この素晴らしくあざとい後輩との冒険者生活はまちがっている。   作:水刀 言心

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お待たせしました。

そして今回、話は進んでません。

2人がイチャイチャしているだけです。

2828したい方々、お楽しみ頂けると幸いです。


第6話 この寝不足のぼっちに睡眠を!

 

 

 

 

 

未だ薄暗さの残る早朝。

 

宿屋の井戸を訪れた俺は、上着を脱ぎ、ゆっくりと桶を引き上げる。

 

結局、あれからいろいろと格闘した末、ようやく眠気を感じ始めた頃、空には夜明けの足音が。

 

このまま寝たら、初日から遅刻、という冒険者として、というか社会人として致命的な経歴を作ってしまう。

 

そしてそれを阻止するため、まだ周囲が寝静まっているであろうこの時分に、水でも被って目を覚まそうとここを訪れていた。

 

引き上げた桶を持ち、張られた水に映る自分を見つめる。

 

昨夜、公衆浴場でも確認したが、本当に自分なのか疑わしいほど整った顔立ち。

 

しかし、その両目の下には、残念な事にくっきりと隈が現れ、心なしか昨日より目つきも胡乱だった。

 

それでも、以前に比べると遥かにマシだと思える辺り、以前の俺の目は、やはり死に切っていたのだろう。

 

若干の覚悟を決め、ばしゃん、と頭から水を被る。

 

 

「〜〜〜〜〜〜っっ、冷たっ!?」

 

 

井戸水が冷たい、という事は、知識として知っていたが、いささか甘く見ていた。

 

とはいえ、今はこの冷たさが有難い。

 

水気を拭う為、持って来ていたタオルに手を伸ばす。

 

ぬ? 目に水が入って、上手く取れん。

 

わさわさと、目を閉じたまま手探りでタオル掛けを探す。

 

 

「はい、どうぞ。」

 

「あ、ども…………。」

 

 

タオルが見つからず四苦八苦していると、不意に手に触れるようタオルが差し出される。

 

寝ぼけていた所為か、特に疑問を感じる事なく、軽い会釈と短い礼でそれを受け取り、髪、顔を拭く。

 

そしてようやく、何者かの乱入に気付いた。

 

 

「…………何してんの?」

 

「気付くの遅くないですかね…………おはようございます、先輩。」

 

 

呆れたような溜息を吐き、それから一転、あざといくらいに可愛らしい笑みを浮かべ、一色はそう口にする。

 

 

「…………おう。」

 

 

実際に顔を見たことで、昨夜の光景や感触が、鮮明にフラッシュバックする。

 

熱を持ち始めた頰を、タオルで覆い隠しながら、ぶっきら棒に短く返した。

 

つーか、何でこいつは平気そうなんですかね?

 

やっぱり遊び慣れてたりするの?

 

…………やめよう、この想像はよろしくない。

 

知らない男と遊んでいる一色を想像して、気が滅入りそうになったのは、きっと何かの間違いだと、俺はすぐさま思考を中断した。

 

俺はそんなにちょろくない筈だ。多分、きっと。

 

 

「でも意外でした。先輩はきっと朝弱いって思ってたんですけど、案外早起きなんですね?」

 

「いや、早起きというか…………。」

 

 

一睡もしてないだけなんですけどね。

 

流石にそれを伝える気にはならず、閉口してしまう。

 

 

「…………もしかして、寝てないんですか?」

 

「…………。」

 

 

察しが良いこの後輩は、押し黙った俺の反応だけで核心に辿り着いてしまう。

 

反射的に、タオルで顔を全て覆った。

 

 

「…………えいっ!」

 

「ちょっ!?」

 

 

しかし、無情にも剥ぎ取られてしまう、最後の砦。

 

そして、ずずいっ、と間合いを詰めて来た一色は、じぃっ、と俺の顔を見つめて来た。

 

ちょっ!? 近い近い近いっ!?

