遠坂姉妹の物語   作:燐酸

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第1話 二月 帰宅

「ねえさーん、こっちです、こっちー」

 遠くから桜が呼んでいる。日本に着いた後、乗り換えで地元の空港に到着した。この前は新都の駅だったが、今日は空港まで桜が迎えに来てくれた。

「姉さん、荷物少し持ちましょうか?」

「ありがと、スーツケースの方、お願いできる?」

「はい、わかりました。それにしても大荷物ですよね。」

「あいさつ回り用のお土産とかたくさん買い込んだらこうなっちゃたわ。今回はしばらく日本にいるつもりだし」

「運ぶの大変じゃありませんでした?」

「ほんとヒースローや成田は大変だったわ。てかこれからが一番きついわね……。冬木まで電車か」

「それなら大丈夫です、姉さんこっち来てください」

 桜は私を駐車場につれていく。

「今日、士郎も迎えに来てるの?」

「いえ、私一人ですよ。先輩は学校です。あっここです」

可愛らしいけど、地味に高そうな車である。

「桜、あんた免許とったの?」

「はい、この前とったばかりですけどね。私の仕事は車が使えた方が便利ですし」

「あら、いつの間に。それで桜、この車は桜の?」

「いいえ藤村先生の家から借りたんですよ。早く姉さんも乗ってください」

「じゃあ、桜のドラテク拝見といきますか」

「はい、任せてください」

 

 

「姉さん、冬木に着きましたよ」

あれ、いつの間に眠っていたみたい。長旅の影響だろうか、桜の運転が優しいものだったからか。

「んっ、んー。着いたの?」

「深山までもう少しです。遠坂の家と衛宮の家のどっちに向かいます?」

「とりあえずこの大荷物置きたいから私の家にむかってちょーだい」

「わかりました」

 桜は車を深山の高台に走らせる。

「今日は掃除をしてあるので、大丈夫です」

「オッケー、久々の我が家ねー」

「でも、今日の夜は先輩の家に行きませんか?先生や先輩も来て欲しいと言ってました」

「ん?何かあるの?」

「ささやかですけど帰国のお祝いを、だそうです」

「半年ぐらいでまた行くのにねー。でもせっかくだからご招待にあずかりますか」

「じゃあ先輩に連絡しておきますね。着きましたよ」

「運転お疲れ様、桜」

「はい、どういたしまして…、車どこに止めましょうか……」

「門からてきとーに突っ込んでいいわよ、確か石畳のはずだから」

「大丈夫かな…」

 ちなみに車庫を発見したのは、三日後だった。桜も「さすがうっかり姉妹ですね、私達……」一言余計よ。

 

 

 その晩、また桜の運転で衛宮の家に向かう。

「姉さん、車返してきますから、先に上がっていてください」

「わかったわ」

 玄関の呼び鈴を鳴らす。

「あっ、ひさしぶりー遠坂さん」

「この前会ったばかりじゃないですか、藤村先生」

「それもそうねー」

 居間に入るとライダーも来ていた。

「こんばんわリン」

「こんばんわライダー。あれ家主様は?」

「何か足りないものの買い出しに行ったようです」

「ただいまー、あれ先輩は?」

 車を返してきた桜が同じことをたずねる。ライダーはくすりと笑っていた。

「何で笑うのライダー」

「さすが姉妹だな思いまして」

 桜の顔が赤くなっている。

「リンも顔出ていますよ」

 

「ただいまー」

 家主のおかえりのようね。桜が出迎えに行く。もうすでにいい奥さんやっているじゃない。桜が買い物袋を持って戻ってきた。

「遠坂、いらっしゃい」

「お邪魔してるわ、衛宮君」

「それで今日は何を作っているんですか」

「遠坂がロンドン帰りだろ、だから和食メインにしようかと」

「いいですね、私も手伝います」

 二人は台所へ入っていた。

「ねぇ、ライダー?二人は上手くやっている?」

「あの二人の姿を見れば、その質問は意味があるとは思えないのですが」

 台所へ目を向けるとそこには息のあっっている夫婦がいる。

「それもそうね……、でも士郎が桜のこと泣かせたとかかないの?」

「少しばかり士郎が忙しく、サクラが寂しい思いをしたとかならありますが」

「それ問題じゃない?」

「いえ、サクラも仕方ないことだと割りきっているようですし、不満がちゃんと言えるようになっています」

「それならいいけれど」

「まあ多少のいさかいがあるのもまた夫婦じゃないですか」

「桜が楽しくやっているならいいか」

 

