幻想怪奇目録 ー人と天狗の奇妙な関係ー   作:ガーヘル313

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25話です。ようやく能力持ち同士の戦闘描写が入れられました。それではごゆっくりお楽しみください。




25話 弾幕ごっこ

「本当にお外に出られるの?」

 

 暗く狭い部屋の中。鮮やかなクリスタルの翼を持った少女は、人でも人外でもない相手と対峙していた。

 

 

『ああそうだよ。ついでにおじさんが魔法をかけてあげよう。とっておきの魔法だ』

 

 真っ黒な影は少女の問い掛けに答えると、自身の一部を彼女の中へと潜り込ませた。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

「運び込んだ?」

 

「これ、見覚えありませんか?」

 

 紫から受け取った写真を見せると、パチュリーは思い出したのか、近くにいた髪の赤いメイドを呼び出して二、三言交わし、件の物を持ってくるよう命じた。

 

 サンカは椅子に深く腰掛けながら、彼女らの言動に不審な点が無いか注意深く窺う。

 

 

(動揺はしてないか。とりあえず、やましい物ではないみたいだな……あの娘は何をしてるんだ?)

 

 チラリとはたてを見る。彼女はケーキを食べ終えて撮影に戻ったのだが、図書館の更に奥にある扉がどうしても気になるらしく、下駄を鳴らしながら周りを行ったり来たりしている。錠前が取り付けられているので、貴重な本を収蔵する倉庫だと思うが、それにしては重たく、暗い感じがした。

 

 

「聞いてる?貴方に質問しているのだけど」

 

 パチュリーに声をかけられ、意識を彼女に向ける。無視されていたのが不服らしく、少しだけ不機嫌そうだ。

 

 

「は?ああ、すみません。何でしょうか?」

 

「無視するなんて随分と礼儀知らずね。まあ良いわ。聞きたいのだけど、貴方って人間なの?死体とかじゃ無くて?」

 

 礼儀知らずはどっちなんだ。眉を潜めるが、なるべく平常を装って答える。

 

 

「血色が悪いかも知れませんが、一応は人間です」

 

「そう……尚更変ね。人間ならもっと……」

 

 ぶつぶつと何言か呟き、パチュリーはティーカップに手を伸ばした。

 

 

「きゃぁぁぁぁぁ!!」

 

 突如として悲鳴が上げる。二人は驚きつつ同時に顔を向けると、はたてが半壊した扉の前で倒れていた。

 顔を殴られたのか鼻血が溢れ、頭を打った衝撃のせいで意識が朦朧としているらしい。

 

 

「はたて!?大丈夫か!?」

 

「う……」

 

 抱え上げてテーブルの傍へ急ぎ足で運ぶと、後を追って扉の向こうから異形の存在が現れる。深紅の衣装を着用した小柄な体格や、あどけなさが残る顔つきは子供らしいが、翼から生える7色のクリスタルと狂気に満ちた表情が、彼女が人ならざる者であると物語っている。

 

 

「フラン!!貴方何をしているの!?」

 

 パチュリーが叫ぶ。フランと呼ばれた少女は来訪者を見るなり、喜々とした様子で小さな手を握りこむ。

 

 

「ぐっ!!」

 

 サンカが胸に痛みを覚えると、突然鮮血を吐き出して片膝をついた。フランは苦悶に歪んだ表情が面白いのか、悪魔のような笑い声を上げ、背後から迫る。

 

 

「魔法が効かない!?」

 

 魔方陣を幾つか展開していたパチュリーが、誰に言うでもなく驚愕の声を上げる。その慌てっぷりから察するに、普段なら動きを封じられたのだろう。

 

 

(やられる!)

 

 サンカは棒立ちするパチュリーを突き飛ばし、はたてと自分の体が隠れるようにテーブルを盾にするが、手刀がそれを容易く切り裂き、なおも鋭い爪を眼窩に突き立てんと進んでいる。

 

 

「このっ!!」

 

 子供に手を上げるのは許されないが、状況が状況なので致し方ない。鉄拳をフランの頬に叩き込んで殴り飛ばすと、彼女は轟音を立てて本に埋もれた。

 

 

「……どうして死なないの?目を潰したのに」

 

 人間に反撃されたのがショックだったのか、立ち上がっても動こうとせず、赤く腫れた頬をさすりながら放心している。

 

 この子は普通じゃない。サンカは倒すべき敵を認識すると、血糊で汚れた上着をグッタリしたはたてに掛け、邪魔な中折れ帽を投げ捨てて殺意を向けた。

 

 

「パチュリーさん、はたてを連れて下がってください」

 

「あの子は吸血鬼よ!人間の貴方が太刀打ち出来る相手じゃ―」

 

「下がれ」

 

 同一人物と思えない程の威圧的な声に、パチュリーは気圧され、おずおずと従う。サンカははたての治療を終えると、ケタケタ笑うフランを睨みつけ、スペカを手に取る。

 

 

「かかってこい。お灸を据えてやる」

 

「人間さんが弾幕ごっこで遊んでくれるの!?それじゃあ、いっぱいいっぱい遊びましょ!!」

 

