あまり記念にはなっていませんが、前から書きたかった七海ちゃんのコスプレ、オタク部分を押し出したやつです!
あまりかけてないかもしれませんが…
一応どの√でもないです!
「慈愛の天使よ、その息吹をもって彼の者の傷を癒したまえ。ヒール!」
痛みが引いていく。俺は、仕事中に少し打ってしまった右手を七海の能力で治してもらっていた。
「ありがとうな、七海」
「ううん。私は大丈夫だけど、本当に気をつけてよ?」
いつものように七海に小言を言われてしまう。だが、今の俺にはそれよりも気になることがあった。
「なぁ七海。前から気になってたんだが、そのながーい詠唱?呪文?ってなんなんだ?由来とかあるのか?」
俺は前々から気になっていたことを聞いた。一度聞いた時は確か『格好いいから』、と言っていたのは覚えている。
「えっ?うーん……特にこれっていう由来とかはないんだけど……色々見たり、聞いたりしてるのが混ざって、かな?」
「あぁー、例のオタク趣味か」
七海にはオタク趣味がある。前は時々イベントに行ったり、コスプレもしていたようだが、最近は仕事が忙しいのか、そうしているのを見ていない。
「最近は、イベントとか行かなくていいのか?」
「あくまで、趣味だからね。お仕事が入っちゃってたり、その心配があったりすると中々……」
俺はそれを聞いて、不意に思いついた。
(七海に休暇をやろう)
いつもなんだかんだ世話になっているし、兄妹とはいえバディなのだ。そのぐらいの気遣いをたまにはしてやってもいいだろう。
「直近で実は行きたいイベントとかあるのか?」
「イベント?うーん……」
俺が調べてもいいが、一番確実なのは直接聞くことだろう。
俺は、早速行動を開始した。
「それじゃあ、行ってくる」
「あぁ、気をつけてな。在原君、七海君」
「ありがとうございます、二条院先輩」
俺と七海は、キャリーバッグを持って寮を出ようとしていた。外出許可証はすでに提出済み。朝早く出ることになったが、二条院さんは律儀に送り出すために起きてくれていた。
ちなみに、許可証に書いたのは日帰り旅行ということになっている。七海いわく、そういう趣味は時と場所を選ぶらしい。
(まぁ確かに馬鹿正直にイベント行ってきますとは書かないか)
「今日はありがとう、暁君。わざわざ休みだなんて」
「いや、なんてことはない。いつもお世話になっているんだし、そのお礼も兼ねてだ」
「…………」
俺がそういうと、七海は驚いたような顔でこっちを見たまま固まってしまった。
「どうした?何か変なこと言ったか?」
「うん。暁君がいつもお世話になってる、だなんて……珍しいからびっくりしちゃった」
「俺をなんだと思ってる!?」
「キモいシスコン?」
前々から感じてはいたが、七海が辛辣だ。
(どこかのタイミングで少しくらいは挽回しなくては……)
「シスコンといえば、わざわざついてこなくてよかったのに……暁君、そういう趣味はないでしょ?」
「あぁ……そういう趣味というか、趣味自体がなくて困ってる。俺も最初は七海一人だけでいいかと思ったんだが……親父がな」
話は数週間前に戻る。
「というわけだ。なんとかならないか?親父」
「その頃なら多分大丈夫だと思うんだが……」
俺はいつもの定期連絡ついでに、親父に七海へ休暇をくれないかという話をしていた。
「ちなみにだが、その休みはどこへ出かけるか聞いてたりするか?」
「あぁ。確かイベントの名前が……」
俺は七海から聞いたイベントの名前を親父に伝えた。電話口の向こうから少し間を空けて返答が返ってくる。
「……タイミングが良いというか悪いというか……」
「……?何か問題なのか」
「俺たちとしては都合が良い。だが暁が言う通り単純な休みという話であれば都合が悪い」
「だから、何か問題なのか」
妙にもったいつけて言う親父。俺は親父を早く言うように急かした。
「実は、そのイベントの件で少し調査したいことがあってだな……」
「……なるほど」
そこまで言われて俺も勘付いた。
つまり、イベントついでに実地でしてほしい仕事があるのだろう。
これは確かに休暇という名目で、かつ少し仕事もしてもらえて親父目線では都合が良いだろう。
