この素晴らしくあざとい後輩との冒険者生活はまちがっている。   作:水刀 言心

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大変お待たせしております。

連投につき、今回はあとがきを最後にまとめております。

なお、今回は後半殆ど説明回となります。

ご了承下さい。


第3話 このぼっちに新たな黒歴史を!

 

 

 

自分たちの置かれた現状の危うさを、ようやく認識した俺たちは、あの後つつがなく夕食を終え、互いが借りた部屋へと戻った。

 

あれからの夕食中は、結局ろくに会話は弾まず…………というか、俺自身がとても談話を楽しめる精神状況ではなかった為、音速で食事を終え、そそくさと逃げ出すようにこの部屋に戻って来たのだ。

 

そして買い出しの時に購入した黒のスウェット…………何で異世界にスウェットがあるのか、というツッコミはさておき、それに着替えた俺は、思い切りベッドへと倒れ込んだ。

 

 

「…………あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああ…………!!」

 

 

周囲の部屋への音漏れを意識し、枕に顔を埋めたまま、声にならない叫びを上げる。

 

…………もう、ゴールしても、いいよね?

 

 

 

 

バカじゃねぇの!?

 

バッカじゃねぇの!!!?

 

何が『迷惑なんてことは絶対にない(キリッ)』だ!

 

挙句の果てに、何自分から後輩女子(傷心中)の頭撫でてんの!? バカなの!? 死ぬの!?

 

つーかもう一遍死んでるよ!!

 

バカは死んでも治んなかったよ!!

 

目は治ったのにね!?

 

何が訓練されたぼっちは勘違いしないだよっ!?

 

自分の行動振り返って見ろ!? 完全に自分に酔っちゃう系の、痛々しい勘違い野郎じゃねぇか!!

 

何で転生した早々、新たな黒歴史を紡ぎ出してんだよぉぉぉおおおおおお!!!?

 

 

「…………はぁ、死にたい。」

 

 

異世界生活1日目。

 

既に俺のSAN値は、限界を迎えようとしていた。

 

もう今日は何もかもを忘れて、泥のように眠ってしまおう。

 

幸い、慣れないことの連続で、それなり以上に疲労感はある。

 

このまま目を閉じていれば、そうかからず夢の世界からお迎えが現れることだろう。

 

今は、全てを忘れよう。

 

恥も後悔も黒歴史も、全てを夢の世界へと置き去りにしよう。

 

そう結論を出し、俺が目を閉じた瞬間だった。

 

 

 

こんこんこん、と3回、扉を叩く音が響いた。

 

 

 

2回でも4回でもなくて、3回ってとこが、地味にマナーが分かってる感じがしてあざとい。

 

そしてそんなあざとさを発揮しつつ、俺を訪ねて来る人間なんてこの宿には…………否、この世界には1人しかいない。

 

本来なら、眠っている体を装い、居留守を使ってやり過ごすシーンだ。

 

だが、ふと脳裏に過ぎる、彼女の寂しげな、切なげな、震える声。

 

放っておく、と言う選択肢はなかった。

 

がしがし、と頭を掻きながら、俺は扉へと向かう。

 

そして鍵を開け、ゆっくりと扉を開いた。

 

 

「…………何か用事か?」

 

 

出来るだけ平静を装い、抑揚に乏しい声で口にする。

 

開いた扉の向こうには案の定…………。

 

 

「良かったぁ。まだ起きてたんですね。」

 

 

なんて言いながら微笑む、あざとい後輩の姿があった。

 

 

 

 

「よいしょっ、と…………。」

 

 

突如として強襲を掛けてきたあざとマスターいろはすは、俺に確認を取ることもなく入室し、躊躇することなく、先程まで俺が倒れ込んでいたベッドに腰掛ける。

 

…………いや、流石にちょっと待ってほしい。

 

勝手に入室したことは良いにしても、普通男と2人きりで躊躇いなくベッドに腰掛けるだろうか?

 

おまけに、現在一色は呪いの法衣でも、食事時に来ていた町娘風の服でもなく、淡いピンク色のパジャマ(ボタンシャツとズボンに分かれたオーソドックスな薄手のもの)に着替えていた。

 

何で着替えてきちゃったの? 目のやり場に困るでしょうが。

 

理性の化け物と称された俺だが、別に異性を全く意識しないわけじゃないんですよ?

 

さっきからドギマギし過ぎて、若干息苦しくなってきてるんですが?

 

そんな俺の気も知らずに、一色は無情にもこんな事を宣った。

 

 

「先輩も座りましょうよ。立ってられたら、落ち着かないじゃないですか。」

 

 

ぽんぽん、と自分の隣のスペースを叩く一色。

 

俺はこの後輩が、何を言っているのか分からず、思わず半目でその顔を凝視した。

 

 

「な、何ですか? し、視線がやらしいですよ? と、というか、あまりジロジロ見ないで下さいっ。家族以外の男の人に、パジャマ姿なんて見せた事ないから、結構恥ずかしんですよ。」

 

 

…………じゃあなんで着替えて来ちゃったんですかね?

