茉優先輩と三司さんの検索履歴を覗く話です。
共通ルートの何処かという設定なのであまりネタバレはないと思いますが一応注意です!
すっかり寮のみんなが寝静まった頃。俺は七海の部屋にいた。
「七海。本当にやるのか? 気がひけるんだが……」
「仕方ないでしょ。お仕事なんだから」
七海がトン、トンと端末をいじる。機械系に疎い俺は、その隣で座ったまま様子を見ていた。やがて何か打ち終わったのか、七海から端末を渡される。
「はい、これ。暁君は式部先輩とあやせ先輩だったよね。私は、二条院先輩と千咲ちゃん」
「あぁ」
「まずは式部先輩の端末の方に入っておいたから」
そう言ってもう一つあった端末に目を向ける七海。今回の仕事は、普段仲の良い友人達の携帯端末を覗くという、どうにも罪悪感が拭えない仕事だった。
親父によれば、上からの指示で今一度特班周りの洗い出しをしたいらしい。
『この間上が起こした情報漏洩のトラブルのせいだと思うんだがな……こっちにまで飛び火してくるとは。気がひけるとは思うが、逆に友人達の端末がウイルスにかかってないか調べてあげるとでも思って取りかかってくれ』
ーーとのことだ。
(仕方ない。やるか……)
これ以上ぼうっとしていてもまた七海に怒られるだけだ。俺は仕事に取り掛かるべく、端末と向き合った。
最初は『女の子のデリケートなところ覗くなんて暁君はダメだよ』とかなんとか言っていた七海だが、流石に仕事量が多すぎる。
入っているアプリにメール、検索履歴なんてものまで見るのだ。
(メールに通話履歴くらいならわかるが……検索履歴はいるか? )
ちなみにこれでも人の割り振りには気を使った。三司さんは例の秘密の件で七海にバレるわけにはいかないので当然俺。式部先輩も過去の件であまり俺の素性が悪かった時代を七海に知られたくなかったからだ。
七海には『暁君。その二人のが、見たいんだ? 』なんて誤解を生みかねない言われ方をされてしまったが大仰に否定もできない。
「と、これだよな? 七海」
「うん、そう。そっちは触っちゃダメ。そこね」
わからない操作はすぐに七海に聞いて中を確認する。
式部先輩の方から覗いてみたが……
(まぁ、予想通りかな)
検索結果は大体がアストラル能力についての研究論文。電話やメールも研究者宛のものが多かった。
だが、中には気になるものもいくつかあった。
(「男の子 癒す方法」、「かわいい 男の子」、「男の子が優しくする 意味」か……俺のこと、だよな……? )
茉優先輩が気にかけてくれているのは嬉しいが、恥ずかしいような何とも言えない気持ちだった。
(……ッ!? 「暁君 かわいい」!? それは検索してもでないだろ! というか違うだろ! )
俺は叫びたくなる気持ちを必死に抑えて心の中で突っ込んでいた。
「……暁君? 」
七海からジトーッとした目線が送られてくる。まずい。
「いや、なんでもない。なんでもない。茉優先輩の方は確認した。大丈夫だ」
茉優先輩のいないところでしてやられた気はするが、俺は端末を一度閉じ、七海の方へ渡した。
「本当かなぁ……いや、お仕事で疑ったりはしないけど……変なこと、してないよね? 」
「してない。というか俺にはできない」
「……それもそっか」
助かった。俺が機械系に疎いところが良い方に出たようだ。
「はい。こっちがあやせ先輩ね」
「おう」
少ししてまた七海から端末が渡される。とりあえず早くこれを終わらせて休もう……
そう思いつつ俺はテキパキと中を見ていく。アプリ、メール、電話、特に問題ない。「みんなの三司あやせ」だ。
一番問題があったのは、検索履歴だった。
(何というかこれは……ある意味予想通りか……)
三司さんの検索履歴は大体三つに分かれていた。アストラル能力についてと、猫。それに……胸。
比率にしてみれば猫、アストラル、胸、猫、胸、アストラル、胸、胸、胸、胸、胸……
(…………よっぽど、気にしてるんだな)
さっきより罪悪感が強い。知っていたとは言え見てはいけないものを見てしまったような……
(スマン。このことは絶対に言わない)
本人が聞いたらこの謝っているのすら怒られそうだが、俺はそう思わずにはいられなかった。
「……暁君? 」
「はっ!? 」
またもや七海に怪訝な顔でジッと見られていた。
「さっきから変だよ。何かあったの? 」
「い、いや? 問題ない。三司さんの方も問題ない」
「…………嘘ついてるでしょ」
「ぐっ……」
流石に鋭い。だが、三司さんの胸の秘密をここで明かすわけには……!
「七海、本当に違う。俺はやってはいけないことをしてるんじゃないかっていう罪悪感が酷くてな? 絶対に悪用はさせないっていう覚悟がだな……」
「……はいはい。わかった」
そう言って七海は俺の手から端末を取る。幸いにして検索履歴は既に閉じてあった。
「じゃあお疲れ様。連絡は私からしておくから」
「おう……」
守りきった。俺の胸は達成感であふれていた。
「というわけで、俺は言わなかったぞ。三司さん」
「……どういう訳か知らないけど、いきなり学生会室に来たと思ったら急に何? 」
「それじゃあ、俺はもう行くから」
「は? ……え? ちょっと。ほんとに行くの在原君? ほんとにそれだけ言うために来たの!? ちょっと、在原君!? 」
叫んでいる三司さんを後ろにして、俺は学生会室から出る。スッキリした気分だ。
俺が晴れやかな気持ちで廊下を歩いていると、前から茉優先輩が歩いてきた。
「あ、暁君! 」
「あぁ、茉優、先輩……」
あれを見てしまったあとだ、なんだか関わりづらかった。
「? どうしたの? なんかぎこちないけど……」
「い、いやなんでもない。俺はもう行くから……」
「えっ? 暁君!? アタシ何かしちゃったかなぁ!? 」
俺は茉優先輩から逃げるように廊下を走っていた。
ーーしばらくの間、茉優先輩とも三司さんとも不自然な感じになってしまったことは想像に難くない。