幻想怪奇目録 ー人と天狗の奇妙な関係ー   作:ガーヘル313

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11話になります。不快描写がありますので、ご注意ください。


11話 企み

「倒せた……のか?」

 

 一度能力を使うだけでかなり消耗したが、どうにか倒すことができた。ふらつきながらも傍に寄ると、物の怪は使い古した雑巾のようになっており、とても生きているとは思えない。加えて焦げた肉と掃除をしていない犬小屋を混ぜた様な異臭を放っており、思わず顔をしかめてしまう。

 

 

(一応死んでるか確認を……)

 

 顔だったと思わしき部位を力いっぱい蹴り飛ばすが、反応はない。完全に絶命しているようだ。

 

 能力が無ければ死んでいたのは自分の方だったのだろう。こんなのが他にもいるのであれば、案外幻想郷は恐ろしい場所らしい。今となっては、はたてが人間であるサンカを必要以上に心配するのも分かる気がする。

 

 

(それにしても、腹が減ったな)

 

 戦闘で体力を消耗したせいか、彼はとても強い空腹感を覚えていた。朝方に食べきれない物量を食べさせられたのだが、昼下がりなのもあってか胃がひもじさを訴えており、なにかねじ込んでおかなければ歩くのも困難になりそうだ。

 

 確かリュックの中に乾パンと金平糖があったなと死骸とは反対方向を向くと、真っ二つにされたリュックが無残にも転がっていた。残念な事に中に入っていた食料品は木っ端微塵になっており、蟻も集っているので食用には向かないだろう。

 

 ―死骸を横目で見る。

 

 

(いやいや。流石に得体の知れないのを食べるわけには……)

 

 当たり前の事だ。鹿やイノシシならまだしも、目の前にあるのは物の怪の、それも泥や毛まみれになった生肉である。こんな生ゴミも良い所の代物を食べようなんて、気が振れているとしか考えられない。彼にも人としての尊厳というのが多かれ少なかれあるのだ。

 

 だが・・・彼は口にしてしまった。口にせざるを得なかった。耐えがたい空腹感を押さえるために、本能が食えと訴えて止まないがために。

 

 物の怪の肉はとても硬く、血生臭くマズい。しかし二口、三口と進めるにつれ、我を忘れて死肉を漁る畜生のようにむさぼり始めた。肉を一通り食い尽くすと、今度は内臓をも食そうと手を伸ばし固まり、その場で嘔吐する。

 

 

「う、うぉえ……」

 

 不思議なことに胃からは何も出てこなかった。空腹感は収まりはしたが、口の中は血の味で満たされている。今日はこれ以上にない厄日だ。

 

 後悔の念に苛まれながらも立ち上がると、妙に体が軽い事に気がついた。頬に付けられた傷も埋まっているらしく、怪我らしい怪我も全てが綺麗に治っている。これは死肉を食べたせいだろうか?はたまた能力とやらが関係しているのだろうか?

 

 

「……そうだ、はたては」

 

 口の周りに付いた血を拭い取ってはたてに駆け寄ると、彼女の様態を確認をした。息は荒いものの傷は塞がり始めているので治療らしい治療は必要ないと判断したが、念のため能力を行使して治りを速めておく。

 

 

「ええと確か……准胝・不空羂索」

 

 以前唱えた言葉を呟きながら両手に力を籠めると、文の時と同じように青い光がはたてを包み込んだ。たちまちはたての意識が回復し、目を開ける。

 

 

「サンカ……」

 

「動かないでくれ。治療中だ」

 

「……あれは?」

 

 あれとはなにかと聞こうとしたが、直ぐに物の怪の事だと思い直した。サンカははたての目を見ながら、安心できるように優しい口調で語り掛ける。

 

 

「大丈夫。僕が倒した」

 

「サンカが?」

 

「うん。もう脅威はないよ」

 

 はたてが安堵の息を吐くと共に、能力を解いた。また疲労感に襲われると思ったが、その様な状態は待てど暮らせど起きなかったので、やはり物の怪の肉を食べたことが原因だろう。

 

 

「ごめん。私が怪我しなければ、サンカが余計な力を使わずに済んだのに……迷惑だったよね?」

 

 いつに無く落ち込んでいるらしいので、どうにかして元気づけたい。

 

 首を横に振って手を取ると、潤んだ彼女の目がこちらを捉えた。光の当たり具合によっては紫色にも見える薄茶色の瞳が、とても美しい。

 

 

「そんなことはないよ。僕は君に助けてもらった身だからね。むしろ、僕がここに来たいなんて言わなければ君が傷つくこともなかった。謝るべきなのは僕の方だ」

 

「……」

 

「それに、僕は君が好きだからね。これくらいの事なら易いよ」

 

「!」

 

 勿論変な意味ではない。人(天狗)としてである。はたてはその言葉をどう受け止めたのか、顔を赤くした。動揺しながらもサンカに確認する。

 

 

「す、好き?本当に!?」

 

「え?うん。そうだけども……」

 

「本当に!?本当なの!?」

 

「う、うん」

 

「そっかぁ……好き……好き……フフフッ」

 

 はたての反応がおかしい。まさか攻撃された際に雑菌が入って熱を出しているのだろうか。

 

 不安になっていると、ポツンとなにか冷たい物が落ちてきた。どうやら夏の風物詩こと夕立らしい。此処にいてはずぶ濡れになってしまうだろう。

 

 サンカは散らばった荷物の中で使えそうな物だけ回収すると、その中にあった雨合羽を広げてはたての方を見た。

 

 

「なんてタイミングの悪い……急いで帰ろう。雨だ」

 

「好き……好き……」

 

「はたて?」

 

 ボソボソと同じ言葉を繰り返しているようだ。近づいて聞こえる様にもう一度声をかける。

 

 

「は・た・て!」

 

「!!……な、なに?」

 

「雨が降ってきたよ。急いで帰ろう」

 

「あ……そう。そうね」

 

 体を引き起こすと、彼女は少しよろめいた。どうやらこの能力では傷は回復しても、体力までは回復できないようだ。この状態で人一人を抱えて飛ぶのは無茶だろうが、幸いな事に天狗の里はそう遠くもないので歩いて行ける。

 

 サンカは合羽をはたてに着させると、彼女を背負う。

 

 

(随分と軽いな)

 

 歩き出すと、本格的に雨が降り始め、あっという間に道に小川ができた。雷も鳴っているが、なんとかなるだろう。

 

 不意にすうすうと寝息が聞こえた。顔を覗き込むと、はたては安心しきった顔で眠っている。

 

 

(かわいいもんだな)

 

 サンカは寒さからか、彼女を起さないよう小さくくしゃみをした。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

「紫様。あの者の能力が本格的に覚醒したようです」

 

 ある屋敷の中、そこには美しい女性が居た。その女性はキツネの耳と9本の尾を持ち、凛とした表情で紫に報告している。紫は手に持っていた扇を閉じると、その女性を見据えて、少々どうでも良さげに扇を振って見せた。

 

 

「そう」

 

「よろしいのですか?あれは幻想郷の脅威にもなりえます。即刻地獄に送るべきで―」

 

「大丈夫よ。自分の事はなにも覚えていないようだし、放っておいても害はないわ」

 

「しかし……」

 

「藍、心配するのは分かるけれど、彼の能力は外界からここを守る切り札にもなり得るのよ。うまく利用すれば私達にとって利になるわ」

 

 藍と呼ばれた女性は紫の答えに納得したように返事をすると、紫はよろしいと頭を撫で、本音を見え隠れさせながら不気味に笑った。

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