この素晴らしくあざとい後輩との冒険者生活はまちがっている。   作:水刀 言心

11 / 18
連投失礼します。

今回、大分長いです。

台詞少ないので、読み辛く無ければ良いのですが。

それでは、お楽しみ下さい。


第9話 このぼっちにも荒事を!

 

 

 

一色からお許しを頂くまで撫で繰り回し、再び酒場へと向かい出す俺たち。

 

そんな時、一色が思い出したように、こんな事を聞いてきた。

 

 

「あっ! そう言えば先輩、ルナさんと今朝何を話してたんですか? 」

 

「何って…………大したことは話してないと思うが。」

 

「むぅ〜〜〜〜っ、そんなはずないですよぉ! 戻ってきたルナさん、いきなりわたしに、大事にされてますね、とか、頼れる相方で良かったですね、とか言ってきたんですよ? 絶対わたしのことで何か話してたはずです!」

 

 

…………うん。ルナさんの中で俺はどれだけ過大評価されてるのだろうか。

 

これだから仕事は嫌なんだ。

 

そうやって外堀から埋めていって、気付いた時には恐ろしくハードルが上がり、やってもやってもそのハードルを越えるまで、何度でもやり直しを命じられる。

 

顧客と上役のニーズを満たすまで、決して終わることのないデスマーチと負のスパイラル。

 

それこそが労働というものの真理。

 

やっぱ社会クソ過ぎだろ。

 

ふざけるな! 俺は引きこもらせてもらう!

 

 

「せんぱい? 何か目が腐り始めてますけど、絶対しょーもないこと考えてますよね?」

 

「はっ!? …………いや、やっぱ大したことは話してねぇよ。せいぜいが、何で冒険者にって聞かれて、成り行きって答えたくらいで。」

 

「本当ですかぁ〜〜〜〜?」

 

 

俺の答えがお気に召さないらしく、なおも疑いの眼差しを向けて来る一色。

 

…………実際、今の答えは嘘ではないが、心当たりは別にある。

 

ルナさんの様子は、十中八九、最後のやり取りに起因しているのだろうが…………それを一色に伝えるのは、少しばかり面映ゆい。

 

なので、俺はシラを切り通す所存だった。

 

 

「…………まぁ、そこまで言うなら、そういうことにしときます。聞かれたくないこと、誰でもありますし。」

 

 

結局、そう言って一色は追及を諦めてくれたのだが。

 

 

「けど先輩? 少しは自覚を持った方が良いですよ?」

 

「あ? 自覚? 何の?」

 

 

不意に真面目なトーンで飛び出した台詞に、思わず首を傾げる。

 

 

「自分がイケメンだって事を、です! さっき言った事だけじゃなくて、ルナさん、ハチマンさんの好みは、趣味は、好きな料理は、とか、空き時間は大体先輩のこと聞いてきましたからね? あれ、完全に恋する乙女の顔でしたよ?」

 

「う、嘘だろ?」

 

「ホントですぅ。どうせ先輩のことですから、惚れられた自覚はあっても、どうせ中身を知ったら離れてくだろう、とか卑屈なこと考えてたんでしょうけど、残念ながら今の外見じゃ、先輩のそれは卑屈じゃなくて謙虚になっちゃうんですぅ。恋する乙女を舐めちゃダメですよ? どんな些細な欠点も、たちまち美徳に早変わり、劇的ビフォーアフターです。」

 

「何だそれ。逞し過ぎだろ…………。」

 

 

やっぱ女子って怖い。

 

…………まぁ、欠点も美徳に、と言う点は思春期の童貞でも似たようなものだが。

 

…………え? 俺? 俺は違うよ? だってぼっちだもの。

 

ぼっちは惑わされない。たまに視線を奪われる事はあるけれども。

 

しょうがないよね? 童貞だから。

 

あと勝手に人の心を読むのは、本当にやめて欲しい。

 

何今の台詞の正確さ?

 

一色の心理掌握スキルだけ誤作動でもしてんの?

