この素晴らしくあざとい後輩との冒険者生活はまちがっている。 作:水刀 言心
今回は本当に難産でした。
割にクオリティ低い気がしますが…………。
広い心で見て頂けると幸いです。
結局、ルナさんは言葉の意味を教えてはくれず、一抹の不安を残したまま、俺は仕事に臨むこととなった。
案内された資料室は、予想していたよりはマシで、追加の資料とやらは、全て厚紙…………これ、一応段ボールか? で出来た箱に、日付別に揃えられている。
ルナさんには、5日間一杯掛けても問題ないと言われたが…………多少情報収集に時間を割いても、明日中には終わりそうな量だった。
「それでは、私は受付に戻ります。何かありましたら、遠慮なくいらして下さいね。」
先程のテンパりが嘘のように、完璧な営業スマイルを残して退出していくルナさん。
しかし去り際に…………。
「…………さて、一色さんにも色々とお話を聞かないと。」
まるで戦に赴く武士のような形相で、小さく呟いて行った。
俺の不安ゲージは最早天元突破である。
…………訓練の前に死んだりしないよね?
背筋が寒くなるようなやりとりはあったものの、作業は順調に進んでいた。
途中、俺と一色が取得していたスキルに関する情報を見つけ、書き写したりもしたが、スキルに関する資料は差し替えも終わり、午後までには整頓も済みそうだった。
そして俺たちが取得していたスキルについてだが、どれもレアスキルで、ユニークではなかった。
天界的には、これで一応のバランスを取ったという事なのだろうか?
さて、そんなレアスキルについて判明したことだが…………。
まずは『天賦の才』。
これは100年に一度、と言われる頻度で取得者が現れるスキルで、先天的に授かる以外に取得する事が出来ず、効果はレベルアップ及びスキル熟練度の蓄積の高速化、レベルアップ時のステータス上昇値と取得スキルポイントの上昇、スキル取得時の必要スキルポイント低下など…………まさにチートスキルと呼ぶに相応わしい代物だった。
次が『女神の祝福』。
これは天賦の才と反対に、後天的にしか取得できす、厳しい修行や、何らかの偉業を成し遂げた者が、何らかの理由で、信仰を捧げる女神と拝謁し授けられるもので、効果は授けてくれた女神に由来し、エリス様の場合だと、幸運値の上昇とアンデッド及び魔族に対する特攻効果の付与。
3つ目が『心理掌握』。
取得条件は不明で、戦闘時にオートで発動する。知性ある者との戦闘時、その行動を先読みする。なお、その効果は精神力に依存。
そして俺が取得した『気配遮断』。
盗賊や暗殺者などが稀に取得するスキルで、本来の職業スキル『潜伏』の上位互換。遮蔽物がない、明るい、人目が多いなど、身を隠すのに向かない場所でも、複数の他者に認識されていようが、問答無用で他人の意識外に使用者を隠す。加えて、潜伏スキルの通じないアンデッドにも有効。攻撃や詠唱時には、自動的に効果が切れる。
最後に一色の『同種族魅了』。
見目麗しい者が、その外見を磨くなどする事で、ごく稀に取得出来るスキルで、効果は任意に発動出来、相手が同種族、人間であれば男女問わず発動可能。と言っても、精神支配のような強力なものではなく、せいぜいが好意を抱かれ易くなる、程度の効果しかない。その為、明確な敵対理由がある相手には通じない。成否は使用者と対象者の精神力に依存する。
…………これを知るまで、俺は昨夜から一色に振り回されているのは、このスキルのせいなのでは、と疑っていたのだが、俺の精神力値的に、その可能性は低い。
つまり…………一色のあざとさは、高レベルアークプリーストの精神力すら貫通するという事になる。何それ怖っ!!
とはいえ…………。
「…………目先の問題は、一先ず片付いた、か。」
昨日、冒険者登録を行ったときから、俺が抱いていた1つの懸念。
それが、一色の獲得した『同種族魅了』のスキルだった。
字面からの憶測でしか無かったが、異性や他者を自らの虜にするスキルだという事は予想出来ていた。
問題は発動基準で、もし常時発動し続けるパッシブスキルだった場合、あいつを冒険者にするのは、余りにもリスクが大き過ぎる。
最悪の場合は…………などと、悪い予想ばかりを立てていたが、取り越し苦労で済みそうだ。
「…………となると、後は取得すべきスキルの取捨選択か。」
天賦の才による影響か、俺と一色の冒険者カードには、職業スキル以外にも、無数のスキルが習得可能スキルとして表示されていた。
手堅い職業スキルで固めていく、というのは誰しもが思いつくところだろうし、無論、一定のものは俺も取得するつもりでいる。
しかし、それだけでは足りない、とも考えていた。
大衆に迎合するだけでやっていけるなら、女神様たちは、わざわざチートなんて寄越しはしない。
つまり手堅い職業スキルだけでは、俺たちが貰った特典は、ただの職業適性に成り下がってしまうのだ。
かと言って、あまりにセオリーを逸脱してしまうと、それはそれで取り回しが困難になってしまう。
匙加減が難しいな。
そんな風に頭を悩ませながら、俺は作業を続けていく。
そしてその内、ある資料を手にして、動きを止めた。
精神力に依存したレアスキルの目録。
そこで目に付いた3つのスキルに関する資料を探しだし、内容を閲覧する。
どのスキルも欠点が大きく、資料では酷評されていたが…………。
…………これ、俺には打って付けなんじゃないか?
