幻想怪奇目録 ー人と天狗の奇妙な関係ー   作:ガーヘル313

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残酷描写があります。ご注意ください。


16話 千夏

 小さな女の子は、村の裏に広がる山へと入って行った。自分より遥かに歩きにくいであろう着物を着ているのに、気づけば女の子はかなり先の方を歩いており、サンカは少なからず怪しんだ。

 

 推定で齢4~5歳。はたてよりも幼い子供―それも女の子が、歩きにくく重たい着物を着用し、獣道と呼んで差し支えない藪の中を、大人よりも早く動けるなんて信じがたい。幾ら山で鍛えられているからと言えど無理があるのだ。

 

 疑念を抱きながら藪をかき分け、襲来する大きな蚊を潰して進むと、目的地までの案内を終えたのか、彼女はサンカをじっと見つめ佇んでいた。こちらが息も絶え絶えなのに対し、呼吸が乱れた様子も無く、益々人間かどうかも怪しく思えた。

 

 

「まったく……何がしたいんだ君は」

 

 女の子は問いを無視し、見てこいと言わんばかりに鬱蒼と茂った草木を指差す。試しにかき分けてみると、まるでなにかが腐敗したような悪臭を嗅ぎ取り、顔を背け、咳を一度する。こんな山の中まで案内しておいて、狐か狸の死骸でも見せようという魂胆か。

 

 サンカはしかめっ面で一気に草木をかき分け、臭いの元を見る。

 

 

「うおっ!?」

 

 広がっていたのは凄惨な光景だった。確かに死体はあったが、それは狸でも狐でもなく、人間の、それも大人から子供までの10から13体程の大量の遺体だ。散らばった肉片や脳髄と思しき物からはウジが湧きだして蠢き、羽化した蝿の群れが黒い霧のように形を変える。

 

 

「うっ……」

 

 何故今まで感じなかったのかと思う程の凄まじい悪臭だ。吐き気を覚えたサンカは女の子を置き去りにしてその場から離れ、新鮮な空気を肺一杯に吸い込む。まだ少し臭うが、あの近くで長時間臭いを嗅ぐよりマシだ。

 

 

(くそっ、なんて物を見せるんだ!!)

 

 息を整えて吐き気が引くのを待つと、手で鼻と口を覆って先ほど見た遺体の状態を頭に浮かべる。

 白骨化している物もあれば、肉片がまだこびり付いている物もあり、腐敗度からしても死んだ時期はバラバラらしい。臓器は丸々なくなっており、無理やり引きちぎったらしい事が窺える。骨の大きさから推定すると、女子供が多いようだ。肉質が柔らかく力も弱いので優先的に襲っているのだろうが、野生動物であんな真似が出来るのは熊くらいしかいないだろう。

 

 

「あれ?あの子は?」

 

 冷静に分析する自分自身に引きつつ、先ほどまで一緒に居た女の子がいなくなっているのに気づく。目を離してまだ数秒しか経っていない。辺りは開けており、足音も無く走ったとしても、あの派手な着物ならすぐ見つけられる。それなのに、最初から誰も居なかったように、忽然と消えたのだ。

 

 

(やっぱり人外か?だとすれば留まるのは危険か)

 

 一旦麓に戻ろう。背筋に寒い物を感じ、サンカは先ほど歩いてきた獣道を下り、麓へ急いだ。

 

 

 

 先ほどと変わって、村には数えるくらいの人が屯していた。彼らは皆憔悴しきっており、中には怪我をしている者もいた。サンカは死人のようにぐったりしている彼らから長と思わしき人物に近づき、何があったのかを尋ねる。

 

 

「なんだ?アンタは」

 

 男は疲れ切った顔で返した。警戒されていると思ったサンカは事情を話し、再度何があったのかを問うと、男はボソボソと聞き取りにくく言葉を発する。

 

 曰く、最近現れるようになった見た事の無い異形が、山に踏み入った村人を攫ってしまうのだと言う。立ち寄った際に誰も居なかったのは、その異形を討伐するべく総出で山狩りをしていたためで、今こうして戻って来たのは、待ち伏せしていたそれの奇襲に会い、命からがら逃げかえってきたから、という事らしい。

 

 

「どこに行っちまったんだか、皆山に入ったっきり帰ってこねぇ。このままじゃあ全員いなくなっちまう。そうなる前にあれを退治しねえと」

 

「……それ、僕に任せていただけませんか?」

 

 自分にはスペルや名も知れぬ人智を超えた能力がある。練習には天狗である文や椛に付き合ってもらったため、どんな相手であってもそれなりに戦える力もついてきている自信はあった。

 

 男は何を馬鹿なと怪訝そうにしていたが、サンカは対抗できる証拠を見せようと、深手を負った何人かを能力を行使して治癒してみせる。急速に癒えていく傷口を目にして彼らは驚いていたが、たちまち目つきが厳しい物へと変わり、厳しい口調で、

 

 

「その力……お前妖怪か?」

 

 村人らに緊張が走る。サンカは慌てて否定し、外界から来た人間であると伝えると、彼らは納得したように頷いた。

 外界からきた人間は皆能力が使えると思っているのか。外から来た人間の前例として守矢の巫女とやらがいるらしく、彼女もそういった能力を持っているのだそうだ。

 

 

「では決まりで?」

 

「……ああ、アンタに任せるよ。女房と娘の仇をとってくれ」

 

 娘?そいえば、あの女の子は誰の子供なのだろうかと思い出し、男にこんな事があった、と話してみる。すると、

 

 

「そりゃ千夏じゃねえか?」

 

「間違いねえ、千夏だ」

 

「千夏?」

 

「村長の一人娘だったんだが、1年前の七五三の時にフラフラッと出て行ったっきりで、未だに返ってこねえんだ。きっとあの化け物に食われたに違いねぇ」

 

 一年前となるとあの女の子はやはり人ならざる者だったのだろう。サンカは冥福を祈りつつ、村人達に更なる情報を与える。

 

 

「あの子が僕をあの山のある場所に連れて行ってくれたんです。そこに遺体が何体かありました」

 

「本当か!?」

 

「はい。案内しましょうか?」

 

「頼む!」

 

 男らは鍬や鉈を手に取ると、サンカの後に続いた。

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