幻想怪奇目録 ー人と天狗の奇妙な関係ー   作:ガーヘル313

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18話です。ここまで続いたのは皆様のおかげです。本当にありがとうございます。
それでは、今回もゆっくりお楽しみください。


18話 内緒事

 全力ではいけない。サンカは能力を最小まで絞り、手中に赤黒く光る針を一つだけ作ると、妖忌の体が隠れるのを見計らって投擲した。

 

 針は分裂して正確に標的を穿つ。着弾箇所がボコボコと膨れ上がり、異形は爆発して赤い霧になった。妖忌は衝撃波で吹き飛ばされると、老体とは思えぬ俊敏な動きで上手く着地し、利き手とは逆の手で太刀を抜き放ち、降ってくる肉片を文字通り細切れにする。

 

 

「不覚だ。まさか一撃貰うとは」

 

「仕方ありませんよ。あれでは誰もが勝ったと思います」

 

 怪物の肉はまだ少し動いてはいるが、プラナリアでないのだからまさかここから増えたりはしない筈だ。

 

 

「う…かはっ……」

 

 後ろの鬱蒼とした草むらから空気の漏れる音がした。昼の女の子の物のようで、蹴り飛ばした頭から鳴っているようだ。妖忌を座らせると、草むらに松明をかざし、頭を探す。

 

 頭はすぐに見つかった。不思議な事に切断面からは血が出ておらず、顔は昼間に見た人間の顔に戻っていた。頭は声帯諸共切断されているため声が出せないものの、ゆっくりとではあるが、口を動かして何か喋ろうとしている。その為サンカは、おおよその口の動きから言っている事を予測していく。

 

 

(……ありがとう?)

 

 ありがとう。確かにそう言っている。首はその一言を伝えると、虚空を見つめたまま反応を示さなくなり、完全に死亡したことをサンカに知らせた。表情はどこか明るく、喜んでいるようにも見えた。

 

 わからない。サンカは感謝されたのが理解できないまま首を荼毘に付し、座っている妖忌の元へ戻る。

 

 

「立てますか?」

 

「どうにかの。しかし、お主は本当に人間なのか?随分と霊力が多いようだが……」

 

「は?」

 

「……いや、気にするな。さて、お主に頼みが―」

 

「いた!」

 

 妖忌の声を遮り、聞き覚えのある声が耳に入る。見上げると影が二つあり、うち一つは高度を急激に下げて降りてきていた。見覚えのある黒と紫を基調にした服を纏った少女と、白い髪に狼の耳と尻尾が生えた少女だ。あれは哨戒天狗の椛と―

 

 

「はだッ!!」

 

 言い終わる前にはたての頭突きを腹部に受け、数m吹っ飛ばされて倒れる。

 

 胃酸が上がって吐きそうになるのを堪え、体にしがみ付いているはたてを引き剥がそうとするが、力が強すぎて離れてくれない。それどころか離そうとすればするほど、離れまいと爪を肉に食い込ませて抵抗してくる。

 

 

「はたて……苦しいし痛いよ」

 

「やっと見つけた……やっと……」

 

 ふと小さく嗚咽しているのに気づき、胸元に湿り気を覚えた。泣いているのだろうか。そっと抱き寄せると、サンカの背中に回された彼女の腕に力が入り、嗚咽がより激しくなっていく。

 

 

(心配させすぎたか。予定よりもかなり遅くなったし)

 

 頭を撫でて落ち着かせようとするが、中々収まる気配がない。

 

 以前にも一声かけず数分ほど出歩いた時、彼女はパニックを惹き起こし、サンカを探し回って傷だらけになっていた事があった。たかが居候にそこまで依存する理由は知らないが、それからは極力一緒に居る様に気を使っている。

 

 だが、やはり単独で行動できないのは困ったものだ。サンカはなんとかしなければと、宥めながらいい案を模索した。

 

 

「まさか天狗と知り合いとはの」

 

「知り合いと言うより、はたて様にとっては知り合い以上かもしれません」

 

 妖忌はサンカ達の様子を見ながら、隣に降り立った椛と会話をしていた。

 

 彼女ははたてにお願いと言う名の強要で、仕方なしに自身の能力である≪千里先まで見通す程度の能力≫でサンカを探し出し、此処まで来たのだ。はたての能力では何所に居るかまで分からないからこそ引っ張り出されたが、折角の休日で惰眠を貪っていた所を叩き起こされたのだから、迷惑千万、煮え湯を飲まされた気分である。

 

 妖忌は椛の含みを持たせた発言に片眉を上げるが、意図を掴んで納得とも驚きともとれる表情をした。

 

「人と天狗がか……奇妙な関係だな」

 

「ええ……あ、そうだ。妖忌さん、次回の対局ですが、明後日に如何でしょうか?」

 

「うむ、よかろう」

 

 二人は以前から面識があり、時折将棋をする仲である。そんな将棋の実力は妖忌の方が勝っていて、340戦中330敗北という有様ではあるが、次の対局まで戦略を練って挑むのが、椛の数少ない楽しみだった。

 

 申し込みを受け入れた妖忌に対し、椛は疲れた笑みを浮かべ、はたての元へと歩み寄り、彼女を諭す。

 

 

「はたて様、一度離れましょう。サンカさんが嫌がってますよ?」

 

「大丈夫だよはたて。僕は自分からは何所にもいかないからさ」

 

 嫌がっているつもりはないのだが、そろそろ背骨が悲鳴を上げ始めており、体の彼方此方が痛み始めているのがはっきりと分かる。下手すると一生離れ離れになる可能性もあるので、解放してもらわないとまずいのだ。

 

 二人に促されたはたては、真っ赤になった潤んだ目でサンカを見つめ、一つの条件を提示する。

 

 

「あと1分だけ……あと1分だけでいいから、こうさせて……」

 

「はいはい」

 

 それで放してくれるなら安い物だ。撫でるのをやめて、今度はしっかりと抱擁し返す。

 

 月夜に照らされる彼女の髪は、艶やかな光を反射しており、少し動くたびに石鹸の良い香りがする。

 

 

「……落ち着いた?」

 

「うん。ありがと」

 

「終わったかの?」

 

 時間ピッタリに抱擁を終えると、妖忌の声でハッと我に返った。顔を両手で覆ってふさぎ込み、人前でこんな事をするなんて馬鹿にも程があるだろうとサンカは赤面して呟くが、気にしているのは椛だけで、妖忌はなんとも思っていないらしく、話しを続ける。

 

 

「続きだが、もし儂の孫にあったとしても、儂が何所にいるかは教えないでほしいのだ」

 

「何故です?お孫さんの顔を見たくないんですか?」

 

「見たいところだが、これも修行の一環でな。もし教えたなら、会いに来てしまうかもしれんからのう」

 

「そういう事でしたら、まあ」

 

 会うとは思えないが、懇願されたら断れない質なので一応承諾はしておく。サンカは妖忌に別れを告げ、はたてに抱えられて夜空へと飛び立った。




なぜ女の子がありがとうと言ったのかは、読者の皆様のご想像にお任せします。
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