この素晴らしくあざとい後輩との冒険者生活はまちがっている。 作:水刀 言心
遅くなりまして、申し訳ありません。
とは言え、今回もあまりお話は進んでいないような…………。
それはさておき、本文をお楽しみ頂けると幸いです。
「それでは、こちらの水晶にお1人ずつ手を翳して下さい。あ、ヒキガヤさんは、お手数ですが籠手を外してからお願いします。」
俺がヘルムを戻したことで、いくらか落ち着きを取り戻した受付嬢さんがそう促してくる。
さて、どうしたものか。
ちら、と一色を一瞥すると。
「先輩、お先にどうぞ♪」
何ともご機嫌な返事が返って来た。
もっともその言葉は、
こんな未知の作業を後輩女子に先にやれとか外道なこと言いませんよね?
みたいな意味を、言外に孕んでそうだったが。
おずおずと籠手を外し、俺は受付嬢さんが用意した水晶に手を翳した。
すると水晶はカチカチと音を立て、淡い光を放ち始める。
な、中々にファンタジーしてるじゃねぇか。
光が収まると、受付嬢さんは機械にセットされていた、1枚のカードを取り出し内容を確認し始める。
恐らくは、あれが冒険者カードなのだろう。
そして…………。
「ええええええぇっっ!?」
本日二度目の絶叫を頂くのでした。
「ど、どうしたんですか?」
「どうしたも何もっ、何ですかこのステータスはっ!? 幸運値と生命力こそ平均程度ですが、後は初期値とは思えない程の高さです! 何より精神力と魔力は今まで見たことのない数値です! 精神力は高レベルのアークプリーストよりも高く、魔力に至ってはもう、人間の限界を遥かに超えています! それに最初から複数のスキルまでお持ちですし…………ヒキガヤさんは一体何者なんですかっ!?」
「…………た、ただの駆け出しです。」
興奮冷めやらぬ受付嬢さんに、若干気押されながら、俺はそう誤魔化してカードを受け取る。
比較対象がない為、明確な事は言えないが、彼女の言葉が正しいのなら、俺のステータスはかなり高いのだろう。
アクア様に聞いていた通り、ステータスに補正が入っているらしい。
また、アクア様の話だと、レベルアップの度に補正値が入るらしく、手に入るスキルポイントも上昇するとのこと。特典様々だな。
続いて水晶に手を翳した一色を横目で確認しつつ、俺はカードのスキル欄を確認する。
そこには『天賦の才』『女神の祝福(幸運)』『心理掌握』『気配遮断』という4つの項目が。
…………いや待て。
天賦の才は、特典で狙っていたレベルアップを加速させるスキルで、女神の祝福は、エリス様による不運対策だと当たりがつく。
しかし、後半の2つは何だ?
明らかに特典ではないが、何とも慣れ親しんだ響き…………。
まさかとは思うが、これはもしや、俺の生前の習性がスキル化した?
突拍子もない話だが、そう考えると納得がいく。
しかし、この考えが正しいのだとすると…………。
一抹の不安を抱えながら、先程の俺と同様に受付嬢さんから絶叫されている一色に視線を移す。
一色は苦笑いで誤魔化しつつ、カードを受け取ると、その内容を確認し始める。
そして…………。
「…………え゛?」
スキルの項目に差し掛かった辺りで、一色の表情が凍り付いた。
どうやら、嫌な予感が的中したらしい。
嫌だなー。怖いなー。と思いつつ、俺は一色のカードを覗き込む。
するとそこには、俺と同様に『天賦の才』『女神の祝福(幸運)』『心理掌握』の3つのスキルと…………。
『同種族魅了』というスキルが表記されていた。
「わたし、こんなの頼んだ覚えないんですけど…………。」
俺にだけ聞こえるように、しかしげんなりした様子で、一色がそう呟く。
「…………残念ながら、これは特典とは別物みたいだ。ほら。」
小声で応答しながら、俺のカードを一色に差し出す。
そこに記された『気配遮断』の表記を目にしたのだろう、がっくりと肩を落とす一色。
「つまり、日頃の行いが招いた結果、ってことですか…………。」
「…………認めたくないがな。」
まぁ、これも因果応報というやつだろう。
そしてやっぱこいつ、クルセイダーよりジャグラーの方が大成するんじゃないか。
密かにそう思ったものの、決して口にはしなかった。
…………と、まぁお互いに気になる点はあったものの、希望した才能を受け取れている事を確認した俺たちは、それぞれルーンナイトとクルセイダーの職業に就職。
ギルドを挙げての喝采と、歓迎の言葉の嵐に見舞われた。
これまで受けたことのない、惜しみ無い歓迎の雰囲気に、多少のむず痒さを感じたが…………まぁ、悪い気しなかった。
その後、俺たちは例の受付嬢さん、ルナさんというらしい、にスキルの取得方法やクエストの受注方法、冒険者の心得などの説明を受けた。
それから、安価で宿泊できる宿屋を紹介してもらい、ギルドを後にしようとしたのだが、少し思うところがあり、俺は一色から離れ、ルナさんにいくつか尋ねる事に。
概ね聞きたい事が聞けた俺は、今度こそギルドを後にした。