 

戦慄する俺を他所に、一色のお説教はなおも続く。

 

 

「だから、むやみやたらに女の人に優しくしない、この依頼が終わったら、不用意に兜を脱がない、人のいる所では極力わたしから離れない、徹底して下さいね? まぁ先輩が女の人を侍らせたいって言うなら、話は別ですけど…………。」

 

 

言いながら、半目でじろりと、俺を睨め付ける一色。

 

冗談じゃない。

 

基本的に、女子とはイケメンに興味を示し、清くない男女交際をする輩である。

 

…………つまり俺の敵だ。

 

例え自身がイケメンになろうが、俺の考えは変わらない。

 

 

「いや無いわ。普通に相手するのしんどい。面倒だが、極力レクスリア着て出歩くわ。」

 

 

この街は冒険者多いし、別に変な目で見られる事は無いだろう。

 

そんな俺の、心底面倒臭そうな答えが、余程お気に召したのか、一色は満面の笑みを浮かべ。

 

 

「ですです♪ やっぱり、それでこそ先輩、って感じですね♪」

 

 

そう言いながら、再び右腕に飛びついて来た。

 

…………うん、あと鎧着ておけば、お前の柔らかさに惑わされる事も、腕へし折られる事もないからね。

 

 

 

 

 

引っ付いた一色を引っぺがし、ようやく酒場に辿り着く。

 

その瞬間、周囲から向けられる、悪意のこもった視線。

 

昨日の惜しみない歓迎の拍手から、あまりに見事な掌返し、俺じゃなきゃ人間不信になっちゃうね。

 

…………まぁ、既に人間不信だろ、という突っ込みは抑えて欲しい。

 

 

「ほら先輩、早く座りましょう。」

 

 

その視線に彼女が気付かない訳はないのだが、しかしそれをおくびにも出さず、ご機嫌なご様子で俺の手を引っ張る一色。

 

さらに周囲の視線が厳しくなった。

 

…………うわ、そろそろ血涙流しそうなやつがちらほらいる。

 

まぁ気持ちは分からなくもない。

 

容姿が良い、と言うだけで万死に値するのに、少なくとも表面上は可愛い女子を連れているのだ。

 

俺だって自分じゃなければ、殺意の1つ2つ湧くだろう。

 

 

「すいませーん! 賄い定食2つお願いしまーす!」

 

 

周囲の視線など御構い無しに、席に着くや否や、明るい声で店員に告げる一色。

 

恐らくルナさんからそう言うよう教わっていたのだろうが、流石のメンタルである。

 

伊達に狂化の呪いを克服する精神力を持っている訳じゃ無い、と言う事だろう。

 

尤も、それは俺も同じな訳で。

 

結局、俺たちは周囲の羨望や殺意の入り混じった視線を、ものの見事に黙殺したまま、運ばれて来た料理を食べ始めた。

 

 

 

 

 

一色が振ってくる他愛のない話題に、かなり適当な返事をしながら、そうかからずに、俺たちは食事を終える。

 

食器を下げていく店員に礼を言いながら、残りの昼休みをどう過ごそうかと考えていた時、そいつはやってきた。

 

 

「良いご身分だなぁ新入り?」

 

 

ステレオタイプな物言いに、若干面を食いながら振り返る。

 

そこに居たのは、恐らく冒険者なのだろう、短い金髪に涙ボクロが印象的な、いかにも軽薄そうな男だった。

 

というか、チンピラだった。

 

若干顔が赤いところを見ると、昼間から酒を煽っていたのだろう。

 

典型的なチンピラである。

 

 

「クエストにも出ずに、賄いで飯食って、可愛い彼女まで侍らせてよぉ…………流石ルーンナイト様は余裕がおありで。」

 

 

下卑た笑みを貼り付けて、近寄って来るチンピラ。

 

どうでも良いけど、昼間から酒煽ってるダメな酔っ払いに言われたくない。

 

その物言いが気に入らなかったのだろう、席を立とうとした一色を、俺は手で制し、代わりに自分が立ち上がった。

 

