幻想怪奇目録 ー人と天狗の奇妙な関係ー   作:ガーヘル313

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20話目です。暫くはのんびりした調子でお届けします。それではお楽しみください。


20話 たわいもない用事

 どうしてこうなった。

 

 雀の鳴く声で目が覚めると、すぐ隣ではたてが寝ていた。記憶にある限り、昨日は家まで帰った後、酔っ払った彼女を自分に宛がわれた寝室に寝かせ、サンカは作業部屋で外套を被ってごろ寝した筈だ。

 それなのに、この部屋は作業部屋ではなく寝室であり、しかも同じ布団で仲良く並んで寝ているのである。

 

 時計を見ると、時刻は7時42分。もうすぐ文が新聞を配達しにやって来る時間だ。こんな状況を彼女に見られたら、どうせ録な事にならない。その前にここから抜け出さなければ。

 

 はたてを起さないように、非常に緩慢な動作で布団から這い出て立ち上がると、欠伸をして土間の方へと歩き出す。

 

 

「待って……」

 

「ひょ!?」

 

 前触れ無く右足を掴まれて変な声を出してしまった。振り向くと、寝ぼけ眼を擦りながらはたてが起き上がるところだった。

 

 

「おはようサンカ。どこに行こうとしてるの?」

 

「お、おはよう。ちょっと顔を洗いに行こうと……」

 

「だめ」

 

 ガバッと一気に起き上がり、サンカを掴んで押し倒す。後頭部を強く打つが、幸いな事に畳の上だ。痛みはするが傷にはならない。

 

 

「ちょ、はたて」

 

「どこにもいかないで……」

 

 彼女は体の上でうつらうつらとしており、今にも寝入りそうだ。

 

 と、土間の方から戸をガラリと開ける音が聞こえた。文が来たのだ。

 

 

「おはようございま……あれ?いませんね?とするとこっちかな~」

 

 ドタドタと靴を脱ぎ、此方へ走ってくるのが分かる。寝室の中は中途半端にはだけた服の男女がそろって寝ている状態-非常にまずい。すぐに止めなければ。

 

 

「待っ-」

 

 遅かった。襖がなんの遠慮も無く開き、文が満面の笑みで新聞を掲げる。

 

「おっはようございまーす!!清く正しい射命丸の、文々。新聞で―」

 

 声のトーンが下がり一気に真顔になると、新聞をパサリ、と落とした。 

 

 最悪だ。この状況を他人に、それもよりにもよって文に見られるとは。

 

 

「あ……お、お邪魔でしたね。失礼します」

 

「違う誤解だ!!そのカメラをこっちに向けるんじゃない!!やめろ!!」

 

 その日の朝は、雄鶏の鳴き声よりも先にサンカの悲鳴が響き渡った。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

「河童に会いたい?」

 

 文の誤解を解いて追い出した後、ようやく目が覚めたはたてに打診すると、彼女はうーんと考え、二つ返事で承諾してくれた。

 

 

「河童になんか会ってどうするの?」

 

「ちょっと頼み事をしたくてね。一人で……」

 

 言いかけて口を閉ざす。そういえば昨日、一人でどこにもいかないと約束したのだった。早速それを破っては約束の意味がない。

 

 はたてと一緒に行きたいと言い直すと、彼女は何故かとても喜んだ。目はキラキラと輝き、少しだけ跳ねている程だ。

 

 ただの居候相手とそんなに一緒に居たいものなのだろうか。やはりはたては何処か不思議なところがあるなと、サンカは改めて思う。

 

 

「そうと決まれば早速行かないと。あ、昨日言ってた温泉も行きましょ!!」

 

「あ、うん」

 

 どうしても温泉に連れて行きたいのかと思ったが、昨日は風呂に入っていないので体がべた付いて気持ち悪い。彼女の提案を呑み、風景を見ながら入浴するのも悪くはないだろう。

 

 荷物一式を差し出されたので受け取ると、はたてはサンカを抱えて飛び立った。流石に数回も飛んでいると慣れてくるもので、今では笑談もできる。

 

