黒き英雄と呪われた神装機竜   作:蛙先輩

9 / 11
第9話です。どうぞ!


9話

 夕闇が白亜の校舎を黒く染める頃。切姫夜架は長く艶やかな黒髪を揺らし、リーズシャルテ・アティスマータの格納庫へ向かう。普段の涼しげな表情とは違い、その目には焦りを孕んでいた。格納庫につき、金属製の分厚い扉を押し開ける。金属と油の匂いが一気に鼻孔へなだれ込む。その臭いを振り切るように、中に入る。リーシャは脚立に登り、機竜の頭頂部の点検中だった。夜架が声をあげて、彼女を呼ぶ。リーシャは夜架の反応に気づき、下を見下ろす。

「何の用だ! エロ女! 私は今、忙しい身だ! 手短に用件を済ませろ」

 リーシャが眉間にしわを寄せて、夜架に厳かな口調で応じる。リーシャは今、機竜の新兵器の開発に心血を注いでいた。

「簡潔に言いますわ。この国が滅亡の危機に瀕していますわ」

 夜架は鋭い眼差しをリーシャに向ける。リーシャは手に持っていた工具を腰に巻きつけた袋に直す。ゆっくりと脚立を降りて、夜架の目の前に立つ。

「どういうことだ」

 リーシャの質疑を受けると、夜架は懐から一冊の古びた本を取り出す。古びた本を機龍の設計図や鉛筆が並べられた木製の長机の上で開く。そこには古都国の文字と歪な形の物体が記載されている。

「な、なんだ? これは?」

「これはジェイク教官が持っていた神装機竜の機攻殼剣ですわ。いや、神装機竜の欠陥品と行った方が良いでしょうか」

「ジェイク教官が?」

 リーシャが怪訝な表情を浮かべる。自分にはわからない言語が記された文献。神装機竜の欠落品。それを持つジェイク・ラーディス。いきなり入ってきた情報を処理するのに一苦労だった。夜架が静かに頷く。

 

「この神装機竜の名は『ナーガ・ラージャ』

文献に記されている事を解読していくと、かつて古都国が大陸国からこれを譲渡されたようです。これの力により、古都国各地で起こる争いを沈めていた。しかし『ナーガ・ラージャ』は操縦者の命を削り取るため、多くの人間が亡くなったそうですわ。

そして、この事態を危惧した、時の朝廷はこれを封印する事を決意。以来遺跡の奥深くに封印されていたです」

 

 夜架は解読文を読み終えると、解放されたように軽く嘆息を漏らす。対するリーシャは額に汗を滲ませ、赤い瞳は文献から離れずにいた。

「では何故、これを教官が持っているんだ?」

「以前、彼は古都国に入国した際、国王である弟の依頼で、遺跡を探索した際に取り憑かれたと考えていますわ。その後、アーカディア帝国が侵攻して、行方が分からなくなりました」

 リーシャが夜架の説明に項垂れていると、腰部分に違和感を感じる。夜架も同様の反応を示す。目線を腰部分に移すと、機攻殼剣がカタカタと音を鳴らして、揺れる。

「まさかお前もか」

 焦燥に駆られたリーシャの質問に、黒髪の少女は首肯で応答。その瞬間、窓の外から鼓膜が破れんばかりのけたたましい咆哮が響く。あまりの勢いに机の足が僅かに揺れ動いた。謎の咆哮を落ち着くと、周囲に静寂が訪れた。互いに件の機竜である事を悟る。

「今すぐに王国軍に連絡だ。そして、セリス達にも声をかけよう」

 リーシャの英断に夜架が無言で合点。二人は一斉に格納庫を飛び出した。新王国の危機を救うために。

 

 

 

 

 

 月夜の下、白く神秘的な月光が草花を照らす中、二機の神想機竜が空を翔ける。ルクスの操縦する神装機竜『バハムート』は赤い光芒を引き、ジェイク・ラーディスの神装機竜『ナーガ・ラージャ』の翼から放出される黄金色の砲弾を交わす。しかし、攻撃しているのはジェイクの意思ではない。彼の体に纏わりつく黄金の竜の仕業である。

