この素晴らしくあざとい後輩との冒険者生活はまちがっている。   作:水刀 言心

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お待たせしました。

イチャイチャ回です。(ドヤァ

若干、ブラックコーヒー推奨。

お楽しみ頂けると幸いです。


第11話 思いの外、彼と彼女の距離は近いのかも知れない

 

 

 

 

 

一波乱あったものの、午後からは特筆すべき問題もなく、俺たちはギルドの仕事に励んだ。

 

俺はモンスターの情報に関する資料の差し替えを、一色は受付業務を黙々とこなし、ルナさんの計らいで、予定より早めに初勤務終了を迎えた。

 

その際、その日のクエスト報酬も支払われたのだが、早く上がったにも関わらず、報酬は受注書に記載されていたよりも多かった。

 

ルナさん曰く、想像していた以上の働き振りだったので色を付けてくれた、とのことだが、一色はともかく、俺はそこまで働いていない、と言うより、割と自分の目的を優先させていた為、申し訳なかった。

 

…………まぁ貰えるものは貰うけどね。

 

そして、一度宿に戻り、俺は鎧に、一色は法衣に着替えて、指導者との待ち合わせ場所である街の城門へと向かった。

 

ルナさんが手配してくれた元冒険者は、仕立て屋を営む老夫婦。

 

旦那である爺さんは元ソードマスターで、婆さんは元ランサーとのこと。

 

冒険者時代に稼いだ報酬で店を建て、今は娘さん夫婦に店を任せて隠居中。

 

その為、こうして時折後進の者たちの指導を行っているらしい。ご苦労様です。

 

そしていざ訓練が開始されると、この俺たちが想像していた以上にスパルタだった。

 

恐ろしくガタイの良いジジイにいきなり木刀で殴りかかられる恐怖が、皆さんにお分り頂けるだろうか?

 

いくら鎧を着ているとは言っても、手加減一切なしの鋭い振り込みに、一体何度死の恐怖を感じた事か。

 

とは言え、直ぐにそんな心配もなくなった。

 

俺と一色が習得していた『天賦の才スキル』が、これまた予想を裏切り猛威を振るったのだ。

 

一合毎に、驚く程鋭くなっていく俺たちの動き。

 

訓練開始から1時間も経つ頃には俺たちの剣捌き、槍捌きは、老夫婦のそれを凌駕していた。

 

これには爺さんたちも苦笑いで、もう教えられることがなくなった、と、明日以降の指導をキャンセルされてしまう。

 

…………明日の勤務前に、ルナさんに相談しよう。

 

そんな事を考えながら、1日目の訓練は無事に終了した。

 

そして昨日同様、風呂に入り食事を終え、自室へと戻った俺なのだが…………。

 

 

 

どうしてこうなった。

 

 

「おお…………これヤバイですね。ちょっとした思い付きだったんですけど、結構ハマっちゃいそうです。」

 

 

感心したように、そんな台詞を呟く一色。

 

その声は、俺の正面やや下から響いていた。

 

つまり、俺たちの現状を一言で説明すると…………。

 

 

 

一色on俺、なのだ。

 

 

 

…………いや、何を言ってるのか分からないとは思う。正直俺にもさっぱりだ。

 

順を追って説明すると、食事を終えて部屋に戻り、部屋着に着替えて眠ろうとしたところ、昨日同様パジャマ姿の一色により強襲を受けた。

 

そして、昼間の件の埋め合わせとして、ベッドで胡座をかけ、という謎の要求を突き付けられた。

 

徹夜と、慣れない仕事や訓練をしたという事もあり、一刻も早く眠りたかった俺は、その思惑をろくに推察する事もせずに、彼女の言葉に従った。

 

結果、彼女は靴を脱ぎ出し、徐に俺の懐へと背中からダイブ。

 

最初に言った状況の出来上がりである。どうしてこうなった。

 

 

「せんぱい? ぼうっとしてないで、ほら、お腹のとこぎゅってして下さい。そんな仰け反られたら、隙間が空いて寒いです。」

 

 

だったら部屋に戻って、毛布に包まってれば良いんじゃないんですかね?

 

などと言ったところで、却下されるどころか、余計に面倒な要求を突き付けられるのは目に見えている。

 

俺が速やかに安眠を得る為には、業腹ではあるが、彼女の言葉に従うのが懸命なのだ。

 

懸命なのだが…………ちょっと待って。本当に待ってくれ。

 

正直、昨日正面から抱き合うだけでも、十分に一杯一杯だった。

 

だがこの状況は、ある意味でそれを遥かに凌駕している。

 

一色は胡座をかいた俺の足の間に、ちょこんと乗っかっている訳で、

 

薄着である以上、その小ぶりながら魅惑の感触を持った桃じ…………ケプコンケプコン、臀部の柔らかさが、余す事なく伝わってくる訳でして、

 

そして足の間に座っているということは、彼女の魅惑の臀部の直ぐ後ろには、八幡の八幡がいる訳でして…………。

 

つまり、危険が危ない!(錯乱)

 

何が結構ハマっちゃいそうです、だ。

 

一歩間違えば、誘惑に負けてやっはろーした八幡の八幡がハマっちゃうだろうが!(ど下ネタ)

 

…………落ち着け、落ち着くんだ比企谷 八幡、17歳童貞。

 

要はやっはろー(意味深)しなければ良いのだ。

 

使い古された手だが、ここは何か気分が滅入るような事を考えよう。

 

例えば男に誘惑される状況とか。

 

男…………そう、例えばこうしているのが戸塚だったとすれば…………。

 

 

『は、八幡? そ、その、何だか固いのが、僕のお尻に当たってるん、だけど…………。』

 

 

…………あかーん!!(錯乱)

 

これあかんやつやん!?

