黒き英雄と呪われた神装機竜   作:蛙先輩

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長く時間が空きました! それでは!


10話

 王国軍の機竜使い達が縦横に列をなして、黄金の機竜『ナーガ・ラージャ』に津波のような形で距離を詰める。それに連なり、進行するルクス含む騎士団。対する呪われた神装機竜は不敵な笑みを浮かべた後、虚空を見上げ、肺に空気を送り込む。白銀の機竜の群れが武器を構えた瞬間、『ナーガ・ラージャ』が鼓膜が破れるようなけたたましい鳴き声を上げる。眩い光に包まれて、上空に飛翔。『騎士団』及び新王国の機竜使いが一斉にブレスガンを装備し、銃口を虚空に構える。黄金の機竜は自身に向けられた脅威に臆する事なく、下降。集中放火が始まり、夜空が爆炎により明滅を繰り返す。しかし、『ナーガ・ラージャ』は余裕の笑みを作りながら、全て振り切る。流星の如く、舞い降り次々に機竜使い達を襲撃。機体が連鎖するように爆破し、撃墜。爆音と断末魔が静謐な森の空気をかき消す。〈支配者の神域!(ディバイン・ゲート)〉

 セリスが天高く宣言し、光の層が周囲を覆う。セリスの神装機竜『リンドヴルム』の能力。この光の中にいる限り、セリスはいかなる場所にも転移可能。

 金色の機竜は『ナーガ・ラージャ』の背に瞬間移動し、特殊武装の〈雷光穿槍(ライトニングランス)〉で貫こうとすると、瞬時に気付いた事で交わされて失敗。クルルファーがすかさず、〈凍息投射(フリージング・カノン)〉を連射するが、見事に避けられる。しかし彼女の神装機竜『ファフニール』の神装〈財禍の叡智(ワイズ・ブラッド)〉の影響で数秒先の未来を見たことにより、動作が見えていた。打った弾丸の真後ろに用意。二発目は見事に『ナーガ・ラージャ』の右肩に着弾。その隙を逃さぬように、夜架が糸状の特殊武装を右肩に絡ませる。紫色の気が糸を伝って、『ナーガ・ラージャ』に進行。〈禁呪符号(スペルコード)〉夜架の神装機竜『夜ノ神』の神装で、触れた箇所を中心に相手の装甲機竜の制御を一時的に奪い操る能力。クルルシファーの神装で行動を先読みし、凍りついた間に右肩を支配。

「今ですわ。リーシャさん」

 夜架が真上で待機していたリーシャに合図を送る。『ナーガ・ラージャ』が虚空を見上げると、赤い神装機竜を纏ったリーシャが片手を掲げて、重力の塊を溜めているのが目に入った。

「〈天声(スプレッシャー)〉」

 リーシャの怒号に似た声とともに濃度の高い重力が『ナーガ・ラージャ』の頭上から降って来る。重力の塊が直撃する寸前、夜架の力が緩む。巨大な衝撃で粉塵が宙を舞う。『騎士団』と王国軍の視界が砂嵐で遮られる。

「やったか」

「いえ、、、」

 夜架が作戦の失敗を公言した瞬間。突然、巻き起こった爆風で砂が晴れて右肩が欠損した黄金の機竜が佇んでいた。

「まさか、リーシャさんの攻撃を受ける前に私の支配下に置かれた右肩を切り落とした……」

 肯定するように右肩は、見る見るうちに再生。すると、『ナーガ・ラージャ』が長い鉤爪を口元にあけ、肩を震わせて冷笑。

「何かくる」

 フィルフィが遠くの空に目を向ける。あとを追いルクス達も目をこらすと、何かが群れをなして、こちらに近づいて来る。距離が狭まるに連れて、徐々にわかってきた。

「『幻神獣』だ! 幻神獣』に群れがくるぞ!」

「でも何故このタイミングで……」

 ルクスが脳内で原因を探っていると、一つの回答が脳裏に浮かぶ。王国軍と騎士団が一斉にしかけた時、『ナーガ・ラージャ』は雄叫びをあげた。あの雄叫びは自分たちへの威嚇ではなく、おそらく『幻神獣』を呼ぶための合図。『幻神獣』達の羽音と聞くに耐えない不快な鳴き声がすぐそばまで迫ってきた。