 両者同時に弾幕を展開する。次いで、フランは心底楽しそうに一本の槍を作りだして振り回し、正面に構えた。

 

 

「貴方はいつまで耐えられる?」

 

 フランが弾幕を撃ち出すと、サンカも負けじと撃ち返す。サンカの光弾は小さいものの、その威力はフランの光弾に匹敵するだけの力を秘めており、お互いに攻撃を呑み込んで相殺していく。

 

 

「凄い凄い!こんなに強いなんて!」

 

 彼女は追尾してくるそれらを縫って避けると、これでどうだとスペルを宣言する。

 

 

「スペルカード!禁忌・フォーオブアカインド!」

 

 効果を発動すると、フランは4人に分身して別々の方向から集中砲火を浴びせた。サンカも初めのうちは回避を続けていたが、次第に動きが鈍くなり、とうとう降り注ぐ光の雨を前に脱力し、膝から崩れ落ちて停止してしまった。

 

 

(もう諦めた?魔理沙の方がよっぽど強いわね)

 

 久しぶりの人間の訪問者が来ると聞いて楽しみにしていたが、期待外れだったらしいと目に見えて落胆している。

 彼女は鼻で笑うと、分身達がサンカを肉塊に仕立てる過程を拝むべく、高度を上げた。

 

 

「スペルカード、吸武・禍白ノ逆鉾(まがしらのさかぼこ)

 

 スペルの詠唱が聞こえた瞬間、強力な結界が展開され、放った弾幕の一切がまるでおはじきのように吸収・拡散してしまった。跳ね返ってきた光の弾は分身を消し去り、フラン本体にも牙を剥くが、彼女は戸惑いつつも一つ一つ避けきり、相手の姿を探す。

 

 

「どこ!?」

 

「ここだ」

 

 応答しつつサンカが目の前に現れ、腹部に重く容赦のない蹴りを入れる。人間の脚力とは思えない強い蹴りは、フランの余裕に満ちた表情を崩し、苦痛に歪ませた。

 

 

「スペルカード、天獄符・呪縛転生(じゅばくてんせい)

 

 サンカが宣言して素早く離脱すると、後を追おうとしたフランの周囲に光の柱が現れ、動きを完全に封じた。それから追い打ちをかけるように、フランを中心として縦横無尽にレーザーと光弾が攻撃を与えてくる。遊びの範疇を超えた攻撃に、彼女はなす術もなく全身を焼かれた。

 

 

「っ!!」

 

 攻撃が止んだ頃には、フランは満身創痍で体中が傷まみれになっており、もはや弾幕を展開するだけの力も残されていなかった。

 サンカは彼女が力尽きて墜落するのを見計らって静かに歩み寄り、なんの迷いも無く首を締め上げる。

 

 

「かっ……はがっ……」

 

「子供だから許されると思うな。お前はやってはいけない事をしたんだ」

 

 指に力が込められ、首の骨が折れんばかりに音を立てている。今のサンカは明らかに正気ではなく、報復のために動く人形と化していた。フランが弱々しい抵抗をする。

 

 

「た、助け……」

 

 涙目になりながら虚空に手を伸ばすと、正気に戻ったサンカは手から力を抜いた。フランはその場に崩れ落ちて咳き込み、空気を肺へと送り込む。

 

 

「だ、大丈夫かい?」

 

 頭上から声が響き、彼女の体がビクリと跳ねた。フランが恐々顔を上げ、彼女のルビーを思わせる紅い瞳と目が合う。

 

 

「ごめんね。怖かっただろう?お詫びと言っては何だけど、これをあげるから」

 

 フランは戸惑いながら小さくコクコクと頷くと、彼は安堵し、自身の能力で傷を癒やしつつ、ポケットからドロップ缶を取り出して、残っていた飴を渡す。

 そして彼ははたてを指差し、親が子供を叱るように、優しく諭した。

 

 

「どうしてこんな事をしたんだ?」

 

「お客さんが来たって聞いたから、弾幕ごっこがしたくて……」

 

「そっか、遊びたかったんだね。でも、君がしたのは悪い事なんだよ。遊びたいって気持ちは分かるけど、ちゃんと相手の気持ちを考えて、話し合って、それから怪我をしないような遊びをするべきなんだ。もうこんな事はしないって、僕と約束できるかい?」

 

「うん」

 

「よし、いい子だ」

 

 こうして話している間、サンカはしっかりとフランと向き合い、同じ目線で話しかけていた。フランの表情は怯えきっていていたが、言葉を交わしているうちに幾分か和らいだ。

 

 暫くして、パチュリーに介抱されていたはたてが起きると共に、本と写真に写っていた物を持ったメイドが戻ってきた。メイドには何があったと聞かれたが、パチュリーが弾幕ごっこをしていたと一言伝え、直ぐに下がらせる。

 

 

「さて、グチャグチャになった本は小悪魔達に整理させるとして」

 

 パチュリーは新しい椅子とテーブルを作り出すと、椅子に腰かけて本を開いた。

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