幻想怪奇目録 ー人と天狗の奇妙な関係ー   作:ガーヘル313

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おまたせしました。ようやく幻想入りします。
駄文ですが暖かい目で見守ってください。


2話 遭遇

「あっついなぁ」

 

 蝉が忙しなく鳴いている中、小さな山の麓にたどり着いた男は汗をぬぐいながら呟いた。

 

 

(死にそうだ。蝉はうるさいし汗で気持ち悪いし)

 

 ついさっきまで散歩程度と考えていた自分を殴りたい、と男は思った。田んぼ道を歩くので少しは涼しいと思っていたが、その予想は大きく外れていたのだ。

 

 刺すような夏日を身に受け、帽子を手に取ってパタパタと扇ぐ。少しでも涼しくなればと願ったが、くたびれた帽子からは熱風が送られてくるのみだった。

 

 ふと近くの木に蝉が止まり、けたたましく鳴き始める。

 

 

「なにがミーンだこの野郎」

 

 馬鹿にされている気がして怒声を投げ掛けると、蝉は殺気を感じ取ったのか一声鳴いて飛んで行ってしまった。

 男は急に冷静になり、ため息をついて汗ばんだ頭をワシャワシャと掻く。そして蝉相手に何を怒っているんだと呟きながら、彼は視線を前に向けた。

 

 

「おばあさんの言うトンネルって、これ……だよな?」

 

 目の前のトンネルは人一人が如何にか通れるような大きさだった。入り口はレンガ作りだが中は手掘りらしく、ゴツゴツとした岩肌が見てとれる。

 更には灯りの類は無く、苔むしている上に蜘蛛の巣も張っていて、暫く使われていないのは明白だ。

 

 

「ここを通るのか……」

 

 げんなりしながら蜘蛛の巣を払い中へ足を踏み入れる。

 トンネルの中は風が吹いていて肌寒く、天井から染み出た水が地面に落ちる音が響いていた。足元には水溜りが点々とできており、時折そこに踏み込んではザブザブと飛沫を上げる。

 

 あまり長居はしたくないので足早に抜けると、そこには人の手が入っていない森が一面に広がり、鳥のさえずりが聞こえるなんの変哲もない山の上からの風景が広がっていた。

 先へ先へと続く獣道と大差ない道は、遠くに見える黄金色に染まった地域(恐らく向日葵畑)へ向かっているようだ。

 

 

「なんだ、何もないじゃないか」

 

 あの老婆、やはり記憶は不正確だったようだ。分かっていた結果ではあったが、男は今来た道を引き返そうと、気を落としながら振り返った。

 

 

 トンネルがない。

 

 

 5秒くらい思考が止まっていたが、すぐにトンネルのあった場所へ駆け寄り、岩肌を撫でた。硬くひんやりした感触が手に伝わってくるので、紛れもない現実である事が分かる。

 

 

「嘘だろ……」

 

 男は自身を落ち着かせるため、冷静さを欠きながらも思考を巡らせて現象への理由付けを試みたが、納得の行く説明は思い付かず、とうとう頭を抱えて踞ってしまった。

 

 よく考えてみれば、トンネルの中は坂道でもなかったのに、麓から入って山の上に出るのもおかしい。ならばここは老婆の証言した異界である可能性がある。

 老婆はすぐに帰されたと言っていたが、周りには誰もいない。土地勘も無い上に人に遭遇出来るかも分からないこの場所から、一体どうやって帰れば良いのだろうか。

 怖いもの見たさでとんでもない事をしてしまったと、男は後悔を募らせた。

 

 

「そこで何をしている!この場所は人間の来る場所ではないぞ!」

 

 不意に頭上から声がした。今度は何だと見上げると、白い山伏服に黒いロングスカートを着た小さな少女が、木の上から此方を睨んでいた。一枚歯の下駄を履いているのにどうやって上ったのか不思議だが、枝の上で器用に立っている。

 

 

(こんな山の中に女の子?)

 

 理解が追い付かずに見上げていると、少女は木から目の前に飛び降り、威圧するように大刀を向けてきた。

 

 

(この娘……人間じゃない?)

 

 その姿に、男は息を呑んだ。

 にわかには信じがたいが、彼女には狼のような白い耳と、フワフワの尻尾が生えていたのだ。それらは時々本物のようにピョコピョコと動いて見せ、男の視線を釘付けにする。

 状況からするに、彼女こそが異界の住人なのだろう。老婆が遭遇した異形とは大分姿形が違うが、少なくとも言葉は通じそうな相手である。男は対話を試みた。

 

 

「あの、トンネルを潜ったら此処に着いてしまって、僕はこっちの住人じゃないと言うか、その……」

 

「……こっちの住人?トンネル?」

 

 的を射ない男の言動に、少女は怪訝そうに眉を潜めた。男は自分のおかれた状況を要点を纏めつつ、少女から矢継ぎ早に繰り出される質問に身振り手振りを交えて応えていく。

 

 

「なる程。つまり貴方は、不思議なトンネルを通って外界から幻想郷に迷い込んで帰れなくなってしまった、と」

 

「は、はい」

 

「……そうでしたか。そういう事情なら仕方ありませんね。私にも仕事があるので持ち場から離れられませんが、下山するまではお供します」

 

 警戒こそ解いて貰えなかったが、事情を理解した少女は幾分か穏和になってくれた。

 幻想郷という聞きなれない地名は気になったが、一先ず安全は保証されたと考えて良いだろう。

 少女は大刀を腰に下げた鞘に仕舞うと、さあと手を差し伸べた。男も起き上がろうと手を伸ばそうとした-その時である。

 

 

「どうしたの~椛?なんか面白そうな事してるじゃないの。その男をどうするつもり~?」

 

 不意に鈴を転がすような声が聞こえ、頭上から降り注ぐ木漏れ日が遮られた。それと共に強い風が吹き荒れ、木々が騒々しく揺れる。

 

 

「はたて様!いいえ、違います。彼は-」

 

 少女は驚愕した表情で、何者かへの言い訳を始めた。男も光を遮っている物が何なのか気になって恐る恐る見上げると、上空を軽やかに羽ばたく少女と目が合った。

 

 紫を基調とした現代的な衣装に、色素の薄い整った顔立ち。癖のかかった茶髪をツインテールに分けた少女は、一見すれば極普通の女の子にしか見えない。

 しかし背中から伸びる烏を連想させる一対の黒い翼が、彼女が人ではない別種の生物である事を強く主張していた。

 

 

(夢でも見てるのか?僕は……)

 

 あまりにも現実離れした光景をみた男は、考えるのを止めた。

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