 

八幡の八幡がやっはろーしかかってますやん!?

 

人選ミスだ! いくらなんでも戸塚は可愛過ぎる! 分りきってたのに何で想像したの俺!?

 

いや待て、ならばその戸塚に、死ぬほど軽蔑された所を想像すれば…………。

 

 

『…………うわ、最低だよ、八幡。』(ゴミを見るような目)

 

 

…………。

 

……………………。

 

………………………………◯のう。

 

軽く精神が崩壊しそうだが、自分でも驚くほどに心は落ち着いていた。

 

今ならどんな誘惑にも、心を動かされない自信がある。

 

これも賢者モードと言うのだろうか。

 

だとすれば、悟りの道の、なんと険しく、悲しいことか。

 

そんな事を考えながら、俺はようやく、一色の腰に手を回し、その身体を抱き寄せた。

 

…………すごい。やわらかい。いいにおい。(2度目)

 

 

「ひゃんっ…………んふふっ♪ せんぱい、意外と素直ですね? 昨日からずっとイチャイチャしてたから、少し慣れて来ちゃいましたかね?」

 

 

俺の葛藤など知らず、どこか夢見心地というか、いつも以上にに甘ったるい声で、俺に身を預けてくる一色。

 

いやこんなん慣れる訳ないから。

 

というか、イチャイチャしてるって、自覚あったのかよ。

 

父親や兄に甘えているだけとか、それくらいの認識だと思っていた。

 

本当に何を考えているんだろうか、このあざとい後輩は。

 

 

「それにしても、今日はつくづく先輩がぼっちだったんだなって思い知りました。」

 

 

…………俺、ちょっと真面目な事考えてたんですけどね?

 

 

「おい、何で急に人の事ディスるんだよ? 今日の活動のどこにぼっち要素があったって?」

 

 

まぁ、確かに1人で黙々と書類整理はしてたけどもね。

 

 

「だって先輩、実は結構機転が利くし、何でも卒なくこなすというか、案外器用じゃないですかぁ?」

 

「…………お、おう? な、何だよ? 褒めてんの? 貶してんの?」

 

「どちらかというと褒めてるんですけど、ただの事実確認? な気もしますね。…………話を戻しますけど、何でもこなせるのに、人と関わること、それこそ『ほうれんそう』になると、途端に粗が目立つというか、雑になるというか、そんな感じですよね?」

 

「まぁ、否定はしないな。」

 

 

一色の言葉は正しく、確かに俺は、人と関わる事が得意ではない。

 

結果、自分以外の誰かが必須となる『ほうれんそう』という行動に関して、雑な対応をしがちだ。

 

…………それでぼっち認定されたのかよ。

 

結論に至り、項垂れたくなるが、目の前に一色の頭がある事を思い出し、俺は盛大に溜息を吐いた。

 

 

「それって、先輩がいつも1人で、何でも自分だけでやってきた、って事ですよね?」

 

 

どきり、と心臓が跳ねた。

 

一色が口にした台詞は、正しく比企谷 八幡の矜持であり、財産である。

 

それをこの2日のやりとり、否、それ以外にも、見当をつけるための材料はあったのかも知れないが、それだけで結論に辿り着いた、あまりにも意外な一色 いろはの洞察力に、驚かされたのだ。

 

 

「わたし、上手く説明出来ないんですけど…………。」

 

 

そして今度は、先程とは違う衝撃、戦慄といっても過言ではない程のそれに、息を飲んだ。

 

そこに続く言葉を、俺は知っている。

 

かつて、薄明かりに照らされた竹林で、己のやり方を貫こうとした俺に投げかけられた、明確な拒絶の言葉。

 

 

『上手く説明出来なくて、もどかしいのだけれど…………貴方のそのやり方、とても嫌い。』

 

 

自らの行いに、後悔など微塵もない。

 

それでも、その言葉を聞かされた時、必死で積み上げた積み木を崩されたような、そんな虚無感に、俺は確かに苛まれたのだ。

 

それを取り繕おうと、必死で理由を求め、動き、足掻き、そして間違えた。

 

それでもなお足掻き続け、ようやくの思いで、俺はその何かを取り戻した。

 

それが何なのか、明確な答えを、俺は未だ手に入れていない。

 

それでも、今もう一度その言葉を聞かされたら、再び何かが壊れてしまうのではないか。

 

そんな漠然とした不安が、俺の心を掻き毟る。

 

