で落とす。特徴的な単座2重反転ローターの戦闘ヘリが、地面に叩きつけられ爆ぜる。

 

更にT-90とBTR-80が2両づつダムに向かっていたところを、LAGMとグレネードの併用で倒す。

 

 

《壁の向こうで待ち構えているぞ!C-4用意!》《突破するぞ!たまには空の連中に貸しをつくってやれ!》《パッキー、4人連れて退路を確保!チコ、ラッツは私に続け!》《ニャ!》

地上部隊の奮戦が、無線越しに聞こえてくる。彼らの無事を、私達は祈るしかない。

 

 

無謀にもあんな旋回半径でドッグファイトを挑んできたMiG-31を相手に機銃で勝負を仕掛けると、混戦したのか、《あれは死神か!?こんなところまで来るのか!》と無線が聞こえる。

 

味方内だけでなく、敵にまで私の異名が知れ渡っているとは、少し意外だった。

 

 

MiG-31のキャノピーを吹き飛ばし、さらに2機編隊でやってきたF-15S/MTDをMSSLで撃墜する。私と同じ機体だが、彼らのはグレー系ロービジ迷彩。フォールスキャノピーを描いた機体が落ちていくのを見て、私の機体が未だ塗り直されていないのを思い出す。このトリコロールカラーは目立つが、もしかしたらこれが“死神”の目印になっているのかもしれない。なら、逆に好都合だ。居るだけで敵を怖じ気づかせられる。

 

 

そんなことを思いつつ、眼下の2両の戦車にMSSLを撃ち込む。気づけば、残りの敵はMiG-31とF-15S/MTDが各1機づづだけ。高速性能を活かして逃げ惑っていたMiGをオメガが、高い機動力を持ってドッグファイトに持ち込もうとしたF-15S/MTDをエッジがそれぞれ撃墜する。

 

レーダーに映るのは友軍機のみ。後は、地上部隊の作戦完了を待つだけだ。

 

 

《第2コントロールルーム占拠完了!》

《C隊はそのまま待機!他は中央コントロールルームへ向かえ!》

この場にいる全員が、地上部隊の無線に耳を澄ませていることだろう。

《中央コントロールルームに入った!これよりセキュリティ解除を始める》

《奴らすぐコントロールルームを奪い返しに来るぞ!》

 

数秒後、銃声が無線に交じる。

《コントロールルームエントランスに敵兵!クレイモアを起爆しろ!》とたんに漏れ聞こえる爆発音と悲鳴。700個もの鉄球を撒き散らす指向性地雷は、大きな損害を敵にもたらしたようだ。

 

《こちらコマンド部隊コリンズ!セキュリティ解除成功!空けるぞ!》

待ち望んだ無線が、聞こえてくる。

 

 

《地上部隊が要塞のシステムを掌握した。要塞のシャッターが開放されるぞ!》スカイ・アイが言うと同時に、レーダーに地下の目標が映る。

しかし、次の瞬間、辺り一面に重々しいサイレンが鳴り響いた。

 

 

《…まずいぞ!こちらコリンズ!ICBMのカウントダウンシーケンスを確認!》このサイレンは、ICBMの発射合図か。おそらく、サブ的なコントロール設備があったか、異常な操作を感知したら自動で発射する設定になっていたかのどちらかだろう。いや、そんなことを考えている場合ではない。

 

 

《こちらの予想より早い!至急航空部隊の突入を要請する!》コリンズ軍曹の懇願に近い要請に、スカイ・アイが私達への命令で答える。

《スカイ・アイから全機、よく聞け!施設には2本の地下通路があり、それぞれ2箇所の進入口がある。ICBM発射制御施設はそれぞれに2基、全部で4基だ。確実に破壊しろ!》なら話は早い。片方から入って、もう片方から出る。トンネル内でのUターンを覚悟していた私は胸をなで下ろした。

 

《グッドフェローからリーパー、時間はないわ。貴女が先陣を切りなさい!》

《カウントダウンはもう開始されている。ボーンアロー1、突入せよ!》

 

スカイ・アイとグッドフェローが同時に私を急かすが、その言葉を聞く前に私はすでに地下通路に侵入していた。入口は巨大な側溝のようにも見えたが、その先はまさにトンネルだった。低圧ナトリウムランプのオレンジ色の光が照らし出す、四方を分厚いコンクリートで囲まれた空間。

