この素晴らしくあざとい後輩との冒険者生活はまちがっている。   作:水刀 言心

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お待たせしました。

イチャイチャ?回(笑)です。

そして新章突入です。

よりオリ展開、そしてこのすばキャラの出番が増えます。

カズマパーティは…………遠いなぁ(涙)


第16話 このあざとさを忘れて来た後輩と鍛錬を!

 

 

 

 

 

《名も無き吟遊詩人の語り》

 

その時代、魔王軍との長きに渡る戦いによって、世は混迷を極めていた。

 

前線では日々数多の命が、女神エリス様の御元へと還り、民衆は不安に怯え、恐怖に涙した。

 

そんな人間を神々は哀れまれたのだろうか、かの時代、英雄大国と名高いベルゼルグ王国には、正に英雄と呼ぶべき、卓越した冒険者が幾人も現れた。

 

魔剣の勇者。

 

大物喰らい。

 

殲滅槍姫。

 

何れも我ら人類にとって、正しく希望と呼ぶに相応しき実力を持ち、そしてそれに見合う偉業を成した英傑たち。

 

そんな英雄たちと同じ時代に生まれ、なお一際の異彩を放った、とある男がいる。

 

呪装の勇者、厄災の使徒、赤刃一閃…………その男を指す異名は、彼が成した偉業の数だけ存在した。

 

されど、最も広く通った名が、非常に簡潔なものである事は、不要を嫌ったという彼の人柄故かも知れない。

 

ある者は希望を、ある者は敬意を、ある者は憧憬を込めて、かの英雄をこう呼んだ。

 

 

…………黒騎士。

 

 

今宵お聞き頂きますは、かの英雄黒騎士の冒険譚。

 

その序章と呼ばれる『アクセル農業地の戦い』にございます。

 

皆様、何卒最後まで、ご堪能下さいませ…………。

 

 

 

《名も無き吟遊詩人の語り 了》

 

 

 

 

 

鍛錬。

 

それは熱した金属を叩き上げ、より強靭なものへと鍛える様を指す。

 

転じて、技術や技能を磨き、より向上させるための反復作業を指す言葉となった。

 

しかし考えて欲しい。

 

当然ながら、金属と人は違うのだ。

 

金属が叩けば伸びるのは、その生来の性質故であり、それは不変の真理である。

 

だが人間はどうだろうか。

 

無論、叩いて伸びる者もいるだろう。

 

しかしそれはその個人の、それこそ生来の性質故であり、皆が一様に叩かれて伸びる訳ではない。

 

叩かれれば折れる者もいる、叩かれて曲がる者もいる。

 

それ故、鍛錬が成長を促すものである、というのは、こと人間に対しては、不変の真理たり得ないのだ。

 

そしてそれが、人の持つ個性によるものであるならば、我々人間はそれを尊び、個々にあった成長方法を模索すべきである。

 

結論を言おう。

 

 

 

…………地道な努力なんて、クソ食らえだ。

 

 

 

「せんぱい? 自分で言い出したのに、何でそんなにやる気無さそうなんですか?」

 

 

ジトっとした視線で見上げながら、避難の色を隠そうともしない一色の声に、俺ははっと我に帰る。

 

…………どうやら拒絶反応で現実逃避をしていたらしい。

 

俺たちは現在、アクセルの街、その城壁外の、開けた野原を訪れている。

 

無論、その目的は楽しいピクニックという訳ではなく。

 

 

「それにしても、先輩も随分真面目になりましたよね。まさか自分から、新しくとったスキルの確認がてら訓練しよう、だなんて。」

 

「訓練じゃなくて、鍛錬な。」

 

 

もしくは修練、練習、稽古etc。

 

誤用しがちだが、訓練だけは指導者ありきなので、今回は適切じゃない。

 

俺の指摘に、違いが分かりませんよぅ、と一色は頬を膨らませていた。

 

小さい「ぅ」が、あざといことこの上ない。

 

さて、前述の通り、俺たちの目的は鍛錬である。

 

先日の調査クエストを無事に終えた俺たちは協議の結果、3日間の休息を取ることにした。

 

したのだが、その間全く身体を動かさないということに、俺は不安を感じた。

 

…………柄でもない事は分かっているし、そこに思い至った瞬間、自身の変わり様に、我ながら戦慄したけどな。

 