「なに話しているの、ライダー?」

「いえ、何でもないです」

「そう。料理できたから、運ぶの手伝ってくれる?」

「わかりました」

運ばれてきた料理の量がとても多い。

「桜、今日はささやかなお祝いと言ってたわよね」

「はい、そうですが」

この家の辞書は間違っているに違いないわ。

 

 

「遠坂さんお酒飲めるわよねー」

「飲めますけど…」

「はいじゃあのみあかしましょー、桜ちゃんも飲んで飲んで」

「はい、いただきます」

「士郎やライダーさんはどうするのー」

「俺はやめとく。ブレーキ役がいないとダメだろ」

「私も遠慮しておきます、いざとなったらドライバーも必要でしょう」

「あれ、ライダーも免許とったの?」

「まあ一応、仕事で必要になりましたから」

「仕事って何しているの?」

「骨董店の店主を引き継ぎました」

「だから最近、ライダーが商店街の近くで一人暮らし始めたんですよ」

「あらこの家の住人がだんだん減っているのね」

「そーなのよー、桜ちゃんもしばらくいなくなるしねー。また二人だね、しろー」

「はいはい、藤ねえはこれを機会に少しは自立しろ」

「ぎゃ、ひどーい。二人きりの姉弟なんだからやさしくしてよー」

 

 

 

「結局こうなったか」

藤ねえの持ち込んだ酒で三人ともつぶれた。特に藤ねえが余計なことをばらしてくれた。おかげで俺は酒を一滴も飲んでいないのに頭痛がやってきたような気がした。それでも後始末はしなければならない。

「どうしますかシロウ?」

「とりあえず遠坂と桜は同じ部屋に寝かせてあげようか、ライダー遠坂を頼む」

 遠坂と桜に風邪をひかれるのは勘弁なので布団にいれてあげよう。しかし元凶はどうしたものか?

「わかりました、タイガは?」

「そこら辺にてきとうに転がしておくか」

「少々雑ではないですか?」

 まあ後で何かかけてあげよう。ライダーは遠坂を、俺は桜を抱き上げて、寝室へつれていく。

 

 

 ここはどこだろう……。私の部屋でもないし先輩の部屋でもない。体を起こして見ると隣の布団には姉さんが眠っています。とりあえず衛宮のお屋敷のようです。すこし頭がいたい。昨日ははめをはずしすぎました。急いで居間に向かうと、

「おはよう、桜」

「おはようございます、サクラ」

当たり前ですが、二人は既に起きていました。今は朝の八時、私にとっては充分寝坊です。

「朝飯食べるだろ」

「はい……。ごめんなさい、今朝お手伝いできなくて」

「いいよ、あれだけ酒飲んで平気だったら逆に驚きだ」

「…………すみません」

「それにあと二人酔っぱらいを起こす仕事が残っているから、それは桜が頑張ってくれ」

 残る二人の酔っぱらいとは、もちろん姉さんたちのことです。どっちも難敵だなぁ。

先輩が用意した朝食。昨日の残り物に手を加えて作った和食。最近の家事はほとんど私がやっています。なので先輩は足踏み状態のはずですが、追い付けた気がしません。

 

「おはよー衛宮君」

 私が朝ごはんを食べ終わったころ、のそのそと姉さんが起きてきます。

「何か二日酔いにきくものちょーだい」

「いきなり無茶言うな、朝飯食うか?」

「お願い……」と、言ったまま姉さんはまた意識を放棄しました。

「遠坂は相変わらずだな、向こうでもちゃんとやれてんのか」

「大丈夫ですよ、姉さんは優秀ですから」

 ちなみに藤村先生は十時まで起きてこなかったので、ご飯抜きだそうです。

 

 

 さて、そろそろ支度を始めましょうか。

 明日、私は衛宮のお屋敷を一旦去ります。

 

