「それでは、ユキナリ様。そろそろ戦いに行って見ましょうか」
「おう!」
鎖帷子を装備して冒険者っぽい格好になった俺は気持ち高らかにアヤメと一緒に店を出るのだった。
それから俺達は城門の方に歩いて、城門を潜り抜ける。
城門の先は、見渡す限りの草原が続いていた。一応石畳の道があるが一歩街道から外れると何処までも草原が続いているくらいに緑で覆いつくされている。
「ユキナリ様。このあたりに生息する魔物はとても弱いです。初戦闘の相手としては良いと思います」
「そうだな。俺も自分がちゃんと戦えるかわかんないもんな」
しばらく草原をとぼとぼと歩いていると、なにやら目立つオレンジ色の球体のような何かが見えてくる。
「ユキナリ様、あれはオレンジバルーンです。とても弱いですが好戦的な魔物です」
オレンジバルーンって、随分とストレートな名前だな。個人的には、バルーンと言うよりボールな気がするが。
「ガア!」
凶暴な声と二つの凶悪そうな目つきが敵意を持っているのを感じさせる。
アイツ、小さい子とかが持ってるボールに似てるな。あれなんて言うんだろ。
「頑張ってくださいユキナリ様!」
「おう!」
カッコいい所を見せてやる。
俺は伝説の武器が宿っているであろう右拳を握りしめてオレンジバルーンに向けて殴りかかる。
するとバルーンはその場で跳ね返った。意外と弾力がある! これ、絶対バルーンじゃなくてボールだよ!
その跳ね返りを利用するかのようにオレンジバルーンはそのまま牙をむいて俺に噛み付いてきた。
「い!」
痛っ〜。こいつの攻撃、結構痛い。犬に噛まれるぐらい痛い。
「この! この、この!」
クソっ! 腕に噛み付いていて殴り難い。
それから、3分間必死に殴り続けた結果……パァン! と軽快な音を立てて、オレンジバルーンは弾けた。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
ピコーンと音がしてEXP1という数字が見える。
経験値が1入ったと言う訳か。
しっかし、これだけ戦って1とは……先が思いやられるな。
「これは……さすがに厳しいですね」
見ていた、アヤメが難しい顔で呟いた。
だよな。ゲームでいうところのスライムみたいな扱いのやつにここまで苦戦するんだもんな。
戦闘を初体験だとしてもスライムみたいな扱いのやつにここまで苦戦するんもんな。3分間、殴り続けないと倒せない攻撃力。囓られてた所から血も出てします防御力。
戦利品のオレンジバルーンの残骸を拾う。ピコーンと手の甲の宝石から音が聞こえる。
バルーンの残骸を宝石に近づけると淡い光となって吸い込まれた。
GET、オレンジバルーン風船
そんな文字が浮かび上がり、ウェポンブックが点灯する。
中を確認するとオレンジフィストというアイコンが出ていた。
まだ変化させるのは無理みたいだが、必要な素材みたいだな。
「今のが伝説武器の力ですか」
「そうみたいだ。変化させるには一定の物を吸い込ませると良いみたいだね」
「なるほど」
「ちなみにさっきの戦利品ってどれくらいの値段で売れるの?」
「銅貨1枚いったら良いくらいですね」
「……何枚集まれば銀貨1枚?」
「銅貨の場合は100枚です」
うーん。やっぱりどれぐらいの価値かわかんないなぁ。まあ、それは後々わかるだろう。
それより、戦闘をどうすれば………あ! そうだ! ここ、ファンタジーの世界だ!
「次は、私の実力を見せる番ですね」
「いや、その必要はないよ。アヤメが強いことはわかってるから」
アヤメは国に選ばれた人なんだし、十分強いんだろう。
それなら、俺は自分を強くする方を優先したい。
「それより、アヤメ。この世界ってどうやって魔法を覚えることができる?」
「魔法、ですか……」
そう! 魔法! 俺たち勇者を呼び出したのも召喚魔法だったし魔法は武器じゃないから伝説の武器の呪いを受けることは無い!