…………さて、どうしたものか。

 

普段の俺ならば、直ぐにでも土下座して、見逃して貰うよう、全力で媚び諂う場面だ。

 

一色もそう思っているのか、一応は俺に従って引き下がったものの、その双眸は、土下座はやめて下さい、と言外に要求していた。

 

そうは言っても、その顔色は悪く、あからさまに不安げだった。

 

それはそうだろう。

 

元いた世界なら、十分に警察が対応する案件だ。

 

実際、俺だって怖い。

 

今にも足が震えそうだ。

 

喧嘩なんて、小学校以来やってないし、殴られたら死ねる自信がある。

 

それでも、土下座で済ませるのは、あまりに悪手だ。

 

何故なら、冒険者という職業は、力こそが必要とされる職種なのだから。

 

不用意に跪けば、それは臆病という悪評を生み、ギルドや依頼者からの信用を欠く。

 

そうなってしまうと、今後クエストを受ける際には、ギルドに渋られる事になるだろう。

 

舐められる、というのは、冒険者にとっては死活問題なのだ。

 

…………随分と、面倒な仕事に就いたものだ、と我ながら呆れる。

 

とはいえ、これは冒険者登録の時点で懸念し、この依頼を受けた時点で起こる事を確信していた事態。

 

遅かれ早かれ、このチンピラのような輩は現れた筈だ。

 

人は理由もなく他者を傷付けられる生き物だ。

 

ましてや、羨望や嫉妬は明確な敵意となり得、対象が臆病とあらば、どこまでも残酷な仕打ちを、嬉々として行える。

 

それが人間の醜さだと、嫌という程知っている。

 

しかも計ったように、この世界の文明レベルは中世前後、現代社会より暴力へ踏み切るハードルは低い。

 

然るに、こういった輩が現れる事は、予想出来て当然だった。

 

だからこそ、対応についても考えてある。

 

舐められる訳にいかない、しかし腕っ節に自信がない。

 

ではどうやって、荒事を乗り越えるか。

 

答えは簡単、擬態すれば良い。

 

より大きく、より強く、より恐ろしい存在に。

 

今後2度と、俺たちにちょっかいをかけようなどと思う輩が、誰1人として現れないよう徹底的に。

 

俺らしく、真正面から卑屈に最低に陰湿に…………とは、今回ばかりはいかないが。

 

尊大に最悪に傲慢に、このチンピラと周りの連中に見せてやろう。

 

俺のやり方というものを。

 

 

 

…………さぁ、ショウタイムだ。

 

 

 

 

《とある剣士の証言》

 

俺はその日、女神様に出逢った。

 

正確には、女神と見間違うくらい、美しく魅力的な女性に。

 

ああ、こんな人の為に剣を振るえたら、どんなに幸せな事だろう。

 

自分の前を通り過ぎようとする彼女に、無意識に伸ばした手。

 

しかしそれは、あっさりと払いのけられ、俺が抱いた希望も、粉々に打ち砕かれる。

 

女神様には既に、騎士様がいた。

 

夜の闇より真っ黒な、恐ろしい黒騎士が。

 

 

 

 

 

 

「…………納得いかない。」

 

 

ギルドの酒場で、俺はそう独りごちる。

 

運命の出逢いの翌日、俺は1人でギルドを訪れていた。

 

今日は他のパーティメンバーに予定があり、クエストを受ける予定は無かったのだが、もしかしたら女神様に会えるかも、という淡い期待が、俺をここに連れて来た。

 

そして期待通り、俺は女神様と再会を果たしたのだが、その結果が余りに予想外のものだったのだ。

 

昨日、女神様はクルセイダーに、連れの黒騎士はルーンナイトに、それぞれ最上級職に就いた筈だ。

 

にも関わらず、女神様はあろう事か、ギルドで受付のバイトをしていたのだ。

 

しかもあの、憎っくき黒騎士の指示で!

