「ねえ燐子ちゃん、今度の日曜日なんだけど…」
「……す、すみません……その日は、あこちゃんと……予定が……」
「っ……そっか。なら仕方ないね!」
最近よくあこちゃんとの予定があるからと燐子ちゃんを誘っても断られることが多くなった。けど放課後に見たことは関係なしに先に予定を立てているのはあこちゃんなのだから仕方ないと思っていた。
そんなことを思いながら迎えた日曜日。あたしは燐子ちゃんと一緒に来ようと思っていたショッピングモールに一人来ていた。一人で来ていたし買うものも決まっていたからすぐに買い物は終わった。燐子ちゃんと来たかったのは燐子ちゃんに似合う服を選びたかったからという私的な理由だけ。
買い物を終えて帰ろと思った時、店の陰から現れたのは燐子ちゃんだった。ここで会うということは燐子ちゃんも買い物に来ていたんだろう。
声を掛けようとした近づいたあたし。
そこに現れたのはあこちゃんだった。
「っ……!?」
それにあたしは驚いた。目を見開いてその場から動けなくなった。
これが普段学校で会っている時だったら何も思っていなかっただろう。
だが状況が状況だった。
二人は手をつないでいた。それも俗に言う恋人つなぎというやつ。
瞬時に察して、冷静になる自分に嫌気が差した。
あぁ、そういうこと。そうだよね。付き合ってたんならあたしに構ってる暇ないもんね。
今までの行動も全部必然だったんだ。好きな人と友達を比べたら当然好きな人を優先するよね。
気持ちはわかるよ。好きな人と付き合えたら舞い上がるもんね。きっとあたしもキミと付き合えていたら舞い上がったと思う。
だから燐子ちゃんは何も悪くない。何も間違ってない。
けどさ、もしそうだったとしても、教えてくれたっていいじゃん。
燐子ちゃんの口から直接あたしに付き合ってるって言ってくれたっていいじゃん。
どうして言ってくれなかったの。
あたしに、色々聞いてきたのに。
あたしの好きな人があたしのよく知らない人に知らない笑顔で笑いかけている。
あたしはその二人をただ見つめた。
「あっ!かな姉!何してるの?お買い物?」
あたしの存在に気付いたあこちゃんが燐子ちゃんから離れてあたしに近づいてくる。
やめてよ。そんな純真そうな笑顔であたしに駆け寄らないで。それじゃあ仕方ないって。あたしの恋は叶わないものだって。最初から負け戦だったって思っちゃうでしょ。
「……顔色、悪そうですけど……大丈夫…ですか……?」
「ん?何が?大丈夫だよ」
そんなわけない。胸が痛い。
結ばれることのない恋にずっと悩んでいた。それが悔しくて。でもあこちゃんみたいにいい子なら選ばれても当然だと思えて。
ダメだよ。笑わなきゃ。傷ついた表情なんてできない。
だってあたしは何があっても燐子ちゃんの隣に、ずっと__。
「……燐子ちゃん、おめでとう」
あたしの言葉に驚き、そして恥ずかしそうに視線を逸らした燐子ちゃんだけどすぐにあたしに笑顔を向けてお礼を言った。
____あぁ、よかった。ちゃんと笑えてた。
♢♢♢
ただ彼女に喜んでもらえることが嬉しかった。
「改めておめでとう燐子ちゃん」
「……ありがとう、ございます……」
休日あたしの店に来た燐子ちゃんはあたしの言葉を聞いて照れたのか顔を赤くする。
正直、そんな表情は見たくなかった。
あたしの目の前で幸せそうに笑わないでほしかった。
「……それで……相談が、あるんですけど……」
スリーサイズだけじゃなくて人の心まで測れるようになって困るのはあたしだとわかっているのに。
気づいてしまったら引き返せない。
「そっか。今度デート行くんだね」
「……はい……それで、オススメの場所と……洋服を選んでほしくて……」
「どんな場所でも服でもあこちゃんは喜んでくれると思うけど」
「……あこちゃんに……かわいい姿を、見せたくて……」
最後の方は消え入りそうな声で耳まで染まったキミが俯いた。
ホント、見たくなかった。
あたしへの感情であってほしかった。
あたしは顎に手を当てて考える素振りを見せる。
笑顔で、傷ついた心を隠して、燐子ちゃん気づかれないようにすればいい。簡単だ。
いつも他のお客さんにやってるんだから。
修復個所に布を当てて縫い上げればいい。他と遜色ないように丁寧に。
いつの間にか傷を隠すために縫い続けたアタシの心はボロボロで、誰が見たって縫い目がわかるくらい適当に修復していて。
それでも君に気付かれていないのならばそれだけで完璧で。
いつの日か、バレてしまうと思うと怖くて仕方ない。
キミが離れていく未来を想像して泣いて。
キミはアタシにとっての太陽なのだと思い知る。
キミが離れないように関係を繋ぎ止めておきたくて。
「うん。あたしに任せてよ!」
思ってもない言葉で着飾って。
自分を取り繕って。
今日も当たり障りのない笑顔を向けた。
キミの前ではちゃんと笑わなきゃ。
裁縫は得意だから。
この心も、縫い上げてしまおう。
きっとそれが、正解なんだから。
「あ、結構時間経ってるね。今日確かRoseliaの練習あるんでしょ?」
「……はい……もう、行かないと……」
「頑張って。応援してるよ。それと、アイディア思いついたら連絡するね」
店から出て行く燐子ちゃんに手を振る。振り返して微笑むキミにあたしは笑った。
その表情、好きだなぁ。
その声は誰かに聞かれることはない。
燐子ちゃんがいなくなった店にはあたしだけがいた。
他には誰もいない。
ただ開閉された時の呼び鈴が響く。
まるで一人だけ別の空間に取り残されたかのような気分だった。
出会いは突然だった。
キミがあたしの店に訪れて常連になって。
学校では話さないあたしたちが話せる場所。
あたしたちだけの秘密のように感じて。
日に日に増えていく知らない表情。
ドキドキして、増えるたびに嬉しくて。
あたしを信頼してくれているのがわかるから。
からかって照れちゃうキミが可愛いから。
初めて恋をした。
隣にいるだけで元気を貰える人がいるって知った。
毎日、違う表情をするキミが大好きで。大切で。
だからこそ、実る未来以外を想像していなかった。
キミはあたしを好きになってくれるって信じて疑わなかった。
そんなはずないのにね。
ばかだなぁ。
心の底からキミのことが大好きなのに。
これは叶わないんだから。
諦めたいのに諦めきれないなんて。
どうしてくれるのさホント。
キミへの想いは溢れる。
この言葉がキミに届かないとわかっている。
絶対に振り向いてくれないこともわかってる。
それでもあたしはキミのことが__。
「__大好きだよ」
誰にも届かないその想いは店内に響いて、あたしに響いて、消えなかった。
流れる涙も気にできるほどの余裕なんてなかった。
初めての感情は、涙のように流れて消えてはくれない。
消えてくれたら楽なのに。
それを叶えてくれるほど神様ってのは優しくないみたいだ。
夏はまだ始まったばかりなのに。
あたしの青春はそっと幕を閉じた。
これにて「この心も縫い上げて」は完結になります。
今まで応援してくださった皆様ありがとうございました。