幻想怪奇目録 ー人と天狗の奇妙な関係ー   作:ガーヘル313

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微ヤンデレ(?)回です。ゆっくりお楽しみください。


12話 条件

 這う這うの体で何とか里に辿り着いた頃には雨が止んでおり、日没が近い茜色の空の下、水たまりで遊ぶ子供達が目に映った。

 

 はたても移動中に全快したらしく、自力で歩き回ることが出来るようになっていた。それどころか走っている。どうやら天狗の回復速度は非常に高いらしく、多少羨ましくも思えた。

 

 

「本当に大丈夫か?良ければ家までおぶって行くぞ?」

 

「いいの。もう歩けるし、サンカも疲れたでしょ?」

 

「あやや?思ったよりも早かったですねぇ」

 

「文!」

 

 何気ない会話をしながら階段をゆっくり登って行くと、文がカメラを片手に待ち構えていた。彼女は明るく手を振るはたてを素通りしてサンカの前で立ち止まり、目にも留まらぬ早さでカメラのシャッターを切ったが、何をするか大体予測がついていた被写体(サンカ)は即座に顔を隠し、なんとか撮影を免れた。文の悔しそうな舌打ちが聞こえる。

 

 

「おかえりなさい!なにか収穫はありましたか?」

 

「頼むからもう写真は撮らないでくれ……通り魔事件は解決したよ」

 

「本当ですか!?早速その時のことを詳しく聞かせてください!!」

 

「悪いけども、今は見ての通り濡れ鼠なんだ。また今度なら少し―」

 

「あ、此処じゃ往来の迷惑になりますもんね。なら、私の家でじっくり取材と行きますか!ささ、どうぞこちらへ!」

 

 話を全く聞いていない。どうにもこの天狗少女がいると調子が狂うと、サンカは改めて思う。

 そこで、顛末を簡潔に教えて切り抜けようと試みると、隣から殺気が混じったはたての視線が送られているのに気づき、思わず開けかけた口を閉ざした。それは文に送られているらしいが、当の本人は全く気付いていない。

 

 ふと、はたてが視線を文からサンカに移す。その目からは光が消えて瞳孔が開ききっており、表情は冷ややかだ。

 

 蛇に睨まれたカエルのように硬直していると、彼女に腕を強く引っ張られた。鋭い痛みが走り、悶絶する。

 

 

「っ!!」

 

「?」

 

「文、サンカは今疲れてるの。構わないでもらえる?」

 

「そうなの?じゃあまた今度にするわ。サンカさん、お邪魔しました」

 

 文が軽く会釈をして階段を下っていくと、直ぐにはたてがすり寄ってきた。動作は愛らしさもあるが、何か裏があるように思えて仕方がない。そんなはたての目には光が戻っている。

 

 

「ねえねえ、今日あった出来事を記事に纏めていい?」

 

「いてて……記事?」

 

「そう!私も新聞を書いているのよ。でも、あまり購読者が多くなくて……だから、文の新聞には載ってない内容を書いて、新しさを出せないかなーって」

 

 嫌だとは口が裂けても言えなかった。またあの光のない目で見られたらと思うと、大人しく`お願い´に従うしかない。二つ返事で構わないと伝えると、彼女はとても喜び、サンカを置いていく勢いで家へと駆けて行った。

 

 

「元気だな……」

 

 無意識に掴まれた腕を摩る。そこには、はたてが掴んだ痕がくっきりと残っていた。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

「終わったー!」

 

「お疲れ様」

 

 はたての新聞製作が終わったのは、完全に日が落ちてからだった。お茶を注いで彼女に持っていくと、お礼を言って受け取ってくれた。

 その様子を見て少し考えたが、意を決したようにはたてへ話しかける。

 

 

「あの、話があるんだけども」

 

「何?」

 

「……僕は、ここから出て行こうと思うんだ」

 

 これがいけなかったらしい。はたては持っていた湯呑を落とすと、素早くサンカに掴みかかった。壁に追いやられる格好となり、手首を拘束されてピクリとも動くことが出来ない。

 