だが、これでは完全な休暇にはならない。仕事内容によっては一日中仕事のことを頭の片隅に入れておかなければならない。この点でいえば都合が悪いだろう。
正直、単純な休暇を取ってもらいたい俺としてはそれは避けたかった。
「なんとかならないのか?」
「そこまで行くからにはこの仕事はしてもらいたいんだが……いやまぁ後に回しても良いレベルではあるが、また別の奴を派遣するのもなぁ……」
親父は、しばらくうーんうーんと唸っていたが、やがて閃いたように突然口を開いた。
「そうだ、暁!お前も一緒に行ってこい」
「……はぁ!?」
ーーと、いうわけで。親父の一存で俺も付いて行くことになったわけだ。
親父が言いたいのは、俺が付いて行って七海に仕事が回らないようにやってしまえということだろう。
俺なら兄妹のついででついて行ったということで仕事を意識しなくて済むし、七海を近くから見守ることもできるからだろう。
(……というか、親父が心配だから俺にちゃんと見とけっていうのがほとんどの理由だろうな……)
「暁君?」
「うん?あぁ、悪い。ぼーっとしてた」
「もう……お父さんも心配しすぎなんだよ。私だってもう一人で大丈夫なのに。というかお兄ちゃんじゃ逆に頼りないし」
「おい」
そうは言いつつも、七海は柔らかい笑顔だった。なんだかんだで心配してもらえているのは嬉しいのだろう。
そう思ってくれているのは都合が良い。名目上は俺は暇つぶしと親父が心配なので付いていけと言われた、ということにしてある。
まさか仕事のため俺が付いてきたとは思ってないだろう。
……いや、親父に言わせれば仕事がついでで七海を心配する方がほとんどなので、七海のは勘違いでもなんでもないと言える。
そんな会話をしたり、俺は仕事の確認をしながら、俺たちは会場へと向かった。
「それじゃあ、私はこっちだから。コスプレは見にこないでよね!」
「わざわざ楽しんでるところに水を差しには行かないよ」
会場について七海と別れる。七海には釘を刺されたが、俺はここからは仕事だ。親父も心配とはいえイベント中ずっとくっついていろと言うつもりもないらしい。
(さてと、あそこならいいか。それにしても人が多いな……)
俺は親父と連絡を取るため、雑踏を掻き分け人気が少ない方へと足を運んだ。
「よし。これで8個目か」
「ご苦労。あと少しで終わりだな」
俺は、持参したキャリーケースを持って会場内を練り歩いていた。
仕事の内容は、会場内の各所にある小型のアストラル探知機の回収および再設置。聞いた話だとこの仕事は前から定期的にやっているらしい。
かなり大きな会場で、かなり大々的なイベントだ。アストラル能力関連の事件が起きないよう対策をしているのだろう。
「結構歩くな……」
「ただでさえ会場が広いからな。機械の性能を上げたいものだが、予算がな……」
この仕事は七海にやらせなくてよかった。改めてそう思った。こんなことをしていたらイベントを楽しむどころではなかっただろう。
「さて、次はどこだ?」
「あー次なんだが……」
「……何か問題か?」
テキパキと指示を飛ばしていた親父の声が言い淀んで止まる。
俺は、疑問を感じて聞き返した。
「ちなみになんだが、七海ちゃんはやっぱり、コスプレをしてるんだよな?」
「たぶん、そうだと思うが……」
「だよなぁ……」
詳しく聞いたわけではないが、なにか服っぽいものを作っていたようだったし、更衣室の方に歩いて行ったのだ。それはほぼ間違い無いだろう。
「いやな?次の場所がそのコスプレエリアでな。見つかってしまうとアレだろう?」
「……確かに」
単純に見つかるだけならまだ見に来るなと怒られるだけかもしれないが、仕事だとバレるとまずい。
「慎重な行動が大事だ。心して任務にかかれ」
「了解」
心なしかノリが軽いのは、身内が多く危険が薄い仕事だからだろう。
気の緩みを自覚しながらも、俺は指定された場所へと向かった。
「たぶん……アレかな」
「七海ちゃんはいたか!」
俺は七海と思しき人物をコスプレエリアで見つけた。俺に自信がないのは、七海の格好がヒラヒラとしたものが大量についていて、いかにも女の子らしい……いわゆる魔法少女風の服だったからだ。
「七海ちゃんはどんな服装なんだ!」