 

「なあはたて。こっちの河童ってどんな感じなんだい?」

 

「うーん、多分サンカの想像する河童とは違うと思う。人間に近い格好してるし。それにしても、それ何?妙に重いんだけど。腕が疲れちゃうわ」

 

「これ?キュウリ」

 

 河童と言えばキュウリという安直な発想で山ほど調達したが、想像と違うのであれば不要になるかもしれない。そうなったら暫くは主食がキュウリになる事を意味しており、頭が重くなった。

 

 

(いざとなれば近所に配るか)

 

 折角購入したのだ。幾らなんでも捨てる訳にはいかない。

 

 

「そろそろ着くわ」

 

「ん、わかった」

 

 ふわりと着地した先は、森に囲まれた大きな沢だった。深い新緑の香りと沢のせせらぎは落ち着きを与えてくれる。人の喧騒も良いが、たまにはこういう場所も悪くない。

 

 周囲を一瞥していると、はたてが手を振った。目を細めると、ゴツゴツとした崖の下に人影があり、はたてに反応して手を振り替えしている。

 

 暫くして無人の船が流れて来た。船はよく河辺に見かけるような小さな木製の物だが、船尾に大仰なモーターとアンテナが付いている。

 

 

「ほら、乗って」

 

 促されるがまま船に乗り込むと、何もしていないのに船首を崖に向けて進み出した。モーターから聞こえる音は小さく、サンカはその技術力の高さに感嘆の声を漏らす。

 

 やがて船が崖下にたどり着くと、緑のキャスケットを被り、青で統一された服を着た少女が迎えてくれた。

 どうやら彼女が河童らしく、初めましてと握手を求めると素直に応じてくれた。どうやら人間とは友好的らしい。

 

 

「初めまして。河城にとりだよ」

 

「にとりさんですね。僕は箕作サンカって言います」

 

「サンカ?ああ、最近噂の人ね。よろしく!!」

 

 噂になるような事をなにかしただろうか。思い出そうとしてみるが、覚えになかった。

 

 

「まあ気にしなくて大丈夫だよ。ささ、着いてきて!」

 

 客人を作業場まで案内してくれるらしいので、二人は船を降りて後を付いていく。

 崖は下部が大きくくり抜かれており、内部は崩落防止に鉄骨で補強されていた。簡素な足場を渡っていると、にとりと同じ格好をした数人の河童たちが、工具を片手に作業をしているのが確認できる。

 

 

「いやあ盟友が直接訪れるなんて珍しいね。で、何の用だい?」

 

 人数分の暑いお茶をちゃぶ台に置くと、にとりは切り出した。盟友(人間)の頼みなら出来る範囲で何でも協力すると言質を得たので、遠慮なく要件を伝える。

 

 

「実は飛行装置を作っていただきたいと思いまして」

 

 河童は非常に高い技術力があるとはたてから聞かされており、話だけでも人間の持てる技術以上の物を作り出している事が窺えた。そこでサンカは、空を飛べる機械をも作れるのではと考え、態々依頼をしに来たのである。

 

 

「飛行装置?空を飛びたいのかい?」

 

「はい。今は長距離をはたてに運んでもらっている分際でして……」

 

 何故そんな事をと言いたげに、はたてが此方を見た。反応を予想していたサンカが理由を話す。

 

 

「いつまでもはたてを頼ってばかりじゃ悪いよ。移動くらい自分で出来る様になりたい」

 

「でもそれだと私がサンカにしてあげられる事が……」

 

「はたては家に僕を居させてくれているじゃないか。それだけで十分だよ」

 

「……わかった」

 

 渋々同意してくれたが、何故か罪悪感を感じた。にとりは話を聞いていたのかいないのか、仲間内で話し合いをしている。

 

 暫くするとにとりが戻ってきた。彼女は両手に抱えた靴の様な物を、湯呑がひっくり返るのも構わずちゃぶ台に置いた。

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