 彼女は見てくれこそ少女であるが、男であり大人であるサンカが、本気で抵抗する事すら許さない膂力を備えている。その気になれば骨を粉々に砕くのも容易い筈だが、絶妙な力加減で自由を奪っているのは、相手が格下の弱い生き物だと弁えているからだろうか。

 

 

「……して」

 

「は、はい?」

 

「どうして?なんで出て行くなんて言うの?ねえ?」

 

「ちょ、ちょっと少し落ち着い―」

 

 ヒュッと思わず声が出た。彼女は暗く澱んだ目を見開いており、頬に溢れた涙が伝っている。

 

 その形相はサンカにとって、これまで相対した誰よりも恐ろしく見えた。はたては壊れた機械の如く同じ単語を繰り返し、段々と声を大にしていく。

 

 

「なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで」

 

「はたて、お、落ち着いて……」

 

「好きって言ってくれたのは嘘だったの?それとも私に悪い処があるの?それならすぐに直すし、幾らでも貴方の好きな私になるわ。だから出ていくなんて言わないでよ?それとも……他に好きな女が出来たの?」

 

 何か結論が出たらしく、遠慮する必要が無くなったのか、腕に込めた力が徐々に増している。動脈を圧迫されて血の巡りが悪くなっているせいもあって指先の感覚がぼやけて来ており、このままでは殺されてしまうと確信した。

 

 なんとかこの状況から脱出しなければならないと、サンカは声を絞り出すようにして理由を話す。

 

 

「ぼ、僕は……僕は君を死なせかけてしまった。あんな事を言ったせいで危険な目に遭わせたし、それなのに此処に居据わるのもどうかと思うんだ。それに僕はまだ君に何もしてやれていないし……」

 

「……」

 

 自分でも何を言っているのかわからないし、最後の方は消え入りそうになってしまったが、言わんとする事は伝わったらしく、はたての動きが糸の切れた人形のようにピタリと止まった。

 

 相変わらず目に光はないが、本当か?と聞かれているような気がしたため、サンカは首を何度も縦に振る。するとはたては拘束を解き、徐々に冷静さを取り戻していくのが分かった。サンカはそんな彼女の涙をハンカチで丁寧に拭き取り、好転させるために取り計らう。

 

 

「で、出て行かなくても良いのなら、僕が出来る事であれば遠慮なく言ってほしいんだ。罪滅ぼしを望むんだったら何でもやるよ。だ、だから―」

 

「……」

 

「でしたら、私から提案があります」

 

 はたての背後に隙間が開き、狐らしい耳と尻尾が生えた、奇抜な服装の女性が現れた。その女性は鋭い目つきで威圧しながら二人を一瞥し、間に割って入った。




キャラクター紹介

箕作サンカ 幻想郷に迷い込んでしまった青年。自分の事はほとんど覚えておらず、能力が使えることも知らなかった。子供に好かれやすい性質で本人も子供に甘いが、おじちゃんと呼ばれる事に苦悩している。好物は鮎


姫海棠はたて サンカを拾った元引きこもりの天狗少女。花果子念報という名前の新聞を発行している。明るく活発な性格だが、時折暗い感情が見え隠れしている。サンカについて何か知っている様子。能力は念写

射命丸文 花果子念報のライバル誌、文々。新聞の発行者。少々強引な性格のため、サンカからは苦手に思われている。実は3天狗の中では一番年上で、はたての持つサンカへの恋心に薄々感づいている。風を操れる能力を有する


犬走椛 白狼天狗の少女。物語に登場する三天狗の中では一番若く、まだまだ見習う事が多い。命令を聞いてくれない部下が悩みの種で、想定外の事に弱く、鴉天狗とは不仲。堅苦しく思われる事が多いが、甘党で世話焼き。能力は千里眼


八雲紫 幻想郷を作った賢者の一人。隙間を行き来する事が出来る特殊な力を持っている。美人だが掴みどころのない性格で不気味。サンカについて何か知っているらしく、意味深な発言が目立つ。境界を利用する事で隙間を開き、空間を行き来する事が出来る


八雲藍 紫の式神。真の姿は九尾の狐で、基本的に下と見ている者には高圧的に接している。計算は極めて速いが、想像を行うのは不得意。式神を操る事が出来る
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