「ルクス! こいつを壊すには胸の中心にあるコアを破壊するんだ! でなければどんな致命傷を与えても蘇生する!」

 ジェイクはルクスの視線を自身の胸元に注目させる。黄金色の中に赤い水晶のようなものがジェイクの胸元に埋め込まれていた。

「はい!」

 ルクスは威勢の篭った語気で返す。右手に漆黒の大剣。〈烙印剣(カオスブランド)〉を構えて、肉薄する。大剣を薙ぎ払うと、『ナーガ・ラージャ』は星空の真上に高く飛翔。黄金の輝きに包まれて、突如、急降下を始める。風を切りながら『バハムート』の周囲を舞う。ルクスはあまりの高速移動に翻弄される。瞼を閉じて、意識を集中。空気の流れ、

ジェイクの息遣い、そして殺意。ルクスは開目して、大剣を勢いよく、突き出す。〈烙印剣(カオスブランド)〉の刃先は『ナーガ・ラージャ』の右肩を貫いた。

「捕らえた!」

全力で左斜めに降ろし、コアを真っ二つに切断しようとした時。ルクスの脳裏にジェイクと過ごした日々が発露する。短くとも楽しかった学園生活。皇帝である父親から愛されなかった自分の立場から見て、どこか理想の父親の影を重ねていた。そんな彼との日々が一振りで終わりを迎える。

「ぐっ!」

突如、ルクスの左腹部に激痛が襲う。吹き飛ぶ自分の腹部を確認すると、真っ赤な鮮血が吹き出ていた。『ナーガ・ラージャ』の左手から煙が上がっている。おそらく波動の類による一撃だとルクスは感づく。自身の一瞬の躊躇いのせいで好機を逃した。

「ルクス! 大丈夫か! でもどうして……」

 ジェイクは曇った顔をルクスに向ける。ルクスは俯きながら荒く息を吐き、背中を起伏する。

「……」

 ルクスは哀切を秘めた眼差しを向ける。ジェイクはルクスの心情を察して、思わず肩を落とす。

「ルクス、俺はーー」

 ジェイクの言葉が閉ざされ、代わりに彼の叫声が辺りに響く。ルクスの呼びかけにも答えず、皮膚がみるみるうちに赤黒く染まる。

「ジェ……イク教官?」

 ルクスの瞳が震え、動揺を露わにする。目に映るのは以前のジェイクとは違う全く、別の姿をした怪物が存在してからだ。

「まさか、『ナーガ・ラージャ』が教官を侵食して取り込んだのか!」

「ソノトオリダ」

赤黒い異相のもののけが、片言で応答。ルクスは思わず、握った〈烙印剣(カオスブランド)〉に力が入る。

「我ハ『ナーガ・ラージャ』龍ノ長」

「龍の長……」

 ルクスは対峙する相手の異様さに思わず、唾を飲む。終焉神獣《ラグナレク》や他の神装機竜は桁違いの重圧感。緊張のあまり、自然と額から汗が流れる。

「ククク、恐レテイルナ」

 『ナーガ・ラージャ』がルクスの心を見透かしたように、不気味な笑みを浮かべた。そして、静かに右手から剣を生み出す。二つの刃が絡まり、螺旋状になった黄金の剣だ。

 

ルクスはため息を吐き、〈(烙印剣(カオスブランド)〉を構える。『ナーガ・ラージャ』が金色の両翼を広げ、ルクスの元に飛び立つ。巨大な黒剣と螺旋の剣が重なり、火花を散らす。

「次ハお前ノ体ヲ頂コウカ」

「ごめんだ! お前を倒して、ジェイク教官を解放する!」

 ルクスは『ナーガ・ラージャ』に斬撃の乱打を繰り出す。しかし、対戦相手はいともたやすく、交わしていく。『ナーガ・ラージャ』はルクスと距離を取ると、二股に巻かれた剣先を空に向ける。剣先に光が集まっていき、球体を生み出す。ルクスは剣呑な表情で、眩い光球を捉える。

