ある朝、私はいつもの時間に目を覚まします。今は朝六時、朝日が気持ちいい時間。横には姉さんが寝ています。結局、遠坂邸に引っ越して来て、一応部屋はあてがってくれたのですが、ベットはもらえず姉さんと同じベットで寝ることに。私はいい年してどうかなと思ったんですが『気にしない、気にしない』の言葉で、私の意見は却下されました。
同じ血を分けた姉妹なのに、寝起きの良さだけは決定的に違う私達。姉さんはほっとくと十時になっても寝てるとか。先輩はこの時間に起きますが、姉さんは起きないので、先に起きることにします。
ベッドを抜け出し庭にでます。冬があけて殺風景なお庭。朝日と冷たい空気が私の意識をすっきりさせます。この庭は私がお世話しているので、今年はどんな感じにしようかな。花壇にはどんな花を植えましょうか。庭木は先輩にお願いしようかな。あれこれ考えていたらもう七時、そろそろ朝ごはんの準備をしましょうか。
メインのおかずは焼魚にしようと決めたので、まずはお味噌汁から取りかかります。出汁をとっている間にお米やお野菜の準備をしましょうか。お味噌汁の方は味見して今日も納得ができるものができました。目標はやっぱり衛宮の味。先輩のお味噌汁に近づけたかな。
朝ごはんの支度が終わったので、姉さんを起こさなきゃ。
寝室の姉さんは、
「えみ……やくん……さく……」
何か不愉快な夢を見てそうなので、
「姉さん、起きてください!」
「んー…………」
「だから起きてください!!」
「ん、ん………あ、おはよ桜。後五分お願い…………」
「ダメです!起きてくーだーさーいー!」
「んー……むにゃむにゃ………」
「だからおーきーなーさーい!!!」
「うひゃあぁぁ」
姉さんが被っている布団をひっぺはがしてやりました。
「桜…あんた……容赦無いわね………」
「ほんとびっくりです。姉さんからあんなダメ発言がでるなんて」
「むーいいじゃない、私低血圧なんだし」
「そんなのただの言い訳です。それに髪もボサボサ、寝巻きのままですし、先輩の家ではどんだけ猫かぶってるんですか」
「いいじゃない、ここ私の家なんだし…。それにここにいるの桜だけでしょ、桜になら見られてもいいわ…」
ぐっ…姉さんは姉さんでかわいいところあるじゃないですか…、女の私でもグラリときそう。
「だからもう少しだけ…」
それはだめです。
寝ぼけまなこの姉さんを引きずってダイニングへ、まだねむいーと言っていた姉さんも朝ごはんも見るともそもそと食べ始めます。
「桜、今日は空いてる?」
「空いてますよ、今日は急ぎのお仕事もないですし」
「じゃあ買い物にでも行きましょうか」
「はい、私も買うものがありますし」
今日の予定はお買い物。姉さんはどこに行きたいのかな。
「じゃあ私、顔洗ってくるわ」
私は食卓の片付けをする。食器を洗い終わった頃、姉さんが戻って来たようで、
「桜ー、ちょっと来て」
呼ばれていて行くと、まだ髪がボサボサの姉さんがいます。
「桜、髪の毛お願い」
「はーい」
最近、姉さんは私に髪のセットをさせることがお気にいりのようです。綺麗な髪、慎重にセットします。
「髪型、どうします?」
「今日はひとつにまとめる気分ね」
じゃあ上のほうでしばってまとめて見ます。
「こんな感じですか?」
「うん!いい感じね」
「髪飾りどうします?」
「んーどうしようかしら……」
迷っていた姉さんの視線が上の方をむきます。
「ねぇ……桜のリボン貸して」
「これですか……?」
どうだろう?似合うかな?
