この素晴らしい世界に不死人を   作:ボンシュ

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死が恐ろしくないのかだって?ウワッハッハッハッ、貴公!恐ろしいに決まってるだろう!

 だが恐れて進めないのでは、ずっと影の中で生き続けることになってしまうではないか!そんなのごめんだ。

 死ぬなら死ぬで、太陽のように輝かしく死んでやろうぞ!ウワッハッハ!


この素晴らしい世界に二度目の死を!

 

 雪を見るのは初めてではなかった。絵画の中の世界で雪に覆われた美しい世界を見たことがあった。

 しかしここまで見事な一面の雪景色ではなかったな。不死人は眼前の光景を見てそう思った。そして至る所に、ふわふわと漂う小さな物体があった。否、それは雪精だった。冬になると現れて、一匹倒すごとに春の訪れが早くなる。そして一匹につけられた報酬は高い。

 

 

 冬場は弱いモンスターの討伐依頼はあまりなく、残っているのは強いモンスターだけ。それも、全て倒したことのあるモンスターであった。アイテムを得ることも出来ないモンスターたちに正直なところめんどくさいという感情が湧いてきていた。そこへ雪精討伐の依頼だ。

 

「いや〜、今回は同行させていただいてありがとうございます! 誠心誠意、頑張らせていただきますので、ハイ!」

「見事なまでのごますりですね」

「プライドのカケラもない男だな……」

 

 カズマたちとの合同任務になったのは、幸運だった。

 

「雪精の討伐は任せた」

「本当にいいんですか? 俺たちだけで雪精を討伐しちゃっても……」

「構わない」

「本当の本当にいいんですか?」

「構わない」

「本当の本当のほんとーーに!?」

「うるさいですね!! いいと言ってるんだからいいじゃないですか! それより早くしないと、全部私がいただきますよ」

 

 見かねためぐみんが杖を構えて爆裂魔法を唱え始めたところで、カズマが慌てて止めた。ダクネスは攻撃が当たらないというのに剣を振り回している。そしてアクアはというと……。

 

「そういえばアクアはどうしたんだ?」

「今朝から姿が見えませんね」

 

 今朝から姿を消したアクアを心配する二人。しかしカズマは知っていた。アクアは遥か後方に隠れていることを。そして密かに雪精を捕獲していることも。

 

 アクアは考えた。無い頭を振り絞って導き出したのは、不死人から離れて行動するというものだった。知力最低レベルといえど、成長したものである。だが、不死人が殺す気になれば距離など関係ない。その事を知らないアクアは、安心感に浸っていた。

 

 

 振り向くとアクアは地面に横たわり雪と同化しようとしていた。その奇行を見て不死人はこのまま寄ってきて後ろから致命の一撃が来るのではと若干警戒していた。

 

「エクスプロージョン!!」

 

 一箇所に集まっていた雪精に我慢できず、めぐみんがエクスプロージョンを放った。巻き込まれて雪精が何匹も散っていく。

 

 バレバレの擬態をしながら笑みを浮かべるアクア、それを黙って見守るカズマ、爆裂魔法を放って雪に倒れるめぐみん、そして一向に攻撃の当たらないダクネス。

 4人のパーティーはいつも通りだった。

 

 

 そもそも不死人はなぜ彼らに同行しているのか。

 

 正史ではアクアが城壁を破壊した事で借金を背負う事になり、それを返済するために冬にもかかわらずクエストを受けていた。しかしこの世界においては、不死人が原因だった。

 

 デュラハン戦で不死人の気に当てられたアクアは、それがトラウマになって塞ぎ込んでしまった。お陰で回復役のアクアがいなくなりクエストに行けず、食事代のツケが重なっていく。

 原因の不死人に金を払ってもらえないかクリスに聞いたところ、恐れ多すぎてそんなこと聞けないと言われた。

 

 ようやくアクアが回復したと思ったらすでに冬。流石のカズマも我慢の限界だった。ギルドの掲示板前で不死人を待ち構え、現れた彼に溜め込んでいた事をぶちまけた。

 

「あんたがとんでもないってのはクリスから聞いてるけどよ、そんな大物なら周りの事も考えろよ! アクアがトラウマ持って、お陰で俺たちは借金背負ってんだ! せめて俺たちのクエストに同行して、借金返す手伝いくらいしてくださいやがれ!」

 

 理由も何もめちゃくちゃだった。それでも結果的に不死人は受けたのだ。承諾されて喜んでいるカズマたちを尻目に、提示版に貼られていた雪精討伐のクエストを選んだ。

 

 

 

 

 

 

 雪精の討伐が始まってそろそろ半刻が経つ。時折振り向いてはるか後ろにいる不死人に、本当に雪精を俺たちが討伐してもいいのかと聞いてくる。そのたびに遠慮するなと返すやりとりが3回目を超えたころだった。

 

「来たな……」

 