 

 

「うわっ、酷い隈じゃないですか!? ホントに眠れなかったんですね。あ、それでも目付きとか、前よりは酷くないんで、安心して下さい。」

 

「…………あぁそう。」

 

 

つい先程考えていた事を、他人の口から聞かされ、つい先日までの自分に同情した。

 

 

「…………もしかして、わたしの所為、ですか?」

 

 

申し訳無さそうな表情で、そう尋ねてくる一色。

 

今にも泣き出しそうなその顔に、寂しかった、辛かったと、涙に湿った声で訴えた、彼女の姿を思い出す。

 

…………やめてくれ。

 

別にそんな顔をさせたいわけじゃない。

 

転生してからこちら、俺はめっきり、こいつのこういう顔に弱くなってしまった。

 

人間強度が下がった、なんて笑い飛ばすこともできやしない。

 

だから、俺はいつものように嘘を吐く。

 

 

「…………バカ、そんなんじゃねぇよ。これはあれだ、俺も男の子だからな。夢にまで見たファンタジー世界での冒険に、胸踊り過ぎて眠れなかっただけだ。」

 

「…………ぷっ、何ですかそれ? 第一、冒険なんて先輩に似合いませんよ? そもそも、そんな男子高校生みたいな感性してないですよね?」

 

 

そんな俺の言い訳を、彼女がどう受け取ったかは、分からない。

 

それでも、彼女に笑顔が戻った事に、俺は小さく、安堵の溜息を零した。

 

…………返ってきた言葉は酷すぎるが。

 

 

「おい、男子高校生みたいって何だ。もろもろの事情で就職を余儀無くされたが、俺は昨日まで立派な男子高校生だっただろうが。」

 

「もしかして寝ぼけてますか? 立派ではなかったですし、先輩自身普通じゃないって自覚はありましたよね? なのに今更普通の男子高校生みたいなこと言われましても…………正直ないです♪」

 

「…………うわ、腹立つくらい眩しい笑顔をどーも。」

 

 

すっかり元の調子を取り戻した一色は、満面の笑みを浮かべ、奪い取ったタオルを差し出して来た。

 

 

「はぁ…………まぁ良いけどね。それはそうと、お前は良く眠れたみたいだな。」

 

 

先程の様子を見るに、未だ精神的に不安定な部分はあるのだろうが。

 

それでも、一色の血色は良く、俺のように睡眠不足や疲労感の滲み出た、草臥れた様子は見られなかった。

 

 

「は、はい、お陰様で。…………そ、その、さっき宿屋のおかみさんに伺ったんですけど、へ、部屋まで運んでもらっちゃったみたいで、あ、ありがとうございましたっ。」

 

「あ、ああ…………まぁいろいろあったし、寝落ちくらいするだろ? 気にすんな。」

 

 

頬を染めながら、恥じらうように感謝を述べてくる一色に、何となく気不味くなって視線を逸らす。

 

…………顔、あっつ。

 

 

「そ、それでなんです、けど…………せんぱい、寝てるわたしに、何もしてない、です、よね?」

 

「…………は? 何もって、え? 何が?」

 

「だっ、だからっ、その…………え、えっちぃ意味での、いたずら、とか…………?」

 

 

…………そんなに信用ないですかね?

 

もじもじと、言いづらそうに尋ねてきた一色。

 

その心配は尤もな事だし、そう思うのなら、思春期の異性の前で、そうやすやすと無防備な姿を晒さないで欲しい。

 

そもそも、そんな事を心配するくらいなら、昨日の抱擁は何だったのか…………と、そこまで考えたところで、再びフラッシュバックに襲われた俺は、かぶりを振って、昨夜の光景を頭から叩き出す。

 

 

「安心しろ。んなこと考える余裕無かったし、そもそも俺は一時の感情に流されて、人生棒に振るような恐ろしい真似はしない。」

 

 

尤も、一色との抱擁や、眠りについた彼女を運ぶ際、全く劣情を催さなかったかといえば、もちろんそんな事はない。だって男の子だもの。

 

とは言え、それをわざわざ口にする程、俺は命知らずではない。

 

 

「そ、そうですか…………まぁ先輩ですもんね。そんな事する度胸、無いですよね…………。」

 

 

…………何でちょっと残念そうなんですかね。

 

ここで迷える男子諸君らに、1つ重要な助言をしておきたい。

 

今のように、女子が「何で手を出さないのか?」みたいな事を、それはもう残念そうに聞いてきた場合、それを自身への好意だと解釈するのは、余りにも早計だ。

 

往々にしてその発言には、「弱みを握るチャンスだったのに」というような、出来れば知りたくなかった本音が隠れている事が常であり、よしんばそれが好意から来るものであっても、決して安易に「何? 俺のこと好きなの?」などと聞いてはいけない。

 

本当に自身への好意があったとしても、その場の雰囲気がそれを認める事を困難にし、「そんなわけないでしょ!」という台詞とともに、バイオレンスな制裁を受けたり、その後の関係がギクシャクしてしまうリスクが高い。

 

