この素晴らしい世界に不死人を   作:ボンシュ

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 あのとき止めていれば……

 もう少し早く引き止めていればこんなことに…

 いつも通りと放っておかなければ良かった


最悪の結果
この素晴らしい世界に祝福を……


 最初に火を継いだのはいつだったか。

 

 自分に課せられた使命と思ってがむしゃらにソウルを手に入れ続け、何度も死んでは学びを繰り返し続け、最後の王を倒し終わりと思いきや。

 

 これは何度目の火継ぎだろうか。

 

 最後の王がソウルとなって霧散していく中を火に近づいていく。

 

 考えても無駄か。

 

 火を継げばまた繰り返される。全く同じ世界を無限に繰り返し続ける。それでも止まれない。止まるわけにはいかない。火継ぎをやめれば世界は闇に包まれる。

 

 だから、続けるしかないのだ。

 

 これは罰なのではないか。ただの不死人が王を殺したことへの罰ではないのか。あの時牢獄を出ずにいればこうなることはなかった。世界の終わりが来るのをじっと待っていれば良かった。

 

 消えそうな火に身体を差し出す。

 

 あとはソウルが燃えていく。火は身体を燃やし、魂までも燃やして世界を光で照らす。そして私は牢獄の中にいる。避けられない運命。変えることのできない結末にただ従う。

 

 世界が照らされた。牢獄の中へ戻る時だ。

 

「………?」

 

 なんだ。ここはどこだ。緑…草原だ。そしてなんだ、明るい。空に太陽がある。空…青い空だ、あの白いものは雲か。なんだこの景色は?

 

 騎士は狼狽えた。青い空と白い雲、そして優しく大地を照らす太陽の存在。しかし騎士は考えるのをやめた。

 

 考えても無駄だ。自分に課せられた火継ぎの使命を全うしなくては。

 

 歩いた。ひたすらに歩いた。亡者どころかデーモンも存在しない世界で、騎士は警戒しながらあてもなく進んでいく。

 しばらく歩けば街が見えた。騎士は一層警戒を強めた。ロングソードと紋章の盾。なんども使ってきた組み合わせの装備で騎士は街へと近づいていく。

 

「ああああああああ!!! よくもぬけぬけと現れられたわね!でも運の尽きね、亡者ごときこの水の女神アクア様の手にかかれば!」

 

 青い髪の女が走ってきた。杖を持って一直線に向かってくる。すぐに紋章の盾を構えてガードした。そのまま自分も距離を詰める。魔法を撃たれたらガードしてやり過ごしすぐ反撃。

 何度もそうやってきた。だから繰り返す。

 

「セイクリッド・ターンアンデッド!」

 

 瞬間、騎士の姿が消えた。移動したのではない。これも彼が何度も繰り返してきたことだ。

 

 浄化魔法で倒された騎士はその場から跡形もなく消え去った。

 

「呆気なかったわね、てか何あの装備!完全に見掛け倒しじゃないですかプークスクス!」

 

 勝利の花鳥風月と言って水を出す青髪の女だが、彼女は気づかない。冒険者カードの討伐一覧に騎士の名前がないことに。

 

 騎士は目を覚ました。

 

 問題ない。何度も繰り返してきたことだ。

 

 浄化魔法で倒されたことを理解した騎士は街の方角を向いてもう一度歩き出す。

 

 あの魔法は食らってはならない。当たれば即死だ。一撃で殺さなくてはならない。

 

 騎士は装備を変えた。牢獄から出してくれたあの騎士の装備を収め、影の名がついた装備に変えた。指輪も変える。静かに眠る竜印の指輪を着ける。これで音は発生しない。タリスマン、あとはロングボウを装備して準備は完了だ。

 

 街が見えた。あの女が現れる前に奇跡を使う。

 

 《見えない体》

 《見えない武器》

 

 消失する一歩手前まで姿が消える。武器も同じように消えて見えなくなるが、感触でわかる。問題はない。

 

 少し進むとまた女が現れた。しかし、今度は1人じゃなかった。仲間が後ろにいる。

 

 透明になったロングボウを構えて青髪の女に狙いを定めて、限界まで引いたところで放った。矢は狙い通り青髪の女へ向かっていく。

 

「伏せろアクアああ!」

 

 かわされてしまった。茶色の髪の男が察知して援護したのか。こんな賢い敵は今まで居なかった。

 

「うわああああ! なにすんのよこのヒキニート! 顔が泥まみれじゃないの!」

 

 新しい敵に無意識で喜びを感じるが、すぐ別の弓を構える。浄化魔法が来る前に片付けなくてはならないからだ。

 

「バカかお前! 敵だよ、敵感知に反応があった!前方のどこかに隠れて狙撃してきたんだよ!」

「敵って、どこにも見当たりませんよカズマ。岩場もなさそうですし、穴とかも見えません」

 

 ロングボウではまたかわされるかもしれない。だったらこれがいいだろう。

 

「じゃあ、この矢はなんなんだよ。空から降ってきたとでも言うのか? 多分見えない敵だ、透明になって狙撃してきたんだ」

 

 取り出したのは身の丈ほどもある巨大な弓と矢だ。

 

「と、と透明人間だと!?」

「こんな時に何言ってんだ変態騎士! いいから逃げるんだよ、早くしろっての!」

 

 狙いを定めて弓を引く。力を込めてゆっくりと。

 

「いつまで泣いてんだアクア! 早く逃げ…って何してんだああああ!!」

「このまま舐められたまま逃げ帰るなんて、信徒たちに顔向けできないわよ! それにこの臭いはさっきのアンデッドに間違い無いわ、今度こそ浄化してやるんだからあ!」

 

