爆裂魔法とやらの輝きは凄まじいな!まるで太陽のような眩しさだ!
水が引いていって、その全貌が明らかになっていく。倒れていたのはベルディアと不死人の両方だった。実力者同士の戦いがこんな幕切れになってしまい呆然とする冒険者たちの中で、カズマは焦っていた。
おいおいおいおいマジかよ! クリスの話が本当なら、不死人さんとは絶対に敵対すんなって事だろ! 忠告されてたってのにあのクソ女神がぁー!
………あれ、でも死んじまったら敵対も何もないじゃん。やったのはアクアだけだから俺には関係ない……て、こ、と、は。
ジロリとアクアを見る。憎っくきアンデッド二体を倒したと息巻いて祝いの花鳥風月を披露していた。
「潜伏……」
めぐみんとダクネスには、あとで説明すればいいさ。とにかくその場から脱出したかったカズマは気配を消して人混みの間をすり抜けていく。
クリスは焦っていた。思考が絶望の一色に染まる中でこれからの算段をしていた。
まずアクセルはもう滅ぶ。逃げるとしたら王都だろうか。今回のはアクア先輩の仕業だ。私は悪くない。しばらくは王都で静かに生活して、落ち着いた頃に不死人さんに会いに行こう。そして私は無関係だったと言おう。
「せんぷく〜」
全く同じ方法でその場を逃げ出そうとしていた。後ろから聞こえるアクア先輩の笑い声が、ひどく儚く聞こえる。そしてしばらく進んだところで、ふと思い出した。
不死人って死んだら篝火に転送されてそこから復活するんじゃなかったか。記憶が確かならこの世界にそれらしい篝火はない。そして死んだのに消えない不死人の身体。
これらが導き出す答えは。
「本当に、死んだ?」
アクアは笑って踊っていた。勝利の花鳥風月を披露して、それに魅せられてほかの冒険者もわいわいと人間の勝利に酔いしれていた。
「これでビクビクする生活とはオサラバよ!グッバイ、不死のバケモン! ハロー、マイライフ! アンデッドも倒して一石二鳥。今日は飲むわよ〜〜!」
しかし、次第に盛り上げる声援が小さくなっていく。なんだと思い後ろを振り向けば、倒れていたはずのアンデッドが立ち上がってるではないか。
「よくも……よくも俺様にこんな、こんなァ!」
執念を漂わせて大剣を構えるベルディアに対して、アクアは杖を再度構える。
「これでとどめよ! ターン・アンデッ!?」
最後まで言えずスキルは不発に終わる。眼前には信じられない光景があったからだ。
「グッ…ば、バカな!」
ベルディアの腹から影が生えている。影のように見えたそれは剣だった。暗銀の残滅と呼ばれる曲剣は、黄金の残光とは対になる影の剣。凄まじい毒が仕込まれた剣で貫かれたベルディアは、最後の言葉すら言えず経験値を残して消えていく。
我に帰ったアクアが不死人に向けてターン・アンデッドを放とうとするが、一手遅い。
「スティール…!」
前にかざされた不死人の手から光が発せられる。眩しさに目を閉じたアクアが次に目にしたのはスリットの奥に光るダークリングだった。
暗銀の残滅でアクアの腹部を貫いた。蹴り飛ばして地面に打ち捨てる。完璧な致命の一撃だ。
「……かっ…せ、セイクリ…ッド…」
なんという生命力か。おびただしい出血をしながら震える声で回復しようとしている。だが、そんな時間を不死人が与えるわけがなかった。片手には暗月のタリスマンが握りしめられていた。
神々の怒り。それは容易くアクアの命を散らして、身体を吹き飛ばす。
地面に転がったアクアだったものを見ためぐみんは半狂乱に杖を掲げた。
「これは……爆裂魔法か?」
大きく自分を中心に展開された魔法陣は、エリスから聞いていた爆裂魔法の特徴だった。避けるには威力が大きすぎる。かといってこのまま食らえば死ぬのは確実だろう。
「エクスプロージョン!」
めぐみんの全力の爆裂魔法が不死人に命中した。瞬間、爆心地から周囲にとてつもない衝撃と熱風が吹き荒れる。街の外壁は更に崩れ、冒険者たちも幾人か飛ばされた。
「………アクア……」
仲間の仇を打っためぐみんが感じたのは、虚無感だけだった。もう二度と聞くことができない仲間の声、一緒に過ごす時間はもう来ない。
ひざから崩れ落ちためぐみんは、涙が頬を伝う感触で自分が泣いていることを実感する。ダクネスが近寄り慰めようとした。
「危なかった…」
ダクネスが近寄り肩を抱こうと近寄った時、最も聞きたくなかった声がした。
危なかった。あと少し装備を変えるのが遅かったら死んでいたろう。ハベルの装備でも死にかける威力は流石は爆裂魔法だと思った。