「ユキナリ様の考えはとても理に適っています。ですが、残念ながらそれは難しいと思います」
………えっ!?
「な、なんで!?」
「ユキナリ様。これは、なんと言いますか?」
唐突にアヤメが地面に指で何かを書いた。
「…………わかんないな」
「この世界の文字で書いた、私の名前です」
………この瞬間、俺は悟った。この世界の言葉は伝説の武器でなんとかなっているが、文字は読めないんだった。
「ユキナリ様が勉学に強くても、次の波までに文字を覚え、魔法を覚えるのは流石に無理があるかと」
「た、確かに……」
もはや、ぐうの音も出ない。
「………何というか、お手軽に魔法を覚える方法とかないかな」
って、無いよな。
「一応あるにはあります」
「あるの!!?」
「ですが、それには金銭面で問題が……」
アヤメの話だとこの世界で魔法を覚えるには大きく分けて2つだ。
1つは、単純に魔法書で習得する方。これだと、多くの魔法を覚えることができ、威力の調節などもできる。ただし、魔法書ではさっきアヤメさんが書いたこの世界の文字を覚えないといけない。
もう1つは、水晶玉での習得する方だ。魔法書と違い魔法文字を覚える必要がなくすぐに覚えることができる。しかし、水晶玉は高価でしかも水晶玉1つで覚えられる魔法は1つだけ。さらに威力が低く増減が難しい。
「水晶玉は、1つ購入するのに金貨5枚は必要です。銀貨にすると500枚になります」
俺たちの持ち金は王様からもらった銀貨600枚から武器屋のオヤジさんが負けてくれた銀貨50枚を引いた、銀貨550枚。
水晶玉1個買ったらヤバイじゃん。でも、投資と考えれば……
「宿代は大体、2部屋、銅貨60枚です。もちろん食事は別です」
9日しか泊まれねぇ!!!
「先に言っておきますが、ギルドに入るのも現状は無理と思います」
「え? なんで?」
俺からの疑問をアヤメはわかりやすく教えてくれた。
ギルドへの依頼はその殆どがが魔物の討伐や魔物が生息している場所に行き薬草なんかの採取とこれまた、ゲーム感全開である。
しかし、やはり現実、魔物に殺されるような弱い奴を雇うわけには行かず。登録の際に魔物との戦闘実技があるのだ。
「ーーーつまり、今現在オレンジバルーンにさえ苦戦しているユキナリ様ではギルドへの加入試験を間違いなく不合格してしまいます」
………八方塞がりじゃねぇか……
「ユキナリ様。焦る気持ちはわかります。ですが次の波までまだ、1ヶ月あります。ゆっくりとユキナリ様のペースで強くなりましょう。私も手伝います」
「アヤメ………ありがとう」
慰められてるとわかっていても……嬉しいな。
その後、日が傾く少し前まで草原を歩き、遭遇するオレンジバルーンやその色違いのイエローバルーンを割る作業を続けるのだった。
それでも、レベルは上がらなかった。
1日中、バルーン割りをして疲れ果てた俺とアヤメさんは町の宿屋に来ている。アヤメさんの言う通り、1部屋銅貨30枚。
「2部屋で」
「はい。ごひいきにお願いしますね」
宿屋の店主が揉み手をしながら俺達が泊まる部屋を教えてくれる。
俺たちはすぐに各々の部屋には行かず宿屋に並列している酒場で晩食を食べるついでに明日の方針を決めることにした。
アヤメが帰りがけに買った、周辺地図をテーブルに広げる。
地図を広げるとこの国の地形が大まかに分かる。
基本的に城を中心に草原が広がり、そこから森へ続く道と山へ続く道、他に川へ突き当たる場所や村がある道があるのだ。
