ルートのネタバレ等はなしでイチャイチャしているだけです。
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「……取材?」
「そう」
昼休みの学生会室、あやせが今度の週末にあるという取材のことを話し出した。
「日帰りなんだけど、少しだけ遠いところなのよね」
「どのくらいだ?」
「鷲逗市内じゃないから、電車で……1時間くらいかな」
「それは大変だな」
時々だが、休日にもこうしてあやせの取材が入ることがある。だが鷲逗市から出てまでとなるとなかなか稀だ。
「それで、取材内容はそんなに大変じゃないみたいだから基本的に行くのは私だけなんだけど、別に人が付いてきても良いみたいなのよねー……」
こちらをチラチラと見ながらそう言うあやせ。流石の俺でも言いたいことがわかった。
「俺が付いてくよ」
「ほんと? ありがとー♪」
「…………」
「なんでそういう微妙な顔をするのよ」
「いや、別に」
(よし。取材とはいえ、暁と二人っきりで遠出するんだから、これはデートよね!)
私は、自分でもわかるくらいの上機嫌で部屋にいた。
休日の取材、しかも遠出となると中々気が重いが、暁が一緒にいる、しかも二人きり、というだけで私のテンションは上がってしまっていた。
(はぁ〜あ……やっぱり大好きなんだなぁ……)
取材当日。俺はあやせのボディガードとなるべく、先に軽く場所と取材先の建物の下調べをしておいた。七海にはそこまでしなくて良いんじゃないかなぁと言われたが、あやせがわざわざ頼んできたのだ。誘拐されそうになったこともあるし、不安なのだろう。
(でもあのくらいなら、俺一人でも大丈夫だな)
確認した限りでは場所にも特に問題なく、心配するような直近の案件もなかった。アストラル規制派自体も事実上解体された。そこまで気を張る必要はないだろう。
「ーーる! 暁!」
「ん、あぁ、悪い。考え事をしてた」
「もう……今日はずっとそんな感じじゃない? 体調悪いの?」
「いや、大丈夫だ」
「ならいいけど……」
あやせにまで心配されてしまっては元も子もない。俺は考えを改め直すと、周囲への警戒を再び始めた。
「ね、暁……?」
「……大丈夫だ。ちゃんと俺が周りを見てる。心配することはない」
「いや、そうじゃなくって……」
「……?」
あやせが、何やら言いたそうにしている。今日はずっと周りを気にして、取材場所までももう少しだ。問題はないはずだが……
「今日の暁、やっぱりなんかおかしい」
「そうか? 至って普通のはずだが」
「それがおかしい。普通じゃない。私と暁、二人っきりでしょ?」
「ああ。だからこそだ」
二人っきりだからこそ、周りを気にしてあやせを守るようにしている。ボディガードとして普通のはずだが……
「……なんか、私だけそわそわしてない? ずるい」
「ずるいって……」
何故だか、微妙に話が噛み合わない。そんなに今日の行動に問題があっただろうか?
そうこうしているうちに、取材場所に着くのだった。
「今日は、よろしくお願いします」
「はい、よろしくお願いします」
取材が始まる。それでも、私の頭の中は暁のことでいっぱいだった。
(……やっぱりおかしい。ここに来る途中だって手も繋いでくれないし、私じゃなくて周りばっかり見てるし……)
「ーーそうですね、そういうこともあります」
「なるほど。それで、橘花学院の体制についてですがーー」
(なんか、考えてたらモヤモヤしてきた……私ばっかり好きみたいじゃない……暁めぇ……)
とはいえ取材もちゃんとしたお仕事。なるべく気を逸らさないように意識してはいたのだが、頭に浮かんできてしまうことは止めようがない。
「三司さん? 大丈夫ですか?」
「あ、はい。すみません、大丈夫です」
「連続でお話を聞いちゃってますからね。少し休憩にしましょうか。5分後に再開でも大丈夫ですか?」
「……はい。ありがとうございます」
記者の人にまで気を使われてしまって、休憩になる。
(あれもこれも、暁のせいなんだから……)
既に頭の中が暁でいっぱいだった私は、廊下に出ると無意識に携帯を取り出し、電話をかけていた。
『ん。もしもし?』
「あっ、暁?」
『どうした。取材は終わったのか?』
「ううん、今はちょっとした休憩中」
『わざわざ電話してくるなんて、なにかあったのか?』
「別に、何もないけど……」
ハッキリと言えない自分が嫌になる。暁はそういうところが鈍いんだから、私から言ってしまわないと……!
『そうだ。せっかく鷲逗市から出たんだから、帰りはデートでもしないか?』
「えっ……?」
『急に悪い。あやせと二人きりっていうのだと、どうしても意識しちゃってな……』
「……ぅ」
『都合が悪かったか? それとも、帰ってからまだ仕事があるとか……』
「う、ううん! いい。それで、いい。デート……する」
『そうか、良かった。時間は大丈夫か?』
「あっ、うん……じゃあ、取材、頑張る……」
「おう。応援してるぞ」
電話が切れる。私はほんの数秒だが、固まってしまったかのように動けなかった。
「…………ずるい」
ポツリとつぶやいた彼女の声は、静かな廊下にいやに響いた。
本当にずるい。鈍いなら鈍いで、そのままだったら良かったのに。
「三司さん! そろそろ大丈夫ですか?」
「えっ、あっ、はい! 今行きますね」
その日の取材写真には、とびきりの彼女の笑顔が写されていた。