 

納得出来るはずがないではないか。

 

それは他の冒険者の同じらしく、中には女神様を口説こうとする不届き者まで現れた。

 

結局、その不届き者は、ルナさんの指示で屈強な職員たちにつまみ出されていたが、その行動自体には、大いに同意だ。

 

女神様を守る為に剣を振るわず、ギルドの雑務をやるなんて、臆病風に吹かれたとしか思えない。

 

そんな臆病者に、女神様を任せておけるか!

 

とはいえ、他のパーティの構成員を、無理に勧誘する事は、ギルドの規約に違反する。

 

現状、俺ではどうすることもできないのだ。

 

その事実に打ちのめされていると。

 

 

「ほら先輩、早く座りましょう。」

 

 

愛らしい女神様の声が耳に入り、項垂れていた体を反射的に起こした。

 

声のした方へ首を向けると、受付の制服を着た女神様の姿が。

 

…………ああ、昨日の法衣も美しかったが、これはこれでいいものだ。

 

と、そんな風に癒されていたのだが、すぐにその気持ちは握り潰される。

 

女神様に手を引かれ、酒場にやって来た黒髪の美形。

 

年齢は、今年成人を迎えた俺より、幾らか上だろうか。想像よりずっと若い。

 

恐らく、あれが昨夜の黒騎士なのだろう。

 

…………やっぱり顔なんですか女神様!?

 

俺は再び絶望に囚われる事となった。

 

 

 

 

 

それから女神様と黒騎士は、楽しげに談笑しながら食事を終えた。

 

歯軋りをしながらその様子を伺っていたのだが、2人の食器が下げられた時、黒騎士に話しかける者が現れた。

 

 

「良いご身分だなぁ新入り?」

 

 

赤いジャケットに金髪。

 

言わずと知れたチンピラ冒険者、ダストさんだ。

 

俺も街についたばかりの頃、妙な絡まれ方をした。

 

黒騎士を睨みつけるその顔は赤く、また昼間から酒を呑んでいたのだろう…………ツケで。

 

可哀想に、怯えた様子を見せる女神様。

 

直ぐにでも助けに行きたい衝動に駆られたが、あんなのでもダストさんはそれなりに腕が立つ。

 

俺では一瞬で返り討ちだろう。

 

すみません、女神様。

 

しかし、ザマァミロとも思った。

 

クエストに出ない程の臆病者なら、ダストさんにあんな風に絡まれたら、きっと怖気付いて逃げ出す。

 

そうすれば、女神様は幻滅して、黒騎士とパーティを解散するかもしれない。

 

そうなったら、勧誘しても規約違反にはならない。

 

…………行けダストさん! 黒騎士なんてぶっ飛ばせ!!

 

あ、でも女神様泣かせたらぶっ◯す。

 

 

「クエストにも出ずに、賄いで飯食って、可愛い彼女まで侍らせてよぉ…………流石ルーンナイト様は余裕がおありで。」

 

 

ニヤニヤと、いやらしい笑みを浮かべて、黒騎士を詰るダストさん。

 

…………なんかあっさり撃退されそうな台詞だけど、大丈夫ですよね? 信じてますよダストさん!?

 

黒騎士はそれに怖気付き、震えている…………かと思いきや、立ち上がろうとした女神様を抑えて、自分が席を立った。

 

…………おや? 雲行きがおかしいぞ?

 

そして黒騎士は、怖気付くどころか、口を三日月に歪め、ダストさんに言い返す。

 

 

「随分な言われようだが、ギルドの手伝いは立派な常設クエストだろう? 俺はしっかり、冒険者らしくクエストを受けてるじゃないか? それに賄いはクエストを受けた者への正当な報酬の一部だ。依頼書にも明記されている。あと、こいつは彼女じゃないが、パーティメンバーと一緒に飯を食うのはおかしな事じゃないと思うが? …………随分、考えなしに喋ったみたいだな、酔っ払い?」

 

 

嘲笑を浮かべ、ダストさんの文句を、1つ1つ丁寧に論破した上で、さらに煽る黒騎士。

 

臆病者では無かったのか?