「皆さん! ブレスガンを装備ください!」

 『騎士団』隊長のセリスティア・ラルグルスが周囲の機竜使い達に警告を鳴らす。周囲に旋律が走る。現状でも未知の敵と対峙しているのにも関わらず、『幻神獣』を相手にしなければならないのだから。王国軍の機竜使い達の額から冷や汗が流れる。

「王国軍の皆さんは『幻神獣』の掃討。我々、騎士団は『ナーガ・ラージャ』を相手にします!」

 セリスが鋭い眼光で『ナーガ・ラージャ』を睨む。自分の大事な仲間を乗っ取ったのだから、当然、彼女の中で怒りが烈火の如く、燃え盛っていた。

「行きますよ!」

 セリスの吶喊とともに『ナーガ・ラージャ』へ突撃する『騎士団』。彼らを守るように王国軍の機竜使い達が『幻神獣』との戦闘に尽力。射程距離範囲内に来た時、クルルファーがすかさず〈凍息投射(フリージング・カノン)〉を構え、発砲。氷の弾丸が冷気を纏い、鮮やかに直進。『ナーガ・ラージャ』はたやすくかわす。セリスが加勢して、二人による連続射撃が実行される。しかし、当のターゲットは全ての弾を身を翻して、回避。

「オソイゾ。ソレデハ、コロセナイゾ」

 邪悪な竜が耳まで、口を引き延ばして嘲笑。『ナーガ・ラージャ』は右腕を真っ直ぐに天高く、掲げる。掌に蛍のような微小の光が集合して行く。

「みんな! 防御態勢に入って!」

 ルクスが仲間達に警報を鳴らす。援軍が来る前に一度、身を以て受けた技だ。知らせなければ死人が出る。騎士団はルクスの指示に従い、守りの態勢に移行。続けざま、セリスが戦闘中の王国軍に伝える。

「沙伽羅(サーガラ)」

 右腕を下ろすと、光の弾丸が辺り一面に、尋常ではない速度で飛び散る。拡散された弾が森や大地に着弾。ルクス達は守りを固め、降り注ぐ光の雨を耐え凌ぐ。無差別に乱射される光の弾丸は騎士団、王国軍、そして、『幻神獣』にまで猛威を振るった。王国軍の機竜使いと『幻神獣』が耐えきれず、地面に落ちて行く。彼方此方で高く、砂埃が舞う。王国軍の一部が、『ナーガ・ラージャ』を止めようと、飛び出すものの、抵抗も虚しく、黒煙を上げながら落下。降りしきる雨の勢いで機竜使いも『幻神獣』も地に伏せていく。

「なんですか……あれは一体」

 目の前で巻き起こる現実離れした光景にアイリが思わず、瞠目する。『ナーガ・ラージャ』が相当な実力を持っているというのはここに来る前に夜架から聞かされていたが、予想を遥かに上回っていた。兄やその他の隊員や王国軍もいるのだから問題ない。そう思っていた眼前の惨劇を見た時、淡く儚い安心感は粉々に砕け散った。次第に未知の怪物の梟雄さに恐れを抱く。もし、兄達が敗北してしまったら、次は自分。想像するだけで、鳥肌が立つ。あれからは逃げるのは不可能。本能が考える間も無く悟った。

 

 『ナーガ・ラージャ』の暴挙が過ぎ去り、ルクス達は防御態勢を解除。上空から真下に目を向けると、無残に荒らされた森と、王国軍の機竜や『幻神獣』の亡骸が転がっていた。荒涼とした光景に、ルクスの胸が思わず締め付けられる。

 

