紫は幻想入りしたサンカの処遇を決めかねていた。このまま置いておくにしてもその力はあまりにも強大であるし、もし悪用されでもしたらたまったものではない。紫単独で制圧するのも十分可能であるが、その場合は痛み分けになるだろう。
一応はたてに懐いていて、それ以外の天狗達にも気前よく接しているので放任してこそいるが、餓鬼なのだから有無を言わさず処分してしまえという声も多く、短絡的に考えるのであれば殺すのが一番良い選択と考えられる。
だが長期的に考えた場合、必ずしも害になるとも言えないのだ。もしまたタタラのような霊夢でさえ手を焼く相手が現れた時、こちら側の切り札としても使えるだけでなく、能力の特性においても一線を画す彼を手元に置いておけば、平時においても抑止力として期待できる。恨みを持つ相手に度々襲撃されるとは思うが、そう簡単には死なないであろうし、問題とはならないだろう。
(結果的に運よく収まったけれど……)
実は、サンカとは外界で一度会った事がある。幻想郷を切り離す際に、人間を裏切って妖怪側に加担した男がいると小耳にはさんで顔を拝みに行ったのだ。
だが、そこにいたのは餓鬼の特徴を備えた男―サンカで、四肢が千切れ飛んでいるにも拘らず、報復にやって来たはたての母親を殺害し、その死肉を貪っており、最早人ですら無くなっていた。
あの時はさっさと帰ってしまったが、長い年月が過ぎたある日、幻想郷に迷い込んだサンカを見て、とても驚かされた。容姿も雰囲気も大きく異なっていたのも勿論要因であるが、あんな怪物然とした異形が目の前にいるひ弱な青年と同一人物だとは、今も信じがたいくらいだ。
そんな事情もあって餓鬼の唯一の生き残りは彼だとばかり思いこんでいたが、実際の生き残りは羅刹で、彼自身はその能力で肉体が変質したに過ぎなかった。
はたてに関しても、何度制裁を加えても博麗神社に忍び込んでは隙間を開こうとする奇行に悩まされていたが、まさか餓鬼と化したサンカを引き込む為にとった行動だったとは思いもよらず、同時期に正邪の手引きで侵入を目論んだ
結果的にサンカや霊夢達の働きによってある程度の解決は見込めたが、大量の死者の処理等まだまだ課題は山積みで、今年の冬眠はお預けになるだろう。
「それで、どうなさるのですか?」
藍が九本の尾をユラユラと揺らしながら、水入らずの一時を過ごす二人を隙間越しに眺める主に問うと、主は考える素振りも無く、即決で判断を伝えた。
「一先ず保留とするわ。今の所歯向かってくるでもないし、鴉天狗との約束を反故するのもね」
何しろ中途半端を嫌う閻魔まで巻き込んだのだ。誠意をみせなければ連日抗議を受ける羽目になるし、駒として扱われた(現在進行形で使われているが)サンカも良い気分はしないだろう。
紫の答えを得た藍は表情が幾分か和らぎ、承知しましたと深々頭を下げて部屋から出ていく。
「`輪廻を廻る程度の能力´を持った男、か……
運命があるとすれば、これも何かの廻り合わせなのかもしれない。紫は二人の間に存在する因果を想像すると共に隙間を閉じ、温みを帯びた空気を内包した部屋を後にした。