この先、ギャグ補正なし
この先、絶望あり
もしも不死人が所持していたものが拳銃だったら、カズマたちは逃げ切れたかもしれない。弾丸は決められた以上の力を発揮しない。
不死人のいる世界には、盲目というのに弓矢で飛ぶ龍を落とした男がいた。不死人にあれほどの芸当は不可能だ。
だが不死人が無限の地獄の中で得たステータスは、たった一本の弓矢を一撃必殺の兵器に昇華させる。それが射程距離最長の代物であれば、逃げ場など存在しない。
ギリギリとしなる音がして弓がしなる。狙うのは2つのソウルを抱えて走る1つのソウル。
この距離なら外さない………
そして射抜こうとした瞬間、不死人の上空にとてつもない魔力が集う。
これは……かわせないか
その魔力は赤い陣となって幾重にも積み重なり、屋敷を覆って余りあるほどの大きさに成長した。
耐えられないな……
あっさりと不死人は観念して弓矢を下ろした。
そしてその時、陣に込められた魔力が炸裂する。
「エクスプロージョン!!!!」
爆発する寸前、不死人は見た。遠い丘の上の茂みの中に、先程の少女が杖を構えて立っていた。
そこにいたのか………次は気をつけよう
屋敷を飲み込んだ爆裂魔法は、デストロイヤーを消滅させたものを除いて過去最大級の代物だった。屋敷ごと食らった不死人はあっという間に蒸発し、チリも残さず消え去った。
爆発の影響は逃げていたダクネスにも及んだ。爆風と轟音に足をすくわれて転びそうになりながら、鍛え上げた筋肉で押し留めた。
その爆発は放心状態のカズマとアクアの目に光を戻させた。
「今の…爆裂魔法!!」
「いるの!? めぐみんいるのー!?」
じたばたと腕の中で暴れ出した二人に、たまらずダクネスは離して腰を下ろした。疲労困憊のダクネスに構わず、カズマとアクアは爆裂魔法を放ったであろう仲間を探した。
死んだと思っていた仲間が生きていた。その事実は、屋敷の消滅を頭から吹っ飛ばした。
落ち着け落ち着け! めぐみんならどこから撃つ? 撃った後は倒れるから、平地とか簡単に見つかる場所じゃない……怪我をしてるからそこまで遠くじゃないだろうから、近くの岩とか茂みのどこか……よし、じゃあどこだ?
カズマは辺りを見回した。あった。屋敷からそう離れていない場所に、丘がある。そしてその上には岩は無かったが、人が隠れられるほどの茂みもある!
「めぐみーーんッ!!」
走った。なりふり構わず走って、丘の上まで登った。
道中、クレーターから丘の上まで続く血痕を発見して背筋が凍りつく思いをした。急がねば間に合わなくなる!
「めぐみーん!! 返事しろおおお!」
声をかけ続けた。めぐみんの微かな声をかき消すほど声をかけ続けた。血痕を頼りに茂みを進むと、いた。
めぐみんがお腹から血を流して倒れていた。
「っ!! めぐみん! しっかりしろめぐみん!! アクア早くしろ!回復、回復魔法を!」
「ゼェ……ゼェ…わ、わかってるわよ!! ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!」
追いついたアクアが、全力の魔力を込めた回復魔法を連発する。
「ダメだ、目を覚まさねえ! そうだ、アクア!魔力をめぐみんに移すからこっちこい!」
「ま、またなの!? もうヒールをかけたから大丈夫よ! 私の魔力もかなり少ないんですけど」
勿体ぶるアクアに、カズマはそっとめぐみんを横たわらせて近づき、頭を思い切り殴った。
「いったいあああ! 殴った! カズマが思い切り殴った!」
「バカかお前!! 今日めぐみんはすでに二度も爆裂魔法を撃ってんだぞ! それに十分回復してねぇのにあんだけの爆裂なんて、魔力どころか命削ってるかもしれねぇんだぞ!」
アクアがはっとする。
言い終わると、カズマは無理やりアクアをめぐみんの近くまで連れて行き、左手はアクアの首根っこを掴んだまま、右手はめぐみんの胸に当てた。
「うわああああ! カズマさんがセクハラしてるー!」
と、いつもならアクアは叫ぶだろうが、カズマの必死の形相にその言葉は喉の奥へ仕舞われた。
「めぐみん!!」
遅れてダクネスが到着する。
その声に引き戻されるように、めぐみんのまぶたがそっと開いた。
「ん……私は…ここは…………」
「「「めぐみん!!」」」
目を覚ましためぐみんに、3人が抱きついた。
「いったああああああああああい!!!!」
ダクネスの鎧の痛みと3人分の重量に、悲鳴が響いてこだました。
その頃、復活した不死人は平地でぼうと突っ立っていた。
渇きは一層強まった
邪魔さえなければ
爆裂魔法………強いな
爆裂魔法の対策を考えていた。たとえアクアを殺してソウルを得たとしても、爆裂魔法を食らえばそのソウルも失うことになる。
どうしたものか
不死人が動き出すまで、まだ時間はある。
めぐみんが無事だったのは嬉しいが、家を失ってしまった。いつもならスケベ心からカズマがめぐみんを背負うが、今はそんな状況ではなかった。めぐみんはダクネスに背負ってもらい、一行は冒険者ギルドに急いだ。
受付まで来たカズマを見て、先程の爆音がまた爆裂魔法によるものとわかっていた受付嬢は呆れた顔で対応する。