親父がうるさい。俺は七海にバレないようにそちらを見ながら、ある程度の詳細を親父に伝えた。
露出は少ない。いかにも女の子らしいヒラヒラがたくさんついているぞ、と。
親父は露出が少ないの一言でだいぶ落ち着いたようだった。
「それじゃあ任務に取り掛かる」
「そうだな……ずっと見守っていてあげたいが、バレたら元も子もない」
俺は、早速仕事に取り掛かることにした。だが、問題はすぐに見つかった。
(近い……)
そう、探知機の設置場所が七海のいる位置から案外近いのだ。すぐに見つかる距離では無いが、意識して探せば俺だとバレてしまうだろう。
「どうしたものかな……」
「……!親父」
困り果て黙り込む親父に、俺はすかさず声をかける。
「七海がタブレット端末をいじってる」
「それはいい知らせだ!その隙に回収と設置をしてしまえ」
「了解!」
七海が下を向いて端末を操作している間に、俺は一連の仕事を終えてしまうことにした。
回収および設置は簡単だ。小型で円形の装置を左に回転させロックを外し、回収。同じ要領で今度は新しい装置を右回転でロックし、表面のボタンを押せば装置が動き出す。
問題といえば、ボタンは二種類あるので押し間違えないようにしなければいけないということだがーー
「あ」
「どうした暁」
俺の思考は固まる。ボタンは二種類ある。一つは、周囲のアストラル能力者を探知し、電気信号で反応を送り返すもの。もう一つは同じく探知するのだが、周囲に能力者がいた場合、大音量で警報音が鳴る。
俺も、立派なアストラル能力者だ。
(誰だこんな機能つけたやつ!)
とっさに能力を発動、離れようとするが、間に合うはずもない。
(あぁ……おわった)
警報音が鳴れば当然注目される。七海にバレるのも問題だが、そんな装置をつけていることがバレるのもまずい。あくまで特班の任務。秘密裏なものなのだ。
俺は諦め、足を止める。そろそろ警報音が鳴り響くはずだーー
(……?鳴らない)
「暁。すぐに脱出だ」
「……りょ、了解」
間違えたボタンを押したことは既に親父のところにも伝わっているだろう。だが親父はすぐに次の指示を出す。
「すまん」
「いや……確かにミスは良くない。まぁ今回は……フォローが完璧だったな」
歯切れが悪い。何か言いづらいことでもあるのだろうか。
「何はともあれ設置は終わりだ。そこをすぐに離脱しろ暁」
「了解」
七海の方を見るが、まだ端末をいじっているようだ。俺は疑問を抱きながらもその場を離れた。
「おつかれ、七海。楽しかったか?」
「うん。ありがとう暁君」
イベントが終わり、七海と合流する。七海は、満足げな顔をしていた。休暇をとった甲斐があったというものだ。
仕事に大きなミスはあったが。
「暁君も、お疲れ様」
「お、おう……?」
七海にお疲れ様と言われるのは何か変だ。俺は暇つぶしについてきたということになっているはずだが……
「仕事はちゃんと落ち着いてやらなきゃダメだよ、お兄ちゃん?」
「そうだな……ん?あー……どういう、ことだ?」
何かおかしい。俺はそれに気づくが、混乱する頭では整理がなかなかつかない。
「警報音が鳴りそうだったから、ハッキングして無理やり止めて、ボタンの切り替えもしといたからね。まったく、ドジな相棒がいると大変だよね」
「……」
俺はもはや黙りこくってしまう。
つまり、あの時助けてくれたのは七海で、いじっていた端末はそのチェックでーー
「機械関係の任務は、暁君は苦手なんだから私に任せないと」
「……すまん、七海」
結局、俺はまた七海に助けてもらって、七海は仕事のことを少しでも気にしていたことになる。
そう理解した俺は七海に謝る。
「謝らなくていいよ。本当にありがとうね、お兄ちゃん。お兄ちゃんがそうやってしようとしてくれたことが嬉しいんだよ?」
七海から素直に、茶化さない感謝の言葉を向けられる。
「今度はちゃんと休みをーー」
「大丈夫だよ、別に。確かにイベントも楽しかったけど、私はお父さんやお兄ちゃんが作ってくれた学園でのみんなとの生活が、一番楽しいから」
七海にそう言われ、俺は言葉を飲む。
「……そっか」
七海がそう感じてくれていて、本当に良かった。
七海のための休みだったはずだが、俺の心は妙な満足感で満たされていた。