爆裂魔法が飛んできた瞬間ハベルの装備一式に切り替えて更にエスト瓶を連続で飲む。それだけで不死人は爆裂魔法を耐えきっていた。
目の前には沢山の敵がいる。どれも雑魚だが、決して油断はしない。どれだけ弱くても、数の暴力に勝るものはないからだ。
白杖を持って唱えるのは、追尾するソウルの結晶塊だった。
「なんだ、多いな」
本来なら背後に滞空するソウルの塊は5つのはずだった。それが6つになっている。
レベルアップが影響を与えているのか、不死人には理解することは出来なかった。だが今は気にしなかった。
「くるぞぉぉぉぉぉ!!!」
冒険者の誰かが叫んだ。正気に戻った中の幾人かが、武器を投げ捨てて敗走した。あまりにも遅い決断だった。
結晶の槍が先頭にいた一人の頭を潰した。辺りに脳漿と血が飛び散る。それを見た者、音を聞いた者、全員がそれでも走るのを止めない。全速力で逃げ続ける。
不死人は窮地を脱したと思うと同時に、不味いと思った。このまま時間が経てば、爆裂魔法を食らってしまう。不意打ちで食らえば助かる道はない。不死人は追いかけた。追いかけながらソウルの矢で一人ずつ殺していった。
ウィズ魔道具店。その名の通り魔道具が売られている。しかしそのどれもが役立たずの魔道具ばかりだった。転生してきた冒険者の1人曰く、ジョークグッズの方がまだ使える。
その原因を作っているのが、店長であるウィズという女店主だった。通称貧乏店主と呼ばれるこの女店主は、人柄が良く人が困っていたらほっとけないタイプの人間だ。
否、人間ではなかった。
彼女はリッチーと呼ばれるアンデッド種の上位の存在なのだ。更には魔王軍幹部で、相当な実力の持ち主だった。過去に冒険者をしていた時の実力は、凄まじいという言葉が陳腐に思えるほどだった。
閑古鳥の鳴く店の扉が悲鳴をあげた。お客さんかと出迎えたウィズの前には、酷い形相の冒険者が倒れこんでいた。それでも、ウィズを見た冒険者は最後の力を振り絞って足に縋り付いた。
「た、たす、助…たすけてくれ!!」
伝えた冒険者は、事切れた。何があったのかと理解しようとしたウィズの耳に、人々の悲鳴が届いた。
そのころ不死人は、ダクネスと鍔迫り合いになっていた。違う、正しくは不死人の剣をダクネスが腕で防いでいた。
「ダクネス!」
「早くめぐみんを連れて行けっ!」
持ち前の防御力を活かして対峙するダクネスは、内心少し安心していた。防げない攻撃ではない。自分が盾になれば逃げる時間を稼ぐことが出来ると。
「はやく、いけぇ!!」
腕を払って不死人を後ろへ下がらせた。カズマは呆然とするめぐみんを背負って駆け出した。必ず助けに戻ると言い残して。
距離が少し出来た。そして相手は攻撃してこない。絶好のチャンスだった。不死人にとって。
不死人を中心に衝撃波が発生した。衝撃波を食らったダクネスは吹き飛ばされる。
「な、……なんだ、、いま、のは」
「頑丈だな」
剣を杖代わりの状態だが、立ち上がったダクネス。その防御力に不死人は驚くと同時に嬉しく思った。あの装備があれば旅がしやすくなるだろう。
不死人の広げた手がダクネスに向けられた。
「スティール…!」
まばゆい光が照らした。光が収まると、不死人の手はダクネスの首を掴んでいた。
やはり駄目だったか。良い装備を目の前にして手に入れられないというのは悔しいが、しょうがない。反撃される前に致命の一撃で倒す。
動かなくなったダクネスの身体を蹴り捨てて辺りを見回すが、周りには誰も居ない。辺り一面が草原………しまった。
「「エクスプロージョンッ!!」」
赤く巨大な魔法陣が、不死人を中心に展開された。二重に詠唱されたエクスプロージョンの威力はとてつもなく、防御の暇を与えることなく不死人を跡形もなく消し去ってしまった。
「どこにも居ない……敵感知も反応なし、だ」
爆音がこだまする中で、カズマは千里眼のスキルを使って不死人の完全消滅を確認する。しかし、喜びの感情は湧かなかった。それ以上の虚無感が感情を殺していた。残ったのは巨大なクレーターと、静寂のみだった。
「良かった、装備は無事だな」
蘇った不死人は装備品が壊れてないことを確認して安心した。多少の損傷はあったが、気にするほどじゃない。
今度はもっと気をつけて戦わなければ。まずはあの女二人を殺そう。爆裂魔法を阻止できれば、少なくとも即死は免れるだろう。
しかしどうやって倒そうか……行きながら考えればいいか。
お久しぶりです。
このあとどうなったかは、ご想像にお任せします。皆様の思いつく戦法で自由にアクセルの街を破壊しちゃってください。
更新しました。2020/05/17