その片隅に、巨大な筒状のもの…ICBMが鎮座している。残り時間は3分ほど。再突入して反復攻撃をする時間はないと判断した私は、確実な撃破を狙いLAGMを2発撃ち込む。至近距離で起きた爆発で、私も壁にぶつかりそうになるが、エルロンとカナードを駆使して躱す。

 

私には閉所恐怖症の気はないはずなのに、無性に恐ろしさが襲ってくる。さらに、トンネルに航空機で突入されることを予測していたのか、CIWSに似たような形の防護機銃までもがあった。MSSL1発でそれを片づけ、その奥にあるもう1機のICBMを破壊する。

 

すると、MiG-29がトンネル内でヘッドオンを仕掛けてきた。なんて無謀なパイロットだと恐怖を覚えつつ、30mm砲弾をまき散らすMiGをバレルロールで回避。私とすれ違ったMiG-29は破壊されたICBMの爆煙に惑わされ、壁面に突っ込んでしまった。

 

 

《A隊はそのまま待機!C隊、B隊、要塞から脱出しろ!死神が入ってくるぞ!急げ!》

 

地上部隊も脱出を始めたらしい。

 

1本目のトンネルを抜けた先で、Mi-24がホバリングして待ち構えていたが、1機を機銃で、もう1機をMSSLで落とす。残りのMi-24は、エッジが落としてくれた。しかしこれでMSSLは弾切れ。後はLAGMと銃器類のみ。

 

 

 

 

上空で反転し、2本目の通路に飛び込む。残り時間はあと2分半。前と同じく、LAGM2発で破壊する。《ICBM破壊、残り1。次で最後だ!》

 

 

『発射まで120秒』辺り一面に響き渡る無機質な合成音声が、嫌な汗を背中に流す。

 

 

最後の1機にLAGMを撃ち込んだ時だった。ICBMの基部から、爆発が連鎖するようにトンネル内に広がる。爆炎に触れる寸前、トンネルから空中に躍り出る。液体燃料の供給パイプに引火したのかそれとも別の何かか、定かではなかったが冷や汗ものだった。

 

《全ICBMの破壊を確認!よくやったリーパー!》《やったあ!》スカイ・アイが嬉しそうに叫び、オメガがガッツポーズをする。

 

《……まだだ!》しかし、コリンズ軍曹の言葉が、その喜びを吹き飛ばした。

 

《なっ…!熱源反応を感知!》熱源…まさか、5基目か!?

 

《くそっ!4基のICBMはフェイクだ!奴ら本命を隠してやがった!》次の瞬間、ダムの脇の山地から、1発のミサイルが炎の尾を引いて空へ飛んでいく。

 

 

《迎撃システムはどうなの!》グッドフェローがスカイ・アイを問い詰める。

 

《ダメです!オラーシャ領空に配備していたAL-1Bは所属不明機の攻撃により撃墜された模様!ブースト・フェイズでの迎撃は不可能!くそっ!》スカイ・アイが取り乱したように叫ぶ。

 

 

これまで、か…。私達の心の中を、絶望が支配しかけた時だった。

 

《…まだよ!うちのエースたちなら追いつける!行きなさい!!》

 

 

《残燃料が減って加速度が大きくなる前に落とせ!急げ!》グッドフェローの思惑を理解したスカイ・アイが私達を急かす。

 

《私達も行くぞ!》ボーンアローとリッジバックス、8人のウィッチ達ができる限りの急角度で───ほぼ垂直に上昇していく。

 

 

撃墜不能になるまで、あと1分。

 

 

《間に合ってよ!》オメガが叫ぶ。

《ぐう…、無理!追いつけない!》まずブロンコが離脱した。彼女の駆るF-16Eは単発機。元々ICBMに追いつく推力はない。

《加速度が上がっている!》スカイ・アイが、絶望的な声で叫ぶ。

《ぐっ……機体が持たない!引き離される!》今度は、リッジバックス3が脱落した。

《くそっ!着氷した!着氷した!》オメガも、悔しげにがなりつつ高度を落とす。

《もっと速く……もっと高く……!クッ!》エッジも、Gに悶え苦しむ。

 