そして宿を確保し、日用品の買い出しと、公衆浴場で入浴を済ませ、再び宿屋で合流。
宿に併設された、食堂件酒場で夕食を摂ることに。
ちなみに、鎧は既に脱ぎ、宿の部屋に仕舞ってある。
買い出しで購入した品も同様で、何故か一色の荷物まで俺が運ぶ羽目になった。解せぬ。
さて、食事の話に戻ろう。
酒場のメニューに書かれていた品名からは、この世界の料理がどんなものか、全く想像ができなかった。
仕方なく、店員に「遠方から来た為、食文化がかなり違う。癖がなく食べやすいオススメのものを」という、下調べ不足な外国人観光客のような注文をすることに。
それでも正直かなり戦々恐々としていたのだが、運ばれてきた料理は、少なくとも見た目はまともであり、俺だけでなく一色も、安堵の溜息を零していた。
なお、ドリンクは2人ともオレンジジュースにした。
この世界では飲酒に年齢制限がないらしく、アルコールに興味自体はあったが、人(女神)から貰ったお金で酒を飲むというのも気が引けたため、アルコールデビューは後日となった。
そして早速、運ばれてきた料理に手を付けようとしたところ、フォークを持った右手を、一色にてしてし、と叩かれる。
「…………何だよ? 料理冷めちゃうじゃん。生憎とこの世界じゃフリーペーパーなんざないし、写真を撮ろうにもカメラすらないぞ?」
「いつの話をしてるんですか。そうじゃなくて、せっかくだから乾杯しませんか?」
そう言いながら、オレンジジュースが注がれた木製のジョッキを掲げる一色。
「いや何にだよ。色々衝撃的過ぎて忘れてるかもしれんが、俺たち一応死んでるからね? 何一つめでたいことなんてないから。」
「いや確かに死んでますけど、こうして普通にしてると実感がわかないですし…………それにほら! 将来は専業主夫なんて言ってた先輩が冒険者。しかも誰もが羨むルーンナイトなんて職業に就いたんですよ? これってめでたいことじゃないですかっ!」
「なん…………だと…………!?」
言われて、俺は愕然とした。
そうじゃないか。
何故気がつかなかった。
思わず、俺は両手で頭を抱え込んだ。
「へ? あ、あのちょっと? せんぱいっ?」
「…………キャラメイクの感覚で話を進めていた…………? …………まさかこの俺が、現実と仮想を混同していたとでもいうのかっ…………!?」
冒険者になる=就職。
そんな当たり前かつ、単純なことにも気付けないとは。
俺も転生のドタバタで、混乱していたのだろうか。
絶対に働かない、絶対にだ!!
そう嘯いていたことが、セピア色の景色のはるか向こうにさえ感じられる。
…………ごめんな小町。お兄ちゃん汚れちゃったよ。
「…………働きたくない…………。…………働きたくねぇよぉ…………!!」
「ちょ、ちょっとぉっ!? そんな泣くほど落ち込むことですかぁ!? あーもうっ…………ほら先輩っ! 乾杯ですよ! カンパイ!」
「…………かんぱい。」
一色に促されジョッキをぶつけ合う。
口にしたオレンジジュースは、涙の味だった。
結局、どの道冒険者にならない、という選択は無かったという結論に至り、俺は気を取り直した。
生活をする為には、どうやったって金が必要になる。
これまでなら、それは親が稼いでくるものであり、学生である俺はその脛を齧っていれば良かった。
しかし、この世界にその親はおらず、成人である俺は、自らの糧を得る為に働かなねばならない。
そして、女神様達から与えられた力を考えたならば、俺に最も適した職業が冒険者である事は明白。
どうしたって、俺は働かなくてはならなかったのだ。
とはいえ…………。
「…………やっぱ働きたくねぇなぁ。」
「だからって泣く事ないじゃないですか。どんだけ働きたくないんですか。普通に引きます。」
料理を口にしながら、半目で睨みつけてくる一色。
お前にこの気持ちが分かってたまるか。
その訴えを黙殺しつつ、俺も注文した料理を口に運ぶ。
お、意外といけるな。
「それはそうと、明日はどうする予定なんですか?」
「…………は?」
夢中で食事していると、一色が投げかけてきた予想外の質問に、間抜けな声を上げてしまう。
「何ですかそのムカつく顔…………。」
「いやだってお前、予想外のこと聞いてくるから。何? お前明日もついて来るつもりなの?」
「…………はい?」
おっと、先程とは立場が一転してしまったぞ。
「何ですかそのムカつく顔(裏声)。」
「ぶっ◯しますよ?」
「ひでぇ…………。」
「というか、今は先輩のキモいモノマネなんて、どうでもいいんですよ! それより、明日もついて来るつもりか、ってどーゆー意味ですか!?」
「いやどうもこうも…………今日は流れで一緒に行動してたが、寝床も確保出来たし、職にも就けて身分証も手に入れた。だから別にこれ以上一緒にいる必要も…………。」
言いかけて、言葉に詰まる。
いつの間にか、一色は俯き、その小さな肩を震わせていたのだ。