結果、初日のみ完全休養とし、残りの2日は、早朝に城壁外で鍛錬して、それ以降を休養に当てることになった。

 

いくら命がけの稼業とは言え、まさか俺がこんなコツコツと地道な努力を、それも自発的に行う事になろうとは…………。

 

とは言え、ああだこうだとぐずっていても仕方がない。

 

 

「この辺りで良いんじゃないですか? これだけ城壁から離れてれば、守衛さんに怒られる事もないでしょうし。というか、せっかくのお休みですし、早く済ませて遊びに行きましょうよぅ!」

 

 

痺れを切らせた一色が、あざとくぷりぷりしながら、そんな事を提案してくる。

 

 

「まぁ鍛錬をさっさと済ませようってのには賛成だ。けどな、俺は遊びに行くとは一言も言ってないからな?」

 

「えぇ〜!? だってせんぱい、昨日も完全休養だ、って1日中部屋に引きこもってたじゃないですかぁ!?」

 

「それの何が悪い? むしろ鍛錬の必要性がなけりゃ、3日間丸々引きこもるまであるぞ、俺は。」

 

「うっわ…………久々に先輩の先輩らしいとこ出た…………。それと、スマホもゲームもマンガもないのに、良く部屋で1日過ごせますね?」

 

「別に娯楽がなかろうが、1人で時間潰すくらい、エリートぼっちである俺にとっちゃ朝飯前なんだよ。」

 

 

今後のスキル取得順考えたり、手頃なモンスターの情報纏めたり、後は妄想したり妄想したりな。

 

 

「何でちょっと誇らしげなんですか? 意味分かんないです。…………それから、先輩から言い出した割に、とことんやる気無いですよね? 鎧着て来てないですし。」

 

 

一色が言う通り、俺は今呪われた鎧ではなく、お手伝いクエストの時にも着ていた軽装冒険者風の格好をしている。

 

しかし、決して鎧を忘れてきた訳ではない。

 

 

「ふっ…………。」

 

 

俺はニヤリと口角を上げ、すっ、と某特撮ヒーローが如くポーズを決める。

 

 

「変身!」

 

 

そしてお約束のセリフを口にした途端、ぞわり、と広がる俺の影。

 

広がった影はそのまま渦を巻く様に競り上がり、一瞬俺の姿を完全に覆い隠す。

 

しかし次の瞬間、嘘の様に霧散する影。

 

現れた俺は、呪いの装備『慟哭の鎧 レクスリア』を纏っていた。

 

…………フッ。決まった。

 

ヘルムの所為で、恐らく誰にも伝わらないだろうが、俺は渾身のドヤ顔を浮かべていた。

 

しかしそんな俺とは対照的に、一色は絵も言われぬ表情…………秘境に住まう少数民族の、どう足掻いても理解することが出来ない奇習を目の当たりにしたかの様な表情を浮かべ。

 

 

「…………バカなんですか?」

 

 

と、吐き捨てるように呟いた。

 

…………俺の精神力が低かったら即死だったぞ。

 

 

「まぁ、明らかに無駄な特撮的ポーズは置いといて、どうやったのかは興味ありますね。どういうスキルですか?」

 

 

俺への痛烈な一撃など、まるでなかったかのように表情を一変させ、いつもの調子で尋ねる一色。

 

本当、その変わり身の早さには感心するわ。

 

 

「…………はぁ。影魔法スキルと早着替えスキルの合わせ技だ。無詠唱にポイント振ったシャドウガレージで鎧を収納しといて、これも無詠唱化したブラックシェードで目隠しして、そんで取り出した鎧に早着替えスキルで換装。」

 

 

ぶっちゃけ、一色の指摘通り変身ポーズは完全に無駄だったりする。

 

影魔法スキルは上級魔法に分類される魔法だが、適性を持つものが少ない、いてもだいたい性格が陰険、等の理由で非常にマイナー且つ不人気なスキルである。

 

シャドウガレージは名前の通り、影を入り口にして、亜空間に物を収納する魔法で、広さは最大魔力量に依存。

 

亜空間内は温度こそ23、4℃程で一定だが、外の空間と同じ時間経過である為、生ものの長期保存などは不可。

 

しかも、中に何をしまってあるかは完全に使用者の記憶力次第であるため、あまり大量に物をしまうのは恐ろしい、という欠陥がある。

 

そしてブラックシェードは、本来防御用の魔法で、物理、魔法問わず遮断する障壁で、強度は知力に依存する。

 