《ダメか……次々と脱落していく……》地上部隊か、諦観したような声が聞こえるが、無視だ。

《リーパー、至近距離についているのは貴女だけよ!》

《限界高度まであとわずかだ!急いでくれ、リーパー!》

 

もうMSSLはない。LAGMでの対空攻撃は不可能。ならいっそのこと…。私は、最後の賭けに出た。

 

 

翼下に残ったLAGMを投棄、アーウェン37も捨てる。グレネードの予備弾が固定してある弾帯ベルトもだ。さらにMk.23をピストルホルスターごと捨て、ついでに、Mk.48のベルトリンクマガジンの予備も捨てる。どうせ再装填するような暇はない。捨てられるものをすべて捨て軽量化されたF-15S/MTDは、じわじわとICBMに近づく。

視界が黒く、狭まっていく。オーバーGの警報が出るHMDも、邪魔だとばかりに脱ぎ捨て、放り出す。

 

 

ブラックアウトの症状が出ても、私はそれを気にすることさえしなかった。

 

《限界高度に到達するぞ!最後のチャンスだ!》その声を合図に、私はMk.48のトリガーを引いた。

すでにブラックアウトは深刻になり、視界はほぼなかった。真っ黒に染まった中にわずかに残った中央部の視野を頼りに、私は、ICBMが飛んでいると思しき場所を掃射した。弾帯に残っていた約30発を、全て撃ち尽くす。

 

手ごたえは、あった。

 

一瞬、G-LOCで失神した私は、爆発音で意識を取り戻した。

 

 

 

 

 

《ICBMの破壊を確認!もうちょっと近ければ私からも見えたかもしれんな》スカイ・アイの言葉に、成功したのかと他人事のような感慨を抱く。

 

《イヤッホー!でっかい花火だ!》オメガが、今度こそ嬉しそうに叫ぶ。

《よくやったわねリーパー!》《今回も彼女に助けられたか》グッドフェローとスカイ・アイが同時に喋る。

 

《地上からも破壊を確認した!“死神の下は安全地帯”か》コリンズ軍曹の声に、ようやく実感がわいてくる。

 

エッジも、一安心とばかりにため息をつく。

 

《リッジバックス隊、帰還する。リーパー、勝負は次へ持ち越しよ》

そう言い残し、エッジ達は去っていった。

 

私達も帰投へ向けて進路を取る。あまりにも無茶な機動をさせたF-15S/MTDは、機体のあちこちからオイルを漏らし、嫌な軋みを挙げていた。

失神したときに取り落としたのか、Mk.48も手元になかった。不調となった機体をあやすように飛ばし、私達はアヴァロンを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

その後のデブリーフィングでは、ICBMの標的がワシントンD.C.に設定されていたということ、つまり、ユージアがリベリオン侵攻に乗り出したということが報告されたらしい。

 

が、私はそれを聞かなかった。いや、聞けなかった。

 

 

 

 

 

原因は、無茶な使い方をしたストライカーだった。

 

 

 

 

「…んで、その結果がこれかぁ?」恐縮しきる私を、殺気を籠めた目線でぎろりと睨みつけたのは、整備班長だった。

彼の目の前には、私のストライカーが置かれていた。機体各部が漏れ出たオイルで汚れ、数ヶ所の外板やアクセスハッチが剥がれて内部の構造材がのぞいてしまっている。

 

「あーあ。鳥坂先輩、これ直りますかね?パーツだってあるかどうか見当もつかないし」

「だーいじょうぶ!まーかせて!工賃その他もろもろはパイロットに請求するから、あとは良きに計らえよ」

長髪眼鏡の男性整備員と小柄な女性整備員が修理方法について話し込んでいる。

 

 

彼らを見やった整備班長、作業帽とサングラスがトレードマークの、もはや老人といっても差し支えない彼は一つため息をつき、「まったく、HMDはどっかに無くしてくる、各部駆動用モーターは過加重でお釈迦、外板数か所に皺及び欠損、エンジンは過負荷でオーバーヒート寸前、フレームも歪んでるかもしれねえ。しばらくは飛べねえぞ」と言った。

 