「カズマさんまたですか? 街が救われたと思ったら早速問題を起こして………カズマさん?」
目の前からカズマが消えた。すると周りの冒険者たちや彼のパーティーメンバーが信じられないものを見る目で『下』を見ていた。
まさか、と受付から身を乗り出して下を見ると、そこには土下座をするカズマがいた。
「ど、どどどどうしたんですか一体!?」
天変地異でも起きるのかと、ギルドが騒ついた。それもそのはず、カズマはクズマやカスマなどの悪名が轟く男だ。ひん曲がった性格の持ち主だ。それが今、地面に頭を擦り付けて土下座をしている。
「頼む!! 俺たちを助けてくれ!」
受付などで話ができるものではないと察した受付嬢のルナは、奥の応接室にカズマたちを通して、これまでの事情を聞いた。
「まさかあの騎士さんが……」
ルナは信じられなかった。騎士はこれまでギルドで様々なクエストを受けていった実力派の冒険者だったからだ。
それになにより。
「生き返ったというのは……そもそも本当に彼だったんですか? 見間違いということも…」
「いいえ、間違いないです! 格好といい、なんか風格っていうんですかね、間違いなくあいつでした」
頑として同じことを繰り返すカズマに、ルナはでは、と応接室の角にある棚からベルを取り出して机の上に置いた。
「これは、嘘を見抜く魔道具です。試しにやってみましょうか。ゴホン 私は男です」
チリーン
「こんなものが……」
カズマは目の前の魔道具に冷や汗をかいた。もしこれを使われていたのがこういった場ではなく、取り調べなどだったらどれほどキツい状況だったことか。
だが、今はこれが頼もしい。
カズマはもう一度、不死人に襲われた事実をルナに聞かせた。
ギルドの出した結論はこうだった。
『騎士 指名手配 賞金1億エリス』
顔はわからない為、似顔絵は鎧だけになってしまっているが、これで少しは安心できるものだ。
賞金の1億エリスは、カズマたちがデストロイヤーを討伐したことに対する報償金の中から出すことになった。
まだ賞金を渡されていなかったことが幸いした。屋敷は失ったが、財産は残っていたのだ。
しばらく宿屋に泊まることになるだろうと、いい場所はないか探していたカズマは、突然つまづいて顔面から地面に倒れてしまう。
「ぶべら!」
「ぶべらって! 今どきぶべらって、プークスクス!」
二人のいつも通りのやりとりを見て、少し気が楽になってきたダクネスはそのつまづいた場所を見て駆け寄った。
「ウィズ! どうしたんだ!」
助け起こされたウィズは疲れ果てたようにぐったりしていた。カズマたちはウィズを彼女の魔道具店に運んでいった。
魔道具店に入った一行は、奥の部屋にあるウィズの寝室に運んで一息ついた。布団の中で苦しそうにうなされるウィズの様子に、カズマは
「おいアクア、まさかなんかやってねぇだろうな」
「やってないわよ、てか出来ないのよ。この子の身体にとてつもない量の魂みたいなのが入ってて、それに阻まれちゃってるの」
「魂みたいなの、それって………ん?お前いまなんて言った?」
アクアを白い目で見るカズマ。
その時、ウィズの目がゆっくりと開いた。
「おおウィズ、気がついたか」
「ダクネスさん…えっと、ここは……えっ!? なんで皆さんが私の部屋に!」
「落ち着いてください、あなたが道端で倒れてたからここまで運んだんです。 にしてもなんでまたあんなところに」
めぐみんの問いに、ウィズは思い出したのか眉をひそめる。
「あれは……ちょうど新しい商品を探しに歩いてた時です」
商品探しに街へ繰り出していたウィズは、突然幾億もの魂の暴風雨にさらされた。周囲の人々は全く気がつかない。常人なら気が狂ってしまいそうな量の奔流だったが、ウィズは仮にも魔王軍の幹部、そして元アークウィザードのリッチーだった。それらの要因が重なり、ウィズは気絶寸前で留まることができた。
それはちょうど、めぐみんが特大の爆裂魔法で屋敷ごと不死人を倒した時と重なる。
不死人がデストロイヤーの中で死んだ時、その場に留められていた大量のソウルがもう一度死んだ時に解放されたのだ。
だが、ソウルのことを知らないカズマたちにこれを理解することはできない
「あの、ちょっといいですか?」
否! 一人だけいた。
知能指数の高い紅魔族の中でも、更に賢い少女がいた。
「その魂の奔流が襲いかかってくる前、我が爆裂魔法の音は聞こえてました?」
めぐみんは、顎に手を当てて難しい顔をしながら問いかけた。それにウィズは首を縦に振る。
「ええ、ちょうどそのすぐ後でした。でも、それが何か」
死んだはずの騎士の復活
襲いかかってきた騎士の異様な雰囲気
しきりに呟いていた『渇く』という言葉
ウィズの気絶
爆裂魔法
魂の奔流
爆裂魔法を食らう寸前の騎士の落ち着き様
「……うそ…まさか」
最悪の展開を想像してしまっためぐみんは顔を青ざめさせた。もしこれが本当なら……
その頃、アクセルから離れた平野では
ふむ、これならいけるか……
ゆっくりと不死人が立ち上がった。
お前は! 死んだはずの!
モハメド・めぐみん!!
「YES! I AM! チッ チッ」