核心を突かれてなお、「うん、実はそうなんだ。えへへ。」などと、嬉しそうに微笑んでくれるような、そんな癒し系子犬女子は、画面の向こうか紙面の中にしか存在しないのだ。

 

故に男子諸君よ、現実を直視し、自身に言い聞かせて欲しい。

 

「そんなわけないだろ。」と。

 

分不相応な勘違いによって、自らを傷つけてしまわないように。

 

そして現状、一色の不安定さから、彼女の場合は、俺の弱みを握り、早々に俺が離れていかないよう、交渉材料を得ようとした、という可能性が高い。

 

別にそんな事をせずとも、いきなり放り出したりするつもりはないのだが、不安というものは、時に度し難い行動へと、人を誘うものだ。

 

こういう時は、正論を以って話を逸らすに限る。

 

 

「というか、そりゃ度胸あるなしの問題じゃなくて、誠実さの問題じゃねぇの? 曲がりなりにも、一緒に冒険者やろうって相手に、いらんことしてギクシャクするとか、想像しただけで胃が痛くなる。」

 

「それはまぁ、その通りですけど…………いえ、別に手を出して欲しかった訳じゃないですよ? でも、あれだけ無防備な姿を見られたのに、変な気1つ起こされない、というか、ドキドキしてもらえない、っていうのは、それはそれで、女子としてのプライドが傷付くと言いますか、なんというか…………。」

 

 

目論見通り、正論をぶつけられた一色は、慌てて付け加えたような前置きから、そんな事を言い始める。

 

何その面倒臭い生態。女子ってそんな事考えてんの?

 

…………まぁ、男子がどうしたらモテるか、なんて事を、至極真面目に考えているのと似たような話か。

 

ついでに言うなら、俺は別に変な気を起こさなかった訳ではない。

 

起こしかけたが飲み込み、任務(一色を部屋に送る)を優先しただけだ。

 

そもそも、変な気を起こさせる=女子として魅力がある、というのなら、一色にはそんな心配は無用だろう。

 

それを言葉にする為口を開いたのだが…………これが大きな過ちだったと、俺は後悔する事になる。

 

 

「…………んなプライドは、犬にでも食わせとけ。相手に悪意があったら笑えんだろ。そもそも、ドキドキしてもらえないことが不満、って言うなら、お前には無縁の心配じゃねぇか。パーソナルスペースは狭いし、スキンシップは多いし…………毎度毎度、どんだけドキドキさせられてる事か。そろそろこっちは心臓発作でも起こし、そ…………。」

 

 

言いかけて、ふと気付く。

 

俺は、一体何を口走ったのかと。

 

重ねて言うが、俺は一切寝ておらず、思考力は普段と比べ、遥かに鈍い。

 

その状況で、警告をしつつ一色を励ます、などという、善意から来る行動をとった為、いつもに比べ、言葉の吟味が不十分だった。

 

その結果、口から出た言葉は…………。

 

 

『毎度毎度、どんだけドキドキさせられてることか。』

 

 

…………ヤダこれ完全に自白ですね。(白目)

 

それなりに信頼して(くれてたらいいな)いる先輩からの、突然の衝撃告白に、当の本人たる一色はというと。

 

 

「え、ええと…………そ、そうなんですか。ドキドキ、してるん、です、か…………。」

 

 

完全に想定外の反応だったらしく、頬を赤らめ、恥ずかしげに視線を逸らしながら、右手で肩にかかる毛先を弄んでいた。

 

…………だから、そういう満更でも無さそうな反応はかえって困るんだよ!

 

そういうのが、罪もない男子たちを死地に送り込む羽目なるんだからなっ!?

 

などと訳の分からない事を心中で喚き散らすくらいに、俺は泣きそうになっていた。

 

やっぱ寝不足で下手な事言うもんじゃねぇな…………。

 

 

「…………後生なので、忘れて下さい。」

 

「え、あ、うぅ…………ちょ、ちょっと、無理、です、ごめんなさい。」

 

 

…………いつものキレはどこに行ったんですかね?