「俺はな、あきれ果てたぞ。おめえ、2番機のバカでも移ったか!?」と説教が始まり、「まあまあおやっさん、何もそこまで…」と止めようとした整備主任も、「シゲ!お前は黙ってろ!」と跳ね除けられ、結局私はデブリーフィングの間中ずっとハンガーで班長の有り難い(・・・・)お説教を聞かされる羽目になったのだ。

 

 

 

ようやく解放された私がブリーフィングルームに向かうと、オメガ、ブロンコ、ゼブの三人が思い思いに休息を過ごしていた。

オメガはブリーフィングルーム端のテレビにゲーム機を接続し、ウイルステロによって荒廃したニューヨークで脱獄囚と戦っていた。ブロンコはテーブルに突っ伏し、何かの料理───おそらく彼女の好物、ヒヨコマメのコロッケを食べながらPCで動画を見ている。

画面の"This is a true story. It is based on official reports and eyewitness accounts.(これは実話であり、公式記録、専門家の分析、関係者の証言を元に構成しています)"のテロップを見るに、とある航空事故検証ドキュメンタリー番組を見ているようだ。

ゼブはというとこちらはスマホで何かを読んでいる。見ると有名なSNS連載の小説だ。ちらりと見えた所は、主人公が冷蔵庫から5回バク転で飛び出してきたシーンだった。

 

私も自室に帰って読みかけの小説でも読もうかと考えていると、ブリーフィングルームにやってきたグッドフェローに名前を呼ばれた。

どうやら代替機のついての話があるようだ。

 

 

 

 

「F-15S/MTDは予備パーツが希少だから、次回のミッションまでには間違いなく修理が終わらないわね」

わかってはいたが、はっきり言われるとやはりがっくり来る。紛失した銃器の再購入費と合わせて、今回の出費は嵩みそうだ。

「そこで1ついい知らせがあるんだけど、リベリオン政府がユニットの貸与を申し出たわ。それを使ってもらうことになりそうよ」

 

今回のICBM攻撃で対岸の火事ではいられなくなったリベリオンが、自国製のユニットを提供し、その対価として防衛を依頼してきたのだという。

リベリオン製のユニットで私達に貸与される可能性のあるものとなると、今使っているF-15S/MTDの原型機であるF-15Cかその発展型のF-15EかF-15X、ブロンコが使っているものと同じF-16シリーズ、はたまた海軍・海兵隊機のF/A-18EかF/A-18Cくらいか。可能性は低いが、F-35シリーズも有り得るかもしれない。

どれが貸与されるのか考えていると、それを悟ったのかグッドフェローが私を格納庫に連れていく。

 

 

格納庫には、すでにそのストライカーがカバーに覆われて鎮座していた。グッドフェローが近くにいた整備員に命じ、そのカバーを外させる。

その下から現れたストライカーは、私の想像を超えるものだった。

 

 

 

 

外側に傾いた2枚の垂直尾翼。

 

 

六角形に近い形の主翼と、それに滑らかに繋げられた凹凸の少ない胴体。

 

 

ステルス性を強く意識した、平行四辺形型のエアインテイク。

 

 

そして、2次元推力偏向式ノズルのついた双発エンジン。

 

 

 

 

私の目の前に現れたのは、史上最強と名高いステルス制空戦闘脚、開発メーカーが「航空支配戦闘機」を自称する“F-22Aラプター”だった。

 

 

「…どうしてこんな最新鋭機を!?というか、これ輸出禁止だったはずじゃ…」と驚く私に、「まあ、首都に核撃ち込まれかけたらだれだって怖気づく。そういうことよ」とだけ言ったグッドフェローは、私にF-22の運用マニュアルを手渡し、去っていった。

 

次の出撃が何時かはわからないが、それまでに覚えておけということだろう。気が滅入りそうなほど分厚いマニュアルを片手に、私は宿舎へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





◎キャラ解説コーナー

・長髪眼鏡の男性整備員:某光画部の「敗北を知らぬ男」。ちなみに某機動警察では整備員として登場していた。

・小柄な女性整備員:同じく某光画部の「皆勤賞」。

・整備班長:某特車二課整備班長。作者的には整備員と言えばこの人。

・シゲ:某特車二課整備班主任。


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