 空気が変わった。明らかな強者の気配がする。不自然な雪煙が、迫って来ながら徐々に形を成していく。カズマは何が起こったのかわからないまま警戒して、聡明なめぐみんは倒れたままじっと動かない、ダクネスは待ち兼ねたぞと息を荒くし、アクアは木陰に更に隠れた。

 

 徐々に露わになっていく姿を見てカズマは目を疑った。雪と同じく真っ白になっているが、その姿は間違いなく鎧武者と呼ばれるものだったからだ。

 

「ようやく会えたな…“冬将軍”」

「冬将軍!? 冬将軍って、え!?」

 

 困惑するカズマの横にある茂みから、アクアがびっくり箱のように飛び出た。

 

「カズマさん!! そいつは冬将軍よ! 雪精の主で、転生者たちの『冬といえば冬将軍』というイメージから具現化した存在なの!」

 

 アクアが声を張り上げて教えてくれた。そんな下らない理由でポンポンとモンスターが生まれてたまるか。次いで降伏の意思を示せば許してくれる寛容なモンスターだとアクアから聞いたカズマは、即座に剣を捨てようとした。しかし金属同士がぶつかる音が動きを止めさせた。

 

「流石は冬将軍だ、これを防がれるとは」

 

 不死人が見覚えのある黒い大剣で冬将軍と鍔迫り合いになっていた。押し潰すような大剣を両手で握っている不死人に対して、冬将軍は片手で持った細い刀で受け止め切っていた。不死人の凄まじさをクリスから聞いていたカズマは、冬将軍の強さを思い知った。

 

 お互い一歩も引かない状況で、冬将軍は刀を少し傾けた。大剣を逸らされてガラ空きになった胴体に刀の袈裟斬りが入る。無理な体制のままで大剣を盾のようにしてそれを受け切る。動きが止まった不死人に、冬将軍は容赦ない量の斬撃で応えた。

 

不死人(ふしびと)さん!」

「手出し無用だ! 手を出したら殺すっ!」

「はっはいィィイイ!」

 

 助けようかとしていたカズマに声を張り上げた。不死人がこれだけ必死になる理由は、冬将軍との対決が本来の目的だったからに他ならない。

 

 新しい武器を手に入れた不死人は、それを早速試そうと思った。しかし、このあたりのモンスターではあまりにも呆気なさすぎて調べる事もできない。

 

 掲示板の前で唸る姿を見かねた受付嬢のルナが、冬将軍の事を教えたのだ。冬将軍なら相手になるかもしれないと知った不死人は早速雪精討伐に向かった。

 

 しかし雪精は不死人の濃厚な気配を即座に察知して隠れてしまう。これでは冬将軍を呼ぶどころではないと思っていた時に、声をかけたのがカズマたちだった。

 

 

 まったく私は幸運に恵まれている。こうして冬将軍と戦うことができたのだから、この未知の武器の性能を少しでも理解したい。

 

 雪に突き刺した大剣の先を不死人は思いっきり蹴り上げた。雪が舞い上がる中で感覚が鋭敏になる。致命の一撃(いつも)の感覚だ。かち上げた大剣をハンマー投げのように身体ごと回し、冬将軍の開いた脇腹に叩き込んだ。

 

 ガギッ

 

「んっ!?」

 

 冬将軍が真横に吹っ飛んだ。

 

「おっし当たったあ!」

「いや、冬将軍が当たる直前に真横に飛んだ!流石は冬将軍だな…凄まじい技術だ!」

 

 カズマとダクネスの声を聞きながら、不死人は手元を見た。たしかに命中した。致命の一撃だった。ダクネスという女騎士は横に飛んだと言っていたがそれは間違いだ。だのに、今の手応えはなんだろうか。

 

 まさか。嫌な予感がして不死人はデュラハンの大剣から別の装備に切り替えた。その大きな隙を冬将軍は見逃してくれない。もう一度、今度はジグザグに動きながら斜面を下ってくる。

 

「危ないっ!」

 

 カズマが叫んだ時にはすでに冬将軍の剣は不死人を捉えていた。だが、一向に不死人は倒れない。それどころか“黒騎士の大剣”を構えて振り抜いていた。

 

 

 

 拍子抜けだ。

 

 この世界に来て驚くことが多いと不死人は思っていた。亡者でももう少し手応えがあった。いま振るった黒騎士の大剣は未強化だ。冬将軍の身体を、まさに雪に刃を入れるように両断してしまった。

 

 冬将軍の上半身が地面に落ちて雪となって崩れた。

 

「………え? おわり? や、やったあ〜」

 

 呆気ない決着に戸惑いながら、喜びの声を上げるカズマ。反対にダクネスは少しがっかりしたように肩を落としていた。

 

「ぁぁ……せっかくの冬将軍が…」

 

 こいつ最初からそれが目的だったのか。カズマは仲間の醜態を見て同様に肩を落とした。

 

「なぁ、まさか冬のモンスターは……」

 