 

気まずい沈黙が流れる中、俺はいそいそと、脱いだ上着を着直すことしか出来なかった。

 

 

 

 

 

「そっ、そういえば! 先輩って着痩せするタイプだったんですね!?」

 

 

意外な事に、沈黙を打ち破ったのは一色だった。

 

あからさまに白々しく、気を遣っているのは一目瞭然だが、今はありがたく乗っかっておこう。

 

…………これ以上、黒歴史を増やしたくないしな。

 

 

「昨日抱きしめ…………さ、触った時も思ってたんですけど! 結構ガッチリしてると言うか、鍛えてるって言うか。ほ、ほら! 腹筋もバキバキですし!」

 

 

早速座礁しそうな助け舟に、思わずコケそうになる。

 

…………思い出して恥ずかしくなるくらいなら、何でああ言う事言っちゃうかな。

 

ともあれ、俺はせっかくの救助船が転覆する前に、その操舵を変わる事にした。

 

 

「見直してくれてるみたいだが、残念ながらお前の予想通り、俺は元々ひょろひょろだったぞ?」

 

「はい? え? だ、だって、腹筋がっつりシックスパックでしたよね?」

 

「思いの外しっかり見てんじゃねぇよ…………多分、これも特典の影響だろ。上がった筋力値の分、相応に筋肉が付いた、みたいな。」

 

 

思えば、転生した時から違和感はあったのだ。

 

そしてその違和感の正体というのが、猫背が治り、高くなった視点だった。

 

尤も、これに気付いたのは、昨夜公衆浴場で服を脱いだ時で、自らの身体つきが、理想的な細マッチョになっていたから。

 

恐らく、バランスよく筋肉が付いたおかげで、姿勢も矯正されたのだろう。

 

…………天界は、どんだけ俺を魔改造すれば機が済むんですかね?

 

そんな事を考えていると、目の前に立つ一色が、むぅ〜〜、なんてあざとい唸り声とともに、食事中の某げっ歯類の如く頰をぱんぱんに膨らませ、俺を睨みつけて来た。

 

何だそれ可愛いなおい。

 

 

「いや、何で睨むの? 俺何かした?」

 

「むぅ〜〜!! だって不公平じゃないですか! 先輩ばっかり顔が良くなったり、スタイル良くなったり! わたしだって、筋力値上がってるはずなのに、痩せたりスタイル良くなったりしてませんもん!」

 

 

俺に言われても知らねぇよ…………。

 

 

「そりゃアレだろ。誠に…………誠に遺憾だが、俺の素体が酷過ぎたってだけの話で、お前の場合は、ステータスの補正分、体付きをいじる必要がなかったんじゃねぇの? こんもりマッチョになんざ、なりたくないだろうし。そもそもそんな気にしなくても、お前元からかなり可愛いんだ、し…………。」

 

 

再び、俺は言いかけた台詞を思い返し、凍りつく。

 

やはり寝不足で他人のフォローなんてするもんじゃない。

 

今日の俺、口滑らせ過ぎだろ…………。

 

恐る恐る一色を見やると、両手で顔を隠していた。

 

ただし、髪から覗くその両耳は、俺が嫌いなトマトの如く、これでもかと言うほど赤かったが。

 

 

「…………忘れてくれ。いやホント、忘れろ下さい。」

 

 

動揺のあまり、妙な日本語で、そう懇願する。

 

しかし対する一色は。

 

 

「だっ、だから無理ですよぅ、もぅ…………せんぱいのばかぁ…………。」

 

 

くぐもった声で、そう余裕無さげに返すばかり。

 

こうして、一色が出してくれた助け舟は、ものの見事に轟沈したのだった。

 

…………やっぱ睡眠って、本当に大事なんですね。

 

 

 




最後までご覧頂き、ありがとうございます。

お待たせした割に、話が進まなくて申し訳ございません。

作者も執筆中、クエストまでが遠いなぁ、と八幡の用心深さを呪っております(エクストリーム棚上げ)。

それでは、今回の言い訳コーナー。


①八幡魔改造
筋力値上がってるのに、そのままひょろひょろ、ってことはないだろう。と言うわけで、細マッチョに。

以前も申し上げました通り、八幡がイケメンな方が、八色が捗りそうだな、というのも理由です。

外身を弄くり回した分、内面は八幡らしく描けるように努力する所存です。

②寝不足八幡オーバドライブ
八幡が、考えている事を無意識に口にして、女性陣を赤面させる、というネタを良く見かけます。

それをやりたかったんですが、実際、普段の八幡がそこまでストレートにやらかすことはないだろうと、このような変則的な形に。

寝不足だと、時々自分が何言ってるか分からなくなる事って、ありますよね? というお話でした。


毎度お待たせしておきながら、話が殆ど進まず申し訳ございません。

次回からは、もう少し話が進むと思いますので、今回は全話の後日談、と割り切ってお目溢し頂けると幸いです。

それでは、また次回の更新でお会いしましょう、
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