この心も縫い上げて   作:茜崎良衣菜

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気づく想い

 

 

少しだけ、君を見る目が変わったように思う。

 

学校ですれ違う時笑いかけてくれる。

店で会ってどうでもいい世間話に花を咲かせてくれる。

生地を選んでいる時の真剣な表情にドキッとして。

好きなもののことを話している時の口数の多さに嬉しくなって。

何よりも君に会いたいと思ってしまう。

 

 

前まではなかったはずの変化に戸惑って、だけどそれが嫌なわけじゃなくて。

何が原因なのかはわかっている。けどそうだっていう確証はない。

 

確証がないというよりも誰かにその感情を抱いたことがないから。だからこそどうすればいいのかわからない。

誰かに相談するにしても気恥ずかしい。

吐き出し口のない想いはあたしの中をぐるぐる回っていた。

 

 

 

「珍しく悩んだ顔してんな」

 

「え?」

 

 

 

声が聞こえて顔を上げればそこにいたのはクラスメイトだった。教科書と筆記用具を手にあたしのことを机の前から見下ろしている。

 

 

 

「次、移動教室だぞ」

 

「え、あ、そうだった。ありがとう」

 

 

 

教室の中にはあたしたちしかいなかった。見た目は腕なんかに包帯を巻いて不良でしかないのにこうやって教えてくれる辺り彼女は心優しい人だ。

ロッカーから次の授業の教科書を取り出して準備をする。

 

 

 

「そんで?」

 

「へ?」

 

「一体何に悩んでるわけ?」

 

 

 

唐突な質問。彼女はあたしの真後ろにいて顔を真剣な顔で覗き込んでいた。

 

 

 

「な、何の話?別に悩み事なんて……」

 

「嘘つくなよ。今更笑顔の下に隠したって無駄だぞ」

 

 

 

彼女が察しのいいことを忘れていた。一度違う表情を見せたら全部聞きだすまで放してくれなさそうだ。

そう言えば最近、恋人ができたんだと松原さん経由で聞いた。まあなんか曖昧な関係で、恋人って言うより両想いって方が正しいらしいけどどっちも似たようなものだよね。

 

 

 

「聞いてやるから、全部吐き出せよ」

 

 

 

優しい口調で言うのはずるい。

悩みを聞いてほしくなっちゃうじゃん。

 

 

 

「……あのさ、好きって何だと思う」

 

 

 

哲学的なことを投げてしまった。

 

 

 

「わからないんだ。好きって気持ちが。

 

友だちに抱く好きって気持ち。

趣味に対する好きって気持ち。

恋愛対象への好きって気持ち。

何が違うんだろう。

 

なんでそんな変化が生まれるのか。ずっと好きって感情は同じだったからこれが恋愛的な好きで合ってるのかわからなくて、だからこそ好きだと言っていいのか不安なんだ。

 

ねえ、恋愛の好きと友だちの好きって何が違うの?何がどう違うの?」

 

 

 

こんな質問彼女を困らせるだけだと知っている。それでも止められないのは彼女が吐き出す許可をしたから。

わからない感情は聞かないと経験値の少ないあたしはわからないままだ。

 

 

 

「……そんなの、人それぞれだろ」

 

 

 

返ってきたのは想定外の答えだった。

 

 

 

「好きの定義なんて人それぞれ違う。何が好きなのかは本人しかわからないことだ。到底他人の私たちにはわかりやしない」

 

「……まあ、そうだよね」

 

「……お前はその子のどんなところを見たいと思う?」

 

「へ?」

 

「何かで活躍してるところ、何かを頑張っているところ、何かに挑戦しているところ。色々あるだろ。かっこいいところだとかかわいいところだとか。どんな表情を見たい?」

 

 

 

あたしが見たい燐子ちゃんの姿。

優美な微笑み。

衣装に対する真剣な姿勢。

キーボードを弾いている時の美しさ、かっこよさ。

すぐに照れちゃうかわいさ。

楽しそうに笑う顔。

レアな装備を手に入れて喜ぶ声。

洋服をあげた時の嬉しそうな顔。

 

 

燐子ちゃんが見せてくれる表情は何もかも全部好きで。

 

いつでもどんな時でもあたしを頼って、一番に相談してくれて、楽しい時間を共有できたら最高で、そうなってほしいと望んでいる。

 

 

 

「全部、あたしだけが見ていたい知っていたい。あの子の隣でずっと、色んな表情を見ていたい」

 

 

 

泣きそうな顔も、何かに悩んでいる顔も、辛そうな顔も、あたしだけが独占したい。

その表情の後に見られるとびっきりの笑顔を見たい。

普段から見せてくれる微笑みに癒されたい。

優しい言葉をかけてほしい。

ずっと隣にいられる権利が欲しくて。

ただ隣で笑っていられたら幸せで。

 

ああ。そっか。これが恋ってやつなんだ。

 

 

 

「なら地団駄踏んでる場合じゃねえぞ」

 

「うん。ありがとう。話聞いてくれて」

 

「別に」

 

 

 

素っ気ない返事をして教室を出ていく彼女の背中を追う。「照れ屋だね」とからかえば「二度と話さねぇ」と言われてしまった。冗談だよと笑い返す。

 

 

 

あたしは燐子ちゃんのことが好き。

今なら自信を持ってそう言えるよ。

 

 

心のもやもやが晴れたからかとても軽い足取りだった。

今ならなんでもできてしまいそうだと思った。

 

 

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