あんまり大きな地図ではないので、近くの村もそんなに無い。
「ユキナリ様。この地図には載っていませんが先ほど戦闘をしていた草原の先にある森。そこを抜ければラファン村という村があります」
「ふむふむ」
注文していた料理を食べながらアヤメの話を聞く。
「そのラファン村近くには初心者向けのダンジョンがあります」
「ダンジョン……!」
おもしろそうだな! ネトゲだとモンスター狩りしかないけど。
「散々、色んな冒険者が入った場所なので宝などは無く魔物しか居ませんがLvを上げるには良い場所かと思います」
「おおっ!」
八方塞がりだった状況から希望が出てきた。
食事を食べ終え、一緒に運ばれた飲み物をグビッと飲み干した。
「……アヤメさん! 本当にありがとうございます!!」
「! ど、どうしたんですか? ユキナリ様、急に!?」
俺が頭をテーブルに叩きつけながら礼を言うとアヤメは慌てて理由を聞いてきた。
「いやだって。俺も尚文と同じでこの世界のこと何も知らないのに、アヤメさん。俺の仲間になってくれて……俺、おれ……」
「ユキナリ様?」
「Z〜Z〜Z〜」
「……寝てる」
この時の出来事は正直あまり覚えていない。ただ、1つだけわかったことがある。俺は非常に酒に弱い。
「うぐ……ひっぐ……」
どこかで聞いたことのあるすすり泣く声が聞こえた。
見てみると男の人が泣き崩れていた。その横でどこかで見たことある美人さんが慰めていた。
なんだろう、どっかで見たことあるんだけど……何処だろう?
「
「す、すまん。美穂」
仁……兄貴か! てか、兄貴はなんで泣いていたんだ?
「幸成くん。三上さんの家に行ったきり行方不明になっちゃって」
………えっ!? 行方不明? 俺が?
あ、そっか。俺、異世界に召喚されたから。日本じゃ、行方不明扱いになったんだ。
「う……うう……」
俺は、泣いてる兄貴を見て思う。これはきっと、夢だ………だけど、あっちじゃ本当に起きているかもしれない事だ。
「……ッ…! はぁ、はぁ……。やっぱ、夢だった……」
俺は目を見開き飛び起きると、周囲を眺めると見知らぬ部屋のベッドの中にいた。
いつの間に部屋に入ったんだ?
窓から景色を見るとまだ真夜中だ。
「………………」
この世界に来て2日ぐらいか。兄貴、心配しているんだろうな……
……眠れそうにないし、Lv上げにでも行くか。
部屋の扉を開けて廊下に出ると遠目にアヤメと尚文の仲間が立ち話をしている。
なんの話をしているのか気になるけど、今からLv上げに行くと知られたら止められそうだからやめとこ。
朝日が昇ってきた。
俺は初めて魔物が狩りをした草原でオレンジバルーンとイエローバルーンを倒している。腕の所々に噛み跡が残っている。まあ、噛まれ過ぎて途中からあんまり痛くなくなったし。しかも、8体目以降は噛み付く前に叩けるようになった。
しかし、あれだけ倒してやっとLv.2か。
ステータス
田村 幸成
職業 拳の勇者 Lv.2
装備 ヒューマンフィスト(伝説武器)
鎖帷子
スキル
魔法 無し
耐性 痛覚耐性
あれ? ステータスの項目1つ増えてる。痛覚耐性……これのおかげでバルーンの噛み付き痛くなくなったのか!
俺がマジマジとステータス画面を見ているとウェポンブック項目が点灯していた。
オレンジフィストLv.1/5
能力未解放……装備ボーナス:防御力1
イエローフィストLv.1/5
能力未解放……装備ボーナス:防御力1
能力未解放?
装備ボーナス?