 去年、姉さんが一旦ロンドンに戻ったあとの話です。藤村先生の説得にかかります。

「私、来年の三月に一度この家を出ます」

「えー何で出てっちゃうの、桜ちゃん。あっ、士郎もう桜ちゃんに嫌われることしたわね」

「してねえよ」

「違いますよ。姉さんがしばらく遠坂の家で暮らして欲しいそうです。何でもまだしばらくロンドンに拠点をおくそうなので、そのための準備に半年ぐらい冬木に帰ってくるそうです。私にその手伝いをして欲しいと」

「ならここから通えばいいんじゃないの?」

「ついでに花嫁修業もしなさいとも言われましたし」

「えーだいじょうぶでしょ、桜ちゃんはもう立派なお嫁さんだよー」

「嬉しいです、藤村先生。でも私も姉さんのわがまま聞いてあげたいんです。ダメですか?」

「えー、でも…」

「少しの間いいだろ、藤ねえ。姉妹で何か思うところがあるんだろ。俺たちが口出しすることじゃない。それに同じ街にいるんだ、会おうと思ったら会えるだろ」

「そうですよ、会いたくなったら先輩に会いに来ますから」

 

 

 

 遠坂の家で暮らすのに必要な荷物をまとめて車に積んでおきます。

「姉さん、準備できましたか?」

「オッケー、行きましょうか」

 お昼前、スイッチの入った姉さんとお屋敷をでます

「じゃあ一旦遠坂の家に行って来ますね」

「行ってらっしゃい」

「気を付けてねー」

 車を走らせて、遠坂の家へ。姉さんのロンドン帰りの荷物と私の引っ越しの荷物を片付けます。とは言っても二人とも持ってきたのは衣服と生活用品だけ。どちらかというと家の確認がメインです。

「そう言えば私はどこの部屋使っていいんですか?」

「そうねーどうしようかしら」

「この家、どこまで触っていいかあんまりわからないんですよ」

「お母様の部屋使う?桜の部屋もう無いし」

「お母様の部屋ですか…」

 とりあえず、二人で行ってみました。するとひとつ問題があって、

「そう言えばお母様の部屋、ベット無いんだった」

「何でですか?」

「お父様とお母様、仲は良かったから」

「なるほどです……」

「どうしようかなー……………」

「先輩とライダーに頼んで先輩の家のベット持ってきてもらいます?」

「それ結構な大事じゃない?」

「それしか方法無いと思いますけど?」

「そうねーどうしようかしら」

 姉さんはひとしきり考えた後、とんでもないことを言い始めました。

「よし決めた。桜も私の部屋で生活なさい」

「ふぇ、同じ部屋ですか?」

「そうよ、そしたら掃除する部屋も増やさなくていいし」

「でも、姉さんの部屋もベットひとつですよね」

「大丈夫よー、あのベット大きいから二人寝られるわよ」

「えぇ…、でも……姉さんの邪魔じゃ……」

「いいからいいから、気にしないの」

 結局、ろくな反論もできず、姉さんに押しきられました……。

 

 

 その夜、一旦私一人で衛宮のお屋敷に戻りました。

 今日は私、間桐桜がこの屋敷の住人として過ごす最後の夜。最後に先輩にご挨拶しなきゃ。

「先輩、起きてますか?」

「桜?入っていいぞ」

「失礼します」

「どうしたんだ、桜?」

「お礼を言わなきゃと思いまして。この私に帰る場所、居場所を用意してくれてありがとうございましたずっとそばにいれて嬉しかったです。今までお世話のなりました」

「桜、どうしたんだ?もう来ないみたいな言い方じゃないか」

「あはは、安心してください。今のは後輩として居候させてもらってたお礼です」

 私は持っていた指環をはめて、

「今度、このお屋敷に住むときは、先輩の婚約者として当然の権利を行使させていただきますね」

「なんだか遠坂みたいことを言うな」

「何で姉さんの名前がでるんですか」

「はは、ごめん。冗談だよ。桜はいつまでもこの家に住んでいい人だよ。桜は俺の家族なんだから」

 私は、すっと先輩に近づいて、抱きつく。

「私にとっても先輩は大事な家族です」

「ありがとう、桜」

 