そう考えた俺は、直ぐに冒険者カードを取り出す。
3つとも習得可能になっている事を確認して、ついで消費されるスキルポイントを確認。
全て1、ないし2ポイントで取得出来る事が判明し、俺は逡巡する。
…………まぁ、どのスキルも腐る事はないだろう。
結局、俺はそれらのスキルを取得することにした。
勤務後の訓練で、早速実用性を試すことにしよう。
初のスキル取得に、僅かばかりの高揚感を覚えながら、俺は残りの作業に没頭することにした。
作業を続ける事数時間。
既にスキルに関する書類の整理は終わったのだが、モンスター関連の書類については、じきに昼休みになる為、キリが悪くなると思い、午後へと回す事に。
そこで残り時間を、俺と一色、それぞれが取得すべき職業スキルの優先度を考えたり、他の業種の職業スキルで有用なもの、呪いの装備の効果的な運用に必要なスキルなど、それぞれの名称と詳細を書き写しながら過ごす事に。
そしてちょうど、一区切りがついた時だ。
「せんぱ〜いっ! 愛しのいろはちゃんが、お昼をお伝えに来ましたよぉ〜♪」
叩き付けるかの如く資料室のドアを開き、一色が乱入してきた。
…………愛しのって何だよ。
「へいへい、もう昼飯行って良いのか?」
「むぅ、リアクション薄いですよ? はい、ルナさんから、先輩に声掛けて来るように言われました。」
「そりゃわざわざどーも…………。」
適当過ぎる礼を口にしながら、スキル情報を書き写した紙束をまとめ、席を立つ。
するとニコニコと、何が楽しいのかは不明だが、満面の笑みで一色は俺の隣にやって来る。
そして今朝同様、流れるような動作で、俺の右腕をホールドした。
「…………いや、ギルドに着くまでって言ったよね?」
「えぇー? だってわたし、お仕事超がんばったじゃないですかぁ?」
「いや、俺ここから出てないから知らないけど。ってか、仕事と俺の腕をホールドする事に因果関係はないよね?」
「がんばった自分にご褒美を! とかってみんなよく言いますよね? なのでわたしもご褒美にセンパイニウムを補給しようと思いまして。…………ぎゅ〜〜〜〜っ♪」
そう言いながら、幸せそうな顔で、人の腕を締め付ける一色。
今朝同様柔らかい何かが当たるし、色々と大変な状況なのだが…………それ以前に痛い!!
色々とステータスが強化されている俺だが、こと生命力値、即ち耐久性だけは平均以下なのだ。
対するは、前衛として、十分過ぎる筋力を与えられた一色。
そんな彼女に全力の抱擁を受けようものならば、全身ならまだしも、腕くらいなら簡単に軋みを上げ始める。
ロープ! ロープを!! 早く!!
「ちょっ!? 折れる折れる折れる!? ストップ! ストップだ一色!!」
「…………にゅふふ〜♪ 数時間ぶりのせんぱいだぁ〜…………。」
俺が必死で叫んでいるというのに、一色には届いていないのか、ただただ幸せそうな表情で、ギチギチと軋む腕を抱きしめ続けている。
いや、寂しさ拗らせ過ぎだろ!?
何事かうわ言のように呟いてるが、痛みで視界が明滅し始めている俺には、なんと言っているか判断する余裕などない。
結局、折れる寸前まで、俺の腕が解放される事はなかった。
「え、えぇと、すみません。ステータスのこと、完全に忘れてました…………。」
「…………危うく利き腕が、タコみたくなるところだった。」
「どんだけ砕けてるんですか!? というか、それ完全に骨なくなってますよ!? 大体、それって女の子に抱き着かれたときの台詞じゃ無いですよね!?」
いや、割と冗談抜きの感想だからね?
