とうとうここまで来たな! それも全て、評価してくれた貴公らのおかげだ!感謝してもしきれんわ、ウワッハッハッハ
この世界に、この街に来て良かったと思えた。彼らの穏やかな姿を見ることが出来たのは、この世界に来たお陰であった。
同時に、火継ぎの儀式を早く完全な形で終わらせなくてはという決意が固まる。
何度も繰り返される悪夢のような世界を終わらせるためにも、この世界で魔王を討伐して願いを叶えるのだ。
この街でまだ出来ることは多い。噂で聞いた魔剣使いのミツルギという男にも会いたい。その魔剣と装備があれば、これからの旅に役立つだろう。
そんなことを考えていた時だった。
〈デストロイヤー警報! デストロイヤー警報! 市民の皆様は速やかに避難してください! 冒険者の方々は装備を整えて至急ギルドにあつまってください!!〉
デストロイヤーは聞いたことがあった。正式名称を機動要塞デストロイヤー。強力な魔法防御壁と数多の魔法兵器、そして決して止まらない巨体。それが通った後は草すら残らないという。
防御を固めた方が良さそうだ。鎧をハベルの装備に変えて、冒険者ギルドへと走った。
これから不吉な事が起こる前兆のように、空はどす黒く分厚い雲がかかっていた。
アクセルの街の外、まだ遠いが前からは土煙を上げながら機動要塞デストロイヤーが迫ってきていた。
カズマの作戦はこうだ。
まず
良い案だと思ったが、万が一にも失敗したらこの街が引き潰されて跡形も無くなる。街が無くなれば人も居なくなる。まだ知り得てないスキルや知識も消えてしまうかもしれない。
これは、魔法攻撃力を上げる宵闇の頭冠をめぐみんとウィズの2人に渡すことで成功率を上げることにした。
「おお! なんでしょうこの感覚はっ。これなら過去最高の爆裂魔法をお見せできますよっ!今ならデストロイヤーの防壁なんて屁でもありません!撃ちましょう、さあもう敵は目の前で痛ッ!」
興奮していためぐみんは頭への衝撃にうずくまった。恨めしげに後ろを見るとカズマが手を振り抜いた格好でいた。
「なにをするんですかカズマ! よりにもよって頭を叩くなんて、これが壊れたらどうしてくれるんですか!」
「馬鹿かっ! せっかく攻撃力が上がっても無効化されたら意味ないだろうが!」
騒がしくなりそうな二人組に背を向けて、今度はウィズの元へ急ぐ。めぐみんは壊れたらなどと言ってたが、多少の衝撃で壊れはしない。
(たとえ壊れてもいくらでもあるからな)
無数にあるそれらの中からもう一つ取り出して、今度はウィズに渡した。
「こ、これ凄いです! 力が漲ってくるのがハッキリわかる……これほどのものをお借りして、良かったのですか?」
「問題ない。作戦を成功させるためだ」
そう、問題ない。これを装備した目の前の魔王軍幹部が敵対したとしても問題はない。この頭冠は魔法攻撃力を上げてくれる以上に魔法防御力が低くなる装備だ。だから、装備してくれてる方が倒しやすいのだ。
そうとは知らず、魔法攻撃力が上がるのを実感して機嫌を良くするウィズの下を離れる。
「あ、ちょっと待ってくれ!」
カズマが去ろうとする彼を止める。
「なんだ?」
「いや、その、装備を借りてる立場から言うのもアレなんだけどさ……」
何か言い淀んでいるのを見た彼は、続けてくれと促す。すると顔のそばまで寄ってきて小声で囁いた。
「この間デュラハンをやったアレって、遠距離にいる敵には……その、当たらないよな?」
「無理だ」
「即答かよ〜、それじゃあ何かないか? こう、遠距離にいる相手にドカーンとできる魔法とかスキルとか」
カズマの言葉に思案する。遠距離ならソウルの矢が最初に思いつく。だが威力が足りないだろう。なら、アレで十分だ。
「あるな」
「(あるのかよ)そうか、じゃあ頼む! もしめぐみんとウィズが失敗したらそれをデストロイヤーに食らわせてくれ」
「承知した」
元よりそのつもりだった。アレでどこまで抵抗できるかも知りたかった。
「来たぞぉぉぉー!」
目標の位置まで来たことを見張り台の人間が伝える。それを合図に冒険者たちも緊張して身構えた。
しまったと彼は思った。城壁を降りる前に現れてしまった。階段へ駆けていくが直前に、そういえばと思い直す。城壁の淵まで戻ってきた不死人は見下ろして地面までの距離を確認する。