「みんな……」

「フフフ、何百年モ封印サレテイタガ、マダ衰エテハイナイヨウダナ」

 ルクスは〈烙印剣(カオスブランド)〉を強く握りしめ、眼前の敵を睨む。他の隊員達も同じくそれぞれ特殊武装を構えて、警戒。皆、戦闘により疲れにより、神装を使える体力も限られている。ここからは短期決戦となり、長時間の戦闘はほぼ敗北となる。ルクスが風を切る勢いで『ナーガ・ラージャ』めがけて突撃。『ナーガ・ラージャ』は右手から黄金の槍を生成。二つの刃先が重なり、その衝撃ので森の草木が煽られて揺れ動く。双方、激しい剣戟を繰り広げる。クルルファーがルクスの背後から〈凍息投射(フリージング・カノン)〉の引き金を引く。『ナーガ・ラージャ』が踵で空を蹴り、後退して球を回避。その瞬間を狙い、夜架とセリスが左右から『ナーガ・ラージャ』の背後から奇襲する。黄金の竜は後ろに目を向けることもなく、槍の胴部分を水平にして後ろからの攻撃を防御。静止させた二機を尾骨から生やした鞭のようなしなやかな尾で胴体を締め上げる。大蛇に巻きつかれた鼠のように動けない二人。尊大な竜は無情にも尾を地面にめがけて勢いよく振り切った。

 

「夜架! セリス先輩!」

 ルクスの呼びかけをかき消すように二人は彼を横切り、草が生い茂った地表に衝突。砂煙が火山噴火のように吹き上がる。ルクスは二人の安否を確認しようと、体を捻る。

「オ仲間ノ心配ヲシテイル場合カ?」

 ねっとりと声が背筋を撫で、ルクスが思わず視線を戻す。憐憫に満ちた表情を浮かべる当事者が槍を突き刺す寸前まで迫っていた。ルクスが生命の危機を感じた時、敵とその武器が突如、爆炎に飲まれて姿を消す。

「ルクス! こっちに来い!」

 声の方を見ると、眉間にしわを寄せ、武器を構えたリーシャと彼女の周囲には疲弊したクルルファーと普段通り無垢な表情のフィルフィがいた。

「みんな!」

ルクスは彼女達の元に羽ばたく。リーシャの発砲によりできた黒煙に目を向ける。すると煙が二つに割れて、黄金の翼が確認できた。しかし、翼は視界から消え、気づけば自分たちの直ぐそばにあった。ルクスは悟った。自分が煙の中に見た両翼は残像だったという事を。近くにいたリーシャとルクスは槍の大ぶりで吹き飛ばされた。二人を蹴散らした後、クルルファーを瞳に写す。光の糸を引きながら移動して、ファフニールに詰め寄る。鋭利な先端を向けた時、フィルフィが槍を掴む。しかし、光の速さで飛んできた槍に遅れをとり、機竜の装甲を貫き、皮膚に刺さる。激痛なのか、いつもの無表情が崩れて、歯を食いしばりを槍と両腕を捕える。『ナーガ・ラージャ』の反撃を強力な腕力で牽制。近接型の神装機竜のテュポーンは肉弾戦において、非常に有利。

「竜咬爆火(バイティング・フレア)」

 フィルフィはいつもの無垢な表情に戻り、静かに唱えた。その瞬間、『ナーガ・ラージャ』の肉体が膨張して、爆発した。爆発の衝撃で後ろに飛んだフィルフィを、ルクスがすかさず確保。

テュポーンの肉体から直接、エネルギーを流し込む、対象物を爆破させる特殊武装。両手で使用すれば、どうなるかはわかっていたのにも関わらず、実行する彼女の肝の座り具合に心底、驚愕するルクス。

「大丈夫? フィーちゃん?」

 心配するルクスに対して、無言で頷く。

「これで奴のコアが破壊できていれば、僕達の勝ちだ」

 黒煙がルクス達の不安感を煽るように立ち込める。このまま、終わってくれ。その場にいる誰もが思っつていた。しかし、現実は非情にも淡い希望を切り裂く。

「徳叉迦(タクシャカ)」

 耳にしたくなかった怪物の声とともに黒煙の内部から紺色の衝撃波が飛び出す。その勢いで起きた突風により吹き飛び、黄金の竜が出現。

 衝撃波はルクスが後ろから抱えているフィルフィとリーシャ、クルルファーに浸透するように接触。

「何が、起こった?」

 すると、ルクスの抱えていたテュポーンが急に重量が増す。

「ルーちゃん。体、動かない」

 フィルフィの抑揚のない声にはわずかに焦りを孕んでいた。なんと機体の全機能が停止した。ルクスは瞬時に悟る。原因は先ほどの衝撃波。おそらく効果は接触した機体の機能を停止させる事。ルクスはここでさらなる最悪の事態に気付く。上空で少女の悲鳴が鳴り響く。ルクスが見上げるとクルルシファーとリーシャが別々の位置から悲鳴をあげて、急降下。

