やはり俺が部隊を率いるのは間違っている。   作:コノハアサシン

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次いつ出せるか分からないので、出せるウチに出します。


第四話

朝から忙しかったが、今は体育の時間だ。

月が替わると体育の種目も変わる。

今月からはテニスかサッカーの選択だったが、信頼関係のないチームプレイは苦手なのでテニスを選択した。

俺はここで、調子が良くない事とクラスメイトに迷惑をかけたくないというダブル文句で、先生の印象を下げずに一人プレイ(壁打ち)を始めることに成功した。

 

完璧すぎる……。

 

打球を追ってただ正確に打ち返すだけのまるで作業のような時間が続く。

こんなもの弾丸トリガーを捌くトレーニングと比べれば造作もない。

 

周囲が派手な打ち合いで騒ぎ始めたので、雑音を気にしないためにテニスボールを少々、大きなアステロイドだと思い込むようにして、より深い領域まで集中して作業を行う。

 

「危ないっ!」

 

「っっ!」

 

俺に掛けたのであろう呼び声に合わせて、反射的にサイドエフェクトを使用すると、アステロイドが顔に向かってきていた。

 

問題ないな。

 

俺はすぐさま振り向き、スコーピオンを構え直しアステロイドを叩き斬る。するとアステロイドは来たところを辿るように真っ直ぐに帰っていった。

ん?跳ね返った?

 

ここで俺は気づいた…今握っているのはスコーピオンではなくテニスラケットで、アステロイドを切ったのではなく、テニスボールを打ち返していたことに。そして、何気に握り直しているから、包丁握り(いわゆるイースタングリップ)になっていてラケットのフレームでフルショットをしていたことに。

 

「っべー、えっと…えーヒキタニくん?マジでベーわ」

 

誰だよヒキタニくん。

 

「あ、ありがとう」

 

「うす」

 

ベーとか言ってるよく分からん奴とテニスをしていた、葉山が苦笑いしながら手を振ってきたので軽く会釈して壁に向き直って、何事もなかったかのように作業を再開した。

……そりゃ、苦笑いになるだろう。クラスにいる全く知らん奴が突然流れ玉を物凄い勢いで返してきたら。

 

ーーーーーーーーーー

 

昼休み、いつもの場所で昼飯を食べていたら、昨日ネイバーから助けて知り合った戸塚がテニスの練習をしていた。と言うよりはいつも昼飯にテニスの練習をしていたのが戸塚だったと言う方が正確だろう。

 

「あ、比企谷君」

 

「おう、戸塚」

 

「いつも、ここでご飯食べてるの比企谷君だったんだね」

 

「あぁ、そっちもいつも練習してたのは戸塚だったんだな」

 

「うん、お昼も使わせてくださいってずっとお願いしてたら最近OK出たんだ」

 

「そうだったのか、凄いな」

 

「ううん、好きでやってることだし。あ、そういえば比企谷君、テニス上手いよね」

 

「そーなん?」

 

「うん、フォームがとっても綺麗なんだよ」

 

「そうなのか、自分ではフォームは分からないからな」

 

「戸部君の飛ばした球を切ってたのも凄かったね、流石ボーダー隊員、カッコよかったよ」

 

「やっぱり、見てたんだな、あまり目立ちたくないんだけどな、咄嗟だとやっぱり素が出ちまうな」

 

俺たちはテニスの話や生身でのトレーニングの話などで盛り上がっていると、悩んだ顔をしながら戸塚が話題を変えてきた。

 

「それでさ、ちょっと相談なんだけど……」

 

「相談ね、取り敢えずなんだ?」

 

内容を聞くと、戸塚はテニス部を盛り上げたいらしい。そのためにまずは自分が強くなろう、という事で練習をしているらしい。

戸塚のテニスへの思いや、部員たちへの思いもよく伝わってきた。

 

「昼の練習、俺も手伝えないか?」

 

「えっ、いいの?」

 

「あぁ、俺も昔、大変だった時に手を貸してくれた人たちがいたんだ、だから戸塚の強い思いに協力したい」

 

「ありがとう!すぐに先生に相談してくるね」

 

満面の笑みで戸塚はこの場を去っていった。

守りたい、あの笑顔。

 

ーーーーーーーーーー

 

放課後、俺は戸塚と連絡を取り合うために、戸塚の連絡先を手に入れた。

 