俺の現在の知力値だと、高品質のミスリル(魔力浸透済み)くらいの強度にはなる。

 

突発的な戦闘時にも、安心してお着替え出来る、世界一頑丈な更衣室(仮)の誕生だ。

 

なお、早着替えスキルは読んで字の如しなので割愛する。

 

…………余談だが、この早着替えスキル、ギルド酒場で鎧の着脱が面倒だと愚痴っていた所、たまたまそれを聞いていたらしいダ、ダ、…………ダスター?がシュワシュワ一杯と引き換えに伝授してくれた。

 

普段軽装ばかりのあのチンピラが、何故このスキルが鎧にも適応可能である事を知っていたのか、あまつさえ、何故習得していたのかは全くの謎である。

 

さて、俺の説明を聞いた一色は、興味津々な様子を一転、ガックリと項垂れていた。

 

 

「影魔法ありきじゃ、わたしには使えませんね。まぁ、いざと言う時、せんぱいが物凄く便利な荷物持ちになった、ってことでよしとしますけど。」

 

「いやそういう用途のために習得した訳じゃねぇから。しかもお前さり気なく外堀埋めにかかんな。出掛けないって、俺はっきり言ったよね?」

 

 

つくづく油断のならない後輩である。

 

そしてそんな油断ならない後輩は、俺から顔を逸らすと、盛大に舌打ちをした。

 

…………多分、JKにあるまじき表情してんだろうなぁ。

 

 

「…………はぁ。仕方ありません。あんまり女の子っぽくないし、可愛くないから、この手段だけは使いたくなかったんですけど、」

 

 

やれやれ、と大仰な仕草でため息をついた一色は、ふわり、と実に優雅な仕草でその場から飛び退く。

 

そして俺から20歩ほど離れた位置に着地すると、くるくるとまるでチアバトンをそうするように魔槍を弄び、

 

 

「…………力づく、です♡」

 

 

その穂先を俺へ突き付け、隙無く構えた。

 

 

「…………は?」

 

 

事態が飲み込めず、魔の抜けた声を零した俺。

 

しかし、一色は最早俺の言葉を聞く気はないらしい。

 

その黒目がちな双眸が、真紅に煌めいた。

 

 

「わたしが勝ったら、今日はこの後、デートに連れてって下さい…………ねっ!!!!」

 

 

瞬間、爆ぜるように飛び出した一色。

 

俺との距離を瞬く間に縮め、大気ごと貫くような、高速の一突きを放つ。

 

反射的にマクベスを抜き放ち、それを払い除ける。

 

散った火花の向こうで、一色はおよそ彼女らしくない、肉食獣染みた笑みを浮かべていた。

 

 

「あはっ♪ さすがですねせんぱいっ!!」

 

 

くるりと身体を翻し、再び跳び退いて間合いを離すと、穂先を此方へと向けて、一色は軽く腰を落とした。

 

その表情は相変わらず、狂気的なまでの愉悦を讃えていて、俺の背に冷たい汗が流れた。

 

…………完全にKillモードじゃないですか。

 

さて、何故彼女がこれ程までバーサーカー状態なのか、さぞかし疑問なことだろう。

 

無論、あれが一色の隠された本性という訳ではないし、モンスターを狩ってる内に、サドに目覚めたとか、そういう訳でもない。

 

これは一重に、狂化の呪いによるものである。

 

状態異常の1つである狂化は、精神力値が高ければ、そのデメリットを無視出来る。

 

このデメリット、即ち理性を失うことだが、言い換えればそれは破壊衝動の増大なのだ。

 

そしてこれを無効化できる程の精神力値、というのも曖昧で、俺と一色は共に無効化可能な領域の精神力を持っているが、内情は些か異なる。

 

俺の場合、完全に狂化の影響を受けず、発動後も何ら精神に変化はない。

 

しかし俺より一回り精神力値が低い一色はそうもいかず、ご覧の通り、狂化を使用した彼女は、恐ろしく好戦的になってしまうのだ。

 

因みに、本人はこのバーサーカーモード時の記憶もはっきりとあり、しかしそこまで戦闘狂化しているという自覚はない模様。

 

…………その殺気染みた闘気を向けられる方は堪ったもんじゃない訳だが。

 

そんな俺の心労も知らず、普段のあざとさを何処かに忘れて来たらしい一色は、益々笑みを深めていく。

 

