幻想怪奇目録 ー人と天狗の奇妙な関係ー   作:ガーヘル313

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21話になります。次回ははたてメインの話しにしようと思っています。それではお楽しみください。


21話 掃除屋

「これでどうかな。まだ試作だけど飛行は問題なくできる筈だよ」

 

 提出された装置は両足に装着するブーツの形状をしており、金属質に赤く輝く外見は中々重そうだが、持ってみると思いのほか軽い。なんでもヒヒイロカネと呼ばれる素材を元にして作ってあるのだと言う。

 

 履いてみろと促すので装着してみると、足を包むように周囲の外装が閉じた。少し冷たさがあるが、意外と履き心地は悪くない。

 

 

「それは重力を操作して飛行を行うモデルなんだ。使い方はまず浮く事を考えた後、重心を移動させる。以上だよ」

 

「それだけですか?」

 

「それだけ。簡単でしょ?」

 

 考えろと言われたので浮くことに専念してみる。暫しの格闘の末、如何にかイメージが浮かぶと、それに連動して紫の燐光が足を取り巻くように現れ、ふわりと音もなく宙に浮いた。

 

 はたては驚きの様子で見上げており、にとりも何故か驚愕の表情を浮かべていたが、慌ててガッツポーズを見せた。

 

 

「おお、浮いてる」

 

「そ、そうだね……次は重心を移動させてみて」

 

 言われるがまま重心を前方に傾けると、シュっと音を立てて前進した。今度は重心を後ろにやると、徐々に速度を落として停止する。

 成程、重力を操作するだけあって、飛ぶと言うより落ちる感覚に近い。

 

 

「これは凄いですよ!」

 

 思考を止めると、ガシャリと金属音を立てて着地する。サンカは興奮気味に感想を伝えると、にとりは気を良くしたのか、

 

「そうでしょそうでしょ?中々作るのが大変だったんだ。折角だからそれ、タダであげるよ」

 

「良いんですか!?ありがとうございます!」

 

 タダで良いとにとりは言っていたが、これ程の物を貰えるのに無償でというのも申し訳ない。

 

 サンカは何かないかと思案した後、手土産にキュウリを山ほど携えて来たのを思い出した。安直なイメージで怒られそうだが、恐る恐る伝えると、

 

 

「何!?キュウリ!?」

 

 にとりがすぐによこせと迫ってきたので、風呂敷に包んだキュウリを明け渡すと、彼女は中身を確認して恍惚の表情を浮かべ、ありがとうねとバシバシ叩いてきた。お気に召していただけた様だ。

 

 

「あ、そうだ。これって色は変えられますか?黒にしたいんですけども……」

 

「それくらい朝飯前だよ!すぐにやってくるね!!」

 

「お願いします」

 

(早く温泉行きたいなぁ)

 

 はたては盛り上がる二人をよそに、水面を流れてくる紅葉を指でクルクルと回した。

 

 

 

 

 

「今日はありがとうございます。お洒落な模様までつけていただいて」

 

「いいって事よ!盟友の頼みは断れないからね。それじゃ、また遊びに来てね」

 

「はい。それでは」

 

 サンカがはたての補助を受けながら飛び立ち、遠退いていく。二人の姿が見えなくなると、眼鏡をかけた河童がにとりの隣に来て、レンチで肩を叩きながら不安げに尋ねた。

 

 

「それにしても、あれ渡して大丈夫だったの?」

 

「まあ問題ないんじゃない?今まで飛行できた試しがないけど」

 

 にとりは黒い笑みを浮かべると、キュウリを齧りながら呟いた。

 

「どうって事ないだろうさ。隙間妖怪の便利な掃除屋なら」

 

 

◆◆◆◆

 

 

「調子良さそうね。それ」

 

「うん。河童って凄いんだね。こういう物も作れるなんて」

 

 両足から紫の燐光を放ちながら、サンカははたてに遅れまいと飛翔していた。操作は難しいと思っていたが、案外簡単に扱う事が出来ている。

 

 外装の色と推進力を生み出す光は、はたてとお揃いの黒と紫だ。彼女も気に入っているらしく、塗装が完了した時には笑顔を見せていた。

 