 

…………あと、こいつ絶対性格悪い。

 

ダストさんの額に、ビキビキと青筋が走る。

 

 

「て、テメェ…………先輩様への口の利き方がなってねぇんじゃねぇか? えぇ? 立派なステータスしといて、モンスターとも戦えない臆病者の癖によぉっ!?」

 

 

核心を突く発言を怒鳴り散らすダストさん。

 

周りで事の次第を見ていた他の冒険者たちも、それに賛同する声を上げる。

 

 

「そうだそうだ! このタ◯ナシ野郎が!!」

 

 

無論、俺も黒騎士を罵倒する叫びを上げた。

 

しかし、黒騎士は酒場中に響く怒号を、まるでそよ風ほども感じていないのか、呆れたように溜息を零した。

 

更に勢いを増す怒号。

 

職員が駆け付け、事態を収拾しようとするが、人数が多過ぎて上手く対処出来ない様子だ。

 

涙目になった女神様の姿に、良心が傷む。

 

…………ごめんなさい、でもこれは貴女のためなんです!

 

建物を揺らす程の怒号。

 

しかし、その終焉は直ぐに訪れた。

 

黒騎士は何を思ったのか、腰に佩いた大剣、その柄に手を掛けたのだ。

 

流石に抜く事はしなかったが、その瞬間、奴の双眸が、真紅に煌めいた。

 

 

「ば、馬鹿野郎!? こいつ狂化しやがったぞ!?」

 

 

誰かが、そんな悲鳴を上げる。

 

狂化とは、状態異常の一種で、物理的ステータス、即ち、筋力、生命力、敏捷が2倍になる代わり、理性を失い、周囲を破壊し尽くすか、自分が死ぬか、或いは状態異常を解除するか、何れかが実行するまで暴れ続ける、凶悪な症状。

 

居合わせた冒険者全員に緊張が走る。

 

しかし…………。

 

 

「…………もう気は済んだか? あぁそれと、生憎だが狂化に飲まれる程、ヤワな精神力はしてねぇよ。こりゃ、あんたらを黙らせたかっただけだ。」

 

 

黒騎士がそう口にした事で、今度は全員が息を飲んだ。

 

狂化は、確かに精神力が高ければ、ステータスの上昇効果のみを得られる、というのは有名な話だ。

 

しかし、それを実際に成せる者が、一体どれだけいるだろう。

 

少なくとも、この街でそんな化け物がいるだなんて聞いた事はない。

 

同時に、全員が戦慄した。

 

そんな化け物染みた精神力の人間が、臆病者の筈がない。

 

狂化を抑え込む化け物が、モンスターと戦う恐怖ぐらい、捩じ伏せられない道理はない。

 

俺たちは、間違った人間に喧嘩を売ったのだと、そう自覚し、誰もが後悔していた。

 

ぐるり、と黒騎士が怒鳴り散らしていた冒険者たちを見回す。

 

当然、俺もその真っ赤な両目と視線がかちあった。

 

心なしか、黒騎士の存在感というか、迫力が増したように感じる。

 

気が付くと、全身から嫌な汗が噴き出していた。

 

 

「さて…………まず1つ言いたいんだが、あんたらの言い分だと、臆病さが害悪のようだが、それはおかしな話だろう? 臆病だから、人は対策を立て、慎重に行動する、という事を覚える。命懸けの稼業だ。慎重になる事は当然だし、俺は臆病者こそが、生き残れると思っている。それとも、この街の冒険者は、臆病者と新人を煽り、無謀なクエストに掻き立て、結果として命を落とす。そんな流れを助長して、それを楽しむような危ない連中の集まりか? そうやって新人が死んだ時、あんたらは責任が取れるとでも?」

 

 

こちらを馬鹿にしたような黒騎士の物言い。

 

しかし、誰もそれに反論する事はできなかった。

 

皆、経験があるのだろう。

 

知識不足、準備不足ゆえに命を落とし掛けた、或いは顔見知りが命を落とした。そういった経験が。

 

