幻想怪奇目録 ー人と天狗の奇妙な関係ー   作:ガーヘル313

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19話目です。ごゆっくりお楽しみください。


19話 八目鰻

 少しお腹が空いたかな。満月が大きく見える雲一つない夜空の中で、サンカははたてに運ばれながら空腹を訴えていた。

 

 カマイタチモドキを喰らって以来、能力を使うと猛烈に何か食べたくなる衝動に襲われるようになった。今回も空腹の余り討伐した異形を食べようかと思案したくらいだが、妖忌やはたての前で、それもウゾウゾと蠢く肉片を見れば食指も失せてしまい、こうして宙ぶらりんにされながら申告するに至った。

 

 因みに、はたて達天狗を含むすべての妖怪から危険視されてしまうので、妖怪を喰らった事はまだ誰にも教えていない。

 

 

「小腹が空いたの?う~ん……それじゃ、ちょっと寄り道してく?いいお店知ってるから」

 

「!ひょっとして、あそこですか!?」

 

 いいお店という単語を聞いた途端、椛は目を輝かせ、普段の落ち着きっぷりからは想像もつかない調子で尻尾を振る。反応からするに、さぞ美味な一品を共する店なのだろう。

 

 

「そんなに良いお店なのかい?」

 

「屋台なんだけど、そこで出す料理がとっても美味しいの。きっと気に入るわよ!」

 

 椛は早く早くと急かし、少し先の方を行く。少なくとも彼女はサンカより遥かに年上なのだが、言動は幼っぽさがあり(そしてフカフカの尻尾も)、彼は妹のように接していた。

 

 しかし、一言二言会話をするだけでも、はたてから刺すような殺意と視線を絶え間なく送られており、あまり気は休まらない。それに、椛と会話を終えて話題をはたてに向けると、鳥餅の如くベタベタとくっついてくる始末だ。最近では文と話していても同様で、意図の見えない行動に少なからず恐怖心を抱く事もあった。

 

 そうして思案している間に霧の立ち込める湖と紅い屋敷を越えると、二人は何かを探すように地表を見渡し、目を凝らす。件の屋台を探しているのだろ*9う。一緒になって探してみると、山の中腹に薄ボンヤリした明かりが見えた。

 

 

「いたいた。今日はあそこでお店開いているのね~」

 

「まだ始まったばかりだと良いんですけど」

 

「なにか問題があるのか?」

 

 心配そうにする椛に質問すると、彼女は恥ずかしそうに

 

 

「いえ、その・・・目当ての物が無くなってるかもしれないので」

 

 と答えた。意外と食い意地を張っている。椛は待ちきれないらしく、先に急降下していく。

 はたてもサンカに負荷をかけないようにゆっくり降下し、屋台の前に降り立つ。

 

 屋台は牽引式の小型の代物で、使い古された椅子に八目鰻と書かれた赤い提灯が目を引く。奥では奇抜な格好をし、異形の翼に小さな羽らしき耳が特徴の女性が、なにやら熱心に焼いていた。うねうねとのたくった形で串に打たれた鰻(?)からタレが炭に落ちて爆ぜ、香ばしい香りと共に食欲を刺激する。椛の姿もあり、既に席について一杯始めている。

 

 

「いらっしゃ……あら、はたてさんこんばんは。人間のお連れ様は珍しいですね」

 

「最近一緒に暮らし始めたの。ミスティア、注文は二人分の鰻と冷酒でお願いね」

 

「ああ待ってくれ。僕はお酒飲めないんだ……ごめん」

 

 冷酒と聞いてサンカは慌てて断った。彼は酒類にめっぽう弱く、ビールでも一口飲み込めば吐き気と悪寒に襲われてしまうのだ。はたては酒が飲めないなんて損をしていると言うが、飲めなくても生きていけるのでなんて事は無い。

 

 

「わかりました。少々お待ちくださいね」

 

 ミスティアと呼ばれた女性は水の入ったコップをサンカの前に出すと、新しい鰻を取り出して手際よく焼き始める。鰻なんて久しく食べていないので楽しみにしていたが、焼いている物をまじまじと見て、楽しみが不安へと変わっていく。

 

 鰻とは言うが、今焼いているそれは本家鰻とは似ても似つかぬ八目鰻だ。昔食べた覚えがあるが、硬くてとても食えたものでなかったと記憶している。本当にそんな物が美味しいのだろうか?

 

 疑問をミスティアに投げかけつつ見ていると、視線に気づいた彼女は微笑み返して来た。どうやら自信はあるらしく、任せてくださいと言う。

 

 

「そういえば、サンカさんって人間換算で二十代でしたよね?それなのに、その……失礼なんですが白髪が目立ちますし、時々歳以上の風格というか、私達天狗くらい生きてきたような気がしてならないんですよね」

 

 椛が話しかけてきた。既に軽く酔っている。

 

 

「んー、もしかしたらそうかもしれないね。二十代って言うのも周りの人から見た評価を加味した結果だし、本当は三十路かもしれないし、四十路かもしれない」

 

「え!?そうだったんですか!?」

 

「僕には数年前くらいの記憶しか残っていないんだ。自分が誰だったか、何をしていたのか……本当に自分が何者なのかわからないんだ。そもそも人ですらないかもしれないし」

 

 何気なく明かりに手をかざしながら答えを返す。白髪が目立つのはそれだけ気苦労が絶えなかったのだろうし、歳以上の風格とやらも、それだけ修羅場を潜って来たという意味なのだろう。

 

 と、ミスティアがコンガリ焼けた八目鰻と冷酒を三人に差し出した。上手く焼けてはいるが、色合いも相まって蛇のようにも見え、食べるのを少し躊躇する。

 

 

「冷めないうちに頂きましょ!これを食べに来たんだから!」

 

「じゃ、じゃあ、いただきます……」

 

「どうぞ、召し上がってください」

 

 恐る恐る齧ると、甘辛い味付けにコリコリした食感で中々悪くなかった。あの時は下処理せずただ焼いただけだったので、不味く感じられたのかもしれない。

 

 食べ進める速さが増すのを見たはたては嬉しそうに、

 

 

「ね?美味しいでしょ?」

 

 と言った。これははたてが食べたがるのも頷ける。サンカはもう一本注文し、サービスで用意してくれた白飯を掻っ込む。

 

 

 

 

(あれ?サンカさんの髪……)

 

 椛は酒を含みながら、食事を取るサンカを見て違和感を感じ取った。心なしか白髪が減り、若返っている気がしないでもない。

 

 

(……まあ、いっか)

 

 違和感があるように感じるのは酒のせいだろう。椛はそう決めつけると、空になった酒のお代わりを頼んだ。

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