それに武器自体にもLvがある。
なんのことだかわからない時はヘルプを見よう。
『武器の変化と能力解放』
武器の変化とは今、装備している伝説武器を別の形状へ変える事を指します。
変え方は武器に手をかざし、心の中で変えたい武器名を思えば変化させることが出来ます。
能力解放とはその武器を使用し、一定の熟練を積む事によって所持者に永続的な技能を授ける事です。
『装備ボーナス』
装備ボーナスとは、その武器に変化している間に使うことの出来る付与能力です。
例えばドラゴンブローが装備ボーナスに付与されている武器を装備している間はドラゴンブローを使用する事が出来ます。
攻撃3と付いている武器の場合は装備している武器に3の追加付与が付いている物です。
『武器Lv』
変化した武器で敵を倒した時、武器自体にも経験値が入る。Lvが上がると装備ボーナスの能力が上昇する。
つまり能力解放を行うことによって別の装備にしても付与された能力を所持者が使えるようになるという事か。
熟練度はたぶん、長い時間、変化させていたり、敵と戦っていると貯まるんだろうな。
武器Lvは………まぁ、戦ってたらわかるだろう。
それにしても、何処までもゲームっぽい世界だ。
さて、アヤメが起きる前に早く宿へ戻ろうか。
「いた! ユキナリ様!」
ヤバ! アヤメ、もう起きてた。しかも、肩で息を切らしているから結構前から俺がいないことに気づいて探していたのか。
「ア、アヤメ。何故ここに……」
「なぜって……少し気づいた事があって話そうと部屋入ったらもぬけの殻で……」
「へぇ、気づいた事ってなんなの?」
「それより! ユキナリ様は、ここで何をしていたんですか?」
ここは、正直に話すか。別に悪いことしてたわけじゃないし。
「ちょっと、Lv上げを……」
「何考えてるんですか!!」
ええ! なんで、怒るの!?
「ユキナリ様はご自身の実力をちゃんとわかっているんですか!? バルーンが集団で襲ってきたらどうするんですか!? バルーンより強い魔物に会ったらどうするんですか!?」
「うう……っ」
正論ばっかだ。ここで言い訳は逆効果だ。ここはーーー
「すみませんでした! もうしません!! 許してください!!」
言葉短く! 腰を低く! 情に訴えかける!
「……はぁ、わかりました。今後は、こんな無謀なことはしないでください」
「わかった!」
良かった〜。
「では、もう出発しますか」
「え!?」
「早くレベルを上げたいんですよね」
「あの……ちょっと休憩を入れてくれませんかね」
「行きますよ」
「……はい」
うう……っ。やっぱ、怒ってるよな。アヤメが言ってた気づいた事って、気になるけど聞ける空気じゃないよな。
俺がトボトボとアヤメの後をついて行くと目の前にいきなり、何かの画面が出てきた。
『アヤメ・キリノから同行者申請がきました。了承しますか? YES/NO』
同行者申請? これってパーティー組もうぜ的なやつか?
「知り合いの冒険者から聞いたんですが、同行者認定していれば私が倒した魔物でもユキナリ様にも経験値が入るんです」
「え! そうなの!?」
もはやどういう原理だ?
俺も一緒に戦っだ場合なら経験値が入るならわかる。でも、アヤメの言い方から考えてアヤメ1人で倒しても、同行者認定してさえしていれば経験値が入ると思っていい……のか? ここまでゲームみたいだと、本当にゲームの世界なんじゃないのか。
「ユキナリ様。そろそろ、森の中に入るので早く了承してくれませんか」
「あ、ああ。悪い」
アヤメに催促され、急いでYESに意識を集中した。
そうだ。この世界のことなんて気にしなくていいんだ。波を早く終わらせて。俺は、元の世界に戻るんだ!!
『アヤメ・キリノを同行者に設定しました』
続けて、アヤメの簡単なステータス情報に切り替わった。
アヤメ・キリノ
職業
装備 小太刀
忍装束
高っ!! Lv.38とか俺の19倍じゃん。これだったら、もっとキツイ場所でもなんとかなるんじゃないか?