しかし…………。

 

 

「…………先輩のそういうとこ、結構カッコイイな、って思いますよ?」

 

 

一色の口から紡がれたのは、俺が身構えていたのと、まるで反対の言葉だった。

 

 

「…………はい?」

 

「だって、男の子って感じがするじゃないですか? 先輩、普段はぬぼー、って感じで、頼り甲斐のたの字もないですけど、でもいざという時は、自分の責任は自分で果たす! みたいな?」

 

「なんだよ、それ…………。」

 

 

力なく、掠れた声が喉を震わす。

 

呼吸すら忘れる程に、俺は焦っていたのか、と自分でも驚いた。

 

安堵のせいか、知らず、彼女の腹部に回した腕に力が入る。

 

 

「ひぁっ!? せ、せんぱいっ!? どうしたんですかっ!? 急に力入ってませんか!?」

 

 

驚きの声を上げた一色に、思わず苦笑いが溢れる。

 

 

「…………入れてねぇよ。ちょっと足が痺れて来たから、身じろぎしただけだ。」

 

「むっ! それ遠回しに、わたしのこと重いっていってませんか!? 失礼しちゃいますっ!!」

 

 

目一杯首を捻り、こちらを睨みつけ、あざとく頰を膨らます一色。

 

その姿に、どこか救われた気分になったのだが、悔しいし、何より癪に触るから、決してそれを伝えてはやるまいと、心に誓った。

 

…………案外、俺もチョロいのかも知れない。

 

昼間、カス何とかというチンピラを、散々馬鹿にしていたものだが…………。

 

自分のやり方を肯定された。

 

ただそれだけの事で、こんなにも満たされた気持ちになってしまっているのだから。

 

劣等感に苛まれ、肥大化した承認欲求に喘いでいたのは、俺も同じか…………。

 

まぁ何にせよ…………。

 

 

 

…………ありがとよ、一色。

 

 

 

自分を否定しなかった後輩に、俺は心の中で、そう小さく礼を言った。

 

 

 

 

 

…………それはそれとして。

 

一色によるぼっち認定発言で、中断された思考を再開する。

 

昨日から流されるままになっているが、今の状況は、やはりよろしくはないだろう。

 

いくら寂しさを紛らわす為とはいえ、俺と一色は男と女だ。

 

身寄りもなく、互いに協力し合う必要もあるし、約束した以上、急に放り出すつもりもない。

 

しかし、それ故に適切な距離というものは、必要なのではないだろうか?

 

俺は意を決して、その思いを口にした。

 

 

「お前、人恋しいのかも知らんが、こういうのはこの辺でやめとけよ。いくら適任が他にいないからって、何とも思ってない男に気を許し過ぎだ。」

 

 

少しばかり、厳しい口調になってしまったかもしれない。

 

しかし、それでもこれは伝えてなくてはならないのだ。

 

彼女が信用している程、俺は自分を、男という生き物を信用出来ない。

 

例え今、この言葉が彼女を傷付けるとしても、これ以上、流されるままに、とはいかないのだ。

 

俺の言葉に、一色はびくり、と身を震わせる。

 

そして、彼女は何を思ったのか、ぐっと背を反らし、俺の首筋に額を押し付けるように、身を寄せて来た。

 

彼女の髪から漂う、甘い香りに、頭がくらくらする。

 

微睡みのような心地良さと温もりに、何を考えていたのか、それさえ忘れそうになった。

 

だから、彼女を引き離そうと、踏み止まる。

 

 

「おいっ!? 人の話聞いて「本当に。」…………!?」

 

「本当に、わたしがせんぱいのこと、何とも思ってないって、思ってますか?」

 

 

俺の言葉を遮るように発された、一色の言葉。

 

今にも泣いてしまいそうな、湿った声に、息が止まりそうになる。

 

それは、一体どういう意味だろうか?

 

もしかして、一色は本当に俺のことを…………。

 

 

「…………って、その手には乗らんぞ。お前それバレンタインの時と同じやつだろ。」

 

「…………むっ。気付くの早くないですかね? 可愛くないですよ、先輩?」

 

 

あっさりと猫かぶりを止め、演技だと白状する一色に、盛大な溜息を零す。

 

本当に、こいつは…………。

 

そんな俺に構わず、一色は俺の首筋にぐろぐりと額を押し当て、まるで子猫のように甘えてくる。

 

 

「でも、ちょっと心外です。わたし、何とも思ってない男の人に、こんなことするようなビッチじゃないですよ?」

 

 

そして再び、どきり、とさせるような事を呟く一色に、俺は声を荒げそうになり、

 

 

「だってわたし、せんぱいのこと大好きですから。」

 

 

無邪気に投下された、戦術級の爆弾に、息の根を止められた。

 

 

 




最後までご覧頂き、ありがとうございました。

実は今回のお話は例によって、前後編になる予定の無かったお話でして、現在続きを絶賛執筆中です。

まとまらねぇんだよ、これが。(白目)

そんな訳で、正規のあとがきは、次回の更新にて行わせて頂きます。

それでは、また次回の更新でお会いしましょう。
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