 冬のモンスターは全部冬将軍並みの強さなのかと、盛大な勘違いをしているカズマ。それをよそに不死人は落胆していた。

 

 弱い。あまりにも弱すぎる。

 

 全く鍛えていない黒騎士の大剣でたったの一撃。しかも力を込めてない(弱攻撃)のに倒せた。これなら魔王の結界でも破れるのではないのか。そう思った不死人はすぐ考えを改めた。

 

 嫌な思い出が蘇った。

 

 火継ぎの祭壇に行く前に、巨人墓地を探索していた。真っ暗闇の中、ランタンの小さな灯を頼りに進んで、時には足を踏み外し、時には巨大な獣の骸骨に殺され、やっと走破したと思えば謎の壁に阻まれた。

 

「………フッ」

 

 そのまま王の器に気付かずに、様々な武器での攻撃、魔法や呪術さらには奇跡も使って突破を試みた。なんとも無駄なことをしてたものだ。

 

 もうあの時の二の舞は御免だ。正規の方法で(幹部を殺して)魔王を始末しよう。

 

 

 

 雪の中で決意を新たにしていた不死人は気がつかなかった。

 

 冬将軍の崩れた跡が無くなっていることに。

 

 カズマの後ろに雪が積もっていってることに。

 

「ってなわけで、冬将軍は別格なんです。あんなのが何体もいるわけないじゃないですか」

「そりゃそうか…ところでめぐみんさん、冬将軍の報酬っておいくらほどで?」

「まあそうですね……国からたしか数千万エリスの懸賞金がかかってたかと」

 

 数千万という言葉に、カズマは落雷のようなショックを受けた。

 

 

 閃く…! カズマの脳裏に…! 突破口…!!

 

 打ち建てる…己の()…!!

 

 正しさ…!! 身勝手な理論…!! 

 

 自分勝手な理屈を並べていく…!!

 

「俺たちはパーティーを組んでいる…! クエストに同行してるということは、一時的にとはいえ俺たちはパーティーになってる…ッ!!」

「えっ、どうしたのですかカズマ」

 

 様子が変わり出したカズマにめぐみんは困惑する。

 

「つまり報酬は山分け……ッ!! 平等分配…! 借金も返せッ………」

 

 カズマの首が跳ね飛ばされた。吹き出す鮮血によって赤く彩られた姿は、まさに戦国の武将そのもの。

 目の前でそれを見てしまっためぐみんは、知能の高さ故にキャパシティオーバーで気絶することもなく、しっかりとその目に焼き付けてしまう。

 

 悲鳴を聞きつけた不死人は、首の無くなったカズマと涙を流し叫ぶめぐみんを見つけた。

 

「何を泣いているんだ…致命傷で済んでいるではないか」

 

 カズマの無事を確認した不死人は、とりあえずトドメを刺そうとソウルの矢を射った。それを自ら雪になって冬将軍は交わしてみせた。

 

「めんどくさいな……」

 

 もはや、冬将軍に価値はない。下手に近くに寄って致命の一撃を入れられるのは嫌だった。呪術の火を使おうにも、めぐみんの近くにいられては使えない。当たって敵対されても困る。

 

 物理攻撃も効かない。かわしたのなら魔法は効果があるはず。神の怒りならかわしようがない。それを理解してるように、冬将軍はめぐみんのそばを離れない。

 

 何か手はないか、そう考えた不死人はあるスキルを思い出した。

 

 黒騎士の大剣を消して右手をフリーに。左手にはウーラシールの白杖を装備した。

 

「スティール」

 

 不死人の右手が光った。光が収まればそこには、驚いた様子の冬将軍が。すぐに霧散して逃れようとするが、おそらくスティールの効果ですぐには抜け出せない。

 

「ふんっ」

 

 右手は掴んだまま、左手を暗月のタリスマンに切り替えて神の怒りを行使した。球体の衝撃波は冬将軍の身体を粉微塵に散らせた。討伐モンスターの欄に冬将軍の名が刻まれた。

 

 例のごとく装備品が手に入らなかったことを残念に思いながら、カズマの方を見ればアクアがカズマの首を元に戻していた。

 

 なぜめぐみんは慌てているのだろうか。ソウルはまだある。死んでないことはわかりきってるだろう。

 カズマもなぜずっと倒れているんだ。動けなくなる呪いでも受けてしまったのだろうか。

 

 倒れたカズマを見ながら、不死人はのんびりと考えていた。

 




 遅れましてすみません。どうにもバッドじゃないストーリーを書くのが大変になってきて……もう全部バッドストーリーにしてしまおうかなんて思ったりしてます。冗談です。

ところでフロムの新作出ましたね。皆さんやっぱり買うんでしょうか。私は様子見してからですね〜

追記、太陽の月光蝶さんありがとうございます。盛大なミスを訂正させていただきました。黒騎士の大剣→黄金の残光

 更新しました。2020/05/17
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