 

「やっぱりせんぱいは凄いですね♪ 今のかんっぜんに不意打ちだったのに、簡単に弾かれちゃいましたっ♪ 筋力値はわたしとそんなに変わらないですよねっ? 不思議ですねっ? 何かスキル使いました? あっ! 敏捷値はせんぱいが高いんでしたっけ!?」

 

「…………いやだから怖ぇよ。」

 

 

新しい玩具を手に入れた子どものように、無邪気な様子ではしゃぐ一色。

 

しかしその発言内容は、今の一合に関する至極真面目な考察で、そのチグハグさが加醸し出す不協和音が、じくじくと俺の精神を蝕んでいくようだった。

 

…………やっぱり、柄にもないことをするもんじゃない。鍛錬なんてクソ喰らえだ。

 

しかし、俺は声を大にして言いたい。

 

 

 

…………こんなガチバトルを所望した覚えはないっ!!!!

 

 

 

と言っても、全ては後の祭り。

 

こうなった一色は、魔力が底を付くか、勝負がつかない限り、止まることはない。

 

さすがに本気で死ぬような攻撃はしない、もしくは危険なら寸止めする程度の理性と技術はあるだろう。

 

互いに、天賦の才スキル持ちは伊達じゃないのだ。

 

深く息を吐き、俺は仕方なく覚悟を決めた。

 

 

「…………ぼっちの矜恃に賭けて、意地でも休日は死守させてもらう。」

 

 

狂化を発動し、恐らくは彼女同様、真紅に染まった両眼で、彼女を射抜くように見据える。

 

 

「あはっ♪ 真剣な顔のせんぱいもカッコイイですね♪ 兜で見えませんけど、何となく分かりますよ♪ でも…………いえ、だからこそ、デートは譲れませんっ♡」

 

 

愉悦の表情を崩そうともせず、しかし魔槍を握る手に力を込めながら、口ずさむように口にする一色。

 

互いの間に、かつてない程、張り詰めた空気が流れる。

 

側から見れば、賭けているものが休日の予定には、とてもではないが、見えないことだろう。

 

されど、俺たちは真剣だった。

 

睨み合いを始めて十数秒、先に動いたのは、またも一色。

 

刹那の間もなく、先ほど超える速度と鋭さで、魔槍の穂先が迫る。

 

 

「さぁせんぱい…………勝負(イチャイチャ)しましょうっ♪」

 

 

再び、無数の火花が散った。

 







最後までご覧頂き、ありがとうございます。

イチャイチャする八色を描きたかったはずなのに、色々とどうしてこうなった?

兎にも角にも新章第1話でした。

この章はちょくちょくシリアス入ったり、このすばらしからぬ雰囲気になったりする予定ですが、カズマパーティ参戦で恐らく軌道修正されるでしょう。(ぉ

早くしろー! 間に合わなくなっても知らんぞー!!(他人事)

そんな訳で、本日の言い訳コーナー。



①冒頭の語り
 吟遊詩人がどういう感じの方々か知らないので、ほぼほぼア●スラーン戦記のイメージでお送りしました。
 盛大にネタバレしてる気もしますが、たまにはこんなテイストも描きたかったのです。許してちょ。

②某特撮的変身シーン
 男の子なら1度はやったことあるんじゃないかと思しきアレ。
八幡だって、たまには少年の心を発揮することもあると思うの。

③いろはすバーサークモード
 ジョーカーキャラ、ってあるじゃないですか?
 デート・●ライブにおけるく●みん、最弱無敗の●ハムートにおけるよ●るんみたいな、最初は敵で、味方にまわっても、他キャラと一線を隔す実力を持ってて、しかも狂気的なキャラ。
 ああいうの好きなんどす。(真顔)
 そんな訳で、そういうイメージで書いて見たのですが…………いろはす要素行方不明だけど、大丈夫かコレ?(オロオロ)
 真面目な方の話をすれば、色々と理性で押し込んでしまいそうなハッチーと比べて、いろはすは実際戦闘には向かない性格な気がしたので、せっかくの攻撃力を活かすための采配ではあるのです。
 あるのですが…………本当に大丈夫かコレ?(汗)



以上、本日の言い訳コーナーでしたー。

当然ながら、次回は2人の勝負の続きからです。

果たして、八幡は休日を守り切ることが出来るのか!?

待て次回!!

でわでわー。ノシ
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