こっちが正史です
貴公、もう十分であろう
俺や他の不死人たちの分までここまで頑張ったのだ
永遠に続く火継ぎをする必要はない
だから、もうゴールしてもいいのだ
街の
〈デストロイヤー警報! デストロイヤー警報!
市民の皆様は速やかに避難してください! 冒険者の方々は装備を整えて至急、ギルドにあつまってください!!〉
受付嬢の
「デストロイヤーか………」
恐怖に駆られた人が入り乱れる通りのど真ん中で、不死人はじっと立っていた。
機動要塞デストロイヤー。強固な魔法防壁や数多の魔法兵器、そして身体自体も凄まじい強度を誇るまさに歩く要塞。
万が一にも魔王軍を倒す際に邪魔されたら面倒だ。更にそれを手札にでもされたら、そちらに魔法や時間を割くことになる。下手をしたらデストロイヤーに構ってる隙を狙われて、袋叩きということも考えられる。
そう考えると、これはチャンスではないか。デストロイヤーに集中して戦うことが出来るのは実にやりやすい。
「これと……あとはこれでいいか。『敵感知』」
装備を確認した不死人はその駆け足で街の外へ向かった。デストロイヤーの居場所をスキルで特定すると、その方角へ向かった。
上級騎士の鎧で走る姿は、戦地へ赴く勇敢な騎士に見えたことだろう。しかしパニックを起こした住民たちは目もくれていない。更に本人は騎士とは程遠かった。
「この辺りでいいか…」
バチンッ
空気が爆発したような音を立てて、不死人が消えた。右、左と手を大きく振らして走っていた。一歩毎の間隔は大きく、あっという間にデストロイヤーの全体が視認できるほどの距離まで近づいた。機動要塞デストロイヤーは脚を止めることなく進んでいる。
もう少し近づいたら頃合いだろう。不死人は慌てることなく暗月のタリスマンを構えた。
デストロイヤーの脚が目の前の塵を踏み潰さんと迫る。
「もう少し、もう少し………。ここでいいか」
暗月のタリスマンが紫の光を帯びた。『沈黙の禁則』だ。
デストロイヤーの脚が不死人の目の前に振り下ろされた。黒く光沢した脚が不死人の姿を反射する。
ゆらゆらと波のように漏れていた光が解き放たれ、不死人の体を魔法陣が拘束具のように包んだ。しかし動けないわけじゃない。即座に踵を返して、オーンスタインの鎧の効果で底上げされた走力は不死人をデストロイヤーから遠ざけた。
金属が擦れた音が、咆哮のように響いた。暴走してから何年も地上を蹂躙し続けていた怪物が足を曲げ、地面へ身体を下ろした。
大きな土煙を上げて静止したデストロイヤーを見て、感嘆の息をついた。
「危なかった……っと、落ち着いてる場合じゃないな」
デストロイヤーの魔法に関する部分を完全停止させたとはいえ、それは時間制限付きだ。次の作業へ移らなくては。
オーンスタインの細身の身体に似つかわしくない大振りの剣が、右手に構えられた。
それは剣というにはあまりにも大きすぎた
大きく ぶ厚く 重く そして大雑把すぎた
それは 正に 鉄塊だった
黄金の残光を扱っているかのような軽さで『古竜の大剣』を試し振りした不死人は勢いよく走り出した。
流石に古竜の大剣ほど重いものを持っていては、先ほどのような速度は出せない。走りながら、まずは目の前の脚を一閃した。飴細工のように変形してちぎれ飛んだ脚が大地に突き刺さる。
先を無くしたデストロイヤーの脚が倒れる。苦痛の叫びのように、付け根から金属音が発生するが、そんなことにいちいち反応している暇はない。その勢いのまま時計回りにデストロイヤーの周りを走って、大剣を振り回し続ける。2本目、3本目と斬り捨てたところで、不死人は足を止めた。
膝に手を当てて深呼吸をする。死なないとはいえ不死人も疲れるのだ。
「不味いな……」
息を整えて立ち上がった時、体に纏わりついていた魔法が薄れていることに気がついた。まだ3本しか切ってないというのに。
「しょうがないか……」
しぶしぶ暗月のタリスマンを取り出して、タイミングを待った。魔法陣がどんどん薄れて、目視するのも難しくなったところで胸の前に掲げた。
紫色の波紋が広がり、『沈黙の禁則』がかけられた。動きかけていたデストロイヤーはまたしても沈黙する。
早く終わらせよう。その一心でまた走り出した。『沈黙の禁則』はその効果ゆえに回数も大きく制限されている。1日に2回が限界なので、もう使えないのだ。
4本、5本———早々と脚を切り飛ばされダルマになっていく様子は、無邪気ゆえに残酷な子供に足をちぎられていく昆虫のようだった。
最後の一本が切り倒された。これでたとえ沈黙の禁則が無くなろうとも、デストロイヤーは二度と動くことはできない。