故に黒騎士の言葉は、重く、重く俺たちの心にのしかかる。

 

 

「…………あんたらがどう受け取ろうが勝手だが、俺は必要だと思う事をやってるだけだ。人様に迷惑を掛けた訳でもないのに、責められる謂れはない。」

 

 

ぴしゃりと言い放った黒騎士に、殆どものが言葉を失い、項垂れる。

 

しかし、いや、やはりと言うべきか、この男だけは違った。

 

 

「はっ!! 随分と偉そうに語るじゃねぇか!! 実戦経験もないど素人が、舐めた口聞いてんじゃねぇぞっ!!」

 

 

消沈した周囲に目もくれず、そう怒鳴り散らすダストさん。

 

…………あんたのそういうとこだけは、羨ましくなる時がありますよ。

 

しかし、黒騎士はなおも揺るがない。

 

真紅に染まった双眸を細め、ダストさんを睨みつける。

 

 

「じゃあ、そのど素人の力、思い知らせてやるよ。歯ぁ食いしばっとけ。」

 

 

黒騎士が僅かに身を屈め、言い放つ。

 

ダストさんもそれに呼応し、拳を構え凶暴な笑みを浮かべる。

 

次の瞬間…………。

 

 

 

俺は心臓を貫かれた。

 

 

 

否、正確には、そう錯覚した。

 

黒騎士から噴き出した、実際に質量を伴ったような殺意に、殺されたと、そう思い込んでしまった。

 

怖い怖い怖い怖い怖い!!!?

 

どうしようなく湧き出す恐怖に、体の震えが止まらない。

 

ガタガタと震える俺の視界に、酔いで赤く染まっていたダストさんの顔が、蒼白になっていく様子が、コマ送りのように映り込む。

 

しかし、次の瞬間には、その重苦しい殺気は、嘘のように霧散する。

 

そして…………。

 

 

「チェックメイトだ。先輩様。」

 

 

いつの間にか、ダストさんの背後に回った黒騎士が彼の首筋に、漆黒の大剣を突き付けていた。

 

…………は?

 

い、今一体、何が起こった?

 

混乱する俺と同様に、恐らくダストさんも何が起こったのか理解できなかったのだろう。

 

目を白黒とさせ、しかし剣先を突き付けられ、身動きが取れずにいた。

 

そんなダストさんを嘲笑うように、黒騎士が尋ねる。

 

 

「どうした? 『速過ぎて』見えなかったか?」

 

 

その言葉を聞いて、ようやく俺は理解した。

 

否、思い知らされた、と言った方が正しいのだろう。

 

俺とこの男、黒騎士は…………。

 

 

…………ああ、まるで格が違う。

 

 

《とある剣士の証言 了》

 




最後までお読み頂き、有難うございました。

本作では初めて、(本格的ではないにせよ)戦闘シーンを書いたことになりますが、如何だったでしょうか?

その辺りも含めて、今回の言い訳に、Go!


①ダストは犠牲となったのだ
材ちゃん同様、ちょうど良いいけn…………人材だったのです。

②HACHIMANとSEKKYOU
異世界ものの定番展開をやってみたかったんです。(泣)

思った以上に八幡がイケメンで、作者もビビりました。

尤もらしくSEKKYOU始めるし、もうどうしたものかと。(他人事)

偉く強そうですが、中身はやっぱり八幡な訳でして…………本人がこの時何を思って行動していたのか、そっちも次回の更新で語らせて頂きたいと思います

これだけだと、あまりに八幡らしくないですからね。(笑)


以上、今回の言い訳コーナーでした。


前回更新から、今回更新まで、アンケートを実施しておりました。

ご投票頂いた皆様、ご協力頂き、心よりお礼申し上げます。

ただまぁ…………結果がアレなんですよねぇ。(白目)

もちろんトリプルスコアでしたし、ご投票いただいた以上しっかりとやりますよ。やりますとも!!(ヤケクソ)

本当に需要あるのかなぁ…………?

それでは、次回の更新でお会いしましょう。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。