 

俺の視線から、身を守るように自分の体を抱く一色。

 

その様子に、俺はこいつが、恐らく何も考えてないんだろうな、という結論に至り、大きく溜息を吐いた。

 

これはもう、俺の精神的な安寧の為に、さっさと用を済ませてお引き取り願おう。

 

開き直った俺は、これまでの脱力感もあって、少し乱暴に、どかっ、とベッドに腰を下ろした。

 

 

「きゃっ!? …………もうっせんぱいっ!! わたしが座ってるんですから、もう少し気をつけて下さいよね!?」

 

「へーへー、悪うございました。で? 何の用だ? 明日早いから、さっさと寝たいんだけど?」

 

「むぅ、全然反省してないですよねそれ…………。というか、わたしの用事もまさにそれなんですけど?」

 

「はい?」

 

「明日の予定ですよ。先輩、何も言わずに、そそくさと部屋に戻っちゃうから。」

 

 

言われてから、はっとした。

 

そう言えば、夕食時の微妙な空気、もとい俺がちっちゃな黒歴史を刻む羽目になったきっかけは、一色が明日の予定について尋ねてきた事だったな。

 

精神的ダメージが大き過ぎて、完全に忘れていた。

 

 

「すまん。完全に伝えるの忘れてたわ。」

 

 

どう考えても俺の手落ちだったので、素直に謝罪する。

 

すると一色は、意外な事に居心地が悪そうに視線を彷徨わせていた。

 

 

「い、いえその、もとはと言えば、わたしがあんなこと言ったのが原因ですし。む、寧ろ話を逸らしてしまって、申し訳ないと言いますか、何と言うか…………。」

 

 

頬を赤らめ、謝罪らしき内容の発言をする一色だが、その声は尻すぼみで、最後の方は良く聞き取れなかった。

 

そんな後輩の殊勝な雰囲気に。

 

 

「お、おう…………。」

 

 

対人スキルのレベルが底辺の俺は、そんな間抜けな返事を絞り出すのが精一杯だった。

 

…………何この空気。

 

 

 

 

 

「ぎ、ギルドのお手伝いですか?」

 

 

再び訪れた微妙な空気を打ち消すべく、明日の予定を切り出した俺。

 

それに対する一色の反応は、全く訳が分からない、といった表情と今の台詞だった。

 

あと、どうでも良いことなんだが、手伝いを『お手伝い』って言っちゃうあたり、こいつのあざとさは徹底してるな、と感心してしまった。

 

 

「まぁ、そう言う反応になるだろう、とは思ってたがな。」

 

「いやだって、普通なら初心者向けのモンスター退治に行ったりするんじゃないです?」

 

「ゲームならそれで良いんだけどなぁ…………。」

 

 

これはゲームなんかではなく、紛れも無い現実だ。

 

素人に毛が生えた程度の初心者冒険者が、何の危険も無く相手出来るようなモンスターなんて、街の周辺に出没しようものなら、ワゴンセールの人気商品並みの早さで駆逐される。

 

結果、定番である薬草採集なども、危険がなければ冒険者に依頼を出すより、自分達で向かった方が安上がりだ、と殆どの者が考える。

 

そういった事情から、初心者向けの討伐依頼は、初っ端から一歩間違えば、命の危険を伴う、ウルトラハード仕様となっていた。

 

余談になるが、今説明した諸々の事情から、駆け出し冒険者は殆どが、無料で宿泊出来る馬小屋で寝泊りをするらしい。

 

衛生的にも感情的にも最悪だろうが、経済的に考えるなら合理的ではある。

 

俺一人なら散々迷った末に、結局馬小屋生活を選んでいたかもしれない。

 

話を戻すが、日銭を稼ぐ程度なら、土木工事等の肉体労働が、クエストとして斡旋されている。

 

とはいえ、それだと本当にその日の給料以外に得るものがなくなってしまう。

 

それはいかがなものかと思い、俺が目をつけたのが、ギルドの手伝い、という常設クエストだった。

 

 

「仕事内容としては、書類の整理や報酬の計算。女性の場合だと、依頼窓口で受付をしてもらう事もあるらしい。」

 

 

言いながら、俺は机に置いてあった紙、常設依頼書の写しを一色に手渡す。

 

 

「いつの間に用意してたんですか…………って、これ報酬凄くないですか!? この宿の宿泊費と1日の食事代、お風呂代なんかを差し引いてもおつりが来ますよ!?」

 

 

依頼書に目を通し、驚きの声を上げる一色。

 

お隣さんに迷惑だから、声のトーンは落としてね。

 

とはいえ、彼女の驚きは尤もだろう。

 

俺も元の世界で、多少なりサブカルを嗜んでいなければ、この報酬額にビビり、依頼を受けよう、などとは思わなかっただろう。

 

 

「最後の募集条件のせいで、殆どの冒険者が振るい落とされてるんだろうよ。」

 

「募集条件って、読み書き計算が出来る方って、こんなの誰だって出来るじゃ…………あぁ!」

 

 

改めて募集条件を見直し、一色はようやく俺の言わんとする事に気付いたのだろう、納得の声を零した。

 