ここからなら飛び降りられる。
せっかくならと、ローガンの杖を装備した。めぐみんの杖から装飾品だけを除いた曲がりくねった大杖だ。気づいためぐみんが興奮しそうな大杖だが、彼女は宵闇の頭冠で未だに身を悶えさせていた。
落下制御という魔法がある。高いところから落ちてもその落下ダメージを抑えてくれるという便利な代物だ。しかし、不死人はあまり使ったことは無かった。
使えそうなところは少ない上に、あの世界は落ちれば大体即死だった。いくら制御しても意味はなかったからな。
落下ダメージを減らす為にも、ハベルの鎧からローガンの服へ装備を変える。
「えっ、いまどうやって着替えたの」
落下制御の魔法を自分にかけて、城壁を飛び降りた。上から悲鳴が聞こえるが、大丈夫だろう。思った通り落下のダメージは無く、無事に着地できた。
デストロイヤーまでは遠いな、走るか。
魔術師の格好をした男が年季の入ったローブをバッサバッサとはためかせながら全速力で走る姿は奇怪に見えたことだろう。
まだ遠い
そうこうしてるうちにデストロイヤーに向けて極大の光が放たれた。これが防壁を消し去るアクアのスキル『セイクリッド・ブレイク・スペル』だ。僅かに耐えた防壁だが、突破されて魔法防御壁は跡形もなく消しとばされた。
「よっしゃあああー!!」
「貧乏店主さん! やっちゃってくれェ!」
「いっけぇぇぇー!!!」
まだ遠い
間を置かずに巨大な魔法陣が二つ現れた。めぐみんとウィズが城壁の上から爆裂魔法を撃とうとしている。
「いてっ、おい何やってんだお前!」
「死ぬ気か! 待てって!」
まだ射程外だったが、呪文が長くて助かった。冒険者たちの間を無理矢理に押し通って、やっと一番前まで来ることが出来た。
「お前は! なぜここにいる!? 城壁で待つのでは無かったのか!」
一番前ではなかった。ダクネスがいた。面倒だ。もし巻き込まれてダクネスに当たったら敵対してしまうではないか。
太陽の光の槍は正確に目標を貫くが、それの余波がダクネスにあたってダメージを食らわせてしまっても敵対してしまうだろう。
………まあその時は知られる前に
この世界の太陽は、ロードラン以上に希望の光を浴びせてくれる。彼がこの世界にいればどれほど歓喜したことだろう。
不死人は装備を変えた。
太陽を賛美し続け、いつか自分も太陽になろうとしていた男がいた。太陽に焦がれるあまり、モンスターに付け入れられて変わり果てたこともあった。
何度も繰り返して、救ったはずが彼は太陽を手に入れられなかったと凹んでしまっていた。
しかし、と不死人は思った。
その存在は、その言葉は、まだ人間性を失う前の絶望した彼にとってまさに太陽のように光を差し込んでくれていた。
そして今、この世界の冒険者たちは絶望のどん底にいる。デストロイヤーという巨大な絶望の塊を前にして身を震わせて立ち向かおうとしている。
「ソラール……貴公の力を借りるぞ」
左手に握りしめた暗月のタリスマン。
胸には希望の象徴、太陽のマーク。
特徴的なバケツ頭。
「おぉ……なんだあの光」
「なんか、気持ちいい感じだな」
そして空へ伸ばされた右手からは、太陽の光が溢れ出して周囲を照らす。
「ふんっ!!」
放たれたそれは、正確にデストロイヤーの足を貫き粉微塵に破壊した。
動きを止めたデストロイヤーへ、強化された爆裂魔法がとどめを刺す。とてつもない爆風と爆音が、アクセルの街を揺らした。次いでデストロイヤーも轟音をたててその巨体を沈めた。
決して止まらないと言われてきたデストロイヤーがついに倒れた。自分たちの力でデストロイヤーを倒したのだ。
冒険者たちは狂喜乱舞した。迫ってくる巨体を見たときはもうダメかと思った。正直、勝てるわけがないと思っていた。などと安心して本音をぶちまけたり、パーティーメンバーで喜びを分かち合う姿がそこにはあった。
カズマも同じだった。作戦立案者とはいえ、不安は感じずにはいられなかった。めぐみんが緊張して誤爆しようとした時は焦った。だが、こうして見事に倒すことが出来た。肩の荷が降りたと思った。