「ねぇ、先輩。先輩の布団に入ってもいいですか?」

「どうした、桜」

「私、今日は先輩と一緒がいいです」

「いいよ、おいで」

「ありがとうございます」

 うれしいなぁ。先輩が受け入れてくれる、私は先輩が作った隙間に体を滑り込ませます。私は先輩の体に頭を預けました。

「先輩……大好きです」

「俺もだよ、桜」

 私たちは軽くキスをする。名残惜しいけど今日はこれでおやすみなさい。

 の、はずでしたが……、

「さくら……」

「ひゃあ、せんぱい……?」

 今日という日はまだ続きそうです……。

 

 

 朝、目が覚めると先輩に抱きついていました。なんだかこのまま先輩を起こす気分じゃありません。なのでこのまま先輩の寝顔を観察します。

「さくら……」

 名前を呼ばれて顔をあげるとて見ました。どうやら寝言のようです。それでも嬉しくてつい強く抱きつきます。

「うん?あぁ、おはよう桜」

 失敗しちゃいました、今ので起きてしまったようです。もっと見ていたかったな…

「おはようございます、先輩」

「朝ごはん作りましょうか……」

「ああそうだな」

 二人で台所へ。

 

「桜、出汁とってくれないか」

「はい」

 私がこの家に移り住んでから家事のほとんどを私がやっています。私が望んでやっていることで、不満はありません。先輩は喜んでくれるなら、これぐらいへっちゃらです。だって私、先輩の奥さんみたいになれるから。

「ほうれん草どうしようか」

「ゴマであえませんか」

 だけどちょっとだけ寂しかったかな。

 昔は先輩と並んで家事をすることも大事なことだったから。先輩と一緒にご飯を作る、今日は懐かしい気分です。

「おっはよー、今日のメニューはなんですかい?」

 藤村先生の登場です。

「今日は卵焼きですよ。はい先輩、卵です」

「おっサンキュー、桜」

 先輩が手際よく卵焼きを作っています。私は出来上がったものを食卓へ。

「今日は二人で共同作業ですか」

「はい、二人で作っています」

「今日で桜ちゃんのご飯をしばらく食べられなくなるのね、寂しくなるわー」

「大丈夫ですよ、時々泊まりにきますから」

「じゃあそのときはよろしくねー」

「三十路なのにいつまでもうちに飯をたかるな。いつまで結婚しないつもりだ」

「ひどーいしろー。先に結婚するからって上から目線」

 出来上がった卵焼きを持って先輩がやってきます。

「まあまあ冷めめちゃいますよ」

「そうだな、食べよう」

「「「いただきます」」」

 いつもの朝、いつもの食卓でした。

 

 

 朝ご飯のあと、私は最後の準備へ。あの日、最初に泊まった日からずっと私の部屋だった離れの洋室、今日で引き払います。

「じゃあそろそろ行きますね」

「あぁ」

 先輩と藤村先生はが玄関まで見送りに来ます。

「藤ねえ、泣くな。遠くに行くわけじゃないんだから」

 そう今日でこの家を離れる訳だけど、お別れじゃありません。だからいう言葉は、

「行ってきます、先輩」

「行ってらっしゃい、桜」

 

 

 衛宮のお屋敷を離れて深山の街を歩きます。目的地は遠坂の館。やがて到着して、呼び鈴をならします。

「来たわね、桜」

「はい、今日からお世話になります」

「私こそよろしく。さあ入って」

「お邪魔します」

 そう言って入ろうとすると姉さんに止められました。

「待って、桜。今からここに住むんでしょ」

「何か変なこと言いました?」

「言ったわ、自分の家に入るときにお邪魔しますって言う?」

「言いませんけど……」

「だからやり直し」

 もう一度姉さんと挨拶を交わします。

 

 

ただいま、姉さん

おかえり、桜

 

 

 十数年ぶりに交わされた挨拶でした。

 

 

 

 




そういえばあらすじに、遠坂姉妹のお話と書いたのに士郎と桜ばっか……。タイトル詐欺ですね。とりあえず次話からは遠坂姉妹がメインです。
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