『沙伽羅(サーガラ)』

 剣を振り下ろし、蓄積された光が飛散。雨のように降り注ぐ黄金の弾丸が、木々や地表を貫く。ルクスも

次々と迫る脅威を回避する。『ナーガ・ラージャ』の元に加速しながら、攻撃を目論む。

「ーー《暴食(リロード・オン・ファイア)」

 先の五秒間、圧縮した時の中で連続攻撃を叩き込み、残りの五秒で溜め込んだ斬撃を解放させ、破壊力を増す。ルクス・アーカディアの奥義の一つだ。ルクスは限られた時の中で、鬼神の如く『ナーガ・ラージャ』の身を刻んでいく。『ナーガ・ラージャ』は攻撃を受ける寸前、胸元のコアを自らの鱗で覆い隠した。

その防御を取り除きコアを破壊すれば、この戦いは終わる。残りの時間で縦横無尽、かつ確実に『ナーガ・ラージャ』を斬りつける。

「これで終わりだ!」

  最後の一撃を与えた後、凝縮された衝撃が『ナーガ・ラージャ』の身を襲う。両翼、四肢が空中で粉々に砕け散る。最後に与えた衝撃の強さで地面めがけて、吹き飛ぶ。

「どうだ」

 ルクスは疲労しきった眼差しで、墜落した『ナーガ・ラージャ』を睨む。砂埃が敵の生死に確定が持てないルクスの不安感を掻き立てる。しかし、答えはすぐに出た。砂埃が消し飛び、代わりに切り落としたはずの両翼を大きく広げた、黄金の機竜が佇んでいる。

「なっ……」

 予想していたものの、ルクスは目の前の現実を悔やむ。無くなったはずの各部分は元通りになっていた。

「惜シカッタナ」

 『ナーガ・ラージャ』は翼を強く振り、離陸。ルクスの表情には焦燥の色が見える。

「悪クハナカッタ。ダガ、ソレデハ龍ノ長タル我ヲ殺ス事ハ出来ヌ」

 『ナーガ・ラージャ』は再び、不気味な笑みをルクスに向ける。

「それはどうかな!」

 突然、二人の耳に第三者の声が届く。声のする方に目を向けると、そこにはルクスの見慣れた顔ぶれである騎士団(シヴァレス)の隊員達がいた。

「リーシャ様、クルルシファーさん。フィーちゃん。みんな」

「彼女達だけではありませんよ。兄さん」

「その通りですわ。主人様」

 ルクスの竜声から夜架が声が聞こえる。頭上を見上げると夜架は自身の神装桐竜《夜ノ神》を纏い、こちらに笑いかけていた。その横のアイリはノクトの機竜に身を預けながら、不満そうな視線を送っていた。

ルクスは苦笑いを送り、妹は静かにため息をついた。

 

「これだけではないぞ、ルクス!」

 赤い瞳をした少女が毅然とした口調で述べる。ルクスが頭に疑問を感じていると気配を感じて首を向ける。なんと装甲機竜を纏った大勢の男達がこちらに向かって飛翔していた。増援に来た新王国の機竜使い達だ。

「この人数がいれば、お前を消し済みにするくらい容易いことだ」

「ナルホド、総力戦ト言ウワケダナ」

 『ナーガ・ラージャ』は目先に映る竜達に見渡し、ほくそ笑む。

 

「覚悟しろ。『ナーガ・ラージャ』お前を倒してジェイク教官を解放する! 僕は……僕たちは負けない! 」

 ルクスは鋭利な目で黄金の竜を睥睨する。対する『ナーガ・ラージャ』は終始、ほくそ笑みながら機竜達を嗤笑するような眼差しを送る。

「来イ、蜥蜴共。本物ノ龍ヲ見セテヤル」

 大勢の戦士達を怒号が夜空に響く。

 

 

 

 ーー数時間前ーー

 

 夕焼けが新王国を茜色に彩る頃。首都 クロスフィードの市役所でライグリィ・ハルバートは真剣な趣で、ある資料に目を通していた。

「そんな、まさか」

喧騒に包まれた市役所の中、ライグリィは記された事実にただ瞠目するばかりだった。




閲覧ありがとうございます。お気に入り感想よろしければお願いします
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。