御深、白沢、忍田さん、俺にも学校で友達ができたよ。

 

というわけで、らしくもなくウキウキランラン気分で学校を出ようとして、下駄箱を開けると何故かクッキーが入っていた。

 

間違えて入れた心配ができたので、サイドエフェクトを使用してみた。下駄箱に何か入れる人って隠れて受け取ってもらえたか見てる事が多いと思うんだよなぁ。やった事ないから知らんけど。

ビンゴだ、ピンクっぽい髪の女の子が後ろの壁から顔を出していた。がっかりしている様子がない事から多分俺宛だな。

 

所々焦げた部分もあるが形はそれなりになっている。おそらく失敗したクッキーは取り除いて上手くいったものだけを詰めたんだろう、ザ・手作りって感じだ。

 

ボーダー隊員である以上、感謝されたり、物を貰ったりすることもあるが、そういうことは何度あっても嬉しいものだ。

 

そこにいるのが分かっているのだから、礼を言いたいが、身を隠しているという事は、あちら側にも事情なり、気持ちなり色々あるのだろう。ここで声をかけるのは野暮だろう。

 

俺は、黙ってクッキーをカバンにしまってボーダー本部に向かった。

 

ーーーーーーーーーー

 

俺は今、作戦室のトレーニングルームでサイドエフェクトの訓練をしている。市街地の狭い範囲にトリオン反応をランダムな位置に10体設置するように設定して、スタートした瞬間、レーダーを使わずに即座に敵の位置を把握、討伐する。隊を組んでばかりの頃は2・3分かかっていたが、今では1分ほどで全ての反応を消せるようになった。

今回は、運良くマンティスの射程内に3体いたり、民家ごとターゲットを切断したりする事で時間を短縮することができ、結果53秒だった。

 

12回目のトレーニングを始めようとすると、御深か白沢が来たのか、作戦室から通信が入った。

 

「八幡さん、大変です!」

 

「なんだ白沢か、どうした?」

 

「鳩原さんが隊務規定違反でクビに……」

 

「……待ってろ、会議室行ってくる」

 

速攻で作戦室を出て会議室に行くと、上層部と風間隊、二宮隊、東さん、レイジさんがいた。比企谷なら大丈夫だろう、と謎の信頼のお陰で話を聞くことができた。

どうやら、鳩原さんは民間人にトリガーを横流しして、そのまま近界に密航したようだ。本部は模倣犯を出さない為に事実を隠蔽し、隊務規定違反でクビという扱いにするらしい。

 

作戦室への帰り道、足取りは凄く重かった、

俺には同じスナイパーで付き合いの長かった白沢に事実を伝える事は出来ないだろう。人の事を言えたものじゃないが、コイツはまだ高校一年になってばかりの少女だ。事実があまりに悲しすぎる。正直、俺だって受け止めきれない。

そう考えながら俺は作戦室に戻ると、白沢と一緒に御深も中にいた。

「白沢…と御深も来ていたのか」

 

「奈利ちゃんに話を聞いてね……」

 

「白沢、御深……今はまだ、鳩原さんは隊務規定違反としかお前たちには伝えられない……すまない」

 

「「じゃあ、八幡(さん)は……」」

 

「あぁ、真実を知っている。馬鹿みたいな話だが、俺にはお前たちに事実を伝える度胸がないんだ……、情けない隊長ですまない」

 

俺が深く頭を下げると白沢が口を開いた。

 

「もう大丈夫ですよ……八幡さんの思い、伝わりました。私たちの事考えてくれたんですね」

 

「えっ?」

 

「八幡って分かりやすいよね、表情とか言葉一つ一つに辛い、悲しいって感情が凄く漏れてるんだよ」

 

「いつか、私たちに話しても大丈夫だと思えるようになったら話してくださいね」

 

「お前ら、それでいいのか、最悪俺に失望してこの部隊から出ていかれるかと思ったのに……」

 

「「(いや)いいえ、むしろ大切に思われてるなぁって」」

 

顔が熱い。なんだか凄く恥ずかしい。

 

「私、決めました。もっと腕を上げて、いつか鳩原さんに出会ったら参ったって言わせてみせます」

 

「あぁ、お前ならできると思うぞ」

 

参ったよ、まだ幼い少女だと思っていたウチの隊員は俺なんかよりも全然強かった。




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