「クッ! フィーちゃん!一度、地面に下ろすよ!」

 ルクスは真下の森にフィルフィをゆっくりと尻餅を付かせる。

「ここで待ってて!」

 ルクスは吐き捨て、全速力で二人の救出に向かう。遠くの方でこの事態の生んだ元凶は哄笑し、自分達を鑑賞している。まずは、ルクスから比較的近い位置のリーシャの救出に専念する。リーシャは空中で踊らされているように落ちていく。

「リーシャ様!」

 彼女を真下からすくいあげるように両手で受け止める。降下の勢いで腕にのしかかった際に僅かにバハムートの機体が揺れる。

「大丈夫ですか。リーシャ様」

「ああ、ありがとう。だがクルルファーが!」

 ルクスはリーシャに諭されて、クルルファーに目を向ける。彼女は弓矢のように直進で地上に迫っていた。ルクスは目の色を変え、リーシャを瞬時に地表におろして、飛翔。血反吐を吐く思いで、クルルシファーめがけて加速。

「頼む!」

 目前まで迫り、落ちていく彼女と目が合う。掴もうと手を伸ばす。しかし、手に温もりを感じることはなく、夜風が指の間を勢いよく、突き抜ける。方向転換をして急降下を試みる。しかし、既に森の表面が彼女の背中を覆い尽くそうとしている。蒼髪の少女は穏やかな笑みを浮かべて、葉を散らしながら青葉の海に消えていった。全身から血の気が引いていくとともに一気に全身が重くなる。絶望感と自責の念が荒波のように押し寄せる。静かに脱力するように地上に立つ。クルルシファーの元に重い足取りで進む。生い茂った草を必死にかき分けると、彼女が樹木に背を預けていた。二機の機竜に支えられながら。

「セリス先輩、夜架……クルルシファーさんは!」

 ルクスは額から一筋の汗を流すと、セリスは静かに人差し指を自身の唇に添える。

「地面に落下寸前でなんとか彼女を受け止めましたから大丈夫です。しかし間一髪でした」

「本当ですわ。ただでさえ、機体の破損がひどいというのに」

 夜架は深いため息をつきながら、両手を肩の上にあげる。彼女のいう通り、二人の機体の破損はかなりのものだった。地面に衝突した威力がどれほど強力だったのかを物語っている。すると瞳を閉じていた少女が静かに開目。

「クルルシファーさん!」

「ルクスくん……心配かけてごめんなさいね」

 普段の切れ長で威圧感すら感じられるものとは違い、瞳から疲労の色が見えた。心身ともに相当参っているのだろう。ルクスは静かに彼女の手を取る。

「必ず、『ナーガ・ラージャ』を倒す。ここで待っていて」

 ルクスの決意表明をクルルシファーは無言で頷き、返答。ルクスは踵を返して、三人を一瞥。絶対に勝つ。自分と仲間達に誓い再び大空へ飛び立つ。この未曾有の事態を招いた元凶と徐々に距離が近づく。

姿がはっきりと見えてくると同時に、冷や汗が背筋を伝う。

「残リハお前ダケダ」

 『ナーガ・ラージャ』が耳元まで口角を上げて、いやらしい笑みをルクスに向ける。怖気を感じたルクスの腕に鳥肌が立つ。しかし、心中に漂う恐怖を払いのけ、強く睨みつける。自身の肉体も限界に近づいているが、今は目の前にいる脅威をなんとかしなければならない。