だがウィズは気づいていた。直前に感じ取った神聖な気配がデストロイヤーの足を吹き飛ばしたのだ。
誰かは見当がついた。不死人以外に考えられない。少しゾワっとしたが、それでも爆裂魔法を討つために集中できた。凄腕の冒険者として名を馳せていただけはあった。
デストロイヤー討伐に喜ぶ人々の中で、不死人だけはスリットの内側で機能停止したデストロイヤーを睨みつけていた。
まだソウル化していない。つまりまだ倒せてないのだ。
「俺、この戦いが終わって帰ったら結婚するんだ」
「今日は祝杯だー!」
「やったか!?」
冒険者たちの歓声に混ざって、様々なフラグが立っていく。それと同時に、機械の音声でデストロイヤーからアナウンスが流れだす。
〈被害甚大につき、自爆機能を作動します。乗組員は直ちに避難してください」
思った通りだ、と不死人は予感が的中したことで次の行動へ移った。
いままでの人生の中で、はしごを登ったことはあるが段差をよじ登ったことは無かった。だから目の前のデストロイヤーに登れそうな場所が無いことを確認して、『打開策』を行使した。
「なんだよ、あれ………」
ダストの言葉が妙に響いた。
冒険者として数々のクエストをこなしてきたダストは、時には強大な敵と遭遇して戦うこともあった。
だから、目の前の光景が信じられなかった。
「穴が…デストロイヤーに馬鹿でかい穴が開きやがった」
間近で見ていたダクネスは、その威力に興奮するでもなく畏怖するでもなく、見惚れていた。エリス教徒として神を信仰する彼女は、太陽の光の槍が帯びる神聖な気を感じていた。
戦場の最前線にいながら穏やかな心持ちになっているダクネスだったが、カズマの声で我に帰る。
「ダクネス!避難するぞッ!」
動けないめぐみんを背負って、カズマは叫ぶ。
しかしダクネスは、一歩も引かない。それどころか抜刀して突き進んでいくのだ。
「カズマ、騎士である私が逃げたら誰が皆を守るというのだ。それに先ほどの騎士殿の一撃、彼ならきっとなんとかしてくれるかもしれない」
「そうだ! だからあの人に任せて、俺たちは避難を…」
「だが、彼には恩がある。この街に住む者として返しきれない恩があるのだ。だから少しでも、彼の役に立って恩を返さなくてはならない!」
ここで変態発言の一つや二つかますと思っていたカズマはその正論に押し黙らせられた。逃げると言い辛い空気になったのを感じ、なんとかこの場を逃げ出す手段を考えていた。
それを見透かしたように、笑みを浮かべてダクネスは言う。
「案ずるな。ここから先は私だけが行く。万が一爆発しても、私の防御力なら耐えられるだろう。お前たちは逃げろ!」
更に言い辛くなった。逃げ出す道がどんどん狭まっていくのを感じながら、カズマは目の前の頼もしい背中をしたダクネスを見て、こいつらわざと言ってるのではと疑う。
しかしダクネスは本心で言っていた。自分の防御力がどれほどかは自分で知っている。爆発したらまず助からないだろう。だから少しの間だったが、仲間として共に過ごした彼らを逃さなくてはと心から思っていた。
「……行ってくるッ!」
それだけ叫ぶと、ダクネスは剣を構えて不死人の開けた大穴に突撃していった。
止めることもできず、まさしくクルセイダーの鑑のような行動をしたダクネスに、カズマは逃げると言う考えを捨てた。
「しょぉぉおおがねぇなああああ!!」
「えっ、ちょっと待ってくださいやぁぁぁぁあ!」
「ちょっと!!待ちなさいよー!」
「皆さん、待ってくださーい」
大穴に消えていったダクネスたちを見て、逃げ出していた冒険者たちが足を止めた。
自分たちは何の為に戦っているのか。なぜこの街に住んでいるのか。なぜレベル30超えてるのに街を離れてないのか。
男性冒険者たちは、その紙を握りしめて闘志を燃やす。サキュバスの店の割引券を手に、デストロイヤーへ立ち向かっていく。
「行くぞ野郎どもー!」
「絶対にこの町を、店を守るぞォォォォ!!」
意思が一つになって、冒険者たちはデストロイヤーへと突き進む。
爆破まで残り時間は、あとわずかだ。
ここまで続けられたのも、皆様の感想や評価があってこそです。
本当にありがとうございました。
後編の次にエピローグがあって、この話は終わりにさせていただきます。