とりあえず私はリボンをほどいて、姉さんの髪に結ぶ。
「ちょっと短いかしら……。でもいいわ。ありがと。桜はどうする?」
「今日はこのままでいいです」
「じゃあ行こうか、バスに間に合わなくなるわ」
新都に着くと、最近できたショッピングモールに繰り出して、あちこちショップをみて回ります。
「桜の服って無難なやつが多いのよね……」
なんだろう、嫌な予感がします……。
「ねぇ、これ試して見ない?」
「何ですかこれぇ、短すぎませんか」
予想通りの派手なミニスカートです。
「こんなの私にはあいませんよぉ」
「いーから一回履いてみなさい。上はどうしようかしら」
私をおいてきぼりにして、店員さんと見繕いに行く姉さん。
「上は桜らしい色にしてみたわ、着てみて」
持ってきたのは桃色のトップス。ミニスカとあわせて試着室へごー…
「姉さん……私、おかしくないですか………?」
「いいじゃない、似合うわ」
「ええ、お似合いですよ」
なんだか姉さん、とっても楽しそう。
「でもあんまり着たこと無いですし。やっぱりむりですよぉ」
「あら、やめちゃうの?もったいないわー。衛宮君に見せないの?喜ぶと思うわよー」
「うぅぅ………買います」
先輩のためと言われると弱いです、私。
「よーしその心意気、次これいってみよー」
「これって肩全部出るやつじゃありません!?」
今度、姉さんに尻尾が生えていないか確認する必要がありそうです。
結局、姉さんに押しきられて買ってしまいました。着ることあるかな…。
「さあ次は私ね、どうしようかしら」
自分には無難なものを選ぶ姉さん。姉さんこそ露出が多くても似合うはずなんですが…
「桜、これどう思う?」
黒に花柄のロングワンピース。
「あうと思いますよ。………ただ」
「ただ?」
「いや、なんでもないです」
「いや何か思ったことあるわね」
「…………姉さんて意外と女性らしい服が多いですよね」
「なあに、私が女らしくしたらダメなの?」
「いえ、そうじゃなくてですね……かっこいい系の服も似合うじゃないかなって」
「かっこいい系って?」
「例えばですね……、これなんかどうです?」
細身のズボンをお願いしてみました。
「姉さんってスラッとした体なので、これもいいんじゃないですか?」
「そう……じゃあ試してみるわ」
「トップは、黒のカーディガン…。それと赤色のキャミソールはどうでしょう?」
「この組み合わせに赤だと強すぎじゃない?」
「そうですか?じゃあ…これは?」
渡したのは、白と桃色のキャミソール。
「ふーん、いいじゃない」
両方を持って試着室へ。姉さんはどっちを選ぶのかな…
「桜、これでどう?」
「わぁ、姉さんかっこいいです」
「そう、ありがと。これは買いね」
姉さんがここもみたいとのことなので、次のお店に行くと、
「姉さん、これなんかどうですか…?」
「おやぁ、イメチェンですか?」
「ひゃあ!美綴先輩!」
「あら綾子、久しぶりね」
「遠坂、いつロンドンから戻ってきてたんだ?連絡ぐらい寄越せって」
「悪かったわねー、ちょっとドタバタしてて。綾子こそどうしたの?」
「ちょっと実家に用事があってね、私も帰省中。で、時間が空いたのでブラブラしていたら、お二人さんを見つけたって訳。で、今は間桐の服選び中か。テーマは何?衛宮をどぎまぎさせましょうか?」
「そうなのこの子、おとなしめの服しかないから刺激のあるやつ探しているわ」
「へーじゃあこれなんかどうだ?」
「あらいいわねー、桜着てみなさい」
「姉さん!これさっきより短いですよ!」
「いいから、いいから、着てみろって」
「いいから、いいから、着てみなさい」
なんだろう、無二の悪友と会って、姉さんも美綴先輩も余計に拍車がかかったようです。
そのあと一時間ぐらい二人の着せ替え人形をさせられたところで正午はとっくに過ぎていました。
「お腹すいたわねー、綾子どっかで食べない?」
「いいねー何する」
「どこか近くの喫茶店にでもしましょうか」
「綾子、よく食べるわね」
「そうか?体動かす人間はこれくらい食べるけど」
「綾子はまだ弓道してるんだっけ」
「ああ、衛宮もな」
「へー、衛宮君また始めたんだ」
先輩と美綴先輩は同じ県内の大学に進学しました。進学後、美綴先輩はまだ先輩を弓道に復帰させるのを諦めていなくて、交渉に私も手伝わされました。でも先輩は二人がかりで交渉するとあっさり復帰しました。
『間桐だと一発かよ』と、美綴先輩悔しがってたっけ。
「美綴先輩、先輩は大学だとどんな感じですか?家じゃあんまり話してくれないんですよ」
「話さないのか、あいつ。やっぱり衛宮は最高の実力者だよ。あっさりとウチの部のエースだ。今度大会見に来れば分かる」
「はい、ぜひ。私、先輩の射形見るの好きなんです。姉さんも来ませんか?」
「タイミング会えば行こうかしら」
「来てみてください。先輩かっこいいですから」
「ところでさっきから気になってるんだけど、遠坂と間桐って姉妹なのか?」
「あれまだ言ってなかったけ?」
「ああ何も知らない。間桐が遠坂のこと、姉さんて呼んでるのが不思議でな」
