幻想怪奇目録 ー人と天狗の奇妙な関係ー   作:ガーヘル313

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読んで頂きありがとうございます。

今回は全く幻想郷もそれに関連することも出てきません。
主人公サンカが幻想入りする前のお話になります。
続きは現在執筆中ですので、気長にお待ちください。


第一章 幻想入り
1話 事の始まり


 とある夏の日。大きな農家の前で道を尋ねる奇妙な出立の男と、目が白く濁った老婆がいた。

 男は夏場なのに長袖の白いシャツを着ており、腰には異国の外套を括り付け、黒い中折れ帽を深く被っていた。足元には、これまた黒いスーツが被せられた大型のリュックサックが置かれ、倒れないように男が手で支えている。

 

 端から見れば怪しさ満点の格好だが、老婆は臆する事も、不審がることもなく親切に道を教えてくれた。

 

 

「ありがとうございました。初めての土地なものでして」

 

「困ったときはお互い様だよ」

 

 老婆はニコリと笑みを浮かべたが、男は少し不思議に思っていた。

 

 この老婆、なぜこれ程暑いのに汗一つかかないのだろうか。自分は格好のせいもあって息も絶え絶えといった具合で、できれば今すぐにでも川なり池なりに飛び込みたいくらいだった。

 

 初めて訪れたこの地域は、盆地の為か想像以上に暑く、替えの服を購入するだけの資金も無かったため仕方なくこの服を来ているのだが、長袖の服を着ているのは老婆も同じであるため、条件はそう変わらない。

 

 なにか暑さを耐える秘訣でもあるのだろうか?それとも昔から住んでいる事からくる、ただの慣れなのだろうか?そんな事を考えていると、もう一つ、聞きたいことを思い出した。

 

 

「そういえば、この近辺で変わった事が起きると聞いたんですが……」

 

 男が唐突に切り出すと、にこやかな表情を浮かべていた老婆の顔が強張った。

 聞いてはまずかっただろうか。老人は何をきっかけに機嫌を損ねるかわからない。怒鳴り散らされ叩き出されるかと男は少し身構えたが、それは思い過しだったようで、暫しの沈黙の後、聞きたいのはこれか?といった態度と共に語りだした。

 

 

「天狗攫いの事だね?昔はよくあったよ」

 

 天狗攫い、というのはこれまでの旅で聞いたことのないタイプだった。大抵は土地神様やその地にいる何にも当てはまらない、所謂得体のしれない物の話だったりするのだが、今回は有名な妖怪、それも天狗である。

 大当たりだと心の中でガッツポーズをした男は、更に情報を引き出そうと、老婆に質問した。

 

 

「よくあった、という事は実際に起きていたという事ですね?言い伝え等ではなく?」

 

「そうだよ。私も不思議な物を見たものさね」

 

 男は目に見えて色めきだった。

 

 

「本当ですか?」

 

 急いで手帳を取り出し、先ほどの内容を慌てて書き込んで、老婆に続けるよう促すと、老婆はゆっくりと話し始めた。

 

 

「昔とある里に迷い込んでしまってねぇ。そこには黒い羽の生えた人が大勢いたんだよ。その人達は私に気づくと、早く帰れと言って追い出してしまった。その後もう一度そこに行こうと何度も出向いたけれど、何故かたどり着けなかったねぇ」

 

 男は食い入るようにその話を聞いていた。様々な土着のオカルト話を聞いてきたが、実際に【見た】という人が居て、そして【見た】本人が目の前にいるというこの状況はなかなかにおいしい。これは是非聞きださなくては。

 

「なるほど……それは一体どのあたりで?」

 

 新たに質問すると、老婆はうーん……と黙り込んでしまった。実体験だというなら猶更聞き出したい。のんびりと日本各地を放浪しながら生活する彼は、そういった地域でしか聞けない昔話や怪談が一番の楽しみなのである。

 

 

「ここから東へ行った処に昔からあるトンネルがあるんだよ。そこを抜けた先で見たね」

 

「トンネル……」

 

 男は東の方角を見やり、陽炎に揺らぐそれを見つめた。

 あまり目は良いほうではないが、薄ボンヤリと浮かぶそれはかなり古い代物に見える。

 

 

「お婆さん、それって何年前のお話になります?」

 

「そうだねぇ……私が坊ちゃんより少し歳下くらいの時だねぇ」

 

 (大分昔の話だな)

 

 それだけ古い記憶だと夢やなにやらが混ざりこんで、実際に有った事のように思い込むことがある。期待して聞いてみたが、これはハズレかもしれない。

 どうしたものかと思っていると、家の方から小さな女の子が水鉄砲を片手に走ってくるのが見えた。

 5~6歳くらいだろうか。白いワンピースに麦藁帽を被るその姿は、小動物の様な可愛さがある。

 

 

「おばあちゃん!」

 

「あらハルちゃん。どうしたの?」

 

「お母さんがスイカ切ってくれたの!一緒に食べよ!」

 

 女の子はキャッキャとはしゃぎながら、老婆の手をぐいぐい引っ張っている。これ以上此処にいては邪魔になるだけだ。暇を告げさせていただこう。

 

 

「お時間を取らせてしまってすみません」

 

「気を付けて歩いてね。熱中症にならないようにするんだよ」

 

「お気遣いありがとうございます」

 

 老婆が女の子に連れ添われながら屋敷の方へ消えていくのを見送ると、男はトンネルへ行くかどうか考えた。

 

 幸い特に今日は予定もない。例え老婆の記憶違いだとしても、ちょっとした散歩程度に考えればいいだけの事だ。時間は腐るほどあるし、田んぼ道を歩けば少しは涼しいかもしれない。

 

 

「散策してみるかぁ……」

 

 緩んできた異国の外套を腰にきつく巻き付けると、男は帽子を浅く被り直し、リュックとスーツを持って、のんびりと田舎道を歩き出した。

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