気がつけばこんなにも見てくれている者達がいるとは、感激だな。
しかし、まだまだ太陽のように真っ赤にはなれていない。頑張っていつか、太陽のように素晴らしい作品になって欲しいものだ。ウワッハッハッハッハ
不死人は眠ることはなかった。篝火で休憩することはあっても、じっと眠るなんてことはしたことがなかった。この世界に来てからは、試しに何度か眠ってみるものの、特に変化は感じられていない。こっちの方が落ち着く、とギルドの裏手に自分で作った篝火を、じっと眺めていた。
少し前のことだ。
「これを鍛えてくれ」
「はいよ。………なんじゃこりゃ」
武器屋に行って首無騎士の大剣を見せたが、店主はその剣を一瞥して言った。ここではダメかと、防具店に行っても答えは同じだった。
首無騎士の大剣はその時点で素晴らしい切れ味と攻撃力を備えているだろう。しかし不死人にとってそれは弱すぎた。
幸いなことに鍛えるための素材も腐るほど持っている。見た目だけの篝火を作って、試しに巨人鍛冶屋のところまで転送しようと思ったが、ダメだった。手頃な剣を地面に刺して、それらしいものを作っても効果はなかった。手詰まりだった。
「で、聞きにきたんですね」
「教えてくれ」
クリスの内心はひどいものになっていた。
断ることは出来なかった。
「この武器を強化したい。この世界で出来る人物に心当たりはあるだろうか」
机の上にどんと置かれたのはデュラハンの持っていた大剣だった。周りの冒険者たちがその剣を見てゾッとする中で、クリスは頭をフル回転させる。
「おそらく魔王軍の、それもかなり上位の存在でないと強化できないと思います」
「わかった」
あっさりと、それだけ言って大剣をソウルに収めた不死人はギルドを去った。
目の前で大剣が無くなるという珍事を見て、ゾッとしていた冒険者たちや職員は皆一様に気のせいだと思った。
対してクリスは焦っていた。もっと何か聞かれると思っていたのに一方的に会話を打ち切られて、機嫌を損ねたのかと慌てていた。
そんなことつゆ知らず、不死人は漠然と町内を歩いていた。そのときひとつの看板を目にする。
“ウィズ魔道具店”
ここにはまだ来てないな。ノックをせず扉を開けた不死人の眼前には、地面に倒された女とそれに馬乗りになっているアクア。そしてカズマの三人がいた。
「この武器を鍛えてほしい」
余りにも脈絡のない頼み方にカズマがズッコケた。
だが不死人からすれば、倒れている女が店主と判断したから首無騎士の大剣を取り出しただけなのだ。
「あばばばばばば」
突然現れた不死人、更に巨大な剣を持っている姿を見たアクアの頭脳は気絶することで現実から逃げる策を選んだ。
「うわっ、アクアさん!? どうしたんですかいきなり……えっ、その剣はベルディアさんの。どうして貴方がこの剣を持ってるんですか!? あぁ、アクアさん! 涙がピリピリして痛いです! 消えそうですー!」
涙だけじゃなく鼻水を垂らして惨たらしく気絶するアクア。その下で浄化されそうになり慌てるウィズ。大剣を出して棒立ちの不死人。
「もうやだこの世界……」
「鍛えてくれないのか」
カズマの心労は増えていくばかりだ。
アクアを退かしてウィズの消滅が防がれ、落ち着いたところでカズマは紅茶を一口飲んで息を整える。そして一つ一つ状況を整理する。
「まずおれたち、っていうかおれはウィズにスキルを教えてもらおうとして来ました。そっちの要件は〜〜って、聞くまでもないですよね…」
不死人の背中にある大剣を見て言った。完全にあのベルディアの剣だよな、と間近で見てよくわかった。禍々しい雰囲気がおれにもわかる。
しかし、知らないとはいえ同じ魔王軍幹部のウィズに「お前の同僚を殺して得た装備だ。鍛えてくれ」ってお願いしてるようなもんだ。断られるに決まっている。
「あの〜、申し上げにくいんですが」
「なんだ」
そら、やっぱりな。
「その魔剣はもうそれ以上鍛えられないんです。私が最大級まで強化してて、もう限界なんです。お力になれずすみません」
「そうそう、だから諦めて……今なんて言った?」
「えっ、ですからその魔剣はもう限界まで強化されてるんです。たぶんそこら辺の鎧なら難なく切れる大業物になってるはずですが……」
「いやそこじゃなくて! この剣を強化したのってウィズなのか!?」
そんな馬鹿な、とカズマは立ち上がった。
「ひぇ! あ、はいそうです。ベルディアさんに頼まれて、私自身もどこまで強化できるか興味がありまして」
照れて顔を赤らめるウィズは可愛いな、じゃない!
