この素晴らしい世界に不死人を   作:ボンシュ

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 もしもコロナタイトによって不死人が死んでいたら……ではなく

 これが正史であり、前話がもしもの話。

 不死人がいる時点で、GOODENDは有り得ないのだ


この素晴らしい世界に亡者を

 

 

 嗚呼………渇く…渇く……どうしようもなく渇く

 

 あれは……湖か?

 

 ゆらゆらとゾンビのような足取りで近づいた

 

 

 水に頭を突っ込んで飲み続ける。

 

 ダメだ………渇きは治らない。

 

 

 何か……なんでもいい…この渇きを止めたいのだ。

 

 

 ガサッ

 

 

 茂みから音がした。

 ぐるんと首だけが回ってその方を見る。

 

 ウサギがいた。

 

 そのウサギは一撃兎と呼ばれるなかなか強い部類のモンスターであった。だが、相手が悪すぎた。

 

「光が……」

 

 

 この者にとってそれは、暗い洞窟の中に灯った微かな光に見えた。

 

 刹那。

 

 一撃兎が認識するより早く短剣が兎の胴体を貫いていた。

 

 亡骸となった一撃兎から彼へと、ソウルが流れ込む。

 

 

 しかし……

 

 

 ああ……足りない…………少ない……なんて矮小なソウルだ。

 

 

 焼け石に水とはこのこと。砂漠に水滴を垂らすようなものだった。地面に落ちる前に蒸発してしまう。

 

 それどころか逆効果だった。ソウルを得る感覚は、彼の飢えに拍車をかけた。

 

 

 その時だった。

 

 

 

 このソウルは………!!

 

 そんなに遠くない場所から、とてつもなく濃厚なソウルを感じ取った。

 

 これほど神聖なものは滅多にない。

 

 この飢えを、このソウルで埋めることができたら、それはどれほど甘美なことだろう。

 

 

 ゆらゆらと、ゆっくり、しかしその足先はまっすぐアクセルの街へと向いた。

 

 

 

 

 

 

 そのころアクセルの街では不死人の墓が作られ、慎ましやかな葬式が行われていた。

 

 参列者はカズマ、アクア、ダクネス、ギルドの職員、そしてデストロイヤー討伐に参加していた冒険者の一部だった。

 

 地面に埋められてゆく簡素な棺桶には、誰も入っていない。それは不死人の壮絶な死に方が原因だった。

 

 コロナタイトを掴んだ不死人はどんどん輝きを増していき、眩しさが限界まで達した瞬間、その身体の内側から爆発したのだ。

 

 幸いだったのは、全員が眩しさで目を閉じていたことだろう。

 

 だが、耐性のないものやカズマやめぐみんはそれが何か理解した途端に吐き気を堪えきれなかった。

 

 アクアがすぐに浄化して綺麗になったが、一度見て嗅いでしまったそれを忘れることはできない。

 

 ダクネスや他のベテラン冒険者に介抱してもらい若干落ち着いたと思ったら、今度はデストロイヤーが爆発するというアナウンスが流れるではないか。

 

 仲間を失った悲しみに涙を流す暇もなく、冒険者たちはデストロイヤーの外へと避難した。

 

 デストロイヤーはカズマの機転で、ドレインタッチを使いアクアの魔力をめぐみんに移して特大の爆裂魔法を放ってもらい、消滅させた。

 

 これまでで最高規模の爆裂魔法に関わらず、めぐみんの顔はまるで苦虫でも噛み潰したようにしていた。

 

 冒険者たちの歓声が響くも、カズマたちの心は沈んだままだった。

 

 アクアは不死人に対していい思い出はあまり無かった。だが、街を救った人物の魂を女神として少しでも良く弔ってやりたかったのだろう。女神としての力を込めた祈りを捧げた。

 

 そして、カズマは街を救った英雄として不死人の墓を作り、葬式を開いたのだった。

 

「カズマが人の為にお金を使うなんて、そういう一面もあったのね」

 

「お前、俺のことなんだと思ってんだよ」

 

 いつもなら更に一言二言罵倒するが、今はそんな気は起きなかった。それにわかっていた。アクアが自分を元気付けようとしていることを。

 

「めぐみんの様子はどうだった?」

 

「まだ眠ってるわ……無理もないわよ、あんなものを目の前で見ちゃったら」

 

 そう、めぐみんは家で寝込んでいた。不死人が死んだという悲しみもあったが、なにより壮絶な人の死を目の前で目撃してしまったのだ。体調も芳しくなく、しばらくは自宅療養だろう。

 

 だが、きっといつかは元に戻るのだろう。いつも通りの喧しい仲間たちに振り回される日々が待っているのだ。

 

 だから今は、ゆっくりと過ごそう。

 

 傷は時間が治してくれる。

 

 

 

 

 しかし、現実は甘くなかった。

 

 

 葬儀が終わって屋敷へ戻ったカズマ、アクア、ダクネスらはそこで信じられないものを目の当たりにする。

 

「そ、そんな………まさか!」

 

 屋敷の玄関を開けた時、そこにいたのは不死人だった。目の前で爆散死した筈の不死人が生きて立っていた。

 

「いったい……何がどうなってんだ……確かに死んだと思ったのに。わけがわかんねえ、なあ説明してくれないか?」

 

 そう言って近寄ろうとするカズマを、ダクネスが引き止めた。いつもの彼女らしくない鬼気迫った表情で、腰の剣を抜いていた。

 

「下がれカズマ……。騎士どの、なんだそれは。返答によっては……」

 

 

 その手に持った剣には……見覚えのある帽子が血塗れて突き刺さっていた。

 

 

「嗚呼なんと……なんと美しいソウルだ…美しい………美しい……」

 

 アクアを見た瞬間、不死人は剣をソウルに収めてうわ言のように繰り返しながら、渇望するように両手を伸ばして近づいていく。

 

 

 

 

 

 

 ぬちゃり、とめぐみんの帽子が落ちた。

 

 

 

 

 

 

「逃げろおおおおーーーーーーッ!!」

 

 

 ダクネスが叫んで、目の前の二人を担いで走り出した。止まらない冷や汗、背中に氷柱を突っ込まれたような気分だった。あのままあの場にいたら確実に死んでいた。

 

 一方、獲物を逃した不死人は。

 

 

 

 

 なんと……なんと美しいソウルだろうか…先程の少女も大きなソウルを持っていたが、それとは比べものにならないほど神聖で巨大なソウルだ。

 

 しかし………逃げられてしまった……

 

 

 

 

 問題はない

 

 

 

 ゆらりと片手に弓を取り出した。

 

 【ファリスの黒弓】

 弓の英雄ファリスの愛用した黒い弓。通常の弓よりも飛距離が長いが使用難度が高く、能力の低いものが使用すると、むしろ普通より威力が下がってしまうだろう。

 

 これなら………仕留められる………

 

 

 不死人は弓の照準をダクネスに合わせた。どれほど遠くへ逃げようが、ここからアクセルの街までは平野だ。隠れられそうな木も道中にはない。

 

 たとえ隠れたとしても、この弓は木ごと貫いてしまうだろう。

 

 ゆっくりと矢を取り出して構えた。限界まで上げた筋力が、弓を折れそうなほどしならせる。

 

 

 

 

 

 今だ。

 





 あーん!めぐみんが死んだ!
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