幻想怪奇目録 ー人と天狗の奇妙な関係ー   作:ガーヘル313

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15話になります。ごゆっくりどうぞ


15話 前触れ

 はたては藍に宥めてもらい、落ち着きを取り戻しつつあった。

 

 そんな彼女の前に、サンカと話を終えた紫が、寝起きでボサボサになっている髪の毛を整えつつ現れる。

 

 

「確かに突然の事で驚くかもしれないけど、条件を呑んだのは貴方たちよ?これくらいの事、慣れてもらわないと困るわ」

 

「幾らなんでも無茶苦茶すぎるわ。私から彼を引きはがすなんて、彼を奪うつもり?」

 

 発想が飛躍しすぎだ、と藍はため息をつく。こんな女に拾われたあれも苦労しているのだろう。憎むべき対象にあまり同情はしたくないのだが、これではせざるをえない。

 

 紫は薄笑いを浮かべつつ、明後日の方向を見ながら、二人の耳にも良く聞こえる声量で独り言を述べた。

 

 

「まあ、あの子がこのまま罪を背負って生きて、地獄のような苦しみを味わい続けるのも見ものね。案外悪くなさそう」

 

「このっ!」

 

 怒りを再度曝け出したはたてを取り押さえようとするが、細身の体の何所にそんな力があったのか、藍は弾き返されてしまった。

 

 この行動は想定内だったのか紫の余裕ある表情は崩れず、彼女は隙間を作って手を突っ込み、はたての足首を掴んだ。

 

 

「きゃ!」

 

 はたてはバランスを崩したことで床へ前のめりに倒れる。再度襲ってくるのを予想しているのか、相変わらず紫の手は足首をがっちりと掴んでおり、解放する気配はない。

 

 髪の毛を整え終えた紫が隙間から出てくると、地に伏したまま顔を上げて睨むはたての耳元で、低く、威圧するように言い放つ。

 

 

「協力しなさい。あの子を殺したくないのならね」

 

 薄っぺらな笑みには悪意が滲んでおり、はたての体から冷や汗がブワッとあふれ出たのが見て取れる。

 

 用も済んだことだし、と紫は悪意を引っ込めると、帰ることを藍に伝え、隙間へと入っていった。藍も追いかけるように隙間へ入ると、はたてへと振り返り、哀れみの表情を浮かべて消えて行った。

 

 

(……そうだ、能力で―)

 

 隙間が閉じると共に自由になったはたては、直ぐに携帯を取り出してサンカの名前を入力し、彼がどこにいるのかを探す。今は数秒でも離れていたくない。また独りぼっちになるのは嫌なのだ。

 

 彼女はサンカの安否を確認すると、自身を頼ってくれるその人物の居場所を知る為、有用な能力を持つ椛を呼び出しに外へ飛び出した。

 

 

◆◆◆◆

 

 

 どうしたものか。もう大分歩いてはいるが、あの老人以外人に会えてない。この近くには村はないのだろうか。

 地面がアスファルトではないため照り返しは少ないが、相変わらず日差しは強く、このままでは熱中症になるのは時間の問題だろう。

 

 と、滲む夏景色の向こうに、建物が幾つか建っているのを見つけた。思わず浮足立つ。

 

 例え無人だったとしても一度涼む事ができるし、人がいるなら願ってもいない。

 今回はいつもの異国情緒あふれる(中折れ帽とマオスーツ、アフガンマント)服装ではなく、はたてに貰った甚兵衛を着ているため、誰がどう見ても現地の人間だ。追い返されることも恐らくはないだろう。

 

 

「すみませーん。誰かいませんかー?」

 

 入口にあった建物に声をかけるが、返事は帰ってこなかった。どうやら留守にしているらしく、その他の家々も回ってみるが、人っ子一人いない。

 村はよく手入れされており生活感もあるので、まだ何人が暮らしているのは間違いないのだが、静まり返った様子は、多少の気味の悪さを伴っている。

 

 

「よっと……」

 

 勝手に上がり込んで泥棒と間違われるのも嫌なので、木陰の下に座り込んで一息つくことにした。人の気配が無いのは気がかりだが、変な物もいないのでゆっくりできる。空を見上げれば雀が飛んでいるし、周りは蝉が騒がしく鳴いていて、平和その物だ。

 

 

(はたてが心配だ。なんだか無駄足になりそうな気がするし)

 

 いっそ片付けた体にして帰ろうかとも思ったが、ここが幻想郷のどの辺りなのか見当もつかない。もし端っこだったら、徒歩で戻るのに一日はかかるはずだ。それにもし紫に嘘がばれたら、五体満足でいられる保証もないだろう。

 

 

「空を自力で飛べればなぁ」

 

 ぼやき、ぐっと伸びをして休憩を終わらせると、木に体重を預けながら起き上がった。

 

 

(誰だ?)

 

 誰かに見られている気がして息を殺す。妖怪・物の怪ではないのは確かだが、では人なのかと言われれば少し違う。その視線は一か所から向けられているので、とりあえず声をかけてみる事にしよう。もし怪異なら探す手間も省ける。

 

 

「だれかいるんですか?」

 

 返事はなかったが、代わりに物陰から小さな女の子が現れた。上質で小綺麗な着物を着ている。

 

 意外な者が出てきた事に驚いたサンカは、少女に恐る恐る近寄ると、屈んで彼女の顔を見た。その子の目は焦点が合っておらず、何かに怯えているようだった。

 

 

「あぁ……ビックリさせちゃったみたいだね。僕はこの辺りで変わったものを見たって聞いて来たんだけど、なにか知らないかな?」

 

 子供から得られることは大人より多く、子供ならではの柔軟な発想は、時に思いもよらない恩恵を与えてくれる。高い頻度で嘘や空想が入ってしまうのが難点だが、それを判別するのは容易い。メモ帳を取り出し様子を窺う。

 

 

「飴は要る?チョコレートもあるよ」

 

 落ち着かせようとしたが、女の子は距離を取るように離れて行ってしまった。見知らぬ人間がお菓子をあげると言ってくれば、警戒して避けるのは当たり前だろう。それにしても女の子一人しかいないのは何故なのか。

 

 と、その子が再度物陰からじっと視線を送り始めた。近寄るとまた一定の距離を開ける様に歩き、こちらを見て……というのを繰り返している。ついてこいという事だろうか?

 

(口で言わなきゃわからないよ)

 

 サンカはその女の子に誘われるように、トボトボと歩きだした。

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