 ギリギリと弓が音を立てる。限界まで引いた竜狩りの弓から手を離すと、極大の竜狩りの矢は青髪の女の身体に直撃する。

 

「えっ……?」

 

 矢の勢いは止まらず身体を後ろへ突き飛ばして地面に転がらせた。同時に杖が弾き飛ばされたようだ。これで一撃で殺されることはなくなった。

 

 弓矢からタリスマンに持ち替えて奇跡を行使する。同時に姿が現れるが、あの女を倒した今なら見えても問題はない。

 

「アクア?……おい、どうしたんだよアクア」

「よくも、よくもアクアをッ!」

 

 手を空に掲げると、雷が形を得て現れる。巨大な槍のようなそれは太陽の輝きを宿している。太陽の光の槍。かつて最後の王が使っていた竜のウロコすら砕いた槍だ。

 

 大杖を持った小さな女が呪文を唱えている。先に阻止しなくては。

 

「エスクプロー」

 

 大きく振りかぶって槍をまっすぐ投げた。まさしく光のような速さで投擲された槍は女に命中した。僅かなソウルが手に入る。これで一体は倒せた。危なかった。あと少しで攻撃されていたかもしれない。

 

「めぐみんっ!!!」

 

 もう一度槍を構えて、今度は男に向かって投げた。だが、横から割り込んできた女に弾かれてしまう。ダメージはあるが、倒せてはいない。なんて堅い敵だ。

 

「カズマ、お前だけでも逃げろ……」

 

 太陽の光の槍は威力が凄まじいが、その代わりに回数制限がある。

 

「ダクネス……おまえ…」

「早く逃げろっ!!」

 

 敵が一箇所に留まっている。このチャンスを逃すわけにはいかない。もう一度大槍を作り出した。そのとたんに騒がしかった敵が静まる。

 

 なんだ。反撃しないのか。まあ都合がいいか。

 

「………ふっ!」

 

 光の槍はまっすぐ飛び、敵を二体とも倒してくれる。二体分のソウルが手に入るが、やはり少ない。ここで気がついた。最初に狙撃した女のソウルが手に入ってない。

 

「まだ……」

 

 矢が刺さった状態で気を失っているが、まだ生きているようだ。辺りに敵の姿は見えない。あれで最後だろう。

 タリスマンを収めて黄金に輝く曲剣を構えた。黄金の残光はその名の通り、動いた後に美しい光を残していく。

 まだ距離がある。目が覚めたら魔術を使われる。すぐに倒さなくてはならない。

 

「むっ…」

 

 矢が身体に突き刺さる。すぐに盾を装備して防御すると、次の矢が弾かれた。どこか見えないところにいるやつにボウガンか弓矢で狙われたのだ。

 

「遅かった……そんな…」

 

 銀髪の女だ。ボウガンで絶え間なく攻撃をしてきている。このままでは青髪の女が起きてしまう。いつもの方法で突破しよう。

 

「ばっ……そんなっ…隙間を?」

 

 ボウガンの矢を避けるのは何度もしてきた。何発か当たるが気にせず駆け出して黄金の残光を振り下ろした。

 

「ぁ………え?」

 

 消えた。さっきまで持っていた黄金の残光がなくなっている。耐久限界ではない。なぜだ?

 

「スティール……ぎりぎり間に合ったな」

 

 声がした方を向けば、黄金の残光を手にしたさっきの男がいた。倒したはずだが、同一個体か?

 

 考える隙を作ってしまった。その隙を目の前のクリスが見逃すわけもなかった。短刀で急所を貫かれた男はガクンと身体の力が無くなり、蹴られて後ろへ突き飛ばされる。男の身体が消え去り、辺りにはしんとした静寂だけが立ち込める。

 

 カズマはまだ頭が混乱していた。仲間たちを一度に失って凄まじいショックを感じながら、冷静に敵を倒せたことを理解して安堵する。

 これから彼女たちの葬式が開かれるのだろう。今は混乱しているカズマも仲間たちの死を受け入れて悲しみにくれるのだろう。

 

 だが、不死人には関係のない話。

 

 また同じ場所で蘇った不死人は装備から黄金の残光が無くなっていることを確認する。しかしショックは無かった。使い勝手が良いだけでただの装備品だ。

 

 ここで不死人は初めて自覚する。新しい敵の出現に心が動いたことを。

 

 なんだったんだあの魔術は、武器を奪われてしまった、それにあの女の魔術は素晴らしいものだ、他にもいるのではないか?

 この世界にどれだけ居られるかわからない。

 

 しかし、まあ、火を継ぐまで少し寄り道をしてもいいだろう。

 

 不死人は自分の装備を見て考える。この影の装備よりあちらの方がいいだろうと。かつて王グウィンの四騎士の一人だったアルトリウス。深淵の闇に汚れてしまった彼の装備を身にまとって、彼の装備していた深淵の大剣を手にする。

 

 街へ着けば、今度は比類にならない数の敵がいた。

 見たことのない武器、防具。そして身に降りかかってくる未知の魔術の数々。

 

 何度も殺され、立ち向かってくる敵を倒し続ける。

 

 普通の敵とは違うやつもいた。見たこともない力で殺された。何度も立ち向かって倒せばまた別のやつが現れる。

 

 最後に火を継いだのはいつだったか。今だけは忘れよう。

 

 どうか、この素晴らしい世界に祝福を…

 





 もしアクアをカズマが引き止められなかったら。
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