正面に戻ってきた不死人は大剣を収めて、大きくジャンプした。その先はデストロイヤーの本体に開いた入り口だった。
中に入ったところで、沈黙の禁則が切れた。光を取り戻したデストロイヤーが動き出そうとするが、付け根がくるくると空回りするだけに終わる。
〈被害甚大につき自爆機能を作動します。乗組員は、ただちに避難してください。乗組員は、ただちに避難してください〉
なんてことだ。思わず膝をついた。欲を出し、動けなくしてから中を探索していい武器などを探そうと思ったのがいけなかった。
予定を変えよう。早急にこの機動要塞を破壊してやる。懐から冒険者カードを取り出した不死人は、未取得だったスキル一覧に指を這わせた。
力強く立ち上がった不死人は、兜を消して醜悪な顔を表に晒し、ウーラシールの白杖を持った。
ダークリングが浮かび上がった瞳に力がこもった。
「『敵感知』『宝感知』『罠発見』『罠解除』———『千里眼』」
怒涛の重ねがけで、デストロイヤーの内部を丸裸にした。仕掛けられていた罠が探知されたと思えば全て解除されていく。それでも、所々にもやがかかったように見えづらくなっていた。
流石に重要な箇所はそう簡単には見えないか。仕方ない、その場所をしらみつぶしに回ってみよう。
「………………いや、待てよ」
踏み出しかけた足を止める。そうだ、あったじゃないか。お
いつか、クリスと散策した洞窟で手に入れた神器だ。見た目は虫眼鏡のようだが、その元の能力はモノの死を見て断ち切れるという凶悪なもの。所有者のいなくなったそれはよく見えるレンズと成り果てたが、今はそちらの方がありがたい。
スキルを発動したまま、今度はレンズ越しにもやのかかっていた部分を覗いた。
見えた。『宝感知』に引っ掛かったものがある。何かわからんがとにかく手に入れよう。手を伸ばして、照準を定めた。
「『スティール』!」
光が手元へ瞬間移動した。
「あづッ!? なんだこれはッ!!」
球体だ。それも尋常ではない熱を帯びている。取り落としそうになったそれを拾おうと、左手に持っていたレンズを落としてしまった。神器が砕け散った。だが今はこの球体だ。
熱い。熱すぎて直接触れている手の鉄が溶けてきた。このオーンスタインの鎧も長くは保たない。まるで指輪もなく溶岩の中を歩いていた時のようだ。
「———ッ! そうか!」
閃いたアイデアを即座に行動に移した。片手に持ち直して、空いた手に指輪を2つはめた。『炎方石の指輪』と『黒焦げた橙の指輪』だ。するとどうだろうか。あれほど熱かったコロナタイトの熱を感じなくなった。いや、熱は感じるが僅かなものだ。
落ち着いたところで、ようやくそれをソウルに変換して収納する。
『コロナタイト』
これ自体が高熱を発する宝珠。存在自体が幻といわれるほど希少であり、その希少な宝珠1つで永久機関を作れるほどのエネルギーを秘めている。機動要塞デストロイヤーの動力源として組み込まれていた。
デストロイヤーのアナウンスが止まった。エネルギーを失った為だ。ヒヤヒヤしたが、無事に止められたようで何よりだ。振り向くと、魔法壁も消えていた。入ってきた穴から外に出れば、空は雲ひとつない晴天だった。
その空に力が吸い込まれたように、仰ぎ見たまま膝をついた。このコロナタイトを使えば、火継ぎを終わらせるだけじゃない。未来永劫、火の時代は続くことだろう。
ロードランは………世界は救われた。
不死人が感じたものは達成感ではなかった。無限に等しい火継ぎの旅がようやく終わるという虚脱感だった。
足元へ視線を落とせば、デストロイヤーの体が赤熱していた。籠もった熱が爆発しそうなのだろう。きっとアクセルの街は吹き飛ぶだろう。自分も爆発に巻き込まれて死ぬだろう。
だが、もう構わない。あの街に行く必要はなくなった。あとは魔王を討伐して元の世界に帰ればいい。
この爆発で死んだら、偶然元の世界に帰れるなんてのはどうだ。いいや、そんなうまい話は無い。魔王を倒すのも一苦労だろう。
「いまは……少し………休ませてくれ」
デストロイヤーの体表に横たわった
重い装備を外す
視界一杯に広がった青空も、瞼を下ろして遮断する
チリチリと体が焦げる音も消える
私——いや、俺だけの時間だ
耳をつんざく爆音と衝撃で体が木っ端微塵に吹き飛ぶまで、不死人は安らかに横たわったままであった。
この素晴らしい世界に不死人を! シーズン1 完
そして、不死人の伝説はひとまず幕を下ろします。
しかしそれはまた、新たな冒険の始まりでもあったのです
To Be Continued