「此方です」
遺体のあった場所まで案内すると、村人達は無惨に殺された者たちを目の当たりにして嘆き、憤慨した。サンカと会話をした男も力なくへたり込み、呆然として遺体の一つ一つを手繰り寄せては、もう二度と光の宿る事の無い相貌を覗き込み、涙を流す。
「必ず、必ず仇を取ってくれ」
「勿論です……さあ、此処は危険です。引き揚げましょう」
村の人々には単独で討伐を行うと伝え、夜間は家の外に出ないように固く釘を刺すと、彼らは頷き、遺体の回収作業を始めた。大きい物は簀巻きにして運び、小さい肉片などは極力拾い集めて頭陀袋に詰め、広場で纏めて荼毘に付すらしい。
大切な誰かを亡くした悲しみは計り知れない。肉親や親友といった存在を知らないサンカには一生縁はないのだろうが、その気持ちは痛い程伝わってきた。
「お主」
「はい?なんでしょうか?」
「儂も力になれると思うのだが、若者よ、どうか討伐の手伝いをさせていただけないかな?」
とある老人が一緒に仇を討たせてくれと頼んできた。束ねた白い長髪に緑の紋付袴を着たその老人は、一振りの太刀を背中に背負っており、好々爺とした雰囲気とは裏腹に、眼光は冷徹なまでに冷たい。ただ者ではなさそうだ。
「よしとけよ隠居爺さん。アンタももう歳なんだ、そっちの兄ちゃんに迷惑かけちまうだろ」
聞くに、老人は魂魄妖忌という名前で、隠居目的で最近定住して来たのだそうだ。妖忌は怪物騒ぎの度に討伐を名乗り出てはいたものの、かなりの老体という事もあり、半ば軟禁される形で止められていたらしい。
サンカもその老体では危険だと忠告するが、妖忌は鞘から太刀を抜き、近場にあった枯れ木を鮮やかに両断してみせた。中々の腕前だ。
「儂にも弟子を取って師範もしていたくらいの腕はある。これでも頼めないかの?」
「……わかりました。ですがご自身の身はご自身でお守りください。良いですか?」
「承知した」
他の村人達は反対していたが、サンカは妖忌の殺気だった気配に二つ返事で承諾した。
この老人はまだ闘い方を忘れてはいないのだろう。一人よりは二人、それも幻想郷で生活している人間がいる方が有利に立ち回れるし、もし役に立たなかったとしても、自分が陽動すれば逃げる時間くらいは確保できると彼は履んだのだ。
遺体の回収が終ると、村人達は別れを告げて下山し、二人で怪物が来るのを待った。
「ここはよく冷えますね。夏とは思えない」
「山越えした風が勢いを増して吹き降ろしておるからの」
日はとっくに沈んでおり、時折吹く強風が木々に反響して不気味な音を立てる。麓に見える村に灯った灯りを見て少し安心感を得られたが、その明かりが遺体を燃やしている炎かもしれないと思い、複雑な心境になる。
妖忌は刀を取り出して刃の具合を確かめると、暇つぶしに思い出話を聞かせてくれた。
昔はとある高名な人物に仕えていたが、その人物は大食いで手を焼いていた事、本来は庭師の仕事をしていた事など、聞いていて面白い話だった。
「その時に剣の指導もしていたのだが、指導相手が儂の孫娘でな。立派な剣士に育てるつもりが、少し頭が固くなり過ぎた」
「ははは……」
和やかに会話をしつつ、松明に火を付ける。寒くていられないのもそうだが、明かりが無ければ敵も見えないくらい、暗いのだ。
「ん?」
不意に血なまぐさい臭気と生暖かさを感じた。空気も重たいものに変わっていて、巨大な野生動物と相対した時の独特な圧迫感を覚える。
(来たか)
かなり近くに`それ´はいる。サンカはスペカを取り出し、いつでも行使可能な状態にしておくと、妖忌も気づいたらしく、手入れを止めて刀を構えた。
「来ましたよ。覚悟はいいですか?」
「とっくに出来ている。お主は敵を恐れていないか?」
「……少しだけ」
こうして軽口を叩いていられる余裕はあるのだから、お互い大丈夫そうだ。目前の藪がガサガサと揺れ、黒い塊のようなものが現れると共に、血の匂いが濃くなった。松明の明かりが、それの姿をしっかりと映し出す。
「君は確か……」
現れたのは、昼間に案内してくれた女の子だった。だが、異形と呼んでも差し支えないくらい、昼とは似ても似つかぬ姿で、ぽっかりと開いた眼孔から血の涙を流し、人の物とは明らかに異なる鋭い牙の隙間から涎をボタボタと垂らす、おぞましい見た目をしていた。
体をブルリと震わせ、踊る様な動きで駆け、高く跳躍する。黄ばんだ牙をむき出しにして飛び掛かってくるそれは、もはや醜い怪物そのものだ。
やられる前にやらなくては。サンカはスペルを宣言する。
「スペルカード!
二人の前に小さな光弾が壁上に展開されると、光弾達は辺りが昼間のように明るくなる程の青白い光をまき散らしながら、群れたムクドリの声にも似た音を立てて怪物に殺到した。
怪物は避ける動作が欠落しているのか、そのまま弾幕に突っ込んで自分から攻撃を浴びたものの、決定打とは成り得ていないらしく、想定内ではあるが依然として動き回っている。
それもその筈、千軍獣葬は本来攪乱や威嚇等に用いる弾幕であり、見た目が派手なのと速度が速い割には威力が低い。例えすべての攻撃を当てたとしても、倒すのは厳しいであろう。
ではなぜこの弾幕を使ったのかと言えば、他はどれも威力が高すぎるため、不用意に使って妖忌を巻き込まない保証が無いためだ。
(妖忌さんは?)
隣に目をやると、彼の姿がない。どこへ行ったと探していると、ぎゃあっという男とも女とも解らない悲鳴がし、血濡れの頭が転がって来た。どうやら妖忌が切り落としたようだ。サンカは反射的に蹴り飛ばし、頭は闇夜へと消える。
「どうやって討伐するのかと思えば、弾幕を使えるとはな、若者よ」
「まあ、はい。練習中ではありますが」
他愛も無く討伐を終え、緊張を解いた妖忌が刀を鞘に納め、怪物の死骸に背を向けた―
「ぐうぅ!!」
斬り落とした怪物の首から新たに頭が生成され、油断している妖忌の利き腕に食らいつく。彼は苦悶の表情を浮かべつつ、刀を再度抜刀しようとするが、利き手を封じられた上に長い刀身が仇となり、鞘から引き抜けないでいる。
「儂ごとコヤツを討て!」
「そんな事をしたら、妖忌さんが!」
「多少の攻撃は耐えれる!早く討て!」
迷っている暇はない。サンカはスペカをもう一枚取り出し、再度宣言した。
「スペルカード!