「だったら俺たちの装備も強化してくれないか! 金なら払う!」
「本当ですか!! よかった〜これでようやく食べ物を買えます! あっ、でもアンデッド以外にはバッドステータスがかかっちゃいますけどいいですか?」
「すみません、忘れてください」
椅子に座り直して頭を下げた。強くなる代わりにバッドステータスなんてお断りだ! あの中二病患者のめぐみんやド変態クルセイダーのダクネスなら喜びそうだが。
「ん? でもこないだ冬将軍と戦ってた時、その剣で弾かれてたよ。でも別の剣だと普通に切れてた。もっと細身の……なんて名前でしたっけ?」
「黄金の残光」
「なにそのカッコいい名前。……と、ともかくその剣でスパーって切ってた」
「ええええええええっ!?」
ちょっとそれ見せてください!!と詰め寄るウィズに、もう片方の手に黄金の残光を出して見せると、目の色が変わった。
「な、なにこれ………こんなの知らないです……あ、あの! これ使ってて大丈夫ですか!?」
「いや、特にない。それより鍛えてくれないのなら…」
帰ろうと立ち上がった不死人だが、そうはさせまいとウィズは止めようとする。
「あっ………」
止めるために抑えようと両肩に触れた瞬間、ウィズの動きが止まった。瞳は正気を失ってるように見開かれ、ガタガタと全身が痙攣したように震えた。なんか映画で見たことある。
弾かれるように不死人から離れたウィズは、玉のような汗を流して息を荒げていた。
ありえない現象だった。肉体が死んでいるのに息を荒げて汗が出る。更にウィズの透けていた身体が元の状態に戻っていた。
「ウィ、ウィズ!?」
「だ……だい、じょうぶです。ちょっと、お…驚いただけで……」
嘘だった。不死人に触れた瞬間に見てしまった。アンデッドだからかリッチーだからなのかはわからない。
まるで海だった。
人だけじゃない、獣のものや果ては神に近い存在の魂までもが大海のように蠢いていた。
いったいこの人……いや、そもそも人なのか怪しい。なんですか……いったい何者なんですかこの人。
不死人は何度も火継ぎを繰り返してきた。何度も…気が遠くなるなんて次元じゃない。繰り返すということは、薪の王グウィンのソウルや暗月の神のグウィンドリンのソウルを何度も何度もその身に吸収し続けている。他の王たちのソウルも吸収している。最初こそ、
よっしゃ! あの装備を手に入れられるぞ!
…と思っていた時期もあったろう。
だが、全ての装備を手に入れてしまい、武器のレベルアップも全て終えると、それを消費することはなくなってしまった。あとは上限のない貯蓄だ。
不死人からすればその膨大な
リッチーのウィズが見れば“気が狂うほどの怨霊”
ゆらりと立ち上がったウィズは、おそるおそる口を開いた。
「ああああのぉ……そのた、魂の数は…」
「あぁ、随分と溜まっててな。武器を鍛えるには充分の筈だ」
武器を鍛えるために魂を使っている。それならば納得がいく。禍々しいという言葉が可愛く思えるほどの力がこの目の前のちっぽけな片手剣にはあった。
「そ、そうですか……その剣をそこまで鍛えた人は凄いですね…ほんと、すごいですね」
頭が考えるのをやめてきて、語彙力が無くなっていく。
「ウィズさ〜ん。お〜〜いウィズさぁぁ〜ん」
気の抜けたカズマの呼び声に反応して、辛うじて元に戻ったウィズはいつも通りのお淑やかな風貌に戻っていた。
「その装備はとっても強いので、もう強化できません」
ウィズの目が死んでいた。前時代のRPGのキャラクターのように、無機質に答えていた。
「で、俺の要件なんだけど……ウィズ? 戻ってこぉおおい!」
カズマがウィズの肩を揺らして意識を自分に向けさせた。その先に揺れるウィズの胸を凝視していたことは、言うまでもない。
「リッチーのスキルで使えそうなのないかな」
「あ、あ〜そういえばそうでしたね。でしたら“ドレインタッチ”なんてどうでしょう?」
「ドレインタッチ? それってどんなスキルなんだ?」
「触った相手から魔力を奪ったり、奪った魔力を分け与えたりすることができるんです」
「へぇ〜、便利なスキルだな…」
さすが魔王軍幹部なだけのことは…。そこまで言って慌てて口を閉ざす。が、不死人はもう聞いてしまっていた。
不死人が動く前に、間に割り込んでカズマは必至の弁明を試みる。