そう、誰だって読み書き計算くらいは出来る。

 

それが、日本ならば、の話だが。

 

どの程度かは分からないが、この国の識字率はそう高くないのだろう。

 

現代社会でさえ、国外に目を向ければ、識字率の低い途上国なんてザラだっだのだ。

 

中世程の文化レベルしかないこの世界では、言うに及ばずだろう。

 

それは計算についても同様で、下手をすると四則計算の概念があるかすら怪しい。

 

加えて、この世界で計算が出来る、というのは相応の教育を受けた事の証であり、それなりの身分か裕福さの表れでもある。

 

そんな人間が、冒険者ギルドの手伝い、もっと言えば冒険者などという仕事に就く筈もなく、この依頼は常設でありながら塩漬けになっていたのだろう。

 

なお、冒険者ギルドの名誉の為に言っておくと、この依頼が常設となっているのは、ここ始まりの街アクセルのみらしい。

 

常に駆け出しの冒険者が増え続けるこの街では、ギルドは慢性的に人手不足なのだ、とルナさんが死にそうな顔で零していた。

 

…………お労しや。

 

 

「なるほど、報酬が高い理由は分かりました。確かにわたしたち向けの良い仕事ですね。…………アレ? でもそれって、報酬は良くてもレベルは上がらないんじゃ?」

 

「そりゃモンスターを倒さなきゃ、レベルは上がらんだろ。」

 

「特典の意味ないじゃないですか!?」

 

「別に延々とこの依頼をやるつもりはねぇよ。一先ずは5日間、この仕事をしながら情報収集と、戦い方を学ぶ。」

 

 

そう前置きをして、俺は改めて、一色に今後の方針を語る事にした。

 

これから5日間の方針。

 

それを端的に表現するなら、『チュートリアル』である。

 

ギルドの手伝い、というクエストを選んだもう1つの理由が、そこに保管された情報を閲覧できる、ということ。

 

ルナさんにも確認したが、冒険者ギルドには、各職業が習得出来る職業スキルや、習得者が稀なレアスキル、過去唯一の個人しか習得した者のないユニークスキルなどの目録、ギルドが把握しているモンスターの生態や懸賞金の目録などが保管され、随時更新されている。

 

そして、それらは冒険者から要請があれば、無条件に開示が許可されている。

 

尤も、あまりアクセルの冒険者は活用してない様子だが…………。

 

俺はそこまで大胆にはなれない。

 

命の危険がある仕事を、何の前情報もなしに請け負うなんざ、命知らずにも程がある。

 

そこで俺は、この5日間でそれら目録に目を通し、最適なスキル構成の模索と、今後相手にするであろうモンスターの情報収集、あとはついでにこの世界、この国の常識について学ぼうと考えた訳だ。

 

加えて言うなら、その為に俺は、初期のスキルポイントで、魔剣の運用に必要不可欠な両手剣スキル以外は習得していない。

 

スキルポイントとスキルは不可逆であり、一度使用したスキルポイントは戻ってこないのだ。

 

慎重にならない方がどうかしてる。

 

これには一色も同意見だったらしく、彼女も冒険者カードの機能確認の為、魔槍を操る為の槍スキルのみを習得したらしい。

 

さて、話を戻そう。

 

この点については、既にルナさんと話はついていて、空き時間や勤務後に、自由に必要な目録を閲覧する許可は貰っている。

 

そしてもう1つの予定である、戦い方を学ぶ、と言う事について。

 

こればかりは、いくら資料に目を通しても、どうにもならない。

 

そこでルナさんに、誰か戦い方を教えてくれるような人物に、渡りをつけてもらえないか、と交渉したところ、意外にも二つ返事で了承してもらえた。

 

というのも、戦い方を知らない駆け出し、というのは珍しい話ではないらしく、そういった連中が先達の指導を求める事は、良くある事なのだそうだ。

 

そのような場合の為に、ギルドでは対応可能な人材として、現役、引退者問わず数名の指導者を常に確保しているとのこと。

 

しかも、指導料は先行投資、という事でギルド持ち。

 

にも関わらず、やはりアクセルには命知らずが多いらしく、このシステムの認知度はまるで上がらない、とルナさんが悲しそうに呟いていた。

 

…………本当にお疲れ様です。

 

ともかく、ルナさんの計らいで、俺は勤務終了後に、元ソードマスターだというおっさんから、毎日2時間程度の稽古を付けてもらえる事になっている。

 

命がかかっているのに、そんな部活みたいな稽古時間で大丈夫なのか、と不安になったが、スキルによるアシストが前提である為、多少動き方を確認するだけで、必要充分以上の効果があるらしい。

 

本当にゲームのような話だ。

 

長くなったが、改めてこれから5日間の、俺たちの動きを確認しよう。

 

まず早朝から夕方まで、ギルドの手伝い及び、スキルやモンスター、一般常識について情報収集。

 

夕方、城壁の外で、元冒険者から戦い方を学ぶ。

 

中々にブラックな5日間になりそうだが、今後の生活が…………引いては命がかかっているのだ。

 

俺は断腸の思いで、無理やり自分を納得させる事にした。

 

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