ぶっちゃけ某大型霊長類並みだと思う。
流石に女子を例える生き物としては不適切だと思うし、明言は避けておくが。
俺はズキズキと痛む右腕を摩りつつ、一色はぷんすかと、まぁ安定のあざとさで憤慨っぷりをアピールしながら、ギルドの酒場を目指し、歩いていた。
「…………まぁ、今のは全面的にわたしが悪かったですし、今の失礼な物言いは、と・く・べ・つ・に! 不問にしてあげますけどぉ。」
「おう、そりゃどーもな。」
「そもそも! わたしが疲れたのって、先輩の所為でもあるんですからねっ!!」
「いや、まぁこの仕事にしようつったのは確かに俺だけども、労働量そのものは俺の責任じゃ…………。」
「そういう事じゃないんですよぉ!」
ぶんぶんと両手を振りながら、やはりあざとく俺の言葉を遮る一色。
じゃあどういう事なのよ…………。
「ルナさんにお仕事を教えてもらって、受付に入った途端、わたしの前にばっかり行列が出来て…………それでも、クエストの受付とか、終了報告なら良かったんですけど…………。」
瞬間、一色の双眸からハイライトが消える。
「…………どいつもこいつも、彼氏は居ますか? あの鎧の人とはどう言う関係ですか? 何で最上級職なのに受付してるんですか? …………仕事とは関係ない下らない質問ばかりっ!! この街の冒険者は暇人ばっかりですかっ!?」
「お、おぉ…………。」
先刻の様子を思い出したのか、烈火の如く怒りの咆哮を上げる一色。
初日という事もあり、強めにたしなめる事も出来ず、余程ストレスを感じていたのだろう。ドンマイ。
「挙句の果てに、最上級職の癖にクエストにも出ない腰抜けとは別れて俺の女になれ、なんて露骨に口説いて来る人まで出てきて…………流石にカチンと来てキレちゃいそうだったんですけど、そこはルナさんが上手く納めてくれました。」
「ほぉ…………。」
…………予想より早い展開だな。
一色の言葉に、内心で3つとはいえスキルを取得していて良かった、と安堵する。
しかし予想していた、異世界転生のテンプレ展開。
それが直ぐにでも現実になりそうだと聞かされ、若干憂鬱にもなる。
…………とは言え、避けて通れそうにはないんだよなぁ。
「ハムレットを置いてきて正解でした。持ってたら絶対投げてましたよ。」
「…………洒落にならないからやめてね?」
恨み骨髄と言わんばかりに呟いた一色。
その台詞で、エリス様から聞かされた魔槍のスキルを思い出して身震いする。
…………しかしこいつ、自分で言ってて気付いてないようだが、俺の事でそこまで腹を立てたのか。
いつも1人だった俺には理解出来ない話…………でもないか。
かつて文化祭実行委員内で、優秀さと公明正大さ故に孤立していった雪ノ下。
それを端から見ていて感じた、あの形容し難い感情を思い出し、一色がそれと同じ思いを、俺に対して抱いていたかも知れない、という事実に、照れ臭くなって視線を逸らす。
それを誤魔化そうと、俺は今の会話で気になった事を思い出し、彼女に尋ねた。
「因みに、何で受付してるか、ってのには、何て答えたんだ?」
「はい? えぇと、相方の方針です、って答えましたけど…………な、何か不味かったですか?」
「いや、上出来。百点満点くれてやろう。」
一色の答えに、無意識にその頭を優しく撫でる。
…………しまった。つい小町にやる感覚で手が出た。
昨夜からの過剰なスキンシップと、寝不足による思考鈍化で麻痺していたか。
流石にこれは怒られる、と身構えたのだが。
「あっ…………んふふ♪ せんぱい、撫でるの上手ですね? 流石はシスコンです。もっと褒めてくれてもいいんですよ?」
意外にも、というか彼女自身も感覚が麻痺してきているのか、ご満悦な様子でされるがままになっていた。
…………何だろう。上手く言えないけど、これはお互い大丈夫なんだろうか?
漠然とした不安を感じながらも、俺は言われるがまま、凄い、偉い、と褒めそやしつつ、彼女が満足するまで、その頭を撫で続けたのだった。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。
今回は少し間が空いてしまい、申し訳ございませでした。
本当に今回は難産だったのですよ…………。
単純にスランプだったのかも知れませんが、中々執筆が進まず、自分でやきもきしておりました。
それでは、今回の言い訳をば。
①2人のスキルについて
まぁ特筆する事は無いのですが、特典やらやらの説明を、そろそろしておきたかったので。
実際どう使うかは、今後にご期待下さい。
②テンプレ展開の足音
異世界転生といえばこれでしょ?(笑)
せっかくチート持ちですし、そろそろ目一杯暴れて欲しいな、と思った次第なのです。
以上本日の言い訳でした。
例によって、またお話がまとまりませんで、今回はすぐにもう1話連投いたします。
合わせてお楽しみ頂けると幸いです。
それでは、次回の更新でお会いしましょう。