「はい、私たち、実の姉妹です。昔、小さい頃私達の両親と間桐のお祖父様で何か話があったみたいです。結果、私が間桐に行くことになりました」
「結局、五年前の災害で間桐のお祖父さん亡くなったから、私や藤村先生が面倒をみてる感じね」
「じゃあ、今間桐のことも遠坂と呼ぶべきなのか?ややこしいな」
「いいえ、一応戸籍は間桐のままです。最近はあまり呼ばれませんが」
「あっ、そうそう綾子。今度からこの子のこと、間桐じゃなくて衛宮って呼んであげて」
「ねっ、姉さんまってください」
「何々、間桐、やっと衛宮と結婚するのか?」
「美綴先輩もぉ。まだ正式に結婚するってわけじゃないです…」
「でも桜?結婚したくないわけじゃないでしょ」
「したいですけど……」
「じゃあ決まり。綾子、今からこの子呼び方衛宮ね」
「オッケー。…………っていきたいけど、今度は夫の方の衛宮とかぶるだろ」
「それもそうよね」
「今までどおり間桐でいいですよぉ…」
「それは何か違うな……。遠坂にあわせて桜ってよぶのが無難かな。…………桜」
「はい…」
「こんな感じか?」
「………………」
「どうしたの、ダメ?」
「…………なら私も先輩のこと、綾子さんって呼びたいです」
「いいぜ、桜。呼んでみ」
「はい、綾子さん」
「ハイハイ、お二人さん妖しい雰囲気なってましてよ」
綾子と別れて、今度は桜の買い物付き合う。
「いらっしゃいませ、お待ちしておりました。桜お嬢様」
桜が足を向けたのは高そうな呉服屋だった。
「芳野さん、お願いしていたもの出来上がりました?」
「はい、確かに。どうぞこちらへ」
「ねえ、ちょっとどうしたの高そうじゃないここ」
「ここ藤村先生のご実家がご贔屓にしているお店です」
「大河お嬢様にはお世話になっております」
「私も先生に一着仕立ててもらったので、今度は自分でもお願いしようかと」
「でもお金はどうするの?」
「姉さんにたくさん稼がせていただいてますし」
「あのー失礼ですが、そちらのお連れ様は?」
「私の姉です」
「大変失礼いたしました。桜お嬢様の御姉様となりますとあなたは遠坂様ですか、深山の資産家の」
「ええそうですけど」
「お話は桜お嬢様からうかがっております。私芳野と申します、お見知りおきください」、と言われて名刺を受けとる。
「そうだ、姉さんも一着仕立ててみません?」
「でも今月の宝石代きついのよ」
「大丈夫です。私が何とかしますから」
「それにロンドンじゃあまり着る機会もないし」
「いいからいいから、芳野さん何かいい物あります?」
「こちらはいかがでしょう」
「いいですね。あっ、でもこれの方が」
「確かにこちらの方が御姉様にお似合いですね、遠坂様はいかがですか?」
深紅の着物、悪くはない。
「やっぱり姉さんには赤があいますね。柄はどうしましょう」
「花柄はいかがでしょう。百合などは」
「百合だと、姉さんにはおしとやか過ぎますし……」
「では牡丹は?」
「わぁ、あいますね」
「ちょっと派手すぎない?」
「いいえ、姉さんには華やかな方が似合いますよ」
「そう……?」
「そうですよ、姉さん。芳野さんお願いしますね」
「はい、かしこまりました。それと桜お嬢様、出来上がったものの確認をしていただきたいのですが」
「そうですね、お願いします」
私は芳野さんに連れられて、いろいろ採寸された。というか本当に買う流れになってしまった。さっきのショップの意向返しだろうか、今度は桜のいいようになっている。あの可愛かった妹もしたたかな女性になったもんだ。
戻ってみると桜が着物を羽織っていた。群青の生地に百合が咲いて、どこか幽玄な雰囲気を帯びている。それを羽織っている桜は私の知っている愛くるしい妹ではない。麗しい深窓の令嬢がそこにいる。
「姉さん、どうですか?」
どう返したらいいのだろう。少しだけ士郎の気持ちがわかった気がする。
「えぇ……とっても綺麗よ」
「ありがとうございます、姉さん」
そう返されて私は遠坂のお嬢様を返上したくなる。そのくらい桜は優美で気品に満ち溢れている。
「ありがとうございました、芳野さん。とってもいいものができました」
「いえいえ、光栄です」
「それでお支払いの方なんですけど、衛宮の家に回してもらえませんか?」
「いえ、それはできません。大旦那様や大河お嬢様から桜お嬢様のお支払いも大旦那様へと仰せつかっておりますので」
「いや困ります。私が勝手に買ったものを藤村家に払っていただくなんて」
桜、あんたどんだけ藤村家に甘やかされてるのよ……。
「後で藤村先生に支払えばいいんじゃない?」
「そうするしかないですね……困りました」
「姉さん、姉さんの着物仕上がったら、二人で着てみませんか?」
「着てなにをするのよ」
「何しましょうか。姉さんとなら私は何でもいいですよ」
「わかったわ、着てみてあげるからどこ行くか考えておきなさい」
「ありがとうございます、姉さん」
本当つくづく私も桜に甘いな……
美綴さんが登場しました。つぎのゲストは誰でしょうか
この小説で書きたかったことにキャラの互いの呼び方を変えてみることです。
名前で呼び合うことは人間関係で大事なことだと考えているので。