 

(しかし、な)

 

 はたての横顔をチラリと見る。飛ぶ事に専念している彼女は凛々しく、普段感じる愛らしさはない。自分を運んでいる時、いつもこんな表情をしていたのだろうか。

 

 

(こうして見ると可愛いだけじゃなく凄い美人だな……いや、何を考えてるんだ、僕は)

 

 頭をブンブンと振り、邪念を追い払う。出会ってから数日たった今、彼には複雑な感情が芽生え始めていた。こちらに笑顔を向けられるとドキリとする、これまでに感じたことのない、しかし決して不快というわけではない感情だ。一体これは何なのだろうか。

 

 自問自答をしていると、煙が無数に立ち上っている場所が見えてきた。

 微かにする温泉特有の臭気に思わず顔をしかめると、はたてが急降下したので、サンカも後に続こうと足の角度を変えて重心を下に向ける。

 

「あれ?」

 

 突如として装置が停止した。

 推力を失ったサンカははたてを追い抜いて真っ逆さまに落下を始め、慌てふためきながら状況の解決に努めた。装置は短い間隔で煙を吐いており、再起はできなさそうに思えた。

 

 どうやらとんでもない不良品を渡されたようだ。今となっては人間が盟友という河童の言い分が本当なのか疑わしい。

 直下にはボコボコと湧いている泥水が刻々と迫っている。

 

 

「動け!!動けよこのポンコツ!!」

 

 罵倒したのが吉と出たのか、沈黙していた装置が動き出した。煮えたぎる湯に浸かりそうになりながらも体制を立て直し、陸地まで移動して着陸すると、両足の装置を外して膝をつく。

 

 外套を落としてしまったが、熱湯には潜れないので諦めるしかないだろう。引き換えに助かったと思えば安いものだ。

 

 

「危なかった……」

 

「大丈夫!?怪我は!?」

 

 はたてが血相を変え、跪くサンカの前に降り立つ。

 

 

「大丈夫、何ともないよ」

 

 心配しているので無事だと伝える。その言葉を聞いたはたては安心した後、表情に怒気と殺意がみるみる表れ、般若の形相となった。

 

 

「あの河童共、サンカに怪我させようとするなんていい度胸ねぇ?安心してサンカ。アイツらは後で3枚に下して干物にするから」

 

「い、いや、そんな事しなくていいからさ。これ試作品って言っていたし、無理言って引き取ったようなものだし……」

 

 はたては聞く耳を持たない。本当に止めなければ有言実行されてしまう気がする。サンカははたての肩を掴むと、揺すりながら大声で言い聞かせた。

 

 

「大丈夫だって!怪我はしてないし、いたって元気だから!ほら!」

 

「……わかった。今は止めとく」

 

 今は、か。

 とりあえず幻想郷から河童が絶滅する事は多分無くなったが、彼女はまだ少し不機嫌そうだ。

 

 

「それより、温泉だっけ?ここからは近いのか?」

 

「うん、すぐそこ」

 

 話題を逸らすために当初の目的を尋ねると、彼女は後ろを指さした。最初は湯煙で見えなかったが、強めの風が吹いたことでその全貌が現れる。

 

 

「おお……」

 

 光景を目にし、感嘆の声を上げる。温泉は幾多の岩に囲まれており、とても広々とした湯船は快適そのものだ。透き通った湯も河からの水が入り混じっている事もあり、手を入れると丁度良い塩梅に保たれている。更には露天のため仕切りを除けば非常に開放的で、美しい山の景観を一望できた。夏だけでなく、春や秋もさぞ綺麗な風景が間違いなく見れるだろう。

 

 脱衣所も完備されていたので、早速着替えるべく向かうと、何故かはたても同じ脱衣所に付いてきた。混浴かと思ったが、男女別で区切られているので出ていって貰った。

 

 被服を脱いで持ってきた大きなタオルを体に巻くと、湯船に浸かる。真夏ではあるが、風が心地よく幾らでも入っていられそうだ。

 

 サンカはホッと一息着くと、顔の半分までお湯に沈めた。

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