[ウワッハッハッハッハ! すまんが、今は別の場所に行っている。用があれば白いサインろう石で呼んでくれ!]
石畳の上で横になっていた。どうやら眠ってしまっていたようだ。起き上がると、目の前には見慣れた燭台と火があった。王の器と彼らのソウルだ。
開いていた扉を進むと、長い階段を降りる。その先に待っている黒騎士を倒すため武器を構えようとした。
「……!? なんだと?」
武器を全く持っていない。防具も上級騎士の装備しか持っていない。エスト瓶すら底をついていた。急いで引き返そうとするもすでに遅いだろう、黒騎士はもう目の前だ。
「………なんだ?」
階段の先に黒騎士は居なかった。どこかに隠れているのか?
探してみるがどこにも居ない。
まさか、と不死人はこの先の黒騎士がいたであろう場所を見た。
遠目で正確にわかっただけじゃないが、やはり居なくなっていた。
それでも警戒しながら先を進む。しかしその警戒心も、最後の扉の前まで来ると無くなってしまう。そこは何度も訪れた扉だ。開けた先にいるのは薪の王グウィン。そいつを倒してソウルを奪い、自身を薪として『火継ぎ』を完了させる。
何度もしてきたことだ。だが今回は違った。
武器は持っていない。装備も粗末なものだけ。これでは殺してくださいと言ってるようなものだ。
だが不死人には不思議な確信があった。
ゆっくりと取手に手をかけて扉を開ける。中は洞窟のような開けた場所だった。
しかし予想通り、グウィンはどこにも居なかった。その気配すら無い。
「こいつは、あるんだな」
ただの燃えかすのように見える
何度目の火継ぎなんだろうか。
いいや、と頭を振って思考を止める。
何も考える必要はない。
ただ、火をつけるだけ。己を薪にするだけ。
これで世界は照らされ。
自分はまた牢屋の暗闇に戻る。
ゆらりと火をつけた瞬間、そこを中心に景色が塗り替えられた。暗く肌寒い洞窟の中から、どこまでも澄み渡る青空の中心に不死人は立っていた。
拍手が四方八方から送られた。何が起きたのかわからない不死人を囲んで立っているのは、かつて自分が殺してきた者たちだった。
「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「やったな貴公!」「おめでとう」「おめでとう…」「ウオン!」
アストラの騎士
アストラの
鍛冶屋
ソラール
イザリスの娘クラーナ
騎士アルトリウスとその相棒のシフ……。
皆が囲んで拍手を送っていた。
わけがわからなかった不死人も、ゆっくりと、その意味を咀嚼していった。
「そうか……終わったのだな」
アストラの騎士がうなづいた。
「もう、終わったんだな」
火守女が笑顔で頷いた。
「そうか…そうか……っ! やっと終われたのだな!」
震える肩に鍛冶屋のゴツゴツした温かい手が乗せられた。気づけば鎧は無くなり、姿も人間のものに戻っていた。
「貴公!! 貴公のお陰で世界は救われた! これからは、太陽のように輝かしい未来が待っているだろう!! ウワッハッハッハッハッ!」
太陽賛美のポーズをとるソラールに苦笑して、しかし自分も同じポーズで応えた。
それをみてクラーナは吹き出してしまった。大きな声で笑うほどに、私はおかしかったのだろう。
「ハッ、ハッ、クゥーン」
「後にしてやれ、彼は疲れているんだから、しばらくそっとしてやるんだ……あ」
子犬ならいざ知らず、巨体のシフを止められるはずもない。後ろから突撃されて吹っ飛ばされた不死人は床に倒れる。
上に覆いかぶさるようにして、シフはその匂いを嬉しそうに嗅いでいた。
「ウォン! ウオ〜〜ン!」
「や、やめろ! 勘弁してくれ!」
その顔を思いっきり舐め回していくシフ。もちろん止められるはずもない。だが不死人、いや、彼の表情は楽しそうで穏やかだった。
「…………」
目覚めた不死人は夢を見ていたことに気がついた。
決して有り得ない夢だ。
だが、気分はとても清々しかった。
