窓から差し込む朝日に夜明けを告げられ、トレロは重いまぶたを開く。
昨日―――いや、もう一昨日か―――の夜に子供達の行方不明が発覚してから休まず動かしてきた体は四時間程度の睡眠では満足していないが、この状況で悠長に二度寝をしていられるはずもない。
ベッドに張り付いている体を起こそうと悪戦苦闘していると、部屋のドアが音もなく開いた。
「お。早いな、もう起きてたか」
部屋に入ってきたのはコナミ。上官の前で寝ているわけにはいかないとトレロはベッドから降りる。
「おはようございます、コナミさん」
「ああ、おはよう。ほら、カイダも起きろ。トモが朝飯作ってくれてるぞ」
「んん......、分かったでやんす......」
分かったと言いつつベッドから出ないカイダをコナミが引きずり出し、三人は一階の食堂へと降りていった。
◇◇◇◇◇
「さてと、じゃあこれからの行動を確認するぞ」
食事を終えた三人は、街の真ん中にある広場にいた。
街のほとんど南端にあるトモの宿屋から広場へ三時間ほどかけて歩いたため、時刻は昼前。最も人通りの多い時間帯だ。
「移動中に話したとおり、トレロは森へ向かってくれ。入り口付近の小屋に木こりがいるらしいから、その人に話を聞いてきてくるんだ。おそらく何かを知っている」
「了解です」
「俺とカイダは街の見回りと情報収集だ。トレロ、森への往復にどれくらいかかる?」
「そうですね......四時間くらいだと思います」
「そうか、なら夜の6時にここで落ち合おう。カイダ、行くぞ」
「わかったでやんす」
コナミとカイダが歩いていくのを見て、トレロも指示通り森へ向けて歩き出した。
◇◇◇◇◇
「まさか、本当に木こりが情報を持っていたなんて」
コナミが言っていた小屋を見つけ、幸いにもそこにいた木こりに話を聞くと、思いもよらぬ目撃情報を持っていた。
曰く、三日前の夜に数人の男が子供たちを連れて森に入っていくのを見たと。
それを見た木こりは不審に思い街の衛兵に知らせたのだが、管轄外だと言って何もしなかったらしい。
子供が拐われている状況でそんな対応をした衛兵に憤りを覚えたが、今はそれを気にしている場合ではないと頭を切り替えた。
恐らく、拐われた子供たちは森にいる。今すぐ森の中に行くことも考えたが、当てもなく探すにはこの森は広すぎる。
まずは得た情報をコナミに知らせるべく、後ろ髪を引かれる思いでベルデンへと走り出した。
ベルデンの広場から森へ行くとなると、普通の人間ならば急いでも往復で六時間はかかる。
しかし、新人とはいえトレロも銀の盾のハンターだ。その気になれば二時間で往復することもできる。
だから四時間というのはそれなりに余裕を含めた目算だった。予想外のことがあったときに対応できなくなるのだから、何か一つに全力を費やすのはやめろと、教官に口を酸っぱくして言われ続けた教えを守っての計算。
結果として、それがトレロの命を救った。
「くっ!?」
ベルデンへの復路の半ばほど。視界の悪い獣道を走っていたトレロの頭上に、突如として『牙』が降ってきた。
咄嗟に槍で防いだが、その勢いに後ろへ吹き飛ばされる。
体勢を整え、自分を襲ったものを確かめようと前方を睨んだ。
「蜘蛛......?」
そこにいたのは、人の二倍以上の大きさをした蜘蛛だった。
明らかに魔物。だが、そこらに生息している魔物化した犬や鳥などとは感じる圧力がまるで違う。
最大限の警戒を払いつつ槍を構えていると、後ろから声がした。
「おや、生きていましたか」
気配を感じなかった場所から声をかけられ、思わず息を呑む。
大蜘蛛に注意を払ったまま後ろを向くと、少し離れた木の裏から緑髪の男が姿を表した。
見た目は人間、しかしこの状況でそれはありえないだろう。強力な魔物を操り、人型をとることができる――――――――つまりは、《魔族》。
「先程ので殺せると思ったのですがね。意外と周りを見ていたということですか」
「........................」
魔族が話しかけてくるが、返答する余裕などない。
魔族と魔物に囲まれた現状をどう打開するか必死に考える。
「まあ、いいでしょう。どうせ今から殺しますし」
「――――っ」
「私とあの魔獣、どちらに殺されたいですか?」
そう告げると同時に、魔族が右手に魔力を宿した。
魔法の予備動作ですらない、ただ部分的に本体を出そうとしているだけ。それだけの動作で、自分は勝てないと感じてしまう。
「......はっ。上等だ、行くぞ」
穂先の震えを無理矢理鎮め、大蜘蛛へ向かって突撃体勢をとる。
穂先を向けられた大蜘蛛は立ち上がって四本の脚を構える威嚇体勢をとり、まるでトレロを嘲笑うかのように、シャァと息を吐いた。
「うおおぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
脚を振り下ろしてくる大蜘蛛へ突撃し―――――――――その体の隙間を掻い潜って走り抜ける。
「シャッ!?」
大蜘蛛の戸惑ったような声に構わず、必死にベルデンへと走り続ける。
個体差はあるが、魔族とは十分に経験を積んだハンターがチームを組んでようやく戦えるような存在だ。新人ハンターの自分に勝ち目など無い。そう判断したゆえの必死の逃走。
それを見た魔族は感心したように頷き、
「......まあ、逃がしませんがね」
そう呟いて右手をかざした。
右手ではなく、その少し先の空間に魔力が集まっていき、そして凝縮された魔力は次第に矢の形を形成した。
「《ポイズンアロー》」
詠唱を受けて毒の矢は実体を得、トレロの背中へ向かって飛翔し――――――
―――バシッ、と、誰かが魔族の腕を叩いたことで消滅した。
「......誰ですか、あなたは?」
何かが近づいてくる気配はしたが、予想外の急加速に対応しきれず右手を打たれてしまった。
横合いから現れ、魔族の予想を超える攻撃をしたのは。
「ダメだわん! ケンカは良くないわん!」
一匹の、小さなライカンだった。
2話の後書きにも書いたんですが、投稿速度がかなり遅れそうです。ていうかなってますね。
この程度の文字数で何を言っているんだという感じですが、文章書くのが難しくて......。この作品を読んでいただいている方には申し訳ありませんが、ゆっくりお待ちいただけると幸いです。
というか本編やり直して気づいたんですが、カイダって15歳なんですね。
普通に小学校低学年くらいのイメージでした。
ここではカイダは7歳ということにしてください。