「お前を倒す。今ここで!」

 ルクスは背中に搭載された漆黒の翼を勢いよく、振り下ろす。赤い閃光を放ちながら、凄まじい速度で標的に迫る。対する『ナーガ・ラージャ』も眩い光を身に纏い、肉薄する。漆黒の竜と黄金の竜が互いに剣の刃先を重ねた。二機が剣を交えた瞬間、あまりの衝撃で突風が起こる。互いに刃を押し付け合い、火花を散らす。豪雨のような勢いと速さの斬撃がルクスに襲いかかる。剣でも防ぎきれず機体にも切り傷がつけられて、ルクスが徐々に押される。場数が違いすぎる。くぐり抜けてきた修羅場の数、そこで積み重ねた経験が『ナーガ・ラージャ』の剣術の秘訣なのだ。なら、それを上回るものはなにか。発想とこの勝負にかける思いのほかにない。ルクスが後ろに回避し、斬撃を交わす。胸元のコアさえ破壊できればカタがつく。

「グハッ……」

 当然の出来事だった。『ナーガ・ラージャ』が前のめりになり、吐血。背中を何度も起伏させて、態勢を整えようとしている。目の前の光景にルクスは驚愕するとともにある考えが頭をよぎる。『ナーガ・ラージャ』は永劫の中で多くの人間に寄生という形で使われてきた。 寄生を繰り返したという事は限界が来ると、自分自身にも負荷がかかるため、乗り換える必要がある。ジェイク教官は、誰にも寄生させないためと、この怪物の力を弱めて、限界近くまで追い込む為に自身の中に留まらせていたのだ。 

 

苦しそうに胸を抑える怪物を尻目に、肉薄するルクス。奇襲に気づき『ナーガ・ラージャ』は対処しようとするが、反応が遅れて斬撃を左腕に受ける。割創を受け、静かに後ずさる。寄生先が弱体化しているのか切り傷の修復が先ほど違い、遅い。

「グッ! ズニノルナ!」

「他の機竜使いに寄生しなかったお前自身にも他の機竜同様に適正率があるからだ。だからジェイク教官に未だに寄生している。高い適正率をもつ騎士団に囲まれた際も、肉体を乗り換えなかったのは寄生する瞬間、攻撃されるリスクを恐れたからだ。動けなくなったリーシャ様達に乗り移らなかったのは僕達を見くびったからだ。お前の傲慢さが仇になったんだ!」

 

 ルクスの怒気の混じった主張に、『ナーガ・ラージャ』は図星をつかれたように歯ぎしりをする。

「お前を弱体化させるために教官もたくさんの仲間達もきずついた。覚悟しろ!」

 〈烙印剣(カオスブランド)〉を構えて、獲物を捕らえる竜のように飛び出す。勝算が見えたからか、体がさっきより軽い。

「沙伽羅(サーガラ)!」

 余裕がないのか、声を荒げて技を発動する。光の弾丸が雨のようにルクスめがけて降り注ぐ。しかし体力の低下のせいか、飛んで来る光の数が少ないのだ。ルクスは迫り来る光を難なくかわして、『ナーガラージャ』との距離を詰めていく。焦燥にかられる怨敵の姿は竜ではなく、一匹の小さな蜥蜴のように見える。

 

 

「徳叉迦(タクシャカ)!!」

 『ナーガ・ラージャ』の内側から紺色の衝撃波が周囲に響くように放出。リーシャ、クルルファー、フィルフィを追い詰めた技。しかし、ルクスはこの技の抜け穴を見つけていた。

 

「機竜咆哮(ハウリングロア)!」

 ルクスは自身、幻創機核(フォースコア)から渦状の衝撃を展開する。すると迫っていた紺色の衝撃波が打ち消された。

「やはりか」

ルクスの推測は的を射ていた。『ナーガ・ラージャ』の放つ衝撃波の効果は絶大だが、一度何かに触れてしまえば、消滅してしまうほど脆い。だからフィルフィを抱えたルクスはその効果を受けなかった。波動をかわしたが、ルクス自身体力に余裕はない。

「神速制御(クイックドロウ)!」

 ルクスが編み出した奥義の一つ。機竜と精神、肉体をシンクロさせて、一時的に超スピードを生み出す。急速に『ナーガ・ラージャ』との距離を縮める。その時、『ナーガ・ラージャ』の胸部にあるコアが鱗に覆われていく。