「…………わたしが一緒じゃ、迷惑ですか?」
そしてその声までを震わせて、絞り出すように言葉を紡ぐ。
きりきりと、そう自分の胃が音を立てるのを感じた。
余りにも彼女がいつも通りに振る舞うもので、俺は失念してしまっていたのだ。
彼女が失ったモノ。
自分が失ったモノ。
きっと言葉に出来ない程に大切なものから、その存在すら忘れていたような、取るに足らないものまで。
その全てを今日、俺たちは期せず、そして一瞬で失ったのだ、という事実を。
不意に、嗅ぎ慣れた紅茶の香りを思い出した。
…………あぁ。何で、何でよりによって、それだ。
目を背けた、背けていた、失ったという事実。
それと再び対峙するくらいなら、俺は何も望まない。
俺は独りで良い。
そう思っていたのに。
震え、怯え、絞り出された一色の、切なげな声に、思い知らされる。
俺も、彼女も、かろうじて繋ぎ止められているに過ぎないのだ。
全てを失った今、俺を俺足らしめるものは、自身の記憶と彼女だけしかなく。
彼女を彼女足らしめるものは、彼女の記憶と俺という存在だけ。
リア充に受けが良いラブソングのような安い言葉だ。吐き気がする。
しかし、もうきっと俺も彼女も、切り捨てる事や、突き放す事は出来ないだろう。
全てを飲み込み、受け入れ、前へと歩き出す、その時まで。
本当にそんな時が来るのかと、そう自らに問いかけた。
しかし答えたのは俺ではなく、記憶に残る恩師の姿。
『どこかで帳尻は合わせられる。世界は、そういう風に出来ている。』
どこか諦めたように、そう呟いたあの人の姿が、今はひどく頼もしいものに感じた。
ならば、今は、今だけは開き直ろう。
彼女が俺を、俺足らしめているならば、俺はあくまで『先輩』だ。
後輩の前で、余りしけたツラを晒すわけにはいかない。
だから…………。
俺は身を乗り出し、俯く一色の頭に手を触れた。
「せん、ぱい…………?」
驚き、顔を上げた彼女の目尻に、きらきらと、何かが光る。
そんな顔をさせてしまった罪悪感が、どうしようもなく俺を攻め立てた。
だが、今は全て飲み込め。
「…………別に迷惑なんかじゃない。回復役がいてくれるのは助かるし、お前なら、戦力としても期待出来る。だから…………迷惑、なんて事は絶対にない。」
ぶっきらぼうに、そう呟く。
その言葉に、目を丸くする一色。
届け、届けと、柄にもない事を祈る。
その祈りが通じたのか…………否、そんなものが誰かに伝わらない事なんて、俺は誰よりも知っている。
しかし、それでも彼女は…………。
「…………仕方ありませんね。それじゃあもうしばらく、先輩と一緒に居てあげますっ。」
花が咲いたような、そんな笑みを浮かべて、心底嬉しそうにそう呟いた。
ああ、今はそれで良い。
お前はそうやって、幸せそうに笑っていてくれ。
お前が、全てを飲み込み、受け入れ、歩き出す、その時まで…………。
この素晴らしい世界で、その帳尻が合わせられる、その時まで…………。
せめてその時まで、俺はその笑顔を見守っていよう。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。
前話投稿後、1日の間でしたが、日間ランキング(加点式・透明)にて1位を獲得致しました。
ひとえにご愛読くださっている皆様のおかげだと、筆舌に尽くしがたい感謝の念に打ち震えております。
それはもう一時期の西◯カ◯並に。
今後もご期待に添えますよう、そして一日も早く更新出来ますよう、鋭意努力し、文章力と妄想力を磨いて行く所存です。
本当にありがとうございます。
さて、恒例となりました本日の言い訳をば。
①2人のステータスとスキル
敢えてはっきりとした表現を避けましたのは、今後の展開に自由度を持たせるため。
早い話が、作者の一身上の都合でございます。プロット? なにそれ美味しいの?
スキルについては、そう遠からず、どういったものか判明させるつもりですので、今後にご期待ください。
②唐突なシリアス展開
作業用BGMにや◯ぎ◯ぎさんの「◯擬き」を流していた為、俺ガイル続のテンションに引っ張られました。(笑)
というのは半分冗談でして、きっとこの2人は、カズマほど異世界転生を急に受け入れられる器用なメンタルをしていないだろう、という作者の独自解釈によるものです。
タグに用意しました『独自解釈の嵐』は、主にこうした俺ガイルキャラへの、作者の拙い考察への保険だったりします。
生暖かい目で見守ってくださると幸いです。
以上、本日の言い訳でした。
なかなかお話が進まず申し訳ございません。
作者としても、早く八幡といろはすをイチャイチャさせたいのですが…………。
もうしばしお待ち頂けると嬉しいです。
また、当作品では、皆様のご質問、ご感想、ご意見を、随時募集しております。
非ログインでも書き込めますので、お気軽にご送信ください。
誤字報告等も、歓迎です。
それでは、また次回の更新でお会いしましょう。