一方、サキュバスの店は非常時につき閉店という看板が立てられ、中で全サキュバスを招集した会議が開かれていた。
円卓に並んで座るサキュバスたちの中から、1人が書類を持って立ち上がった。
「え〜、昨夜はじめて来店したお客様のことでご報告です。全身を鎧で包んだこちらのお客様は、紙に特に書かずにおまかせということで承りました。そこで研修を兼ねて新人の子と付き添いで研修係の2人で向かったのです」
サキュバスは周りの反応を伺いながら話を続ける。服装が際どい衣装でなければ、立派なサラリーマンだ。
「夢を見せるのは簡単でした。マニュアル通りに行い、望みに近いものを提供することができました」
問題はここから、と手元の書類を見る。
「その新人のサキュバスですが、精気を吸収し始めた瞬間です。雷に打たれたように弾かれました。地面に頭から落ちたんです。もちろん、対悪魔のスキルかと疑いましたが違いました。そのサキュバスはすぐに起き上がったんです!」
声に力が入る。
「心配して起こすと達観した表情で一言だけ『大丈夫』だと。それからそのサキュバスは出勤してきてません」
新人サキュバスが音信不通になった。まさか消滅したか、または倒されたのではと様々な憶測が飛び交う。
「ご安心してください、無事は確認してます! ただ……その、信じがたいことなんですが」
そのサキュバスは大きく深呼吸して自分を落ち着かせて、震える口から紡ぎ出した。
「一人暮らしをしてたんです。それも森の中でのんびりと」
「うそでしょ!!」
勢いよく立ち上がって椅子が倒れる。それに構わずサキュバスの1人は反論した。
「私たちサキュバスってのは、生きていくために精気を吸い続けなくてはいけない。それなのに森の中でのんびりと!? もっとマシな冗談を言ってちょうだいっ!」
「本当です。私も聞きましたよ『何をしてるの!』って、そしたらその子は、落ち着いて言いましたよ」
もう私は十分です。
「……はっ?」
「わかります。私もそうなりました。それで詳しく聞いたところ……ひょっとしたらもうお察しかもしれませんが。そのお客様から精気ではなく、別のものを吸収したのです。おそらくは…」
「
サキュバスの全員が息を呑んだ。前例がないわけではない。男の魂を吸い取ったサキュバスが似たような状態になったことはあった。しかし。
「だとしたら不味いのでは!? このままだと私たちサキュバスは討伐対象にされてしまいます! せっかくここまでやってきたのに…」
サキュバスたちが討伐されてないのは、精気という死に直結しないものを吸い取っていたからだ。だからギルドも黙認してきた。だが、もし人を殺したと判明すれば。自分たちはモンスターだ。討伐されないわけがない。
「それならご安心を、その方の無事は確認済みです」
「……いまなんて?」
「その方は生きてるんです。魂を吸われたというのに、平然と…」
沈黙。誰も何も言えなかった。まったく未知の存在だった。
協議の結果、またその人物が来店した時に直接聞くということで緊急会議は終了した。
そんな会議が行われていると知らない不死人は、自分の中から1000ソウルほど無くなっているのを感じ取るも、「精気を吸うと言っていたが、これくらいなら大丈夫か」と、特に気にしていなかった。
その数年後、とある森に関する言い伝えが広まった。
遭難者を救い手厚くもてなしてくれる、まるで女神のような温もりと安心感を与えてくれる存在がいると。
邪な気持ちでわざと遭難した者でも、その心を真っ直ぐに戻してくれるほどであるという。
サキュバスとしては死んだということで、予告詐欺ではないですよ。
皆さん、いよいよお別れです!
機動要塞デストロイヤーの出現に、アクセルの街を守る冒険者たちは大ピンチ! しかも、機能停止したデストロイヤーが爆発寸前ではありませんか! 果たして! この世界の運命やいかに!
この素晴らしい世界に不死人を!
最終回「不死人大勝利! 希望の未来へレディ・ゴーッ!」
更新しました。2020/05/17