「まずい! このままじゃ奴を!」

すると、覆い尽くそうとしていた鱗の侵食が制止した。ルクスが眉を潜めていると、聞き覚えのある暖かな声が耳に届く。

「やれ! ルクス! 今のうちにこい!」

 声の位置は明らかに標的の方。ジェイク・ラーディスだ。弱体化した『ナーガ・ラージャ』から一時的に肉体を奪還し、コアを防御するのを食い止めたのだ。ルクスの脳裏にジェイクと過ごした日々が浮かぶ。目の奥が熱くなるのを感じながら、最後の攻撃に臨む。

「永久連還(エンドアクション)!」

 肉体操作、精神操作の交互に機竜を操る事で連続攻撃を可能とする奥義の一つだ。刃の届く位置に近づいた時に穏やかな表情をしたジェイクと目があった。ありがとう、、、 ルクスにはそう言っているように見えたーー。 永遠に続くような斬撃に晒されて、『ナーガ・ラージャ』の装甲は切り刻まれていく。鬼神の如き、縦横無尽に剣を振るう。そして、胸部に食い込む血のように赤いコアを真っ二つに両断。

 

「グオオオオオオオ!」

『ナーガ・ラージャ』は凄まじい断末魔を上げて、崩れていく。長きに渡り生き続けた巨竜はボロボロと黄金の鱗を落としながら、消えて行き、傷だらけのジェイクの肉体だけが残った。ルクスはすかさず彼の身を掴み、抱える。

「やっと、終わった」

 一人、戦闘の終わりを静かに呟き、静かに地上へと降りた。地面に降り立つとジェイクの木の根元に背中を預けさせて、装甲を解除。数分も経たないうちにアイリと装甲を解除したリーシャ、クルルファー、セリス、夜架、フィルフィが駆けつけた。

「ルクス! 大丈夫か!」

「相変わらず無茶をするわね」

「全くです! 兄さんはいつも!」

「あはは、ごめんごめん」

 ルクスはぎこちない笑みで返す。いつもと変わらない光景に少し、頬を緩めと、太平な空気を消すようにジェイクの唸り声が聞こえる。

「ジェイク教官!」

 ルクスの声でジェイクがゆっくりと開目。その目は普段の鋭利な目ではなく、どこか余裕のない弱気な瞳をしている。騎士団も同様に彼の状態に目を見張っていた。

 

「すまねえな。お前らに押し付けちまってよお。きっとバチがあたったんだな。受け入れて前に進まなかった。俺は逃げたんだよ。自分を取り巻く環境からも親父からも妹からも。因果は巡るもんだな。ハハッ」

 ジェイクは顔を上げて、自嘲。額から一筋の血が流れて、左目の涙袋を伝う。ルクスにはまるでジェイクが赤い涙を流しているように見えた。ルクスは静かに手を握る。

 

「妹も親父も死んだ。俺にはもう血縁者も身内もいねえけどよ。逝く前にお前らみたいなやつにあえてよかったよ」

 ジェイクは切なそうに笑みを浮かべる。ルクスや騎士団に哀愁が漂う。目の前で慕っていた人間が生涯を終える。確実な死を受け入れ、ジェイクに寄り添う。

「それは違うぞ」

草の茂みから凛々しい声とともに足音が聞こえる。ライグリィ教官が暗闇の中から姿を現す。

「ライグリィ教官! 何故、ここに」

「騒ぎを聞きつけた。王女が王国軍と騎士団を連れて森に向かったんだ。こんなおおごと、耳に届いて当然だ」

 ライグリィは平然と答え、弱々しく木にもたれかかるジェイクに目を向ける。ライグリィの瞳はわずかに哀切を孕んでいた。

「ライグリィ教官。さっきのことは一体?」

 セリスが怪訝な声で反問する。周囲の人間もライグリィに目を向ける。

「ジェイク・ラーディス。私はお前に見覚えがあった。だから色々と調べたよ。そしてようやく過去に一件、お前と同じ名の人物がアーカディア帝国にいたことが分かった。ジェイク・ラーディス……いやジェイク・ロードベルト」

 不意に吹いた夜風がその場にいた全員の頬を優しく撫でる。まるで動揺した心を鎮めるように。ライグリィの口から発せられた真実に、銀髪の青年と少女は戸惑いを隠せずにいた。

 




閲覧ありがとうございます! カクヨムでも新しく小説を投稿し始めました! ぜひそちらもよろしくお願いします! それでは!
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