「え、えーっとですね! この人は幹部だけども、結界の一部を任されてるだけのなんちゃって幹部なんです!! 敵対することもないし、魔王軍を倒すときにはきっと協力もしてくれますからッ! だから、そのぉ〜」
「わかった」
「は? わかったって……」
「敵じゃないんだろう?」
不死人の問いに、ウィズが答えた。
「も、もちろんです!」
「わかった。ただ……ひとつだけ聞かせてくれ」
「はい、なんでしょうか」
ウィズはなにを聞かれるのかと少し緊張した。
「特別な武器などは持ってるか?」
特別な武器。一瞬、その質問の意味がわからなかったウィズだが、首を振って持っていないと答えた。
「そうか。邪魔したな」
短くそれだけ言うと、不死人は店の扉を開けてそそくさと居なくなってしまった。
最後の意味不明な質問に首を傾げる二人だった。しかしその質問の答えによって、ウィズが将来的に生きるか死ぬかを左右されていたことは知る由もない。
魔道具店をあとにする不死人の後ろ姿は、がっくりと項垂れていた。
「おいそこのにいちゃん。そんなに落ち込んでどうした?」
後ろからの声に振り向けばそこには、
「ああ、武器が強化出来なかったんだ」
「それでそんなに凹んでたのか…変わった奴だな。理由はさておき、そんなお前さんにイイ話があるんだが」
不死人はいつでも盾と剣を装備できるよう考えていた。もはや条件反射だった。イイ話という言葉に反応していた。
「イイ話、か……どんなものだ?」
「来ればわかるさ。安心しな、騙そうなんて思っちゃいない。俺もそこまで愚かじゃねぇ。なんなら剣でも突きつけて行くかい?」
男の眼光は鋭く、まっすぐに不死人の目を見ていた。といっても影になってるので、仮面の目の部分を見ていただけだが。
「いやいい。案内してくれ」
「そうこなくっちゃあな! すぐそこだぜ、着いて来な」
無防備に背中を向けて先行する男の後ろを、不死人は警戒しながら進んでいた。たとえ
だがそんな心配は杞憂で終わり、狭い路地裏に入ったところの扉の前で止まった。キスマークがついたチラシやチケットが、玄関付近に落ちている。妖しい雰囲気の店だった。
「っと…、そうだ」
何か思い出したように振り向いた男は、不死人の甲冑姿を見て苦言を漏らした。
「流石にその格好は警戒されるかもしれんぜ。顔だけでも出しときなって」
「このままでいい。構わない」
「そうか? まあ気にしねぇなら別にいいか」
そう言って扉を潜った二人を待っていたのは、1人のサキュバスだった。
「いらっしゃいませ、2名様ですね。ご案内させていただきます」
「すまねぇが、こっちのにいちゃんは初めてなんだ。色々説明をしてやってくれねぇか」
「フフッ……はい、かしこまりました。では奥へどうぞ、そちらのお客様は少々お待ちください」
「わかった」
サキュバスがお店の内容について説明している間、不死人は別のことを考えていた。
サキュバス……デーモンとは違うのだろうか。楔は手に入るのだろうか。今のところ一番確率が高そうだな。楔も腐るほどあるが、有限だからな。
「お判りいただけましたか?」
「ああ、わかった」
なんとなく要点だけ理解した不死人は、サキュバスに連れられて店の奥のカウンターに連れて行かれる。
もし楔が尽きたらここに来よう。
この店はサキュバスが運営している「夢を見せる店」だ。
紙に必要事項を記入して、どんな夢を見せて欲しいかを記入すればサキュバスが深夜にその者の元へ行き、望んだ夢を見せる。対価として男からは少量の精力を吸わせてもらうというものだ。
「…………よし、書き終えた」
「どうもありがとうございました」
書き終えた紙を渡して、店から出た不死人は近くの宿屋に部屋を借りた。
通常であればこのあと眠った男の元へサキュバスが来て夢を見せる。代わりに精気を少しもらう。
しかし不死人の場合はどうなるのだろうか。眠るといっても見様見真似。更に精気なんてものはもう無く、代わりに膨大なソウルがある。
夜は更けていく。
次回、サキュバス死す。デュエルスタンバイ
まさかここまで見てくださる方々、評価してくれる方々がいるとは思いもしませんでした。でも、まだまだ頑張ってのんびりと投稿させていただきます!
更新しました。2020/05/17